チェンジ・ザ・ワールド☆
雨の日に〜2−6
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2-6
加藤達は警察署に戻っていた。
おいしくないカップコーヒーを啜りながら、図書室の机で顔を突き合わせて成川の話しを聞くことにしたのだ。
「で、岡部が言っていた興味深い事ってのは一体何なんだ?」
加藤の言葉に成川は頷き、ファイルから数枚の紙を取り出した。
「何ですか、これ?」
津田が不思議そうに覗き込む。
「岡部さんが見たという、頭の中に浮かんだ映像です」
「頭の中に浮かんだ映像ぉ?」
加藤は素っ頓狂な声を上げた。
紙にはこう書いてあった。
ゆらゆら揺れるナイフ
黒い人影
見知らぬ女性
ブランドのバッグ
短いスカート
黒いスーツの女性
加藤は首を傾げた。
「これを……岡部のやつが?」
「ええ、そうです。ここ最近突然頭の中に、ここに書いてある映像が映し出されたそうです」
成川の答えに、加藤は岡部の顔を思い出した。
「先輩、このブランドのバッグ、短いスカートと黒いスーツって……」
加藤は無言で津田を睨んだ。
二人目の被害者は、確かブランドのバッグを持っていて、下着が見えそうな程短いスカートを履いていた。しかしそんな事を知るのは警察関係者と殺されたその日に本人を見た人間……もしくは犯人以外知り得ない情報だ。とても岡部が知っている事だとは思えない。
他のナイフや女性というのは、新聞やテレビでも報道されている情報だ。おそらく全国のテレビを見ている7・8割の人間が知り得る情報だろう。それに黒いスーツの女性とは間違い無く昨夜殺害された本村理恵の事だろうが、本村に至っては岡部は一緒に行動を共にしていたのだ。黒いスーツを着た本村が頭に浮かんでも何の不思議も無い。
「頭のいかれたフリしてしゃべったんですかね……やっぱり、岡部が犯人って……事ですか?」
津田の言葉を成川はあっさりと否定した。
「いえ、これは犯人が精神異常を装ってしゃべった内容では、おそらくありません……」
「じゃあ、一体……」
成川は加藤と津田の顔を交互に見ると、ふうと息を吐き出し、きっとした目つきになると念を押す様に再び加藤と津田を見た。
加藤と津田はその目に釣られて無言で頷く。
「もし岡部さんが本当に犯人ならば、わざわざこんな回りくどい事を言うでしょうか? 私が犯人なら、いらぬ情報は刑事になど話さず弁護士に話します。それに頭の中に浮かんで来る映像……というのも気になります。夢で見た、とかの方が信憑性がありませんか? わざわざ頭に浮かんだと言うからには、本当なのではないか……と」
そこで成川は言葉を切ると、一息吐いて美味しく無いコーヒーを飲んだ。
「今までの経験と統計学的に見て……岡部さんは嘘を言っているとは考えにくいです。簡単な精神鑑定もしましたが私の所見では至って正常で、精神障害者でもなければ装ってもいませんでした……まあ、この鑑定というのは100パーセントではありませんし、精神異常者を見分けるのは非常に難しいので確実ではありませんが……とにかく私が出した結論は、岡部さんには普通では考えにくいですが特殊な能力があるのではないかーーーそう、犯罪が行われる、もしくは行われた情景が脳裏に浮かぶ、透視能力が」
言い終わると、成川は肩の力を抜いた。
あまりに突拍子も無い話しに、しばらく呆気に取られていた加藤は急に笑いがこみ上げて来た。
「あっはっはっは、こりゃいいや、傑作だ! 国の偉い先生がわざわざこんな田舎までやって来て、岡部が超能力者だって!? あははははーーー」
加藤があまりにも心の底から可笑しそうに笑うので、成川は恥ずかしくなった。
「加藤さん、私はまじめにですねえ……」
「いや、分ってる」
成川の前に手を出し成川の言葉を制すると、加藤は目の端にうっすらと溜まった涙を拭った。そしてまだ微かに笑いながら図書室の入り口まで歩くと、
「ありがとう。冗談であれ本気であれ、あんたが他に犯人がいるかもしれないって言ってくれれば、岡部のやつの無実に一歩近付けるかも知れない……俺は足で真犯人を探し出してやる」
そう言い残し、乱暴にドアを開けると出て行ってしまった。
取り残された津田と成川は、唖然として顔を見合わせた。
「あの、成川先生……」
「先生はいりません、成川で結構ですよ。何でしょう?」
恐る恐る津田は成川の顔を見た。
「さっきの話しですけど、透視能力って本気で言ってるんですか?」
津田の言葉に成川は視線を少し上にやり、違うファイルを取り出して机の上に広げた。
「例えばーーー私がいたFBIやヨーロッパでも、現実に警察の中に超能力捜査官という方はいらっしゃいます」
ファイルは全て英語で書かれていて、津田にはチンプンカンプンだったが、おそらくそのような事に関する事例などが書かれているのだろう。
「その話しは聞いた事があります」
「そうですね。日本にも戦後に千里眼を持つ男と呼ばれる男性が難事件解決に力を貸していた事があるらしいんですが、いつの間にかそういった超能力を頼った捜査は打ち切られたようですね……まあ、警察の組織に組みしないにしても、例えば霊能者と呼ばれる人なんかも、超能力の一つとして捉えられますので、我々が考えるより遥かに身近なものなのです。まあ、これには良くない顔をする学者も少なくありませんけど……」
津田は驚いた。日本が昔、超能力者と協力していた事があるとは初耳だったからだ。
「それで岡部さんですが、頭に浮かぶ映像……これは他国でも似た様な能力を持った超能力者が存在します。例えば、事件の報道をニュースで見ていて、突然頭の中に犯行が行われる情景が浮かんだり、被害者の持ち物に触れたりすることで、その人物がどのような行動を取ったか、誰と会ったかというのが浮かんだりするそうです」
