チェンジ・ザ・ワールド☆
手をつなごう
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こんなに簡単に、人は誰かを好きになるものだなんて、あの時の俺は知らなかったーーー
手をつなごう
俺、黒羽春風は久しぶりにオジイの工房にやって来た。
前に来たのは確か高校3年になってすぐだったから、丁度1年前って事になる。
無事に大学に合格したものの、俺にはこれがやりたいって目標がなかった……いや、目標がないから大学に行ったと言った方が正しいかも知れない。
テニスコートの横に作られたオジイ手作りの遊具、そこで遊ぶ子ども達。また新しい遊具が出来ている。
「変わんねえな……」
そう呟いて工房の入り口のドアを開ける。
木の軋む音と懐かしい木の香りに俺は半分酔っていたのかも知れない。
だって、ドアを開けたその先にいた女の人に、一瞬で目を奪われてしまったからーーー
窓から差し込む太陽の日差しの中、その女の人はバイオリンを奏でていた。
何の曲だっけ、これ……
聞いたことのある曲。有名なのは間違いない。だって俺が聞いたことあるってくらいだから。
どこか遠くでその美しい音色を聞きながら、俺は女の人から目を逸らすことが出来ずにいた。
もう曲名なんてどうでもよくなっていた。
女の人の体に光が吸収されていっているみたいで、俺は本当にただ素直に綺麗だと思ったんだ。
ぼうっと俺が見つめていると、ふと女の人が手を止めてこちらを向いた。
ドキ……
女の人は俺をじっと見て、次に視線を天井へと向けた。
そして、
「ーーーあっ! もしかして、あなた “バネさん”?」
「え?」
俺は驚いた。俺の事をそう呼ぶのは中学時代のテニス部の連中だけだ。
吃驚している俺に、女の人は急に恥ずかしそうにあっと小さく声を上げた。
「ご、ごめんなさい。違いました?」
「えっ? あ、いや……そう、ですーーー」
漸く声を出した俺に、女の人は今度はすごく嬉しそうな顔で笑った。
その笑顔にまた俺はドキリとさせられる。
「やっぱり! ヒカルが言ってたバネさんにイメージがピッタリだったから、そうじゃないかなって」
ヒカル?
俺はその名前に一人の男の顔を思い出した。
「ーーーダビデ?」
「あはっ。そう、天根ヒカル」
次に俺の頭の中では、何故ダビデの事を知ってるんだとか、どういう関係なんだとか、そんなことばっかりが浮かんでは消えた。
そんな俺の心が分かったのか、その女性はバイオリンを机の上に置き、俺の目の前までやって来た。
「自己紹介がまだだったね。私、ヒカルの従姉妹で、天根雪緒っていいます」
先ほどの太陽を吸収したままの柔らかな笑顔で、女の人、天根雪緒は俺に手を差し出した。
あれから俺はちょくちょく工房に顔を出すようになっていた。
雪緒さんは俺が思ったよりも随分年上の24歳で、俺が受験の年になって忙しくなり、工房に顔を出さなくなったのと入れ違いにこの工房に来ているらしかった。
職業はバイオリンなどの弦楽器制作者で、この工房に来るまではイタリアで修行をして工房を開いていたそうだ。
なので、俺が初めて雪緒さんに会った時バイオリンを弾いていたのは、出来上がった作品の試奏をしていたということだ。ちなみに曲はモーツァルトの曲だったらしい。
女性でしかも日本人のバイオリン制作者は珍しいらしく、腕もなかなか良いらしい雪緒さんは賞を取った事も何度もあるらしかった。
なんとかマイスターって海外の取るのが難しい資格も持ってて、クラッシック界では結構有名な作家という事をダビデに聞いて知った。
何故このオジイの工房を使っているかというと、日本で新しく工房を開きたいと帰って来た雪緒さんのことをダビデがオジイに話をして、オジイが好きに使っていいと言ったから。
おかげでオジイの工房兼、雪緒さんの工房になったのだ。
細かいことを気にしないオジイと雪緒さんの大雑把ぶりに吃驚したが、そのおかげで俺は雪緒さんと知り合えたし、ちょっとムカつくがダビデグッジョブってやつだ。
……まあ、取りあえず俺はそんな雪緒さんに一目惚れをしてしまった訳なのだが……友達からなかなか先に進めずにいた。
初めて会った日から月日は流れ、今、季節は秋。
今日もまた大学が午前中だけで終わったのを口実に工房にやって来ていた。
最初の頃はあんまりしょっちゅう顔を出すもんだから雪緒さんも心配してたが、もう最近では当たり前のように一緒に工房にいる。
適当に椅子を持って来て、雪緒さんがグラインダーで板を削ったりしているのを横目に見ながら本を読んでいた。
「雪緒さん」
「んー?」
最近気付いたのだが、雪緒さんは作業を始めると周りが見えなくなるらしい。
それだけ集中しているという事なのだが、俺はちょっと寂しかったりする。
グラインダーが木を削る音の隙間を見つけて、俺は言葉を詰め込む。これも慣れたものになってきた。
っつーか、板について来た、か?
