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雨の日に〜5−2

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5-2
















 「そんなーーー」


 加藤が一通り話し終えると、岡部はぼうっとした表情で加藤を見た。本村理恵と脅迫されていたとはいえ坂井春香の二人が、高校時代売春に関わっていた事を知ってショックを受けたのだ。


「で、さっきまで俺と津田は坂井さんの言ってたサトルとかいう男の事を調べてた。あちこちの組員を調べたが、サトルに該当する人物は見つからなかった……そして、六年前見つかった変死体の写真を、坂井さんに署まで来てもらって確認してもらったら……」


 加藤がそこで言葉を切ったので、岡部と成川はじっと加藤の口元を見つめて次の言葉を待った。


「ーーー同一人物だった」

「本当ですか!?」


 成川はがたんと椅子から立ち上がった。


「本当です、はっきりと坂井さんがこの人に間違い無いと証言しました」


 成川は津田からそう言われると、しばらく何かを考えるように、じっと立ったままの姿勢でテーブルに置いた指をトントンと鳴らした。


「坂井さんはもう帰られたんですか?」


 ぼそりと成川が尋ねた。


「え? ええ。これから仕事の準備があるとかで……我々も古井呉服店にこれから行くつもりなんですけど」


 津田が答えると、成川はすぐに自分の荷物を取り、


「今すぐに行きましょう。どうしても確認したい事があります」


 と言って歩き出した。カウンターでお金を支払うと、成川は振り返りもせずにさっさと店を出て行った。


「あ……おい、行くぞ」


 加藤達も慌てて成川の後を追った。


「ごちそうさん、また来ますから」


 先になって出て行く加藤の後から、岡部が財布を出すのを津田が止め、三人分の支払いをしてくれた。加藤の友達とは知らず、取り調べで不快な思いをさせた事を気遣ってくれているのだろう。

 成川は今まで見た事の無い真剣な表情で、店の外に立っていた。加藤達が全員店から出ると、一瞬視線をこちらへやり、すぐに地面を見た。


「車こっちだ」


 加藤が成川に言うと、成川は黙ったまま加藤の後ろを付いて来た。


















 古井呉服店へと向かう車の中で、加藤は成川に尋ねた。


「一体どうしたんだ?」


 加藤の問いに、成川はしばらく沈黙し、口を開いた。


「いいえ、何かもやもやしてる事がずっとあって、それの正体が分かりそうな気がするんです……」

「古井仁美に話しを聞いたら?」

「……ええ」

「さっきのサトルって男が死んでた事と関係あるのか?」

「多分」


 加藤と成川の会話がそこで途切れたので、岡部は尋ねてみた。


「あ、そのサトルって男は本村さんの彼氏だった人なんだろ? 死因は何なんだ?」


 岡部の質問には、津田が答えた。


「死因は心臓麻痺。特に外傷は無く、財布にあった所持金は520円。免許証など身元に繋がるものは無く、県内の行方不明者との符号も無し……現在無縁仏として家族探し続行中です」

「山の裏側の山道に倒れてたんですよね?」

「そうですね、でもその道は近所の人達も殆ど通らないような細い道で、近くの小学校の子どもたちが防空壕跡の見学に先生と来てて、偶然発見したらしいです」


 岡部はふと、自分が防空壕の中に閉じ込められる姿を想像してしまった。暗くじめじめした防空壕の中から見える景色は、真っ赤な夕日を反射した真っ赤な海だった。


「身元が分からないって事は、身寄りが無いか、県外の人間か、家族が行方不明者の届けを出していないか……」


 津田が独り言の様に呟くと、成川がこちらも独り言の様に話し出した。


「彼は本当に本村理恵さんの彼氏だったんでしょうか?」

「……急に何を言い出すんだ? 昨日坂井春香がそう言っただろ?」


 加藤に言われ、成川は隣りに座る岡部をふと見てすぐに視線を逸らした。


「何故そんな人気の無い所で死んだんでしょう。誰かと待ち合わせでもしていたんでしょうか?」


 成川の呟きに、加藤達三人はすぐに本村理恵を想像した。しかし岡部には、薄暗い山道の奥から手を振る人物の顔が、本村から真っ黒なのっぺらぼうにすり替わってしまった。

 何か変なしこりの様なものが脳みそに引っかかっている感じがする。













                                  続く…















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