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チェンジ・ザ・ワールド☆
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blind stroll

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自分でも馬鹿だなとは思うし、十分分かってるつもりだ。

それでも俺はそんな自分の気持ちを上手くコントロール出来ない。

それくらい、天根雪緒という女性に惚れてしまっているらしい。














blind stroll















ある晴れた冬の日の午後、俺、黒羽春風は結婚式場の前にある喫茶店にいた。

雪緒さんの元彼の結婚式が、今目の前の式場で行なわれている。

前に花火を見に行った時、雪緒さんは結婚式に出席して気持ちに整理を付けたいと言っていた。

泣くんじゃないかと心配している自分。

それでもきっと泣かないだろうとも思っている自分。

どっちだよって突っ込みたくなるけど、そう思ってしまうんだから仕方ない。

だって雪緒さんは俺なんかより年上だし、強いから。

一度手元のコーヒーに視線を落とし、焦げ茶色の液体を飲む。

ほろ苦い香りと味が喉を通って、俺の体を潤す。

外に気配を感じて見てみると、式場から綺麗な服やスーツを着た男女がちらほらと出てき始めた。

俺は急いで会計を済ませると外に出た。

引き出物を持った人たちの中、雪緒さんの姿を探す。


いない。


次々出て来る人ごみからは、雪緒さんの姿を見つける事が出来なかった。

気付けば俺は式場のロビーにまで入っていて、キョロキョロと辺りを見回していた。

入り口を入って右手の方は壁が全面ガラス張りになったロビーがあり、その窓からは式場のよく手入れのされた庭が見えている。

そのロビーのソファーの一番奥の端に、雪緒さんが座っているのを見つけた。

じっと口を結んで、外を眺めている。

自然と足がそちらに向いて、俺の気配に気付いた雪緒さんが顔を上げた。

ドキ……

この前の花火大会の時のゆかた姿もすごく綺麗だったけど、今日のスーツ姿も妙に似合っていて、かっこ良かった。

やっぱ可愛いよな……ダビデの従姉妹ってのが、ものすっごい引っかかるけど。


「バネ君……」


小さな声で名前を呼ばれ、俺は微かに笑った。


「よ、泣いてない?」

「こんなところでどうしたの?」


驚いて尋ねる雪緒さんに、俺は手を差し出しながら答えた。


「ちょっと近くまで来たからさ。雪緒さんが泣いてないか、確認しに来てやった」

「酷い」

「もう帰るの?」

「うん」


微笑んで俺の手を取った雪緒さんの体を引っ張って立たせてやると、雪緒さんが俺の背後に視線をやって一瞬困ったような顔をした。

どうしたのかと、俺も後ろを振り返る。


「雪緒ーーー」

「春樹ーーー」


そこに立っていたのは一人の男。

俺よりは背が低いが、良く言えば優しそうなちょっと細身の印象の薄い男だった。

こいつが、雪緒さんの……

考えるとムカムカと腹が立って来たが、一応二人から離れてみる。


ってか、俺の存在は無視ですか?


俺の方を見ようともしない男を、俺は少し下がって睨みつけていた。


「今日は来てくれてありがとう」

「ううん。おめでとう。幸せそうで良かった」


そう言って笑う雪緒さんに、男は悲しそうに眉をしかめた。


「……二次会、来てくれるんだろ?」


いけしゃあしゃあと言う男は、一瞬俺の方を見てすぐに足下に視線を戻した。

誰だこいつ、とか思ってんだろうな。


「ごめん、これから仕事があるんだ」


なんで申し訳なさそうに断るんだよ。

式に出席してやっただけでも十二分じゃないか。

俺はそう思ったが、口を挟むべきじゃないことくらいは承知しているから、ムスッとしたまま二人を見守っていた。


「そっか、頑張ってるんだな……今日は、雪緒に会えて良かった」

「私も。春樹元気そうだし、奥さんにも会えて良かったーーーお幸せにね、それじゃ」


微笑む雪緒さんに、男が口を開く。


「雪緒!」


歩き出そうとしていた雪緒さんはピタリと止まる。


「どうしたの?」


首を傾げる雪緒さん。

男はもじもじと地面を睨んだまま、何か言いそうで言わないでいる。

それにまた俺はムカムカした。


男ならはっきりしろよ!


ーーーでも、俺も雪緒さんに自分の気持ちを伝えられない駄目な男だから人の事言えないよな。


視線を逸らして小さくため息を吐くと、男がやっと言った。


「俺……雪緒にすごく感謝してるんだ。俺、お前とはずっとずっと友達でいたいと思ってる……こんなこと俺が言う資格がないのは分かってる。でも! それでもお前と友達でいたいんだーーー駄目か?」


一瞬雪緒さんは目を丸くさせ、次に困ったように笑った。


「私も春樹には感謝してるよ。春樹がイタリア行って来いよって言ってくれたから決心着いたし、こうやって好きな仕事が出来てるんだもんーーーそれに、私達……友達でしょ?」

「ーーーありがとう! 雪緒!」

「じゃあね。春樹」

「ああ」


そう言って雪緒さんはさっさと歩き出した。

俺は目の前を去って行った雪緒さんの少し後ろを着いて式場を後にした。

男には一度も視線をくれてやらなかった。











式場を出て煉瓦道を二人して黙ったまま歩いて行く。

雪緒さんってばもしかして俺の存在忘れてないよな?

