チェンジ・ザ・ワールド☆
Go leisurely~.5
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精一杯戦った、悔いは無いーーーーと言えば嘘になる。
このどうしようもない絶望感は一体なんだろう。
宍戸はずっと自分を責め続けていた。
足りなった、練習が全然足りなかったのだ。
悔しさと苦しさを紛らわすため、宍戸は無茶を承知でかなりの練習量を一人続けていた。
全国大会に出場出来ないという現実を受け止められない、弱い自分。まさに激ダサだ。
中学3年の夏は、始まったばかりにして終焉を迎えた。
「うをおおおおおおおおお!!!!!」
ある日の夕方、叫び声を上げながら宍戸は全速力で走った。
公園にいたはずなのにどこをどう走って来たのか、限界に達した所でふらふらと立ち止まり顔を上げる。
「ぜえっ、ぜえっ……」
とにかく悔しいやら情けないやらで、自分の心を整理するためがむしゃらに走った。
公園の外周を全力で駆けて、その勢いのまま公園を飛び出した。と、そこまでは覚えているのだが、駅に近いらしいそこはバスのロータリーになっていて、家路に向かうサラリーマンや学生が歩いていた。
宍戸がいた公園は家の近くで、駅からは離れている。予想以上に遠くまで来てしまった事に、全速力で一体自分は何キロ走れただろうかと思い出す。
いや、恐らく途中からは全速力ではなかったのだろう。中学生男子が全力で走ったところで、その距離などたかが知れている。
漸く呼吸も落ち着いて来て冷静さを取り戻す。
ふと胃を刺激する匂いがしてきた。それと同時に腹が鳴る。
「ーーー腹減ったな」
ぽつり呟いて匂いのするほうへと歩くと、ロータリー先のコインパーキングにワゴン車が止まっていて、ジュージューとソースの焦げる匂いを漂わせていた。
焼きそばの屋台のようだ。一人若い女性客が注文をしているのが遠目に見えた。
宍戸は吊られるようにそちらへ歩き出したが、お金を持っていないことに気付いて足を止める。
仕方ないので家へ帰ろうとワゴンに背を向けようとしたその時、
「宍戸先輩?」
名前を呼ばれて足を止める。
自分を呼んだ人物は先ほど焼きそばを買っていた女性客だった。
「あ……」
驚いた事にそこにいたのは汐屋雪緒で、宍戸に向かって近づいて来た。
「あ、あの。こんにちは」
「よお」
頭を下げる汐屋は私服で、手には今しがた買ったばかりの焼きそばとスーパーの袋が握られている。どうやら買い物帰りらしい。
学校で見るのと違った雰囲気で何だか新鮮だった。やはり女の子は私服だと受ける印象が変わるものだ。
会話など続くはずもなく、宍戸がどうしようかと困っていると、汐屋がロータリーを指差して言った。
「あ、えっと、先輩。もし時間があれば、あそこのベンチで一緒に焼きそば食べませんか? あんまり美味しそうな匂いで吊られて買ったんですけど、一人でこんなに食べきれなくって……」
突然の申し出に、宍戸は一瞬ためらった。
しかし丁度腹も減っていて買おうと思っていただけに、ありがたくその申し出を受けることにした。
「いいけどよ。俺、金もってねーぜ?」
「そんなのいいです」
そう言って笑う汐屋に、宍戸も吊られて笑顔になる。
こんなに笑うヤツだったんだな。
そんな事を思いながら、宍戸は汐屋と歩き出した。
2人してロータリーの脇にあるベンチに腰掛け、焼きそばのパックを開けた。
ほかほかの湯気とソースと海苔の香りに、思わず声が漏れる。
「美味そうだな」
「はい」
汐屋も同じように思っていたらしく、箸を宍戸に手渡しパックも宍戸の前へと差し出す。
「先に食べてください」
「あ? いいよ、お前が買ったんだから、お前が食べろよ」
「いいから、先輩食べてください」
