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Go leisurely~.2

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 「おい跡部!」


 ノックをしたドアを返事も待たず勢い良く開けると、宍戸は生徒会室に一歩足を踏み入れた所で止まった。

 中には跡部と汐屋ともう一人3年の女子がいて、顔を突き合わせて何やら話し込んでいたのだ。


「あ、悪ぃ」


 謝罪しながらも宍戸は、驚いてこちらを見る汐屋をつい目でとらえてしまう。


「何だ宍戸?」


 こちらへやって来た跡部に、我に返った宍戸が手に持っていたノートを渡した。


「ああ、これ。1、2年の練習メニュー組み直したからよ、目を通してもらっとこうと思ってな」

「分かった……」


 宍戸からノートを受け取りパラパラとめくると、跡部が顔を上げた。


「そうだ、丁度良かった」

「あ?」

「夏休みに入ったらオーストラリアから交換留学生が来るのは知ってるな?」


 突然言い出した跡部に眉間にしわを寄せながらも頷く。


「知ってるけど、それが何だ?」

「今料理部とその留学生をもてなす時のパーティーで出す料理の打ち合わせをしてたんだが、お前ちょっと手伝え」

「は? 何を?」


 状況がつかめない宍戸に、跡部がテーブルの上からプリントを取って渡す。


「当日の料理で使う材料の買い出しだ」

「はあ!? なんで俺が!?」

「料理部には残念ながら男子がいない、買い出しの荷物持ちくらいいいだろう?」


 プリントには歓迎会の前日に材料買い出しの旨とその材料が書かれている。

 それをチラリと見て、それでも納得出来ない宍戸は抗議を続けた。


「だからって何で俺なんだよ? 全然関係ねーし。生徒会の人間にやらせればいいだろ?」

「生徒会は留学生を迎え入れる為の準備で人手が足りない。俺が信用出来ると思ってお前に任せるんだ、ありがたく拝命しろ」


 跡部が一度言い出した事を撤回することはまずない。宍戸はここにのこのこ来てしまった自分が悪いと諦めることにした。


「……はあ。分かったよ、前日の買い出しの手伝いだけでいいんだな?」

「ごめんね、宍戸君」


 3年の女子、恐らく料理部の部長が立ち上がって頭を下げた。

 隣りでは汐屋も同じように申し訳なさそうに頭を下げている。


「あー、いいよ別に」


 本当はテニスの練習だけに打ち込みたいのだが、たった一日買い物に行く数時間くらいなら構わないだろう。

 夏休みに入る時期は全国大会が始まる直前で、順当に勝ち上がれば自分達氷帝学園も出場するし忙しいだろうが、試合の日程と重なってはいないから跡部も手伝うように言ったのだ。