すごく高度なジョークが浮かんだ俺は、かなりダビデに毒されてる気がする。
一瞬顔をしかめ、すぐに気を取り戻した。
構ってオーラを出しながら、それでも視線は手元の文庫本に。尚かつ意識はバンバンに雪緒さんに、というものすごく器用な事をこなしながら再び雪緒さんを呼んでみる。
「ねえ、雪緒さん」
「……んー?」
返事が遅くなって来ている。
これはさっきよりも集中している合図だ。
本当は邪魔するのは俺の性分じゃないんだが、なんとか意識を自分の方へ向けようと努力してみる。
男のこんな涙ぐましい努力を、世の女性達は一体どれくらい理解してくれているんだろうかとふと寂しくなる。
「今度、花火大会があるんだって。知ってた?」
「へー?」
お、ちょっと反応があった。
俺は続ける。
「季節外れだけど、何かいいよな。秋の花火大会ってのも」
「秋の花火大会、か」
会話のキャッチボールが成立してきた。
グラインダーはまだ稼働中だが、削るテンポは遅くなっていた。
しめたものと俺はさらに言葉を続ける。
「川の側で上げるから、落ち葉が流れる川面に花火が映って綺麗なんだってさ」
「川の側? 海じゃなくて?」
ほらきた。
「うん、川」
俺は雪緒さんが何に食いつくか、もう熟知してるんだ。そこで漸く俺は顔を本から上げた。
案の定、雪緒さんは手を止めてどこかしらをじっと見ている。
「綺麗なんだろうねえ……」
うっとりと川面に映った花火でも想像しているのだろう雪緒さんに、俺は笑いかけた。
「一緒に行かない?」
グラインダーはもう止まっていた。
雪緒さんは驚いた。
「えっ? 私と?」
「うん……あれ、もしかして嫌?」
「ううん、違う。だってバネ君ってモテるでしょう? だから彼女と行かないのかなって思っただけ」
俺がいつモテて彼女がいるって話をしたんだ? まあ、確かに自慢じゃないがモテるけど……
不思議に思っていると、キイッと工房のドアが開いた。
「ヒカル」
俺は雪緒さんが呟いた名前に入り口を振り返る。
「ダビデか」
「バネさん、大学は?」
開口一番言う事がそれかよ。
邪魔者に少しだけムッとする。
「今日は午前中だけだったんだ。お前こそ学校は? 一応受験生だろうが」
「今日は午前中で終わり」
相変わらず無表情で俺の横を通り過ぎて雪緒さんの隣りに立つ。
「これ」
「何?」
「届いてた」
雪緒さんの実家は鹿児島らしく、今はダビデの家に居候している。だが作業を始めると工房からなかなか動かなくなるので、数日家に帰らないこともしょっちゅうだ。一応女だからと言って簡単な着替えは工房に置いていて、家に帰らない時は近所の銭湯に行っているらしかった。
ダビデが手渡したのは結婚式の招待状みたいだった。
白を基調とした封筒に、綺麗な銀色の刺繍が施してあり丁寧な字で宛名が書かれていた。
その手紙を受け取り、差出人を見た雪緒さんの瞳が一瞬曇ったのを俺は見逃さなかった。
「ありがと」
「お礼はおれーいんじでいい」
「ぷっ!」
ダビデの下らない駄洒落に、俺はすかさず長い足を駆使して突っ込みを入れる。
「苦しいんだよっ!」
ドガッ!
