チェンジ・ザ・ワールド☆
雨の日に〜4−4
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4-4
興抄寺からの帰り道、加藤達は福岡県警本部から今回の連続殺人事件の指揮官が三日後にやって来る事を聞いた。
「えらく遅い対応ですね」
津田がしかめ面で車を運転する加藤に言うと、加藤は舌打ちをした。
「さすがの本部も、これだけ連日マスコミにテレビで叩かれたら誤魔化し様が無くなったんだろ? それらしい理由を付けて親父に責任擦り付けて、今までの状況把握するのに三日かかるってこった」
津田は黙って前を見た。
確かに初動捜査などに問題が無かったのかと問われれば、絶対に無いとは言い切れない。こうして4人目の犠牲者が出て、成川という国の機関から派遣されて来た人物と一緒に仕事をする様になろうとは、事件当初は予想もしていなかったのだ。
しかし、県警本部からの連絡の遅れやマスコミへの対応など、こちら側だけでなく本部にも数え上げればキリが無い程ずさんな点はたくさんある。それなのに加藤の父親一人に責任を取らせる様なやり方は、封建社会ゆえの虚しさか。
忌々しそうに加藤は前方を見つめた。
「あのお……坂井春香さんに連絡を取りたいんですけど、お願い出来ますか?」
突然後ろの座席から、難しい顔をする加藤と津田を覗き込みながら成川が声を発した。
「あ、はい。本村理恵さんと秋杜の事を聞くんですね?」
津田は成川の声に我に返り、振り向いて笑顔を見せた。急いで懐から携帯を取り出すと、坂井に電話を掛けた。
『もしもし……』
坂井はすぐに電話に出た。
「もしもし。私、堂ヶ崎警察署の津田と言います。実は坂井さんに色々とお聞きしたい事があるんですが、今日お時間ありますか?」
『あ……はい、仕事が五時からですので、それまででしたら』
津田はチラリと腕時計に目をやり、
「では今から二時間後の三時半に、署まで来て頂けますか?」
と言った。興抄寺から戻る途中の高速を走っているのだ。戻るまで約二時間かかる。
『分りました』
坂井の明るい声に、電話を切った津田は成川を振り返った。
「坂井さんは売春とは関係無いんじゃないっスかね?」
津田が顔をしかめて言うので、成川はクスリと笑った。
「どうしてですか?」
「いや、あんなに大人しくて真面目そうな女性が、高校時代に売春の手伝いなんて……」
「あら、そんな事分りませんよ? 女性は男性より嘘を吐くのが上手なんですから。過去にあった事なんて、忘れた様に振る舞えます」
成川の笑顔に、津田はドキッとした。
「な、成川さんも過去に何かあったんですか?」
怖々尋ねる津田に、成川はふと視線を窓の外にやり、物悲し気に言った。
「津田さん、誰でも人には知られたくない過去の一つや二つ、あるんですよ……」
その成川の表情があまりに切なかったので、津田はゴクリと唾を飲み込んだ。
こんなに美しい女性なのだ、過去に辛い恋愛をした事も数多あるのだろう。そしてチラリと隣りで黙って車を走らせる加藤の横顔を見た。
「ぷっ……やだ、津田さん。冗談ですよ」
「へ……?」
急に吹き出した成川に、津田は驚いた。
「別に私、人に知られたくないような過去なんて持ち合わせてません。平凡なもんです」
「は、はあ……」
津田は成川が冗談を言うとは思ってもいなかったので、拍子抜けした。しかし犯罪心理学の勉強をして、アメリカまで行っていた女性が平凡な人生というのもおかしな話しだ。と思った。
「そんな事より、健隆って坊さんの所に護衛付けた方がいいんじゃないのか?」
津田と成川の会話を黙って聞いていた加藤が口を開いた。
「そうですね……でもまだ秋杜が犯人だと決まった訳じゃないですし、上を納得させられる証拠もないですから……」
情けない津田の答えに、加藤は少し苛立を覚えた。
「だがどう考えても秋杜は、少なくとも本村理恵の事件に何らかの形で関わってるはずだ。成川が言う様に共犯者がいたとしても、秋杜が寺を出て行く切っ掛けになった山村治音と本村理恵はあの坊さんが真っ青になるくらい似てるんだ。用心に越した事はないだろう……」
加藤の苛立は分るが、憶測だけで警察を動かす訳にはいかない。津田は小さくため息を吐いた。
「そうですけど……って、先輩、成川さんに向かって呼び捨ては失礼ですよ!」
初めて成川の名前を呼んだ加藤に、津田も成川も驚いたが、津田はいくら本人が成川と呼んでくれとは言ったものの、国の偉い先生を平気で呼び捨てた加藤に慌てた。
「津田さん、いいですよ。私の方が年下だし、先生とかってガラでもないですし……呼び捨てにされた方が嬉しいです」
成川は笑いながら津田に言った。
加藤は何故か恥ずかしそうに前方を見据えて黙っている。
「は、はあ……」
本人は本当に気にしていなさそうなので、津田もそれ以上何も言えなかった。何だか加藤が羨ましく思えた。
「警察を動かすかどうかは、これから坂井春香さんに話しを聞いて、それから秋杜さんと本村理恵さんとの接点をきちんと探って決めればいいじゃないですか」
いまいち釈然としない様子の津田に、成川が優しく言った。チラリと伺う成川は、やはり美しくて優しい。
「だが一度秋杜の写真を見せた時、坂井春香は知らないとキッパリと言ったんだ。彼女から秋杜を辿るのはそう簡単じゃない」
「でも加藤さん、売春の事実が判明して、当時少女達をお金で買っていた悪い人達が分れば、何か秋杜さんに繋がるかも知れないでしょう?」
「……地道にやるしかないって事ですね、先輩」
加藤はルームミラー越しに成川を見た。
津田の言う通り、地道にやるしかない事くらいよく分かっている。しかし、一日でも早く岡部を拘置所から出してやりたいのだ。課長から命令を受けた他の同僚達は、確実に岡部を犯人にする為に毎日駆け回っている。本村理恵が殺害されたその日に一緒にいたのだ。状況証拠だけなら岡部以外に犯人はいないのかも知れない、後は動機と証拠だ。嘘の動機付けなど何の罪の意識も無く出来るだろうし、岡部はここ数日で精神的にダメージを負っている。ここで強面の刑事に脅されれば、自分が殺しましたと言い兼ねない。
「くそっ、時間が足りない……」
ぼそりと加藤が呟いた時、加藤の携帯が鳴った。
「津田、出てくれ」
「あ、はい」
加藤はポケットから自分の携帯を取り出し、津田に投げた。
「おっとーーーもしもし……あ、広渡さん……俺津田です。先輩は今車の運転中でーーーえ?……はい、分りました……あはは、伝えます。お疲れ様です」
「ーーー広渡のやつ何だって?」
加藤は津田から携帯を受け取りながら尋ねた。
「ええ、何か本村理恵の事で一つ分った事があるから、後で先輩に鑑識課まで来る様に伝えてくれと……それと、早く晩飯奢れって……」
「飯が本題だな、そりゃ……で本村理恵の事で分った事って何だ?」
「さあ? 会って話したいそうなんで」
「そうか……じゃあ二人は坂井春香に話しを聞いてくれ、俺は後で行く」
そう言うと、加藤はアクセルを踏み込んだ。
ブウンと一際大きくエンジンが唸り、車のスピードが上がった。
続く…
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