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利根9日目・No.2

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streetpoint

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私のやんごとなき王子様














 夜の海はとても静かだった。

 波の音だけがすぐ近くで聞こえてて、とても心地よい。


「この間皆で海に来た時、もっと話したいなって思ってたのに、俺が怪我した子を医務室に連れて行って戻って来たら小日向さんいなかったからさ」

「あ、ごめんね……」


 あの時私は水原さんに嫉妬して落ち込んで、とても海で遊んでいる気分じゃなかったから作業に戻った。利根君は私の事を気にしてくれてたんだな……だけど、水原さんの事は? 昨日あんなに必死な声で好きだって言ってた水原さんとは、今日は一度も話してなかったみたいだ。それは利根君が避けてたから? それとも、水原さんが?

 すごく複雑な気持ちになった。

 水原さんの事を考えると、こうやって利根君と二人で海を見ながら話しているのに、さっき部屋で話していたみたいな楽しい気持ちになれない。


「俺さ、去年始めて小日向さんと委員で一緒になった時、ちょっと嬉しかったんだ」

「え?」


 急に話し始めた利根君を思わず見上げる。

 利根君はじっと海の向こうを見たままで、話しを続けた。


「玲がさ、学園に入学してすぐの頃にマスコミに叩かれてすごく落ち込んでた事があって、芸能界をやめようか悩んでた事があるんだ」


 私は有名人である風名君のご両親の事や、当時バッシングされていた風名君の事を思い出して頷いた。


「その時俺は玲がすごく努力してるって知ってたから、いつも励ましてたんだ。玲は頑張ってる。だからいつかきっと、そんなお前の事を分かって応援してくれる人が現れるって……でもなかなか元気になってくれなくて、俺もちょっと落ち込んだんだ。ああ、俺は大事な友達一人元気づけられない駄目な男だ。玲の幼なじみとして失格だって―――」

「そんな―――」


 悲しそうにそう言う利根君の辛い気持ちが伝わって来て、私は悲しくなった。もし私が苦しむさなぎを助けてあげられなかったら、きっと辛いはずだもん。


「でもある日、急に玲が元気になったんだ。びっくりしたけどすごく嬉しかった。それで何かあったんだろうって思って聞いたら、同じクラスの女の子の言葉に励まされたって言って笑ったんだ……」

「同じクラスの女の子?」

「そう……小日向さん。君だよ」

「ええっ!?」


 私は驚いた。確かに風名君とは1年の時からずっと同じクラスだけど、1年の時に風名君を励ましたなんて記憶は全くない。


「ふふっ、君は知らないと思うけど、小日向さんがクラスの子が玲の悪口を言った時に庇ってくれたそうなんだ。玲の事を知りもしないで悪く言うのはおかしいってね……玄関で玲が偶然その会話を聞いたんだって」

「あ……」


 そう言えばそんな事があったかもしれない。そうか、あの時風名君聞いてたんだ……


「俺はそれを聞いた時ちょっと悔しかった。ずっと一緒にいた俺じゃなくて、クラスメートの言葉の方が玲を立ち直らせられるんだってね……でも同時に、そんな女の子がいるんだってすごく興味もわいた。玲を元気に出来る子は、一体どんな子なんだろうって」


 え?


 海から利根君へ視線を戻すと、利根君が優しげな表情で私を見ていた。その視線に胸が躍る。


「それで、2年になって委員で偶然小日向さんと一緒になった時に嬉しかったんだ。この子が玲を励ました子なんだって。そして一緒に仕事をやっていく中で納得した。君は本当にいつも一生懸命で、嘘を吐いたり人を騙したりしない。俺の周りにいる大人達とは全然違った……」

「利根君……」


 また一瞬悲しそうな顔をすると、利根君が私の手を握った。


「っ!?」


 驚く私に微笑み、利根君が歩き出して手を引いた。


「そろそろ戻ろうか? 風が出て来た」

「う……うん」


 鳴り止まない心臓の音に自分の声がかき消される。


「嫌な事があったり辛い事があっても、小日向さんの笑顔を見るとなんだか元気になるんだ。俺は汚い大人の世界ばかり見て来たから、君のその真っ直ぐな言葉が眩しいんだ。そしてもっと話したい、もっと君の笑顔を見たいって思う」


 ドキドキしすぎて良く聞き取れなかったけど、利根君は私の事を褒めてくれているみたいだ。

 どうして?

 繋いだ利根君の手は夏だというのに少しひんやりとしていて、少しでも私のこの熱が利根君に伝われば良いのにって思った。

 そして、水原さんはどんな気持ちで利根君に好きだと告白したのだろう。卑怯な私は、利根君の優しさに甘えてばかりいる。


 こうやって褒めてもらえるようなものは、何一つ持っていないというのに……。












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