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雨の日に〜5−3

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5-3
















 古井呉服店は相変わらず綺麗で大きなアーケードの中に、どっしりとした面構えで建っていた。

 古井仁美は、今日は着物ではなく洋服で加藤達を出迎えた。


「あの、お店ではなんですから場所を変えませんか?」


 仁美はそう言って商店街を抜けた所にある公園へと四人を連れて行った。


「あなたにお聞きしたい事があります」


 津田が言うと、仁美は静かに頷いた。おそらく近藤あかりから連絡があったのだろう。覚悟を決めた顔をしていた。


「分ってます……売春の事、ですよね?」

「もし嘘を吐いてもこちらは調べて来てます、ですから正直に話して下さい」

「はい……」


 津田は仁美をベンチに座らせ、その隣りに成川を座らせると、そう言った。

 加藤と津田が二人の前に立ち、岡部は少し離れた所に立って話しを聞く事にした。質問は成川に任せることにしたのだ。


「まず、お聞きしたい事は本村理恵さんの彼氏のサトルという人物の事についてです。何かご存知ですか?」

「会った事はあります。サトルって名前だったんですね……坂井さんにホテルまで連れて行ってもらうと、いつも外で待ってて、客が待っている部屋まで私を連れて行ってました。終わるまでホテルの外で待ってて、きちんと金額が支払われたかの確認をすると私を家の近くまで送って帰ってました……」

「名前はご存知無かったんですか? 男と会話はしましたか?」


 成川は驚いた様に仁美を見た。


「はい一度、面白半分に本村理恵さんとはどうやって知り合ったのかって尋ねた事があったんですけど、無駄口叩くなってものすごい怖い顔で怒鳴られて……それから怖くて一度も話してません。だから名前なんて知りませんでした」

「本村理恵さんの彼氏だというのを知ったのはどうしてですか?」

「坂井さんが言ってました。その男に脅されて手伝わさせられてるんだって……キレると何するか分からない男だから、逆らわない方がいいって。あなたも私を見つけてしまわない方が良かったんじゃないのかって、脅してたのは私の方なのに、逆に心配されました……」

「そうですか……では、当時のお客の中で知っている人物とか、心当たりのある人物はいませんか?」

「分りません……いつも客は顔に変な仮面みたいなのを付けてるんです。名前ももちろん知らないですし」


 秋杜の写真にも義父に似ているとしか反応を示さなかったのだ、客の男の中から辿るのはやはり不可能なのか。実際に客である男達を連れて来ていたサトルと呼ばれていた男は死んでいるし、後は坂井が声を掛けていた当時の女子高生を探すしか無いのか。


「あなた以外で声を掛けられて、男性と会っていた人はご存じないですか?」

「ーーー1人、だけなら……」

「名前は分りますか?」

「近藤あかり……高校の同級生です」

「えっ……? 近藤さんは一度だけで怖くなって辞めたのでは?」

「いいえ、その逆です。あかりはどうもいい常連客を見つけたらしくて、何度も坂井さんと話していたみたいです」


 成川は先日会った近藤あかりと池末美奈との会話を思い出していた。

 嘘の上に嘘が重なり続けている。どこからが真実でどこまでが嘘なのかが見えてこない。


「近藤……あかりさん、ですか。分かりました。本村さんのお父様の仕事の関係で、組の人がいるとか、売春の事をばらすと危険な目に会うという噂はどうなんですか?」

「それは、嘘です……」

「嘘?」

「はい、仲の良かった友達がいて、その子が私とあかりの様子が変な事に気付いたんです。それであかりが坂井さんに声を掛けられて売春をしてるってつい口が滑ってしまって……色々聞かれて適当に嘘を吐いて、嘘がばれたり学校に広まったりしたら困るから、ヤクザが関係してるから人に言ったら殺されるかもしれないって友達も脅して……」


 また嘘だ。


「サトルという人物が、組関係者だというのは?」

「え? いいえ、知りませんでした……怖そうな人ではあったから、適当に嘘を付くのにヤクザが関係してるとは言いましたけど、本当にそうだったのは知りませんでした」


 公園のベンチで淡々と質問に答える仁美は、嘘を吐いている様には見えなかった。

 成川は以前秋杜の話しを古井呉服店で話している時に青ざめた事をどうしても聞きたかった。その様子がきっかけで、成川は古井仁美達が繋がる高校時代を調べようと思ったのだ。


「そう言えばあなたは以前お店で秋杜さんの話しをお爺さまに伺っていた時、急に様子がおかしくなりましたよね? あれは何故ですか?」


 仁美はその質問に俯いた。


「ーーーいえ、驚いたというのもありますけど、そんな秘密が何十年も経って暴かれるなんて、私の秘密もいつかばれるんじゃないかって、急に怖くなって……親が勝手に決めた結婚に反抗して、夜遊びしたり、売春……なんかしてしまったけど、結婚してからは幸せなんです。主人はとても優しいですし、おじいちゃんも義父も、とても良くしてくれます。ですから、過去の事がばれて今の幸せな生活が壊れるんじゃないかって、それが恐ろしくてーーー」


 ベンチを掴む手に力を入れると、古井仁美は頭を振った。


「なるほど……よく分かりました」


 成川は自分の前に立つ加藤を見上げた。加藤も成川を見ていて、視線がぶつかった。

 加藤はコクリと頷き、それを見て成川も頷いた。


「古井仁美さん……調べたい事があるので、あなたの毛髪を我々に提供して頂けませんか?」

「はい? ええ、どうぞ……」


 不思議そうな顔で仁美は自分の髪の毛を一本抜いて、津田が手の上で広げるハンカチの上にそっと置いた。


「あっ、あの……この事、家族にはーーー」


 仁美は売春の事実が家族に漏れる事を、心底恐れているのだ。


「大丈夫ですよ、この事は口外しませんから」

「よろしくお願いします……」


 売春どころではなく、義父の実の双子の兄が殺人事件に関係しているかも知れないのに、自分の過去がばれてしまう事の方が怖いのだ。

 一体どんな気持ちなのかと、加藤は仁美の気持ちが分からなかった。














                                  続く…















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