「おわっ!」
「きゃっ!」
つんのめったダビデが雪緒さんに覆い被さる。
てめえっ! なに抱きついてんだっ!?
って俺の所為なのだが慌てて立ち上がり、急いでダビデの首根っこを捕まえて雪緒さんから引き離すと、雪緒さんは吃驚した顔でこちらを見上げていた。
「ごめん、雪緒さん。ちょっと勢い良く蹴りすぎた」
謝る俺をぽかんとした表情でしばらく見ていた雪緒さんは、急に笑い出した。
「あはははは~っ! 本当、ヒカルとバネ君っていいコンビだよね~っ! はははははっ!」
「バネさんの所為で雪緒がおかしくなった」
「俺の所為かよっ!」
「あはははっ」
そうしてひとしきり笑うと、雪緒さんは目の端に溜まった涙をぬぐった。
「あ~おかしかった!」
「そんなに笑うことかよ?」
爆笑されたことが少し心外だった俺は、隣りで真面目な顔をして外を眺めるダビデをチラリと見て雪緒さんに言った。
こうやって見ると従姉妹というだけあって結構似ている。
ダビデ像に似てるからダビデってあだ名を付けられてるダビデは、やっぱり目鼻立ちが日本人離れしている。雪緒さんも確かに日本人離れとまでは行かないが、色白で目鼻立ちがはっきりしていて、綺麗な二重の大きな瞳はすごく澄んでいて綺麗だ。
この目が大きいところと髪の毛は赤みがかっているが実は意外とサラサラなところはダビデとはちょっと違うかな。
「だって……ぷぷっ。なんかツボに入ったんだもん」
無邪気に笑う雪緒さんは、机の上に置かれた招待状を指ではじいた。
「これくれた人ね、私が大学時代に付き合ってた人なんだ」
「え?」
突然爆弾を自分で投下した雪緒さんに、俺は驚いて目を見開いた。
「私がイタリアに行く時、最初は待ってるって言ったくせに、あっさり別の女の人の所に行った酷い男なの」
こいつめ。と言いながら、雪緒さんは再び招待状を今度は思い切りはじき飛ばした。
飛ばされた招待状はパスンと音を立てて見事にひっくり返る。
「ーーーそんな酷い男、おっとこしちゃえ」
「あはっ」
「お前ちょっと黙ってろ!」
ガスッ!
「って!」
澄ました顔で外を見ながらまた下らない駄洒落を呟いたダビデの尻を膝で蹴り、俺は雪緒さんをじっと見つめた。
「ふふ。ヒカルはこれでも心配してくれてるんだよ?」
これで? 駄洒落のネタにされてるんじゃないかと思うんだが。
俺はジロリとダビデを見る。
相変わらず澄ました顔をしている。
黙って立っていれば相当男前なのに、この駄洒落の所為でまったくモテない。可哀想な奴。
「ま、女で海外に勉強しに行くって時点で、男に振られるのは自明の理よね。それなのに私ってば戻って来るまで信じてたんだもんな~。馬鹿よね~」
そんな事は無いと思う。
ずっと一途に雪緒さんに想ってもらえたこの男は幸せだと思うし、俺からしてみれば羨ましいことこの上ない。
こんなに素敵な人を裏切って、近くにいる他の女を選ぶような男なんて、雪緒さんには似合わない。
別れて正解だったんだ。
なんて勝手なことを考えて黙ってしまった俺に、雪緒さんが笑いかける。
「でももう平気。この工房でずっと木を削って、ヒカルがいてバネ君がいて、近所の子供達が遊びに来てくれて、私すっごく今幸せだから」
ああ、なんて綺麗に笑うんだろう。
本当はまだ平気じゃないくせに、自分を偽ってまで俺達に気を遣う雪緒さんが俺はたまらなく愛しいと思った。
「ーーーじゃあ、さ」
俺はいつの間にか雪緒さんに向かって微笑んでいた。
「え?」
「花火大会、俺と行こうよ」
「あ、話が戻った」
今俺ってばものすごく男前な顔してデートに誘ったつもりなのに、あっさり躱されてしまった気がするのは気の所為じゃねえよな?
