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散る〜.10

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散るは花












操は薄暗い廊下のベンチで、銀時の肩に頭を預けた状態で放心していた。


ミツバは医者達の努力の甲斐も虚しく、苦しみながら息を引き取った。


また、何も出来なかった。

せめて、苦しまずに行ってくれたらーーー


苦しみを和らげてあげることもしてやれない自分の不甲斐なさに、操はぎりりと唇を噛む。

プツリと皮が切れる音がして、操の下唇から血が滲んだ。

ふと、銀時の手が操の手を握った。

とても優しく。

言葉にしなくてもしっかりと伝わって来るその言葉に、操は握られた手を握り返す。


お前はよくやったよ。


ありがとう。


誰も悪くなんてないさ。


ありがとう……もう少しだけ、こうしていてもいいかな。


病室で恐らく泣いているであろう沖田の事を思うと、操はまたやるせなくなった。

こんな仕事についたばかりに、いつも付きまとう「死」という現実。

自分の無力さ。

ふと、土方の事を思い出した。

あのどうしようもない意地っ張りな男前は、一体今、何を自分の胸の中でぶつけているのだろう。

ボロボロの今にも死にそうな状態で近藤達に抱えられて病院へ運び込まれた土方。

聞けば一人で大捕り物を演じたという。

しかもその相手はミツバの婚約者だった。

どんな思いで、土方は命の危険も顧みず剣を振るったのだろうか。

自分の身を犠牲にして、たとえ悪党だろうと人を傷付け得た何かに、一体どんな未来が見えると言うのか。


「さあて、いっちょあの隠れ肥満の泣きっ面でも拝みに行くかあ」


そう言って立ち上がった銀時に手を引かれるまま、操も立ち上がった。












とても澄んだ青空の下、傷だらけの男は一人手すりに体を預けていた。

バリバリと耳障りの良い音を立てながら。

時折聞こえる鼻をすする音。

操と銀時はその男の背後、建物の陰に隠れるように座って空を見上げる。

ついと横から差し出された真っ赤なせんべい。

ミツバが大好きだった、激辛せんべい。

操は一枚とってじっとそれを見つめる。

横では銀時がボリボリとせんべいを食べ始めた。


「バリッ……」


一口かじると、あっという間に口の中いっぱいに広がる真っ赤な味に、操は顔をしかめた。


「ーーーうっ……」


折った膝に顔を埋め、操は静かに泣いた。













    ++++++++













「操、指切っちまったぃ」


医務室にやってきた沖田は、相変わらず飄々とした顔でぱっくり割れた人差し指を立てていた。

操はすぐに椅子に座らせ、止血をする。


「一体どうして切ったの?」

「いや、土方のヤローの刀が鞘から抜けた瞬間鞘がバレて土方の腰に刺さるっていう世紀のからくりを作ってたら、自分の指が切れちまったんでさぁ」


こう、びゅっと。

と怪我をしていない左の手で鞘が割れて腰に刺さるまでを表現する沖田に、呆れたように笑う。


「そんなろくでもないことやってるから、怪我するのよ」

「だって操。あの変態いい加減消えて欲しいんでさぁ。俺の大事にしてたバズーカに、こともあろうにマヨネーズ落としやがったんですぜぃ?」

「マヨネーズくらい拭けばいいでしょ? それに、別に土方さんの事嫌いじゃないんじゃなかった?」


操のその言葉に、沖田は言葉を呑み込む。

しばらく大人しく手当をされ、顔をあげ何か言おうとした瞬間だった。


「総悟おおおおおおおお!!!!!」


ドドドドド…………!!


という地響きと同時に怒号が聞こえて来たかと思うと、ものすごい勢いで医務室のドアが開いた。


「てんめえこのやろうっ!! 何してくれんだあっ!?」

「一体どうしたんですかぃ、土方さん」


やって来たのは土方で、まさに鬼の形相をしている。


「てめえ、俺様の大事なマヨネーズを、全部黄色のスライムと入れ替えやがったなあっ!?」


土方が握っていたのはどこからどう見てもマヨネーズなのだが、ふたを開けて握ると中からデロデロの黄色いスライムが落ちて来た。


「さあて何のことですかね。俺にはさっぱりですぜぃ」

「ふざけんなっ! 買って来い、今すぐにマヨネーズを買って来い!!」


ビュン!