不安になるが、声をかけるのがはばかられたので付いて行くしかない。

ずっと俯きっぱなしで歩いていた雪緒さんは、完全に帰り道とは逆方向に来ている事にまだ気付いていないようだ。

10分くらい歩いて景色が住宅街に変わって来た頃、雪緒さんがふと足を止めた。

微かに震える雪緒さんの背中に、俺は胸が締め付けられた。


どうする? どうすればいい? 俺に何が出来る?


考えても答えは出なくて、それでも俺の体は勝手に動いた。


ギュ……


雪緒さんの体を、後ろから抱きしめた。

ふわりと、包むように。

一瞬驚いたように雪緒さんの体がピクリと反応する。

だけどそれは最初だけで、震えが少しずつ大きくなり、とうとう嗚咽と鼻をすする音に変わった。


「……だから泣いても知らないぞって、言っただろ?」


俺の言葉に、雪緒さんの体に力が入ったのが分かった。


「っ……だってーーー」


分かってる。

何も言わなくていいよ。

俺が、側にいるから。


俺はぎゅっと腕に力を込めてから体を離すと、雪緒さんの頭を撫でた。


もう、泣かないで欲しい。あんたに涙は似合わないよ。


「雪緒さん、どこか行きたい所ある?」


優しくそう言うと、雪緒さんはくるりとこちらを向いた。

ドキーーー

泣き顔で見上げられ、俺はどうしようもないくらいに雪緒さんが愛しいと思ってしまった。

重傷。

もう本気で今の俺にはこの言葉がピッタリだと思う。

他の事が何も見えなくなる位、俺はこの人の事が好きだ。

そう、改めて確認する。


「ーーー動物園」


ボソリと雪緒さんが言った。


「ーーーぷっ!……」

「……もう、また笑う」


行きたい所が動物園だなんて、俺が前に冗談で言った場所そのままじゃないか。って思ったらおかしくなって吹き出してしまった。

笑った事に雪緒さんが一瞬口を尖らせたが、俺が笑っているのを見て自分も泣きながら笑った。


「泣くか笑うかどっちかにしろよな……くくっ……」

「む~、うるさい~……で、動物園連れて行ってくれるの?」


自分の涙を手で拭い、雪緒さんが俺を見上げて首を傾げた。

もう泣き止んだみたいだ。


「いいよ。動物園……でも、今度はダビデ抜きで行こうな」

「え? 二人で?」

「そ、二人で」


にっこり笑った俺を見て、一瞬何か考えるような仕草をすると雪緒さんがまた笑った。


「ふふ……なんだかデートみたいだね」


え~っと。デートのつもりなんだけど……

俺の心、雪緒知らず。

まあ、いいか。


「え? 何? 何か言った?」


俺の呟きが聞こえたのか、雪緒さんが不思議そうな顔をした。

そんな顔も可愛いなんて言ったら、きっと照れて怒るんだろうな。


「いいや。何にも……さて、ぶらぶら歩きながら帰ろうか?」

「うん……っていうか、ここどこ? あれ?」


歩き出した俺の横に並ぶと、もう雪緒さんの涙は涸れていた。


「はははっ。雪緒さんずっと下向いたまま歩いてるんだもんな。そりゃどこ行くか分かんねえよな」

「え〜? どうして教えてくれなかったの? バネ君のいじわる」

「あははは」


たったあれだけの時間で気持ちに整理を付けたんだな。

すごいよ、あんたは。

俺が雪緒さんの立場だったら、あの場で男を殴っていたかも知れない。いや、確実に飛び蹴りをしていただろう。

そんな事をしない雪緒さんは、本当に大人だと思う。

友達で居続けるなんて出来る訳ないのに、それでも精一杯相手の男の事を思って言った言葉。

あの男がイタリアに行って来いといったおかげで、雪緒さんがバイオリン製作者として仕事が出来ているのは間違いないのだし、それに対して雪緒さんが感謝しているのも間違いない。

それでもやっぱり、雪緒さんを裏切ったあの男を俺は好きにはなれそうにない。

俺の大事な人を泣かせやがって。って思ってしまうのは、俺が子どもだからか?

でも、あの男が泣かせてくれたおかげでこうして一緒に歩けるんだから、その点は感謝しないといけないかもな。


あ〜。やっぱり俺は子どもだな。


許すってのはすごくパワーがいることで、それが出来るようになるには俺も雪緒さんぐらい大人にならないといけないのかも知れない。

でも、俺は雪緒さん贔屓だからさ。

雪緒さんが許してやった分、俺があの男のことをちょっとぐらい嫌いでいてもいいよな?


もう大丈夫。

これからは俺がずっと守るから。

あんたが泣かずに済むように。笑顔でいられるように。

俺はもう、あんたしか見えないんだ。

どんなに傷ついても、打ちのめされても、それでも立ち上がるあんたが、ものすごく好きだから。







                                 END








あとがき

終わった……以外とすんなり書けたけど、手直しが結構入りました(笑)
しかも当初目的としていた雪緒がバネに心を動かされる描写が一個もない。
つかバネ視点なんだからそうだよな(笑)アホーアホー
まだ雪緒の心に変化が現れるのには時間がかかりそうです。
バネ好きなんで、これシリーズはちゃんとハッピーエンドにしてやりたいと思います。
というか、シリーズにするつもり無かったのに。恐るべしバネの魅力☆

それでは、ここまでお読み下さった皆様、ありがとうございました!







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