「だから、一緒に行くような彼女がいたら雪緒さん誘わないって」
「あ、そっか……」
どうやら納得してくれたらしい雪緒さんは、うんと頷いた。
「じゃあ三人で一緒に行こうか!」
「ああ」
ーーーーーーーーーって三人!?
花火大会の日、俺はやる気無く待ち合わせ場所の駅前に立っていた。
「ごめん、バネ君! お待たせ!」
そう言って向こうから走ってきた雪緒さんの姿を見た途端、俺は急にドキドキしだした。心無しか顔が熱い気がする。
「浴衣……」
「うん、そう。変かな?」
そう言って少し恥ずかしそうに自分の姿を見下ろしくるりと回った雪緒さんに、俺は生きてて良かった、なんてじじくさいことを思う。
「いや、すっげー似合ってる。可愛いよ」
「本当?」
「本当。後ろの男は似合ってないけど……」
そう言って俺は雪緒さんの後ろでパタパタと団扇をそよがせるダビデを睨んだ。
本っ当~っに邪魔な男だな! 俺が工房で雪緒さんと幸せをかみしめてる時にしょっちゅう現れやがって。今日だって本当は雪緒さんと二人っきりで来たかったのに、何故こいつがいる。彫刻みたいな顔した奴が浴衣なんて似合うかよ。
「似合ってないけどにあって笑う」
「やかましい!」
ドカッ!
「うっ!」
「さ、行こう。雪緒さん」
「あのね、バネ君……あんまりヒカルのこと蹴らないで。これ以上馬鹿になったら困るから」
平気な顔をして着いて来るダビデを一瞬見て、俺は雪緒さんに笑いかけた。
「大丈夫、あいつもうあれ以上馬鹿になんないから」
「そんな爽やかに言われても……」
「すごーい。モデルさん達かな?」
「ちょーイケメンじゃない?」
「女の人もキレーだよね~」
周囲から聞こえてきた声に、俺は改めて共に歩く二人を見る。
まあ、俺は元からイケメンだから言われて当然だし。……って、ここ突っ込むところだからな。えっとそれにダビデの奴は黙って立ってれば前回同文。
それと雪緒さんはいつものぼさぼさ頭を一つに結んだ姿じゃなくて、浴衣にまとめ髪をしていて、ダビデ似の綺麗な顔が際立っている。そんな今日は一際綺麗だ。
ーーーなるほど、目立つはずだ。
おまけにダビデの赤い髪は嫌でも目立つ。俺の身長もか。
「雪緒さんキレーだってよ?」
俺が言うと、雪緒さんは顔を赤くした。
「もうっ、からかわないでよ。バネ君こそイケメンだってよ?」
そう言って俺を見上げる雪緒さんを、俺は危うく抱きしめそうになってしまった。
いつも浴衣着てればいいのに。いや、浴衣じゃなくてももう少し小綺麗にして工房にいればいいのに。
とか思うけど、木屑を全身に浴びる仕事で小綺麗にしてるなんて無理な話だ。
それに俺が好きになったのは、あの工房で木屑にまみれてバイオリンを弾いていたヨレヨレの雪緒さんなんだから。
俺はさりげなく雪緒さんの腰に手を回そうとしたのだがーーー
ペチンッ!