「んじゃ練習してるからよ」

「ああ、後で行く」


 生徒会室を出る時、宍戸はもう一度汐屋をチラリと見た。

 相変わらず少し俯き加減で跡部との話し合いを再開させている様子を確認すると、ドアを閉め廊下を歩き出した。

 そして右手を首の後ろに持ってきた所で動きを止める。

 また無くなった髪の毛をかきあげようとする自分の癖に、中途半端な場所で止まった右手を一瞥する。


「はっ、本当に激ダサだぜ」


 いい加減成長出来ない自分に、辟易する。

 そして浮かんで来る汐屋の顔。何故かは分からないが、あの日見た笑顔がこうして時々思い浮かぶ。

 その理由を考えようとしたが上手く行かず、帽子を被り直し宍戸は再び歩き出した。








 〜〜〜〜









 「あ、宍戸君!」

「あ?」


 校舎を出た所で呼び止められ、宍戸は振り返る。

 そこには同じ3年生の女子生徒が一人立っていて、赤とオレンジのチェック模様の大きな紙袋を持っていた。


「あのこれ、テニス部の皆で食べて?」

「ああ、サンキュ」


 紙袋を受け取ると、女子生徒はもう一つ別のシンプルな袋を差し出した。


「あとこれ、宍戸君に……」

「え? 俺?」

「うん。それじゃあ、関東大会頑張ってね」

「ーーーおう」


 走り去る少女が見えなくなると、宍戸は自分にとくれた紙袋の中を覗く。

 中には可愛らしいサンドイッチと手紙が入っていた。

 手紙を開けて読むと、宍戸の事が好きで、今度返事を聞かせて欲しいという内容とクラスと名前が記されていた。

 いわゆるラブレターだ。

 手紙を畳んでジャージのポケットに押し込むと、宍戸はため息を吐いた。

 生徒数の多いここ氷帝学園では、顔と名前を知らない同学年の生徒など山ほどいる。

 この差し入れをくれた女子生徒は隣りのクラスで、顔は知っていたが名前は今初めて手紙で知ったし、話しをしたことなどほとんどないはずだ。

 それでもテニス部のレギュラーはモテる。宍戸も例外ではなかった。

 とぼとぼとテニスコートへ向かっていると、ギャラリーの女子と話していた忍足が宍戸に気付いてやって来た。


「おう、宍戸。今日はえらいぎょうさん差し入れもろてんやなあ」

「ああ、皆で食ってくれとよ」


 そう言って2つの紙袋を忍足に渡す。


「ほんならありがたく食べるか……お、今日はメロンパンと手作りサンドイッチか」

「侑士ー! お前何持ってんの?」

「おう、岳人。差し入れのパンや」


 コートでサーブ練習をしていた向日がこちらに気付いた。


「宍戸がもろた差し入れや」

「あ、この間の蒸しパンと同じヤツ?」

「どうなん?」


 うさぎのように軽やかにやって来た向日と忍足が宍戸を見る。


「違げーよ」


 向日まで汐屋の蒸しパンを気に入ったらしい。

 そんなに美味かったのなら長太郎にくれてやらずに食べれば良かったと少し後悔する。


「ふうん。あ、でも美味そう!」


 そう言って向日は紙袋からサンドイッチを取り出して食べた。

 美味しそうに食べているのを見て、忍足も手を伸ばす。


「どうや、岳人?」

「うん、美味いぜ……あ、そう言えば宍戸」

「何だよ?」


 更にもう一つサンドイッチを食べながら向日が尋ねる。

 宍戸は早く練習をしたかったので2人を無視してラケットを取りに行こうとしたのだが、仕方なく足を止めた。


「お前さあ、どんな子がタイプ?」

「はあ?」


 唐突な質問に宍戸は目を丸くする。

 忍足は嫌みなほど男前な顔で笑いながら宍戸の答えを待っていて、宍戸はふいと顔をそらした。


「何でそんな事お前に言わなきゃなんねーんだよ?」

「いいじゃん、別に。教えたって減るもんじゃねーし」


 膨れる向日に、忍足が代わりに答えた。


「確かボーイッシュな子、やなかったか?」

「っ! てめえ、忍足っ!」

「へえ、ふうん……活発な子が好きって事か」


 妙に感心しながら頷くと、向日は今度はメロンパンを食べ始めた。

 一体練習中にどれだけ食べるつもりなのだろう。あまり腹が膨れては動けなくなってしまうのではないかと、宍戸は余計な心配をしてやる。

 それでも美味しそうにメロンパンを頬張りながら、忍足に文句を言う宍戸に言った。


「なんかさあ、お前の事好きっつーヤツがいてよ。んでそいつが今度友達と一緒に何人かで遊びに行こうぜってさ」


 それに対してすかさず突っ込んだのは忍足だった。


「アホ、岳人。そういう事は宍戸には内緒にしとかなあかんて」

「え? 何でだよ?」

「自分の事好きや言う女がお前と一緒に遊びに行きたいらしいて聞いて、その後その子と顔合わせたら気まずいやろ?」

「え? そうか? こいつ俺の事好きなんかー。っては思うけど気まずくはなんねーだろ?」


 きょとんとした顔で答える向日に、忍足ががくりと項垂れる。


「すまん、お前に言うた俺がアホやった……ほれ、宍戸の顔見てみい、引きつっとるやないか」


 そう言って指差す先の宍戸は、本当に引きつった顔をしていた。


「行かねえ。んな暇ねえしよ!」


 ぷいと横を向いてさっさと歩き出した宍戸の背後で、忍足のほらな。という幾分得意そうな声が聞こえた。

 宍戸には今、恋愛をしている暇などないのだ。

 髪を切ってまで自分の熱意を表した大事な時期なのだ。そんな暇があるくらいなら、少しでもテニスの練習をして強くなりたい。


「おい長太郎! 練習するぞ!!」


 ベンチの脇に置いていたバッグからラケットを取り出し、遠く離れたコートでラリーをしていた長太郎を呼ぶ。

 宍戸の声に直ぐさま反応した長太郎は一緒にコートに入っていた2年生に何やら告げると、猛ダッシュでこちらへやって来た。


「お待たせしました、宍戸さんっ!」


 2人連れ立って空いているコートに入る姿を見送りながら、忍足と向日は顔を見合わせた。


「今は宍戸はテニスが恋人や」

「うっわ、侑士。お前それ激ダサ……」

「アホ、激ダサ言うな」








                          続く…





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