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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

Go leisurely~.7

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 信じられない事が起きた。

 宍戸は驚きと嬉しさで、自分でもどんな顔をして良いのか分からずにいる。

 ただ、テニス部の仲間達と共に同時に跡部を探して走り出した瞬間ははっきりと覚えていた。

 関東大会で破れた宍戸達氷帝学園だったが、開催地特別枠として3位だった氷帝学園の全国大会出場が決まったのだ。

 気位の高い跡部が色よい返事をするかが最初心配だったが、部員の気持ちを汲んだ跡部は大会出場を了承した。


「宍戸さんっ! また一緒にダブルス組めますねっ!」


 涙目で喜ぶ長太郎と握手を交わしながら、また試合に出られるという喜びで体が震えていた。


 全国大会。


 この為に必死にテニスの練習をやってきたのだ。

 形はどうあれ、またテニスに明け暮れられることが宍戸には嬉しかった。

 汐屋は試合を観に来てくれるだろうか。

 そんな事を考えながら、テニスコートから校舎を振り返った。















 全国大会に出場する事が決まった宍戸達は、再び練習に力を入れ始めた。

 もとよりテニスが好きな人間の集まりだ。

 関東大会で破れた後も、テニスコートに集まったり自主練習をしたりして体は動かしていた。

 それでもやはり氷帝学園テニス部として仲間と共に試合に出る為の練習が出来るというのは嬉しい。

 気合いの入ったかけ声がレギュラーやレギュラー以外の部員全員から発せられる。

 宍戸は今2年生レギュラーの日吉と組んでボレー&スマッシュの練習をしているのだが、どうにも力が入らない。

 今日は夏休み前最後の休日で早朝から練習をしているのだが、昼前という時間帯でスタミナが切れかかっていた。

 そろそろ栄養補給をしたいところだ。


「あー、腹減った!」


 情けないかけ声と同時にスマッシュを決めると、球出しをしていた日吉が眉間にしわを寄せて宍戸を見た。


「宍戸さん、あんまり大きな声でくだらないこと言わないでください」

「うっせーな、腹減ってるんだから仕方ねえだろ? くだらないってなんだよ、そう言うお前だって腹減ってんだろ?」


 後輩のくせに相変わらず偉そうな口を叩く日吉に、宍戸も負けず顔をしかめて反論する。


「武士は食わねど高楊枝です」

「……お前それ使い方間違ってんだろ」


 やはり腹が減っているらしい日吉にツッコミを入れると、ギャラリー席に長太郎の姿を見つけた。

 それと同時に長太郎と話している汐屋の姿も見つける。

 2人で何やら話していて、汐屋が長太郎にビニール袋を渡し二言三言話すと、汐屋は小さく手を振って向こう側へと消えて行った。

 すぐに宍戸は顔を日吉に戻して、ネットに寄せ集めたボールを拾う手伝いをする。

 汐屋がテニスコートに来たのを見たのは初めてだった。

 そこで関東大会を観に来たと言っていた汐屋の言葉を思い出す。

 もしかしたら長太郎が観に来ないかと誘ったのではないだろうか。長太郎は汐屋の事が好きなのだ。何かアプローチを掛けていてもおかしくない。

 この間の試食係を跡部に言い使った時も、きっと長太郎は喜んだ事だろう。

 長太郎は宍戸が汐屋の事を好きだと言う事を知らない。

 汐屋に自分の気持ちを伝えるつもりは今の所ないが、テニスにだけ打ち込みたいのに集中していない時は気付けば汐屋の事を考えている。

 そして長太郎と汐屋の仲が上手く行ったらどうしようかと考えている。

 なんて滑稽なのだろう。


「宍戸さん!」


 やってきたのはその長太郎で、嬉しそうな顔でビニール袋を持ち上げてみせた。


「汐屋さんから差し入れもらいました」

「そっか、良かったな」


 気のない言い方をしているが、内心穏やかではない。

 先ほどの2人がどんな会話をしていたか気になっている。


「皆で食べてくれって、たくさんもらったんです。そろそろ休憩時間だし、食べましょう」

「そうだな」

「長太郎! 何々!? めちゃくちゃいい匂いじゃん!」


 やってきた向日は鼻をひくつかせながら長太郎の手に握られているビニール袋を覗き込んだ。


「五目チャーハンだそうです」

「チャーハン! すっげー、食おうぜ!」


 そう言って長太郎の手から五目チャーハンの入った袋を奪うと、向日はさっさとテニスコートを出て行ってしまった。


「あっ、待ってください!」

「俺達も行くか」

「そうっすね」


 慌てて向日を追いかける長太郎を見送り、宍戸は日吉と一緒にコートを出た。












 部室に入るとすでに向日と長太郎、忍足がチャーハンを食べ始めていた。


「宍戸さん、早く食べないと向日先輩が食べちゃいますよ!」


 かろうじて残っているチャーハンの入ったパックを指して長太郎が言うと、向日が怒った。


「そんなに食わねーよ! おい宍戸、日吉、あと残り3つだからな。早いもん勝ちだぞ!」


