チェンジ・ザ・ワールド☆
土屋9日目・No.2
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私のやんごとなき王子様
夜の海はとても静かで、夜空にはこれでもかと言わんばかりに星々が輝いている。
「綺麗」
思わず私の口からそんな言葉が零れ落ちる。
「美しい物を素直に美しいと言えるのは素晴らしい事だよ」
そんな私の言葉を拾って、土屋君が声を被せる。
「僕はね、君の絵が嫌いじゃない」
土屋君が夜空を見上げながら、ふいに語り始めた。
「去年、美術の授業で描いた絵が廊下に張り出されていた事があったろう? あの時、ひときわ僕の目を奪う作品があったんだ。誰だろうって名前を確認したら君だったんだけど」
確かに去年の冬頃だったかな? 美術の授業で描いた絵が数週間廊下に飾られていた。勿論、私の絵だけじゃなくて、他にも30人ほどの絵が飾られていたはずだ。中でも土屋君の絵は一番目立つ所に飾られていた。私はそんな土屋君の絵を見て、綺麗だなって心奪われた事を思い出した。
「君の絵にはね、心があると思った。対象に対する心が込められていた。僕の絵とは根本的に違うんだ。僕の絵にはそれが無い」
そこで土屋君は一度言葉を切った。
「だけど、僕にはどうしたらそれを入れられるのかが分からないんだ。だから今回、君を誘った。君と一緒に演劇祭の準備期間を一緒に過ごせば、何か分かるんじゃないかって……そう考えたんだ」
そんな風に私の描いたものを受け止めてくれてたんだ……。
「少しずつだけどね、分かってきた気がするよ。だから今度の演劇祭の大道具は僕が今まで描いてきたものの中で、最高のものになるだろうと思っている」
「うん、私も凄く良い物が出来ると思ってるよ」
私がそう言うと土屋君は小さく微笑んだ。
「去年までも僕は演劇祭の担当は大道具だったんだ。それに疑問を感じるまでも無かった。この僕が描くのは当然だってね。他の担当者達になんか興味も無かった。僕は僕の世界を作り上げるだけだって、そう思ってた。でもさ」
そう言うと、土屋君は私の手を握った。繋がれたその部分から土屋君の熱が伝わってくる。早まった鼓動を悟られまいと、私は必死に平静を装った。
「でも今回は違う。今回は君や他の皆の世界も崩したくはないと、そう思うんだ。この僕が、他の人間の描いたものにまで神経を配っているんだよ? おかしいだろう?」
「おかしくなんてないよ」
握られたその手を強く握り返して私は言った。
「おかしくなんてない。それって本当に素敵な事だよ。皆で一つの物を作るなんて、中々出来る事じゃないもん。だから、そう言う中で一つの物を作り上げてくって言うのは、すっごく素敵な事だと思うし、そこで土屋君がそんな風に考えてくれてるなんて、本当に嬉しい。私だけじゃなくて、皆もそう思うと思う」
じっと土屋君の瞳を見つめながらそう言うと、土屋君は綺麗に笑った。
「そうか、有難う」
また言ってくれた。土屋君が私に『有難う』って。
土屋君のその感謝の言葉は、私の心を強くしてくれる。
水原さんの事を土屋君がどう思っていようとも構わない。
私は土屋君の事が好き。
だから少しでも土屋君の役に立てればそれでいい。
こんな風に感謝の気持ちを伝えて貰えるだけで十分だ。
土屋君と水原さんはお似合いだと思う。二人なら、芸術論だって私なんかよりはるかに長けた会話が出来るだろう。
それでも私は土屋君が好きだから。
「風が出てきたね、そろそろ戻るよ」
風に吹かれた髪をかき上げながら、土屋君が私の手を引いた。
「うん。土屋君、有難うね」
「いや」
静かな空間で二人でゆっくりと話が出来て、心が落ち着いたのが自分でもわかる。
正直、昨日は水原さんとの事が気になって余り眠れていなかった。
土屋君はそんな私の様子に気付いて、気分転換させてくれたのかな?
――まさかね。
でも今繋がれた手の温かさだけは紛れもない事実だ。
私はもう一度小さく微笑んで、土屋君の手をギュッと握りしめた。
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