「……ははは、何だかあり得ないですね」
強張った顔で笑う津田に、成川は微笑んだ。
「確かに、テレビドラマや映画の様な話しですが、あり得ないという事は起こってしまってから使ってはもうあり得た事です。私も直にこの目で超能力捜査を目の当たりにしましたが、驚きました。犯人検挙率が高い人程、短時間にすらすらと詳細な情報を脳裏に呼び込む事が出来るようです。でも我々のプロファイリングよりも確実性という点では評価は低いです。超能力者の言う事を100%全て信用は出来ませんから」
流石に直接見たという人物の、しかも国から派遣されて来た先生に言われては超常現象など信じない……いや、信じたく無い津田もあり得るのかと納得せざるを得ない。
と、津田が成川の言葉を噛み締めている所へ同じ一課で先輩の白川が入って来た。
「お、ここにいたか。加藤のやつ走って出て行ったみたいだが、何かあったのか?」
加藤の一つ先輩に当たる白川は、加藤に負けず劣らず厳つい顔と身体をしている。
「新犯人を足で探すんだって、息巻いて出て行ったんです……白川さんはどうしたんですか、何かありました?」
津田の質問に白川ははっとして、手に握っていてくしゃくしゃになった紙を机の上に置いた。
「いや、容疑者がまた変な事言い出したみたいでさ、女先生の所に持って行けって、取り調べやってる後藤に持たされたんだ」
そして成川と津田は白川に見事に潰された紙を破らない様に引き延ばした。
白い煙
甘い香り
意味が分からないその言葉に、流石の成川も首を傾げる。
「白い煙って何ですかね。被害者が発見された場所の近くで白い煙が出ていた所って事かな?」
「甘い香りは香水の事?」
首を傾げ合う津田と成川の姿を見て、白川も首を傾げた。
「何だ? 一体何の話しをしてるんだ?」
そこで津田は成川に聞かされた岡部の透視能力説の話しを白川に語った。
「うーん……」
白川は腕を組み、立ったままの姿勢で暫く思案していた。
「先生、今回の犯人の居住地範囲はどのくらいになる?」
白川が尋ねた。
犯罪プロファイリングでは、被疑者の生活範囲のどの程度の距離で犯行を行ったかという、地理的プロファイリングがまず行われる。
拠点となる居住地から近いのと遠いのとでは、捜査の仕方が変わって来るのだ。
今までは精神異常者による無差別的犯行として捜査が行われていたため、それほど広範囲での捜査は移動の事も考えあまり力を入れていなかったのだが、プロの心理学者が来て出した範囲を参考にする方が、遥かに効率が良いはずだ。
「そうですねえ。様々な要因を特定するには、犯行に秩序さと無秩序さがありすぎて……」
津田と白川はいまいち成川の言葉の意味が分らなかった。
そんな二人の様子に気付いた成川は何やら少し考えるような仕草をした。そして、
「例えばですね」
そう言って無地のノートに何やらボールペンで書き始めた。
「まず被害者要因は性別や年齢、国籍。現場状況要因は死因・外傷、発見当時の死体の状況……こういった枠を作ってデータを当てはめ分析してみます」
被害者要因
性別…日本国籍女性 四名(うち一名現在検死解剖中)
年齢…二十代(検死解剖中含む)
現場状況要因
外傷…小型のナイフによる刺し傷複数。場所は上半身のみ。殺害後、死姦された形跡あり。(ただし犯人の痕跡は無い)
死因…ナイフで刺された事による出血性ショック死
発見時の死体状況…きちんと衣服を着せられた状態で、どれも戸外に遺棄されていた。
ノートに奇麗な字で書かれたそれを見ながら、津田は考えた。
こんな事はもうとっくに分っている。それがどうしたというのか。
津田の考えている事が分ったのか、成川はにっこりと微笑んだ。
「こういったデータを過去の事件のデータと照合すると、犯人のパターンが割り出せます。似た様な事例があれば、犯人特定もしやすくなりますからね……考え方が似ているって事になるでしょう?」
「まあ、そりゃそうだ」
実際の警察もそのようにして犯人を捜す為に色々と動くのだが、白川は興味深そうに成川の話しに聞き入っている。
「まず犯人の居住地ですが、被害者が二十代女性の場合……犯人の居住地から死体遺棄場所で共犯ありの場合、一番多くて約三五%の確率で一万五千メートル以上離れます。共犯なしの場合で約六五%の確率で四百メートル未満です。次に犯行には大まかに分けて四つのテーマがありますが、そのどれもに当てはまるので、ここでの特定は難しいです。ただ……」
「ただ……?」
津田と白河は成川の話しに引き込まれていた。ごくりと唾を飲み込み、成川の次の言葉を待つ。
「私は、犯人は一人では無いと思っています……」
「何ですって!?」
津田は驚いた。まさか共犯者がいるとは、警察関係者の誰もが予想していなかったからである。
「確かに、今までは頭のいかれたやつが一人で若い姉ちゃんにイタズラ目的に襲って、近くの家に連れ帰ってまた道端に捨てたと思ってたからな……」
白川も真剣な表情で考えている。
「お、俺、加藤先輩に電話してきます!」
そう言い終わるが早いか、津田は慌てて図書室を出て行った。
「もし共犯者がいるのなら、さっき先生が言っていた犯人の居住地範囲が結構広がるな……」
成川もファイルをまとめ、バッグに仕舞うと立ち上がった。
「この事件、難しくなりそうですね」
そう白川に言った。
「宜しく頼みますよ、先生ーーー」
続く…
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