静かに勧める汐屋に、宍戸は仕方なく焼きそばを一口ほおばった。
「ーーーうん、美味い」
空腹は最高のスパイスだ。
宍戸は次々と焼きそばを口の中にほおりこむ。
半分ほど一気に食べて、汐屋にパックを手渡した。
「悪ぃ、一気に食っちまった」
「いいえ。私、人が美味しそうに食べてるの見るの好きですから。宍戸先輩は美味しそうに食べるから、見ていて楽しいです」
「そうか?」
そう言って宍戸からパックを受け取り、自分もがつがつと焼きそばを食べ始めた。
以外にも豪快なその食べっぷりに、宍戸は可笑しくなった。
もっと小さな口で、少しずつ音も立てずに食べるのではないかと、勝手に想像していたのだ。
「美味しいですね」
宍戸が残しておいた半分の半分くらいを一気に食べると、汐屋はまた宍戸にパックを渡した。
「お茶買ってきます。残り全部食べてください」
「お前もういらねーの? 4分の1しか食ってねーのに」
「はい、十分堪能しましたから」
立ち上がり小走りで自販機へ向かう汐屋の背中を見ながら、宍戸は残りの焼きそばを一気に食べた。
そこで気付いた。さっきまであんなに試合に負けたことが悔しくて堪らなかったのに、汐屋に会ってからすっかりその事を忘れている。
いや、忘れている訳ではないが、どうしようもないあの惨めな感覚が薄らいでいた。
戻って来てお茶のペットボトルを渡してくれる汐屋の顔を見上げ、宍戸は首を傾げた。
「なんなんだ?」
「え?」
思わず声に出してしまい、汐屋も首を傾げる。
「あ、いや。何でもねえ……」
お茶を飲んで宍戸は汐屋のさりげない優しさに長太郎との会話を思い出す。
そうだ。長太郎はこの汐屋の事が好きなのだ。
「あの……」
ぽつり零した汐屋の声に、宍戸は顔を見る。
「この間の試合、お疲れ様でした」
「……ああ」
「テニスの試合、間近で見たの初めてで、すごく感動しました」
「ーーーはっ、そりゃダセぇとこ見せちまったな……」
宍戸はいたたまれなくなり顔を背けた。
汐屋は慌てて立ち上がると、真剣な顔で言った。
「そんなことありません、本当にすごく感動したんですーーー初めて試合を見た私が悔しかったんだから、選手の悔しさはどれくらいだろうって、そればっかり考えて……きっと想像もつかないくらいなんだろうなって……だけど、プレーで人を感動させることが出来るなんてすごいです。本当にお疲れ様でした!」
そして勢いよく頭を下げ、小さく続けた。
「会えて良かったです。先輩が頑張ってる姿を見てると、私も頑張ろうって気持ちになるんです……焼きそば、付き合わせてしまってすみませんでした。それじゃあ失礼します」
そしてくるりと踵を返すと、走って道路を渡って行った。
宍戸は、言葉を挟むのをすっかり忘れ、しばしぼんやりと汐屋が走って行った夕暮れの道路を見つめた。
感動させるようなプレーが、本当に出来たのだろうか?
必死になってしがみついて、バカみたいに練習して、それでも負けてしまったのだ。
感動どころか仲間や応援してくれた人全てを落胆させることしかしていない。
右手を上げそうになって止める。
かきあげる髪の毛なんてとうに無いのに、そんな仕草一つ忘れられないような自分は、やっぱりまだ甘かったのだ。
ふうと息を吐いてだらしなく空を見上げる。
「激ダサだな……」
いや、ダサくてもいいじゃないか。ダサい自分の中の精一杯を、自分なりに試合の最後まで出し尽くした。
こうやって後から後悔することで、一歩大人になるのだ。
ここで燃え尽きてしまったら、それこそ本当に激ダサだ。
腐って空回りしている時間はない。
負けてこんなに悔しくてたまらないほど、テニスが好きなのだ。
ゆっくりと立ち上がり、宍戸は走り出した。
続く…
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