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チェンジ・ザ・ワールド☆
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不足

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不足











 興味のあることからどうでもいい事まで、俺のノートにはとにかく大量のデータが書き込まれている。

 もちろん自宅のパソコンには過去の様々なデータがびっしりと網羅されている。

 基本的に収集というものが好き……というか、癖だからそれを面倒だと思った事は一度も無かった。

 だが、そんな俺のマル秘ノートの中に、たった一つだけ不足しているデータがある。


 それは、


「乾君、そっち持って」

「ああ」


 今俺の目の前で長机の端を持った少女、汐屋雪緒に関するデータだ。

 もちろん必要最低限のデータは揃っている。

 身長・体重・視力・握力・靴のサイズ・家族構成・誕生日・血液型・得意科目・苦手科目・趣味などだ。

 ストーカーと言われるかもしれないが、この程度のデータなら学校のほとんどの生徒のデータを持っているので大した事ではない。

 いやなに、ちょっと先生の弱みを握れば、このくらい朝飯前という奴だ。

 別に脅迫したりはしない。

 ただ一言

 先生そう言えば、先週の休日繁華街でお見かけしました……

 などと言えば自然と情報が手に入る。 

 便利な世の中だ。ふふふ……

 そんな中、俺が一番欲しいデータが無い。

 こればかりは本人の心の中のことだから、自力で聞き出すか他の人が知った情報を流してもらうかしか無いのだが、今の所そのどちらも出来ていなかった。

 汐屋とは反対の机の端を持ち、俺は後ろ向きに歩き出す。

 今俺と汐屋はクラスの担任に頼まれた雑用をしていた。

 たまたま放課後教室に残っていた俺と、進路の事で進路指導の先生に呼び出されていた汐屋が捕まったのだが、倉庫にあった机を体育館に運べというなかなかに面倒くさい仕事を押し付けられていた。

 断った所でどうせ無駄なので、二人とも黙々と作業を続けている。

 そして今持ち上げた机が最後の一つだ。


「頭気を付けてね、入り口だから」

「ああ」


 言われて少し頭を屈め、入り口を出る。

 階段に差し掛かった所で汐屋がピタリと止まる。


「乾君、階段だからゆっくり行こう」

「ああ」

「下で大丈夫?」


 下で大丈夫とは、恐らく俺が階段を先に下りても大丈夫かと言う事だろう。


「ああ。問題ない」

「重たいよ?」


 それは重力は地面に向かって鉛直に掛かるのだから先に階段を下りる俺の方が重たいだろう。しかしだからと言って男の俺にたかが長机ごとき重たいよと尋ねる汐屋がおかしくて、俺はつい笑ってしまった。


「えっ? 何? どうしたの?」


 汐屋は吹き出した俺の顔を驚いたように見ている。

 自分が言った言葉がツボに入ったとは微塵も思っていないのだろう。

 ああ、俺はこんな天然で心優しい汐屋が好きだ。

 そう。俺が一番欲しいデータとは、この汐屋雪緒に好きな人がいるかどうかだった。

 中学高校とずっと同じ学校だったが、接点は高校2年になるまではなかった。

 俺はずっとテニス部で汐屋は物理部。そして2年で同じクラスになるまで名前と顔しか知らなかったのだ。

 そんな汐屋を好きだと気付いたのは、2年の終わり頃に告白されている汐屋を偶然見かけた時。

 生まれて初めて他人の、しかも女性に対して執着心を抱いた。

 相手の男は汐屋と同じ物理部の男だったが、汐屋は告白を断っていた。それを聞いて心底ほっとしたのを今でも覚えている。

 3年で再び同じクラスになった時、俺はチャンスだと思った。

 2年の時、特に仲が良かったという訳ではなかったが、女性で物理部という珍しい部活に入っていた汐屋に興味を持ってから、たまに科学や物理の話をするようになった。思えばその頃から好きだったのだろう。

 科学の話をしている時の汐屋は、本当に楽しそうだった。

 それからメールアドレスを交換し、夜にチャットで話をするようになった。

 パソコンの画面を通しては良く話すくせに、こうやっていざ本人を前にすると言葉が上手く出ないという事に驚く。


「乾君?」

「あ、いや。男の俺の方が力があるんだから、汐屋が下側を持つよりいいと思うが。それにこれでもうその質問は机を運んだ数と同じだけされている」

「そうだけど、なんか人に辛い方を任せるのって気が引けちゃうのよね」


 そう言って困った様な顔をする汐屋に、俺は心が温かくなる。


「いいから降りるぞ」

「うん……」

「ーーーそんな事を考えていたら、告白された時に好きでもない男と付き合わなくちゃいけなくなるぞ?」


 つい口をついて出た言葉に、俺がしまったと思い顔を上げると汐屋が少し怒った様な顔をしていた。


「そ、そんな事ないもん」

「そうなのか?」

「好きじゃない人と付き合ったりしないし!」


 そんな事は知っている。

 ただちょっとからかっただけなのにムキになる所が可愛い。

 階段を下りきった所で俺は歩くのを止め、汐屋を見た。


「それなら汐屋、俺はどうだ?」

「え?」


 意味が分からないと言った表情の汐屋。

 俺は続けた。


「俺と付き合うっていうのはどうだと聞いている」

「……えええっ!?」


 驚く汐屋。

 そして見る見る真っ赤になる汐屋の顔。

 俯いて口をぱくぱくさせている。

 汐屋はチラリと上目遣いに俺を見た。

 その仕草も可愛くて、俺は無意識のうちに頬を緩めた。



「好きじゃない奴とは付き合わないんだろ?」

「どうして……」


 ボソリと呟いた汐屋に、俺は首を傾げる。


「ーーーどうしてそんな事急に言い出すの? 何かのデータでも取ってるの?」

「まさか。俺はいつでも真面目なつもりだが」


 こんな時、度の厚い眼鏡で良かったと思う。

 視線がバレないからゆっくりと汐屋の様子を観察出来る。

 ずっと汐屋が自分の事をどう思っているのか知りたかった。

 仲は良い方だと思う。だが、それ以上なのかどうか、汐屋を見ていてもさっぱり分からないのだ。


「それで、返事はもらえないのか?」


 少し意地悪かとも思ったが、これ以上待てない。

 答えを急かすと、汐屋はぐいっと机を高く持ち上げて自分の顔を隠した。


「乾君のバカっ! 断る訳ないじゃないっ!」

「ーーー」


 正直俺は驚いた。

 まさかこんなにあっさりと断言的な答えが返って来るとは思っていなかったから。

 すっと下げた机の向こうに現れた汐屋の顔はまだ真っ赤で、俺はそれにまた笑ってしまった。


「もうっ! どうして笑うの?」

「いや、すまん……大事に致します。お姫様」

「……善きに計らえ」


 汐屋の言葉に顔を見合わせて微笑む。

 再び歩き出した俺達。

 漸く不足していたデータが揃ったようだ。

 俺の予想を遥かに上回る結果で。

 机を体育館に置いたら次は汐屋の手を握ってみよう。一体どんな顔をするだろうか。

 俺のデータはどんどん増えて行くだろう。

 汐屋雪緒という女性のデータが。






                           END 







※あとがき※

乾好きだなー。
眼鏡外すと男前だしね。ありきたりだけど……
だけどこんな告白の仕方があってもいいんじゃないでしょうか?
このお話はまたこれの前後を書いてみたくなりました……いや、書くか分かんないけど。
でもなんか青春してるよなー。
だって学校の名前が青春学園だよ? すごくね?

それでは、ここまでお読み下さった皆様、ありがとうございます!




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