チェンジ・ザ・ワールド☆
気息奄々相照らす.1
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気息奄々相照らす
ある豪雨の夜、女は一人の狂犬を拾った。
血と泥にまみれた、体中刀傷だらけの狂犬。
意識などとうに無いと言うのに、その手には刀をしっかりと握りしめていた。
まるで諸刃の剣のようだ。
そう、女は目の前で死にかけている男を見て思った。
そして自分と同じ種類の人間だとも感じる。
数えきれないほどの屍の香り。
春の雨は容赦なく体温と体力を奪って行く。
女は氾濫しそうな川の木の枝にかろうじて身をひっかけていたその狂犬を引き上げると、背中に担いで歩き出した。
日も暮れた上に前日からの雨で山道はぬかるみ、女の足元をおぼつかなくする。
おまけにやたらと痩せたその狂犬は、見た目に反して筋肉質なおかげでずっしりと重たい。
女がここ数週間住処にしている山小屋まで男を運ぶと直ぐさま囲炉裏に火を焚き、もはや着ている意味など無い己の着物と狂犬の着物を全部はぎ取った。
寒いーーー
全身が氷のように冷たい。
女は目の前の瀕死の男の体を急いでぬぐい、自分はその辺に無造作に置いていた着物をひっかけ、半裸のままで男の手当に取りかかった。
男の手首と足首には見覚えのある入れ墨が施されている。
確か琉球にある、罪人ばかりが住む島の民が入れる墨だ。
水瓶から水を汲み手ぬぐいで男の体の汚れを拭いて行く。
全身傷だらけだが急所ははずしている。だが生きているのが不思議な位の怪我である事は確かだ。
いつも持ち歩いている薬草の残りが心もとなかったが、取りあえず今ある分で男の傷をまかなうしか無い。雨が少しでも小降りになれば薬草はいつでも取りに行ける。
痩せた男の体にすりつぶした薬草を塗り付け布を当てて包帯を巻く。
全身包帯だらけになった男の体はみるみる冷えて行った。
女は布団を出してそこに男を寝かせると、しっかりと暖まった自分の体を男に被せて共に布団にくるまった。
何度も囲炉裏に薪をくべては男の様子を伺う。
女はそんな事をもう四日も繰り返していた。
雨もやみ、食料も薬草も確保し、泥まみれだった自分と男の服もすっかり洗濯して綺麗に乾いた頃、男は目を覚ました。
「う……」
微かなうめき声に女は顔を寄せる。
「どうした?」
「……ず……み、ず……」
かすれた声で辛うじてそれだけ言うと、男は苦しそうに眉をひそめた。
女はすぐに水を汲んで男に飲ませる。
「ごほっ、ごほっ!」
しかし体力が落ちた男は水を呑み込む力すらないらしく、吐き出してしまった。
仕方なく自分の口に水を含むと、女は男に口づけた。
ゆっくり、ゆっくりと男の口の中に水を押し込む。
ごくりと女から与えられた水を飲むと、男はしかめ面で女を見た。
「ーーーここは、極楽、か……?」
そう言って次に力なく口元を綻ばせる。
「極楽か……そんなもの、あるのならば一度行ってみたいものだな」
女はそう独り言を呟くと、男の口から垂れた水を拭き取った。
男はその様子に満足そうに女の顔を見ると、再び眠りに落ちた。
そして女は再び薪を囲炉裏にくべる。
カツンと薪がぶつかる音がして、ちかちかと火ぶたが弾ける。
この調子なら明日にも椀ものくらいなら喉を通るだろう。そう思い少し余計に薪を投げ込むと、女は立ち上がった。
続く…
サムライチャンプルー。大好きなんです。
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