「って!」
「えっ? どうしたの、バネ君?」
「いや、なんでもない」
適当な笑顔を作って雪緒さんに笑うと、俺は真後ろで明後日の方を向いているダビデの横にすかさず並んだ。
「おいダビデ、なにするんだよ?」
「雪緒に触らないでください」
「なんだと?」
ボソリと言ってこちらを向いたダビデは、拗ねた子供のような顔をしていた。
ああ、そうかーーー
俺は何だかおかしくなってつい吹き出してしまった。
「ぷっ!」
「ーーー何ですか?」
ダビデが不機嫌そうな顔で言う。
「……いや、お前……ぼーっとしてるかと思わせといて、案外しっかりした番犬なんだな」
「番……」
目を丸くさせたダビデに、俺は増々おかしくなる。
「どうしたの、二人とも?」
「いや、こっちの話。な、ダビデ?」
「雪緒、あっちにたこやきの屋台がある。好きだったろ?」
いつになく言葉数の多い赤い顔をしたダビデに、俺は可愛いなんて不覚にも思ってしまった。
やばい、ダビデのくせに、男心をくすぐるんじゃねえ。
しかも雪緒さんの肩に手を回してさっさと行きやがった。
このやろう。良い度胸じゃないか。
大好きな従姉妹のお姉ちゃんを取られたくないって訳だな。
俺は呼吸を整え、二人の後を追いかけた。
ドドーーーーンッ!!!
花火が始まった。
俺達は人のなるべく少ない川沿いの土手に並んで座り、花火を見上げていた。
「綺麗……」
隣りに座って呟いた雪緒さんの顔を見て、俺は幸せな気持ちになる。
好きな人が嬉しそうな顔を見るのが、こんなに嬉しいだなんて知らなかった。
少なくとも今まで付き合った女の子には、そんな事思ったことなかった。
って言ったら、酷い男だと言われそうだけど仕方ない。所詮ガキの恋愛ごっこだったんだと気付かされる。
ゆらゆらと揺れる川面に映る花火に視線を落とし、俺は小さくため息を吐いた。
雪緒さんの中で、俺は一体どの程度の位置にいるのだろう。それを思うと情けなくなる。
「なんか喉乾いちゃったね」
「お茶買って来る」
「ん、ありがと」
立ち上がったダビデを見送って、俺達はまた花火を見上げた。いや、俺はずっと川を見ていた。
不規則に揺れる水に映る花火はどれも不格好で、そのくせキラキラと無駄に輝いて綺麗だ。
不格好なくせに綺麗だなんて、卑怯だよな。
そんな事を思った時、俺は隣りの雪緒さんの視線を感じて慌てて顔を上げた。
「何?」
何事も無かったように、じっと俺を見つめる雪緒さんに尋ねる。
「バネ君。ありがとう」
「え?」
「花火大会、誘ってくれて……」
別に礼を言われることはしていない。俺が雪緒さんと行きたかったんだから。
邪魔者が一人くっついて来たが。
「私ね、結構ショックだったんだ」
それはあの招待状を送ってきた大馬鹿野郎の元カレのことだろう。俺は黙って雪緒さんの話を聞いていた。
「すごくね、優しい人だった……でも寂しがり屋でさ。だから離れたら駄目だって、分かってたーーーでもね、私、どうしても楽器作りたかったの。彼氏をほったらかしてでも……私の方が酷いよね」
そしてクスリと困ったように笑った雪緒さん。
あんたは酷くなんて無いよ。ちゃんと夢を見つけて頑張ってるんだから……酷いのは、その夢を応援もせずに自分のことばかり考えていた男の方。
俺は花火を見上げたままじっと次の言葉を待った。
「結婚式、行こうと思うの」
「え?」
俺は驚いて雪緒さんの顔を見た。
「行って幸せそうな姿を見て、ちゃんと自分の心に整理を付けたいの」
「ーーー泣いても知らないからな」
ボソリと言った俺の言葉に、雪緒さんは立てた膝を抱えて俺の方を見た。
その仕草がまたすごく可愛くて、俺はまたドキッとさせられた。
「その時は、またどこかに連れて行ってくれる?」
そんな可愛い顔でお願いされたら断れない……っていうか、雪緒さんが歓んでくれるんなら俺はどこへだって連れて行ってやる。
「じゃあ次は動物園だな」
「あっ、私のこと子供扱いしてるな~!」
ちょっと怒った振りをして握りこぶしを作り、雪緒さんはすぐに花火へ視線を戻した。
「あのね。私一人っ子だからヒカルやバネ君といると弟が出来たみたいですっごく楽しいの!」
弟……
現実に引き戻してくれてありがとう。
そして俺の恋心を粉々にしてくれてありがとう。
キリキリと痛む胸を、雪緒さんに気付かれないように押さえながら笑う。
「あはは。俺も、姉ちゃんが出来たみたいで楽しいよ」
んな訳あるかっ!
