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散る〜.9

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散るは花












毎日のように操はミツバの様子を見に行っていた。

病室にはいつものように銀時がいて、くだらない話しをしてはミツバを笑わせていた。

それ以外ではもちろん沖田や近藤など、真選組の隊員達もよく見舞いに訪れて病室が淋しくなる事はほとんどなかった。

ご主人となる貿易商とも顔を合わせたが、どうも操はその人物にいい印象を持てず、気まずかった。

仕事が忙しいからなかなか見舞いに来れないので、しっかりと見てやって欲しいと操に頭を下げるその姿が、演技に見えて仕方なかったのだ。

今までたくさんの患者やその家族と接して来たからこそ分かる、表面上の言葉。

一体何故、ミツバのように病気を持った女性と結婚しようと思ったのか。

それは愛しているからと言えばそれが第一なのだが、貿易商という職業上跡取りの事を優先させそうなのに、ミツバの体の事を考えるとそれは違うようだ。となると、疑わしいのはミツバが真選組の縁者だと言う事。

まっとうな商売をしているなら問題ないが、もし日の当たらないような商売をしているなら、真選組との癒着があれば、それは願ったり叶ったりだ。

操は自分の頭の中に浮かんだ疑問を振り払うように、目の前のカルテに集中した。

ベッドの上でいつも穏やかに微笑むミツバ。

もし、土方が顔を見せたらどんなにか喜ぶだろう。

だがただ一人、土方だけは一度も顔を見せていなかった。








仕事の時間が終わり、屯所からミツバの病院へと向かおうとしていた操は、ちょうど屯所の前でパトカーに乗り込もうとする土方を見かけた。


「土方さん」


たまらず声をかける。

土方は一瞬眉間にシワを作って操から視線を逸らしたが、思った以上に操の顔が真剣だったため、観念したようにこちらへやってきた。


「なんだ……」

「お仕事ですか?」

「ーーー見りゃ分かるだろ? 怪しい動きをしてる奴らが港に出入りしてるらしくてな。張り込みに行くんだよ」

「そうですか……」


言葉を噤んだ操に、土方は苛立ちを表す。


「ちっ……なんだよ、用がねえんなら俺は行くぜ?」


踵を返す土方を、操は止めた。


「待ってください!」


振り向かず、足だけを止めて操の次の言葉を待つ。


「ーーーミツバさんに、会わないんですか?」

「……会ってどうすんだ?」


今更会わせる顔などない。

病室で苦しそうにしている想い人の姿を見て、笑ってなんと声をかける?



早く元気になって、旦那に大事にしてもらえ。


あの時は悪かった。


本当はお前の事がずっと好きだった。



ーーーーーーーーーけっ、馬鹿馬鹿しい。


思い浮かぶ言葉のどれもが陳腐で、土方は自分の弱い心にうそぶいた。


「あなたがミツバさんの立場だったら、どう思いますか?」


突然の操の質問に、土方は驚いた。

自分だったら?

もし、土方がミツバの立場だったらどう思うか。そんな事考えもしなかった。

どうなのだろう。

病に苦しみ、好きな女には会えず、いつ死ぬとも分からぬ身で病室のあの薬品臭いベッドの上で毎夜過ごす。


「ーーーーー」


土方は考えを放棄した。

それこそ馬鹿馬鹿しい。

ミツバが自分の事を好きかどうかなど、分からないと言うのに。


「知らねーよ。他に用がねえんだったら俺は行くぜ。じゃーな」


パトカーに乗り込む瞬間、悲しそうな操の顔が目に映ったが土方は無視して車を発進させた。

くず男にはくず男なりのけじめの付け方がある。

虚勢を張らずして、惚れた女を残して出て行くなんて出来るはずがない。

せめて、どんな一瞬でも幸せであって欲しい。

そう願わずにはいられない。

それほどミツバの事を想っているのだ。


そう。自分のようなくず男は、昔の女にも、目の前にいる女にも心を揺らされてはいけないのだ。

















「操っ! 姉さんは、姉さんは大丈夫なんですかぃ!?」


心配そうに操の腕を掴む沖田は、今にも崩れそうだった。

操は何も言えず、無言で沖田を見つめた。


「吉田先生っ! 急いでくださいっ!!」


集中治療室の中から看護士が叫ぶ。


「はいっ!」


返事をして駆け込もうとすると、再び沖田が操を掴む腕に力を入れた。


「ーーーどうか、どうか助けてやってくだせぇ……」


千切れそうな弱々しい言葉。

操がそっと沖田の頭に手を乗せると、沖田は腕をゆっくりと放した。


真選組で夜勤中だった操は、ミツバの容態が急変したとの知らせを受けて急いで病院へやって来た。

夜中は結核患者にとって辛い時間帯でもある。

ずっと付き添っていたのだろう、廊下のベンチには銀時がだらしなく横になっている。

再び項垂れる沖田を見て、操は病室へと飛び込んだ。


どこまで出来るか分からない。

自分はただの人間なのだ。

人の生き死にを左右出来るほどの力はないし、権利もない。

でも、それでも……


苦しむ人を助けたいって思ってもいいよね?


人工呼吸器を装着され、息苦しそうに悶えるミツバを見下ろし、操は目を伏せゆっくりと深呼吸をした。










                               続く…






ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
次が最後です。




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