チェンジ・ザ・ワールド☆
気息奄々相照らす.2
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気息奄々相照らす
くるくると回る旗印。
もうそれは破られ燃やされ切れ端しか残ってはいなかったが、かつては旗印として堂々とはためいていた、力の象徴。
少女はそれをじっと遠くから見ていて、そこに人の存在意義は有していなかった。
目の前で繰り広げられた殺戮と奪略と陵辱。
まるで一枚一枚絵を見せられているようなその情景は酷く鮮明で、少女は言い様のない吐き気と共に狂気じみた叫び声を上げていた。
いや、上げていると思っていたのは自分だけで、実際に声など出ていなかった。
燃え盛る家々の間で、死に絶えた侍の刀を拾うとただひたすらにそれを振るった。
一人、また一人と少女の手に掛かって死んで行く侍達。
何が起きたのか理解する間もなく血しぶきを上げて地に伏す男達は、皆一様に恐ろしいほどぎらついた目をしている。
極彩色の絵は上等の巻物で、少女の脳裏に寸分の違いも無く書き込まれて行く。
どれほどの男を切ったろう。
少女が振り返ると、そこは死体の山だった。
侍達が殺したのか、自分が殺したのか。それはもう分からなくなっていた。
明くる朝、女は男の腹の鳴る音で目が覚めた。
浅い眠りの中、昔の事を夢に見て胸が騒いだ。
何故、今更あんな夢を見るのか。
そして何故、自分はまだ生きているのか。
その答えが知りたくて、ただただ生き続けている。
目の前の男の腹の音は、女の答えを例えようも無く示していた。
人間だから、生きるのだ。
そうだ、人間だから生きるのだ。
何故?
「気分はどうだ?」
ゆっくりと目を開けた男に尋ねると、男は視線だけを一度女に寄越してすぐに天井を見た。
「腹……減った……」
「待っていろ」
そう言い捨てて女は小屋から出て行った。
しばらくして薪を手に戻って来ると、囲炉裏にくべて鍋を用意した。
小刀で器用に野菜や茸を切って鍋に入れると、ゆっくりと煮込む。
立ち上る湯気と食欲をそそる匂いに、男の腹は止まることなく鳴り続けた。
出来上がった山菜汁を樫の椀に注ぎ、女は男の側へ寄った。
少し体を起こすと、痛みで顔を歪める。
「まだ無理か」
「……食わせてくれ」
包帯だらけの体でそう笑う男に、女は仕方なく椀を男の口元へ忍ばせる。
ゆっくりと啜られるそれをじっと見つめ、女は小さくため息をついた。
こんなことをしている場合ではないというのに、何故自分はこんな男を助けてしまったのか。
ギラギラと、まるで近づくことすら許さない両刃の剣のような男。
狂犬のようにむき出しの殺気をさらけ出す男。
それなのに不思議と惹き寄せられる。
「食いたんねえ」
すっかり空になった鍋を横目で見、女は呆れたように男を見た。
生きている。
この男はほんの数日前死にかけていたのに、今は食事をし、言葉を発している。
生きているのだ。
微かに笑うと、女は答えた。
「また作ってやる」
この男も自分と同じだ。
続く…
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