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チェンジ・ザ・ワールド☆
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雨の日に〜3−7

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streetpoint

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3-7
















 翌日の朝、加藤は津田と共に数県をまたぐ大きな阿曾山へと向かう車を運転していた。


「熊本県警から連絡は?」


 コンビニで買った朝ご飯のおにぎりにかぶりつきながら、加藤は津田に尋ねた。


「あ、はい。一応調べてもらったんですけど……さすがに三十七年も前の事なんで詳しくは分りませんでしたが、阿曾山の真蓮寺(しんれんじ)というお寺に、秋杜(しゅうそう)という小坊主が昔いたことは間違いないそうです」


 津田も朝飯のパンを食べながら答えた。


「まあ、いたってのが分っただけでもめっけもんか……」

「そうですね……」


 気の無い返事をする津田をチラリと横目で見ると、加藤が買ったお茶をごくごくと飲んでいる。


「おい、お前俺の茶飲むなよ!」

「わっ!? す、すみません!」


 慌ててドリンクホルダーにペットボトルを置くと、津田はため息を吐いた。そんな津田に加藤が話しかける。


「ーーーなあ、津田」

「はい?」


 間の抜けた顔で津田は加藤の顔を見た。


「お前、もしかしてあの成川皐子の事が、好きなのか?」

「なっな、何をいきなり言うんですかっ!?  もう、先輩、止めて下さいよっ!」


 あからさまに動揺する津田は、刑事にはどうも不向きな様な気がしてならない。


「ああ〜、もういい、分ったから……で? どこがいいんだ? まだ知り合って何日かしか経ってないってのに」


 加藤にすっかりバレてしまっている事が分り、津田は観念した様に窓の外を眺めて再びため息を吐いた。

 外の景色はのどかで、昨日いた立派なアーケードが建つ商店街のある県と、同じとは思えない程山と田んぼが広がっている。


「だって、成川さんって美人じゃないですか。上品だし、頭もいいし、何よりあの笑顔が堪らないんですよね……」


 うっとりと成川の事を思い出しているのか、津田は自分の世界へと入っていた。

 まあ、確かに美人だとは加藤も思う。しかし、そんな単純に好きだと思える津田の神経が分からない。


「結局は顔か……」


 ぼそりと言った加藤に、津田は反論した。


「顔だけじゃないですっ! 美人なのを全然鼻に掛けてないし、誰にでも優しい感じがして、ああ、いいなあって……先輩は思わないんですか? 署の皆は成川さんと行動出来る俺達の事を妬んでるんですよ? ラッキーじゃないですか、皆に羨ましがられる様な人と一緒に仕事出来るんですよ」


 ころころと表情を変えて力説する津田を尻目に、加藤は小さくため息を吐く。


「ーーー俺は……あいつは何か苦手だ」

「ええっ!? 先輩、もしかして美的センスがおかしい人ですか?」


 失礼な事をあっさりと言う津田を横目で睨み、加藤はもう一つおにぎりを袋から取り出した。


「お前、いつか誰かにやられるぞ……俺は、あんな風にいっつも穏やかに笑ってるやつは、腹の中で何を考えてるか分からんから苦手だ。緊張感がないっつうか、俺達は殺人事件の捜査をやってんだぞ? それなのにのほほ〜んとしたしゃべり方しやがって、終いには結婚してるのか? とか訳のわからん質問してくるし……」


 がぶりとおにぎりに噛み付いた加藤をしばらく見つめ、津田は頭を抱えた。


「ーーーどうした? 津田」

「……もしかして……いや、成川さんに限ってそんな事……」


 ぶつぶつと独り言を言い出した津田に、加藤の声は届いていなかった。
















 車で走る事数時間。雄大な緑の山が見えて来た。


「先輩、そっちじゃなくってこっちの道です」

「ああ? だけど阿曾山に行くんならこっちだろ?」


 大きな橋が架かっている信号の手前で、津田は橋を渡る様に加藤に指示した。


「阿曾は阿曾ですけど、こっち方面にあるんですよ、真蓮寺」


 加藤は真っ赤な、今にも燃え出しそうな大橋を見据えながら、何故だかぶるりと身震いをした。橋の遥か下方は巨大な谷底になっており、その上に架かる橋を通るもの全てを吸い込んでしまいそうな、でかい掃除機の口に思えたからだ。

 ゆっくりとハンドルを右に切り、橋へと差し掛かる。


「なんか、異常に高い場所にある橋ですね……落ちたら一貫の終わりですよ、この橋」


 津田もその威圧感に何やら不気味さを感じたのか、空恐ろしい事を言う。


「ばかやろう、そんな簡単に落ちる様な橋に見えるか? でっかくてしっかりした橋じゃねえか」


 加藤は津田にそう言いながら、自分自身に言い聞かせている事に気付いた。


「それはそうですけど……」



 橋を渡るまでの時間が、ひどく長く感じられた。

 渡ってしまえばなんて事はないの只の山道なのだが、バックミラーを見る勇気が加藤には無かった。

 山の雄大な自然に怖じ気づく大の男。

 心の中で呟きながら、加藤は己の度胸の小ささにほくそ笑んだ。


「この辺って、本当に何にもないですね」


 奇麗に舗装された道路沿いにたまに現れる店以外は、民家は殆ど無い。秋色に染まりつつある緑深い山間の道は、夜歩くには怖すぎる。


「何でもたくさんあったら、自然豊富な山じゃなくなるだろ?」

「まあ確かにそうですけど、車が無いと買い物に行くのも大変ですよね……よくこんな所に住むなあ」


 とても地元の人には聞かせられない様な言葉を呟く津田に呆れながら、加藤は空気の濃い山を見上げ、煙草に火を付けた。













 目的の真蓮寺は意外と分り易い場所にあった。分り易いというだけで、警察署を出てから既に三時間近く経過しているから、加藤の大きな体は車を降りた瞬間にバキバキとおかしな音を立てていた。


「ちくしょう、だから車は嫌いなんだ」


 忌々しそうに吐き捨てる加藤の横顔を見ながら、津田は少し大きめの独り言を呟いた。


「先輩が大きすぎるんですよ……これからは先輩用に一台外車を入れてもらえばいいんですよ……」

「うるさいヤツだなあ、好きででかくなった訳じゃないよ……ほら、さっさと行くぞ!」


 先になって歩く加藤に慌てて付いて行きながら、津田は森林に囲まれた何とも言えない張りつめた空気を感じていた。

 神聖という澄んだ言葉がぴったりなその真蓮寺の佇まいに、ごくりと唾を飲み込んだ。














                                  続く…















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