とスライム入りのマヨネーズを沖田に投げつける。が、沖田は楽々それを躱して操の後ろに隠れる。

土方は逃げられないよう、操を挟んで沖田の首根っこを掴んで凄んだ。


「いいか、今すぐだ。俺の昼飯の時間が終わるまでに買って来なかったら、お前のサド丸23号をマニアに売るぞ、コルァっ!」


くいっと持ち上げられた携帯の画面には、山崎が泣きながら沖田が大事に育てている巨大カブトムシのサド丸23号をバトミントンのラケットで狙い打とうとしている姿が映っていた。


「なっ!? き、貴様~。俺のサド丸を人質、いや、サド質にとるとは、なんて卑怯なことしやがんでぃ!」

「てめえに言われたかねえっ! いいからさっさと買いに行ってきやがれ! 俺の命令一つで山崎のやつがサド丸の角とミントンするんだぞ! 分かってんのかっ!」

「ぐっ……ちっくしょー。覚えてやがれっ!」


沖田はそう言い捨てて土方の手から逃れて医務室を飛び出した。


「ちっ、あのくそガキ……」


土方は苦々しそうに言う。

と、


「なーんて俺が言うとでも思ってんですかぃ、土方さん」

「なっ!?」


飛び出したと思った沖田はひょっこり医務室のドアの向こうからまた顔を出し、ニヤリと笑った。


「こんなこともあろうかと、山崎のヤツは買収済みでさぁ」

「なんだとっ!?」

「はははははは!」


高笑いをしながら走り去る沖田に、土方は持っていたマヨネーズの容器を床に叩き付けた。


「くそっ!」

「土方さん、医務室を汚さないでください」

「あ、悪ぃ……」


そこで土方は操に接近していた事に気付き、一歩下がった。

操はしゃがんで土方が投げ落としたスライムをかき集めている。


「わー、すごい。本当にマヨネーズみたい。良く出来てるな~」


黄色のスライムを手からゆっくり落としながら笑う。

そんな操の姿を見て、土方も片付けを手伝った。


「ーーー悪かったな」

「ん? 別にいいですよ、スライムなら掃除しやすいですから」

「そっちじゃねえよ」


ふといじけるような顔で床を睨む土方に、操は気付いた。

困ったように笑いながら、操は左手にスライムをこんもりと乗せる。


「いいえ。私の方こそ、すみませんでした。何の力にもなれなくて……」

「あんたは頑張ってくれたよ。あいつも……最後にあんたみたいな医者に会えて良かったんじゃねーか」


ミツバが息を引き取ってから一月。

やっと土方の心も落ち着いたようだ。

沖田はまだ辛さと必死に戦っているみたいだが、それでも明るく振る舞っている。

目の前の土方の言葉は、心からの言葉に聞こえた。

操は土方の前に歩み寄り、右手を差し出した。


「ありがとうございます。そう言って頂けると、私も自分を納得させられます」


差し出された手を、土方は無意識のうちに握っていた。


「大丈夫です。ミツバさんは、最後の最後まで、あなたの事を愛していましたよ」


そう言って左の手をべちょりと土方の手になすりつける。

べちょりと……


「っ!?」


土方の手は黄色のスライムでべとべとになった。


「うおいっ!?」

「あははは、引っかかった~」


いたずらっ子のように笑うと操は廊下に出て、沖田がやったように医務室のドアの向こうからこちらを覗き込んだ。


「笑ってください」

「あ!?」


手にべっとりとなすりつけられたスライムをゴミ箱に投げ捨てながら、土方は操を睨んだ。


「私は土方さんが笑っている顔が好きです……きっとミツバさんも、あなたの笑った顔が好きだったと思います。だから、笑ってください」


にっこりと、初めて出会った時と同じ綺麗な笑顔を残し、操はドアの向こうへ去って行った。

残された土方は、相変わらず手にへばりつくスライムを取りながら、ひとり笑った。


「……ばーか」








                             了








あとがき

どうも・・・・・・こんなくだらないお話に最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。
土方を励まそうと思って書いてみました。
ミツバ編が可哀想だったんでね。。
操は土方にとって恋愛対象になると思いますが、この時点ではなんとも言えませんねえ。
お互い惹かれているって感じですかね。
でも操には銀時っていうスーパー小姑がいますから(笑)
二人がくっつく事はまずないです。多分……
まあ、このシリーズはこれにて終了なんで、どうでもいいんですけどねっ
それでは、See you next time!




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