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風名8日目・No.2

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私のやんごとなき王子様














「それじゃあまたね、小日向さん」

「ありがとう、利根君。またね」


 無事衣装の寸法も測り終え、私は利根君と別れて部屋へと戻った。















 廊下には人も少なくて、皆それぞれ部屋に戻ってたり遅くまで作業していたりするんだろう。私は足早に階段を昇る。


 あれ?


 ふと人の話し声が聞こえて来て私は足を止めた。

 辺りを見回してみると、丁度演劇用の練習室のドアが少し開いているのを見つけた。

 まだ誰か残ってるのかな。もしそうなら一緒に練習しよっかな……

 と軽い気持ちで薄く開いたドアに手を掛けた時だった。


「私、玲君の事が好きなんです……」


 ――え?

 私は思わず息を飲んだ。とても憂いを含んだその声は間違いなく亜里沙様のもので、一瞬ドラマの台詞と聞き間違いそうな程感情がこもっていた。


「桜……」


 細いドアの隙間から見えたのはすごく困った顔をした風名君と、その前でじっと風名君を見つめている亜里沙様。

 その緊張がこちらにまで伝って来るようで、私は指一本動かすことも出来なかった。


「玲君は私にいつも勇気と元気をくださいます。どんなに落ち込んでも、あなたの声を聞いて笑顔を見ると頑張れるんです。私にとって、あなたはとても大切な、太陽のような存在なのです」


 亜里沙様の言葉に私はドキリとした。

 同じだ。亜里沙様も私と同じ気持ちなんだ……。

 風名君の声と笑顔は本当に元気をくれる。私がこうして何とか頑張れているのも、風名君やさなぎが励ましてくれるから。

 あの完璧な亜里沙様でも落ち込むことがあるんだと思うと、何故だか泣きたくなった。

 私なんかの悩みなんて、亜里沙様の悩みに比べたらほんの些細なものだろう。それなのに一人空回りして、皆に迷惑かけて――


「今すぐに返事が欲しいとは言いません。少し、私の事を考えてくださいませんか? 私が玲君の隣りにいるに相応しい女性かどうか……」

「桜、俺は……」


 風名君が何か言おうとしたそこまで聞いて、私はゆっくりとドアから離れた。

 一歩二歩後ろに下がり、音を立てないように階段へと向かう。

 それ以上二人が話している所を見るのが辛かった。立ち聞きをしてしまった事に対する罪悪感と、亜里沙様の風名君に対する真剣な想いが容赦なく襲って来て、胸が苦しかった。


 好きって一体なんだろう?


 階段を昇ると、丁度窓から月が見えていた。

 亜里沙様は本当に風名君の事が好きなんだ。――それじゃあ私は?

 この数日、私は間違いなく風名君と共に過ごす時間の中で、今まで知らなかった風名君を知って行った。それはとても嬉しいことばかりで、楽しくて仕方なかった。

 亜里沙様は私の知らない風名君のことをもっとたくさん知っていて、自分から想いを告げるほど好き。

 ―――私も……風名君が好きだ。亜里沙様には何一つ敵わないけど、それでも風名君の事が好き。もっともっと風名君とお話したり、遊びに行ったりしたいもの!

 ふと本屋に行った時に会ったマネージャーさんの怒った顔が浮かんだ。

 風名玲はアイドルで高校生だ。熱愛だのなんだのと騒がれたらイメージダウンになるって怒ってた。

 分かってる。でも、好きだって思う事は悪い事じゃないよね? 亜里沙様みたいに堂々と自分の気持ちを告げるなんて出来ないし、二人が本当の恋人同士になったらどうしようって思ってるけど、でも私にはどうする事も出来ない。

 だからせめて、学校にいる時は風名君の友達として仲良くしたい。


「はあ……」


 違う、嘘だ。ずっと私だけに優しくしてて欲しい。私は亜里沙様に嫉妬してるんだ。あの後、風名君が亜里沙様になんて言ったのか、気になって仕方ないんだ。

 ……もう、私の馬鹿っ!!

 やるせなくなった私は思い切り階段を踏みしめ、一気に駆け上った。














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