チェンジ・ザ・ワールド☆
雨の日に〜4−2
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4-2
誰もが本村理恵の事を良く思っていない。そんなに嫌われるような人物が、何故坂井春香のようにまじめで優しそうな人と仲が良かったのだろう。坂井春香は誰に聞いてもいい子だ。本村と坂井の仲が良かったのなら、他の友人とも多少のつながりがあっても良さそうなものなのに、皆が眉を潜める。高校時代、本村は何かやったのだろうか?
そんな事を考えながら駅へと歩いていると、成川は急に背後から声を掛けられた。
「あのっ……」
振り向くと、池末美奈がおどおどとした上目遣いで成川を見ていた。
「池末さん……どうかされましたか?」
成川の美しい笑顔に、池末は少し辺りを見回し、頭を下げた。
「あの、仁美ちゃんの事でお話が……」
「……ここでは何ですから、どこかでお話ししましょうか」
成川はこんなにも早く池末が行動を起こすとは思っていなかった為、正直驚いた。
先程の様子から、確実に二人が何かを知っている事は分かった。おどおどとする池末とは対照的に、近藤の冷静さは賛辞に値するものだと成川は思った。そんな近藤から真実を引き出すには、成川の手元にはカードが足りなすぎる。
しかし池末は何やら秘密を知っている事が苦しそうだった。突つくならば池末だと思いながら、その突つき方を考えなくてはと思っていたのに、その相手から声を掛けられたのだ。何かよほど内に溜めるのが嫌な事なのかも知れない。
近くの喫茶店に移動して、一番奥の人のいない場所を確保し、成川と池末は向かい合って座った。
なるべく相手の警戒心を解こうと、成川は努めて笑顔で話しかけた。
「どうぞ気を楽にして、池末さんの話し易い様に話して下さって結構ですから」
「はい。あの、私、あかりに口止めされてたんですけど、どうしても嘘を吐くのが耐えられなくて……」
近藤との約束を破る事に対しても申し訳ないと思っているのか、池末はじっとりと汗ばんだ額をしきりにハンカチで拭った。
「心配いりませんよ、あなたからの情報だという事は、一切漏らしませんから」
成川に言われて、漸く少し落ち着いたらしい池末は、目の前の紅茶を一口飲んだ。
「実は……高校時代の本村さんの事で良くない噂を聞いた事があってーーー」
池末の言葉に、成川は目を見開いた。慌ててバッグの中からノートとボールペンを取り出すと、
「良くない噂とは、一体……?」
少し体を前に屈ませ、続きを促した。
「はい、何でも売春の斡旋をしていたとか」
「!? 売、春……?」
池末の口から出た単語に、成川は古井仁美の青ざめた顔が思い出された。
「本村さん、どこかの組のヤクザと手を組んで女子高生の可愛い子を紹介する、斡旋みたいな事をやってたらしいんです……その時の斡旋料として、一人いくらって感じで手数料をもらっていたとか」
成川はふと疑問に思った事を尋ねた。
「そんな、普通の女子高生がどうやってヤクザと知り合うんですか?」
「え? ええ、本村さんのお父様は仕事の関係でヤクザとも付き合いがあるって噂があったんで、その繋がりじゃないかって」
そう言う池末に、成川は首を傾げた。例え父親の仕事の関係で知り合う機会があったとしても、一般人のしかも高校生である本村理恵に売春斡旋の仕事を手伝わせるとは、通常考えにくい。
「それは、誰から聞いたんですか? その売春をさせられた子から? それともあなた自身が話しを持ちかけられた?」
成川の質問に、池末はびくりと肩を震わせた。
「大丈夫ですよ、絶対に他言はしませんから」
そう言う成川に、池末はしきりに辺りを気にしながらさらに小声になった。
「仁美から聞きました。坂井さんに、本村さんが売春斡旋をやっているのを辞めさせたいんだって、相談された事があったみたいで」
成川は腕を組んで考え込んだ。
加藤の話しによれば、坂井と本村は仲が良かったという。そんな過去を持ったまま六年経過しているとは言え、お互い何も無かったかの様に仲良く出来るものだろうか。
「それは確実な話しですか?」
成川の少し鋭い目に気圧されたのか、池末は再び額に吹き出した汗を拭いながら頷いた。
「仁美が嘘を吐いていなければ……」
そう言う池末の瞳はふわふわと泳いでいた。
まだ何か隠している様だ。
「池末さん、私も一応心理学を勉強した者の端くれです。あなたが何か隠している事くらい分ります……何か他にも、話しづらい事があるんじゃないですか?」
「あっ……いえ、そのーーー」
さらに落ち着き無く眼球を泳がせる池末を見て、成川は笑顔で紅茶を啜って一呼吸置いた。
「ーーー信じて下さい、誰にもあなたから聞いたとは言いませんから」
成川を見つめ、池末も紅茶を一口啜って小さく頷いた。
「ーーー実は……あかりが一度だけ売春したことがあったらしくて……その時は一晩で4万円もらったって。でも一回で辞めたみたいなんですけど」
「4万……結構高額ですね」
「ええ、私も金額を聞いて驚いて……あかりが言うには、それとは別に手数料もいるでしょう? だからその時のおじさんが文句を言ってたって」
じっとテーブルの上の紅茶の入ったティーカップを見つめながら、成川は思った。そんなに高額ならばそうそう売春行為が行われていたとは考えにくい。それに学生間ですぐに噂が広まるだろう。
「その売春の話しは、皆知っていたんですか?」
「え? いいえ、分りません……もし知っていたとしても、怖くて言えなかったと思います」
「怖いとは?」
「いや、そのやっぱりヤクザが関係してるから、もししゃべったらどうなるか分からないって。だから絶対に人にしゃべったらいけないと……」
池末は聞き取るのがやっとな程の小声で言った。成川はノートにメモを取りながら話しに聞き入って頷いた。
「まあ、確かに普通の女子高生にしてみればヤクザは怖いですよね……それは誰が言っていたんですか?」
成川の質問に、池末は戸惑いを見せた。
「え……? 確か仁美が言っていたと……あれ? あかりだったかしら?」
「そうですか……では近藤さんは、誰からその売春の話しを持ちかけられたか分りますか?」
「ええーーー坂井さんから……」
「えっ!? 坂井さんからっ!?」
急に大声になった成川に、店内の客の視線が集まる。
「あっ……すいません」
ペコリと頭を下げ、成川は慌てて声を潜めた。
「坂井さんは売春に係わっていたんですか?」
再び池末に質問を開始する。
「係わっていたというか、仁美の話しによれば、脅されて手伝わされていたんじゃないかと……」
「手伝わされて……?」
何かがおかしい。
成川はじっと池末美奈の目を見つめ、嘘を付いていないであろう事を確認した。
これは古井仁美と坂井春香に詳しく話しを聞く必要があるようだと考えながら、成川はボールペンをくるりと指の上で器用に回した。
続く…
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