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散る〜.4

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散るは花












操が真選組の屯所で働くようになってから二月ほど。

もとより人なつこい隊士たちのおかげで、毎日医務室は人で一杯だった。


「あのですね。本当に具合の悪い時だけ来てください」

「具合悪いですっ! もう毎日毎日、ある人の事を考えると胸が苦しくて……もしかしたら病気じゃないかと思ってっ!」

「それは病気じゃなくてきっと恋煩いですよ」

「それじゃあ、この恋の病気を治すにはどうしたらいいんですかっ!?」

「思い切って告白してみるのはどうですか?」

「そそそそそ、そうですかっ! わわわ分かりましたっ! あのっ! 操先生俺はあなたがすきでぶほおっ!?」


バキッ!!!


思い切り脳天にげんこつを食らった隊員が床にめり込むと、操の目の前には土方が怒りをこめかみにガツンと作って立っていた。


「てめえらいい加減にしやがれ。毎日毎日こいつの仕事の邪魔ばっかりしやがって! 自分の仕事にさっさと行きやがれっっ!!!!」

「は、はひいっ……」


ボロボロの姿で医務室を出て行った。


「あ、手当……」

「ほっとけ、あんな馬鹿」


来た時より確実に具合の悪くなっていた隊員を土方が見捨てると、操は苦笑した。


「ありがとうございます」

「お前もあんなの適当にあしらえ。まともに相手してたら身がもたねえぞ」

「そうですね」

「今日は夜勤なんだろ? 休める時に休んどけ」

「はい。土方さんも、無理しないでくださいね」

「……俺は無理するのが仕事なんだよ」


そう言い捨てて出て行った。

土方の後ろ姿を見送り、操は倒れた椅子を元に戻した。

何かと自分の事を気にかけてくれる土方は、言葉は乱暴だが優しい男だ。

今のように隊員たちに好意を寄せられて、対処に困る操を助けてくれる。

操自身は好意を持ってくれることは嬉しいし、無下に断ることができない性質だ。

ふと銀時の事を思い出す。

子どもの頃からずっと一緒で、辛い経験もしてきた。

銀時がずっと昔から操を好きでいることは承知していたし、操も銀時の事は好きだった。

しかし長いこと一緒にいすぎるおかげで、恋愛としての感情を銀時に抱いているのかどうかすら麻痺して分からない。

昔誓った言葉が心に焼き付いて離れない。


死ぬまでお前の側を離れないーーー何も守れなかった俺だが、お前だけは守り通す。


そして銀時のその言葉を受け取った操。

互いの約束で互いを縛る。

消すことのできない過去から逃げないために。


コンコン


「操……」

「はい?」


物思いに耽っていると、ドアをノックする音と操を呼ぶ声がした。


「ちょっと腹の具合が悪いみたいなんでさぁ」

「どうぞ」


入ってきたのは沖田だった。澄ました顔だが額に妙な汗をかいてお腹を抑えている。


「ここに座って」


促されるまま操の目の前に椅子に座ると、沖田がいきなり服をたくしあげた。


「総悟くん……」

「なんでぃ?」

「まだ何も言ってないんだけど?」

「腹が痛いんだ、腹を見るんだろぃ?」

「そうだけど」

「いいからさっさと見てくれよ。ものすごい勢いで腸が動いてるんでぃ」


仕方ないので操は聴診器を当てた。


ぐぎゅるるるるるるる・・・・・


確かにものすごい勢いで腹が鳴っている。


「総悟くん、お昼ご飯は何食べた?」

「昼? ああ、昨日の晩に近藤さんの部屋から失敬した水ようかんと山崎の部屋のコーラと、そうめんと激辛カップ麺」

「お薬あげるからそれ飲んで休んでなさい」

「ここで寝ててもいいかぃ?」

「いいわよ」

「じゃあ、添い寝してくれぃ」

「ここにいるから、きつかったらすぐに言ってね。無理しちゃ駄目よ。お姉さんだって心配なさるわ」


操に言われ、沖田は一瞬悲しそうな顔をした。


「別にこれくらい平気でさぁ」


手渡された薬を飲むと、沖田は奥のベッドに潜り込んだ。


「操」

「なに?」

「寝るまで手を握っててくれないですかぃ?」

「いいわよ」


そっと沖田の手を握る。

静かに目をつぶった沖田に、操は沖田の姉の話を思い出す。


沖田のたった一人の姉。

土方の大切な人。


まだ年若い沖田にとって、大切な姉を土方にとられたというのはどれほど辛い経験だっただろう。

おまけに土方はその姉を田舎に残し、真選組としての仕事を選んだのだ。

土方を目の敵にするのも仕方ないかもしれない。

ふわりと沖田の髪を撫でる。

さらりとくちなし色の柔らかな髪が動いた。

操の事を遠く離れている姉のように感じているのかもしれない。

性格的な問題も確かに多いが、沖田は操の前では案外大人しい。


寝顔はまだまだ子どもだな。


と思っていると、急にぐいっと腕を引っ張られた。


「わっ!?」


操の体はベッドの中に引き込まれ、沖田が渇いた笑いをする。


「はははは。捕まったな、操。お前はもう逃げられない」

「あのねえ、総悟くん。いたずらしないの」

「俺は本気でさぁ。操は俺のものだ」


ゴギュルルルル……


「はいはい。お腹痛いんだから大人しく寝てなさい」

「……子どもだからって馬鹿にするない。力じゃ負けねぇーーーって、あれ?」


沖田はいつの間にか自分の腕の中から消えた操に驚く。

先ほどまで確かに組敷いていたのに、いつの間にか天井が見えている。

慌ててベッドから起き上がると、操が何事もなかったかのように笑顔でこちらを見ていた。


「いいから寝てなさい」

「どうやって……?」


目を丸くさせる沖田に、操が言った。


「私を押し倒したいなら、もっと強くなりなさい」


そしてカーテンを閉めて隣りの診察室へと戻って行った。

操が実は武術の経験者だと、沖田はその時初めて気付いたのだった。











                               続く…







ヒロイン強いんすよ。




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