 そう言いながらも本当はお代わりしがしたそうだ。

 それを日吉が素早く奪い、一つを宍戸の前に、一つを奥のパソコンの前で作業していた滝の前に、残りを着席した自分の前に置いた。


「サンキュ、日吉」


 宍戸は出来立てで湯気が立つチャーハンを引き寄せ、口に運ぶ。

 美味い。


「しかし美味いなあ」


 感心したように忍足が言うと、長太郎が嬉しそうに答える。


「この間の料理部の子が作って持って来てくれたんです」

「ああ、あのテンパッとった子達かいな?」

「今日は本番前の最終チェックで料理部全員が集まって料理作ってるみたいですよ」

「また試食させてくんねーかな?」


 横からすっかり食べ終えた向日が言うと、長太郎が頷いた。


「放課後部活が終わって暇だったら来て欲しいそうです」

「マジっ!? 行こうぜ、侑士!」

「せやな、晩飯代わりに食べさせてもらうか。この間よりはかなり上達しとるみたいやし」


 前回の試食であまり良い思いをしなかったため料理部の試食に良い印象を持たなかった忍足だが、今日のこのチャーハンの出来から察するにかなり特訓したことが分かり行くことに同意した。

 そんな忍足たちの様子を伺いながら、宍戸は確信していた。

 この味は間違いなく汐屋が作ったものだ。

 パラパラにほぐれた米と野菜や肉のバランスが絶妙で、油との混ざり具合はプロのようだった。

 この1週間ほどであの料理部員がこんな急に上達するとは思えない。


「でも多分これはあの時の子達が作ったんじゃないと思いますよ」

「え? じゃあ誰だよ?」


 長太郎の一言に宍戸は小さく反応する。

 向日が尋ねると、こちらも食べ終わった長太郎が空になったパックを片付けながら答えた。


「さっきこれ持って来てくれた、汐屋さんだと思います」

「そうなのか?」

「なんでそんなこと長太郎に分かるん?」

「いや、汐屋さんの実家、中華料理屋さんなんですよ。前に食べに行った時、チャーハンがこれと同じような味だったから、多分」


 汐屋の家は中華料理屋らしい。それで担当が中華なのだなと宍戸は納得した。

 しかし長太郎は汐屋の実家で食事をしたことがあるらしいことに少し驚いた。


「そうなん? でもその汐屋さんって子も料理部で今日料理作ってんねやろ? せやったらまあ、ましなんちゃうん?」

「どうでしょう……汐屋さんも無理に来て欲しいとは言ってませんでしたけど」

「お前は行くんだろ?」

「はい、跡部さんにも試食係に任命されてますから」

「お前ほんまにええヤツやなあ」

「そうですか?」


 感心する忍足の言葉に、長太郎は首を傾げながら作り置きのスポーツドリンクをコップに注いで皆の前に置いて行く。


「でも気ぃ付けんと、女の子に対してもええヤツで終わってまうで?」

「え?」


 一瞬長太郎の顔が硬くなった。

 すぐに椅子に座り、忍足に真面目な顔で詰め寄る。


「忍足さん、やっぱり優しいだけじゃ駄目なんですか?」

「なんや急に、お前好きな女でもおるんかいな?」

「はい。でもどうやったら俺の気持ちを分かってもらえるかなあって考えて、やっぱり優しくするのがいいのかなって……でもそれだけじゃ駄目なんですか?」


 宍戸は食べ終わったパックをゴミ箱に捨て、ガムを噛みながら長太郎と忍足の様子を見守った。


「お前の場合、誰にでも優しいからあかんねん」

「誰にでも優しくすることの何がいけないんですか?」

「これや。お前が好きな子がどの男に対しても優しく振る舞っとったらお前はどう思う?」

「ーーーちょっと寂しいかもしれないです」

「せやろ? 他のヤツにも優しくするんは別にええけど、自分だけ他とはちゃうかもしれん、って思わせな意味ないねん。ま、相手がどうしようもない鈍感やったら話しは別やけどな……宍戸、俺にもガムくれ」


 急にこちらを向いて手を伸ばして来た忍足に一瞬驚き、それでもポケットのガムを出して忍足とその横で無言で手を伸ばしていた向日にもくれてやる。

 ガムを口に入れて忍足は続けた。


「ええか、長太郎。女の子は特別に弱いねん。確かにお前はモテる。せやけど自分が本当に好きな子と両想いになったことあらへんやろ?」


 そこまで言われて長太郎はピタリと動きを止めた。

 どうやら図星らしい。


「どうしたらいいんですか?」


 すっかり真剣に忍足の話しに聞き入っている長太郎が、なんだか可哀想に思えて来た。

 宍戸はそこで立ち上がると、部室のドアへ向かった。


「あ、宍戸さんどこに行くんですか?」

「便所だよ」


 慌てる長太郎にそう言い捨てて、宍戸は部室を出た。

 どうせ忍足は適当なことを言って長太郎をからかうつもりだろう。

 帽子を取って頭を掻き回し、宍戸はトイレへと向かった。

 忍足の口上などくだらない。

 自分を偽ってまで相手に好かれて何の意味があると言うのか。

 ありのままの自分を好きになってもらえなければ、いつかきっと無理が来て疲れるのだ。

 そんな年寄り臭いことを考えてしまう自分が何だか虚しく思えておかしかった。









                          続く…





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