むなしい突っ込みを心の中で入れつつ、それでもポーカーフェイスを崩さない俺って凄いと思う。
「バネ君……本当にありがとう」
ドキっとした。
だって俺の目をじっと見る雪緒さんの目に花火が映ってすごく綺麗だったから。
そんな目で見つめられたら、さっきノックアウトされたことを忘れてしまうじゃないか。
「ーーー俺、さ……雪緒さんの事ーーー」
だから、思わず言おうとしてしまって途中で我に返って驚いて言葉を切る。
「っと、いや、その……」
「え? バネ君、何? ーーーあっ」
え?
「冷たっ!」
ドドーンと大きな音がしてまた花火があがると同時に、俺の頬に冷たいものが当たって思わずビクリと肩をすくめる。
「てっめえ……ダビデ、このやろっ!」
「冷えたお茶でひえっとおちゃ(ちょ)くる」
「全然うまくねえんだよっ!」
逃げるダビデの背中を追いかけて蹴ると、大きな大きな花火が空に打ち上がった。
「お! でっけーな」
「すごーい!」
まあ、まだ弟でもいいか。いつかきっと、この告げたくても告げられなかった思いを告げる時、あんたはきっと俺を好きになる。
だからそれまで待ってろよ。
大学に行ってる間にもっともっと良い男になって、弟みたいだなんて言ったことを後悔させてやるからな。
俺は夜空で惜しげも無くその色とりどりの花を咲かせる花火を見上げて、小さく笑った。
それから俺達は雪緒さんを間に挟んで手をつないで帰った。
繋がる先のその体温がすごく心地よくて、俺は思わずちょっと力を入れてしまった。
そうしたら雪緒さんもきゅって握り返してくれて、また幸せな気持ちになった。
こんなにたくさんの幸せをくれる雪緒さんに、俺もたくさん幸せをあげたいって思う。
今日の雪緒さんはすごく大人っぽくて、俺より6つも年上なんだって改めて気付かされたけど、浴衣なんかじゃなくても、あのぼさぼさの髪でも俺は雪緒さんの事が大好きだから。
木を削る時の真剣な表情の雪緒さんが、好きだから。
END
~あとがき~
どわあ! 黒羽のお話でした! YABAI、まじでバネが好きだ……(笑)
なんだろう? 一応片思いを書いてみたものの、あんまり悲しくない片思いになっちゃった。えへ☆
でも書いててバネさんってこんな感じだったっけ?とか、ダビデとこんな風に話してたっけ?とか悩んじゃったけど、ま、いいや(適当)
とりあえず一応書けたからちょっと満足。
本当はしんみり静かな恋のお話にするつもりだったんだけど……これはこれでいいかと思うことにします。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございます。ではまた!
なんだろう? 一応片思いを書いてみたものの、あんまり悲しくない片思いになっちゃった。えへ☆
でも書いててバネさんってこんな感じだったっけ?とか、ダビデとこんな風に話してたっけ?とか悩んじゃったけど、ま、いいや(適当)
とりあえず一応書けたからちょっと満足。
本当はしんみり静かな恋のお話にするつもりだったんだけど……これはこれでいいかと思うことにします。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございます。ではまた!
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