チェンジ・ザ・ワールド☆
雨の日に〜3−5
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3-5
再び古井呉服店へとやって来た加藤達は、先程と同じく青ざめた顔の古井杜助と向かい合わせて座っていた。
「お願いします、杜助さん。これは殺人事件に関係しているかも知れない、大変重要な事なんですーーー何でもいいんです、あなたの知っている事を、我々に教えてくれませんか?」
津田が言うと、杜助はちらりと横に座る牧夫の顔を見た。
「お父さんーーー」
牧夫の目を見て、杜助はがっくりと項垂れた。そしてわなわなと体を震わせたかと思うと、急にぽろぽろと涙をこぼし始めた。
!?
驚いた加藤達は互いの顔を見合わせた。
「……まさか、こんな事が……」
杜助はうわ言の様に呟いた。
「おじいちゃん?」
驚いた仁美は杜助の肩に手をかけ、ハンカチをそっと渡した。
「ああ、ありがとう仁美……刑事さん、儂は……儂はこの男を、多分……知っておりますーーー」
ーーーー
杜助の言葉に全員が息を飲んだ。
杜助は漸く落ち着くと、ぽつりと語り出した。
「今から55年前、我が家に2人の男の子産まれた……儂の息子の牧夫と、牧夫の双子の兄、秋杜(あきもり)です……」
はっと加藤は成川を見た。成川も加藤を見た。ぞわぞわと全身を良い知れぬ何かが這い回る様な感覚を覚えながら、加藤は杜助の言葉を待った。
「我が古井家ではとても古くて忌々しい風習がありました……代々双子は不吉な子どもとして扱われ、どちらか一人を……殺さなければいけなかったのです」
杜助の口から出た言葉に、一同は息を潜める。呼吸する音すら消えてしまいそうだった。
杜助が若かりし頃とは言え、戦後の現代日本にそのような風習が残っているなど、考えた事もなかったのだ。ましてや自分が生活している町からさほど離れていない、こんなに活気ある街でなど、信じられない。
一同の空気が重くなり、杜助は長いため息を吐いた。
覚悟を決めた様なため息だった。
「ーーーしかし儂には出来なかった……昔からのしきたりだからと言って、何の罪も無い子どもを……赤ん坊を、どうして殺す事が出来るでしょうか? 儂は考えに考えました。そして、家に出入りしていたお客様で阿曾山(あそざん)にあるお寺の住職さんがいらして、その方に相談したところ、他言無用で秋杜を引き取ってくれる事になりました……」
そこまで言うと、杜助は疲れたのか大きく息を吸い込み、吐き出した。
「お茶を、お持ちします」
そんな杜助を見て、仁美は直ぐさま奥へと消えて行った。
「大丈夫ですか?」
成川が声を掛けると、杜助は悲しそうに微笑んで首を縦に振った。
憑き物が落ちたかの様な杜助の顔に、今まで人に言う事の出来ない秘密を背負って来た人生を一人反芻しているのが伝わった。
「家の人には、ばれなかったんですか?」
津田の質問に、杜助は泣きそうな顔で頷いた。
「ええ、皆が寝静まった頃、その住職さんが滞在していた宗派のお寺まで儂一人で秋杜を連れて行ったのですが……運良く誰にも見つからずーーーその後すぐに家に帰り、誰の目にも触れない様にして秋杜の代わりに野良犬に死んでもらい、焼いて粉々にして骨壺に入れましたのでーーー焼いた後や骨があったので、家族の誰もが儂が夜中のうちにそっと秋杜を殺したものと思い込んでいた様です」
そう言い終えた所で仁美がお茶を持って帰って来た。
「どうぞ……」
「どうも」
加藤達もお茶を出され、そこで一息吐いた。
外は増々雨が激しくなってきているのか、アーケードの中の暗さが増していた。
「それから秋杜さんにはお会いになったんですか?」
さらに津田は質問を続けた。
「年に一度お寺まで法衣を届けるついでに、成長する姿を覗き見ておりましたが、あれが丁度18の誕生日を迎えた後しばらくして住職から連絡がありまして……秋杜(しゅうそう)、寺ではこう呼んでいたんですが。その秋杜がいなくなったと……それから八方手を尽くして探しましたが、どこへ消えたのか全く手掛かりすら掴めず、儂も住職も三年程経った頃にはもう探す事を諦めていました。生きているならもう21だ、一人でも生活出来る歳だし、もし何かあればきっと寺へ戻って来るに違いないと……」
ぴくりと仁美は肩を振るわせた。まるで作り話の様な杜助の言葉に、怖くなってきたのだろう。そんな仁美を横目で見ながら、津田はまた質問をした。
「戻って来なかったんですか?」
「はい、どこで何をしているやら、育てて下さった住職も20年前に亡くなり、秋杜が儂の息子だと知る人間も儂一人となりました……でも、生きていたんですねーーー」
最後の言葉は、自分自身に言い聞かせる様に、小さな声でポツリと言った。
「名前でばれたりしなかったんですか?」
津田の質問に、杜助は力なく笑った。
「秋杜という名は、住職に預ける時に儂が付けましたから……」
杜助が俯くと、成川が一瞬牧夫の顔を見て尋ねた。
「何故……牧夫さんではなく、秋杜さんの方をお寺へ預けようと?」
牧夫はその成川の言葉にピクリと肩を動かす。
「秋杜は……体が小さかった。ですから、家人も跡継ぎを選ぶなら丈夫な子の方を残そうとーーー」
「ーーーそう、ですか……」
成川は身が千切れそうな顔で答える杜助の顔を、直視出来なかった。
「……お父さん、どうしてそんな大事な事今まで黙っていたんですか……」
今までじっと黙って杜助の話しを聞いていた牧夫が、辛そうな表情で呟いた。
「牧夫……すまなかったね。もしかしたらお前が秋杜の代わりにお寺に行く事になっていたかも知れない、だから何も知らない方がお前の為にもいいと思ったんだよ。だけど、お前は随分昔から気付いていたんだね……本当に、すまなかったーーー」
杜助は本当にすまなさそうに頭を下げた。牧夫は杜助の肩に手を掛けると、
「お父さん、刑事さん達は事件の捜査で来てらっしゃるんですよ。しかも探しているのはあなたの息子で私の兄。この人が生きていた事は良かったかもしれないが、事件に関わっているなら古井呉服店としては一大事です」
そう言って悲しそうな顔をした。
「今は店の事などを心配している場合ではない。それはもちろん秋杜が生きていてくれた事は何よりも嬉しい。だけど、秋杜が何かやったと言うのなら……刑事さん。もし、秋杜に会う事が叶うなら、どうぞこの年寄りの口から本当の話しを語らせてはくれませんか。秋杜が殺人などという、恐ろしい事をやってしまったのならば、その責任は儂にあるはずです……幼い頃に両親に捨てられたという、悲しい思いが、秋杜に辛い人生を歩ませる結果になったのかも知れないーーー」
加藤達に向かって頭を下げる杜助の姿に、加藤達は胸が痛んだ。
「杜助さん……」
成川がぐっと何かを堪える様な表情で呟くと、仁美は祖父と養父のやり取りに、急に恐ろしくなったのか、青ざめた顔でおろおろとし出した。
「ーーー仁美、お前は向こうへ下がってなさい」
「あ……は、はい」
杜助に言われ、仁美はそそくさと奥へと消えて行った。
「杜助さん、牧夫さん。もしも秋杜さんが現れたら、すぐに我々に知らせて下さい。いいですね?」
津田に言われ、二人は顔を見合わせ頷いた。
続く…
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