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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

.3

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streetpoint

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Session3











 忍足は着替えを済ませて校門の外に出た所で、携帯を取り出した。


『はい、藤森です』

「あ、あの、マスターさん」

『忍足くん? どうしたの?』

「すんません、やっぱり俺、和葉さんに会いたいんです。家、教えてもらってええですか?」


 向こうでマスターが考えているのが分かる。

 しばらく無言が続くと、マスターは小さくため息を吐いた。


『行っても会ってくれるか分からないよ?』

「分かってます」

『ーーーそう、分かった……』


 電話を切ると、忍足は走り出した。


 一言言ってやらな気が済まん。助けが必要な時は呼べ言うたのに、なんで気ぃ遣うんや。弟みたい言うんなら、弟に助け求めえや! 俺が、助けたる言うてんのに!













 ピンポ~ン ピンポ~ン


『はい』


 目の前のインターフォンを押し、帰って来た返事にほっとする。


「俺や、忍足や」

『えっ!? 侑士君? どうして……』

「元気かな、思うて顔見に来たんや……ここ、開けてくれると嬉しいねんけど」

『ーーーマスターに、聞いたんですか?』


 怪我の事を言っているのか住所の事を言っているのか、その両方なのか、忍足は一瞬考えて答えた。


「ああ……」


 それきり和葉は何も言わない。

 忍足はやっぱり来なければ良かったのだろうかと、目の前の玄関に手を当てて俯いた。


「ごめん」

『……どうして、侑士君が謝るんですか?』

「いや、だって俺、あんたの事いつでも助けに行ったる言うて、助けてやれんかった……約束、破ったから、ごめん」

『侑士君は何も悪くないじゃないですか。悪いのは私なんですから』

「それこそあんたは何も悪くないやろ」


 そこでまた沈黙。

 ガチャリ…… 

 鍵が開く音がして、ゆっくりとドアが開いた。


「和葉、さん……」


 頭と腕には包帯がまかれていた。


「ありがとう、心配して来てくれたんですね。もう、大丈夫ですから」


 そう言って笑った。久しぶりに見た和葉の笑顔に、忍足はほっとした。


「俺ーーー」

「なんだ、和葉じゃねえの?」


 !?


 聞き慣れたその声に、忍足はゆっくりと後方を振り返る。


「跡部、樺地! お前ら後着けるな言うたやないか! ……って、え? 今、和葉って名前ーーーえ?」

「景吾君?」


 忍足の脇から顔を出した和葉が、跡部の顔を確認して名前を呼んだ。


「え? どういうことや? 二人、知り合いなん?」


 驚きで顔中ハテナだらけの忍足は、跡部と和葉の顔を交互に見比べる。


「和葉の母親が俺の親と友達なんだよ。それでガキの頃から何度も会った事がある」

「あ、和葉さんのお母さんて確かピアニスト」

「そうです。あれ? 私侑士君に話しましたっけ?」

「いや、マスターさんに……」

「いいから和葉、家に入れろよ」


 話の腰をすっかり跡部に折られ、後ろに静かに控えていた樺地を含めた4人は和葉の家で話す事にした。














 「で? お前をこんな目に遭わせたヤローはどうなったんだ? アーン?」


 跡部は偉そうにソファーで足を組み、紅茶を啜りながら言った。


「マスターも私もあまり大げさにしたくないから、示談になりました。それに、反省しているみたいですし」

「和葉は甘いんだよ、そんなんだから怪我するんだ、なあ、樺地」

「ウス」


 忍足も跡部の言う通りだと思う。

 今回は軽い怪我で済んだが、もしまた何かあった時大けがをしない保証は無い。


「いえ、昨日店に謝罪に来たって言ってましたし、それに……」

「? ああ、そうか」


 言葉を濁した和葉の続きを跡部は理解したらしい。なんだかその二人のやりとりに忍足は蚊帳の外で腹立たしい。


 だいたい何や? 和葉さん子どもの頃ドイツに住んどった言うてたのに、何で跡部と昔から知り合いやねん。納得いかんわ。


「ーーー和葉、忍足が拗ねてるぜ」

「だれが拗ねてんねん」

「こいつ今日の練習中ずっとため息ばっかりつきやがって、ヘロヘロのボレーやスマッシュ決めてたんだ。傑作だったぜ」

「もう、景吾君侑士君をからかわないでください。侑士君、本当に大丈夫ですから。今週はお店に出られますし」

「ああ……」

「ま、もしまた何かあったら跡部財閥の力で相手を葬ってやる」


 素で恐ろしい事を言う跡部に、忍足と和葉の顔が引きつった。


「まあでも忍足が助けたのが和葉だったとはな、驚いたぜ」

「私も氷帝の制服着てたし、テニスバッグを持っていたから吃驚しました」


 そこで忍足は和葉が自分のテニスの腕前の話をマスターにしていた事を思い出した。


「そういえば和葉さん、マスターに俺がテニスが上手いって言うたでしょ? なんでや?」

「前に景吾君の家に招待されて母と行った時、ちょうど景吾君達のテニスの試合のビデオを見たんです。その時、侑士君の試合も映ってて、もう一人の髪の毛がサラサラで身軽な子とダブルスしてたやつなんですけど、すごく上手な子だなあって。それで覚えてたんです……でも助けてもらった時は思い出せなくて、ずっとどこかで見た事があるなとは思っていたんですけど……あの後景吾君の家で見たビデオを思い出して」

「なるほどな」

「おい忍足、帰るぞ」


 せっかく和葉との会話が弾み始めたと思った矢先に、跡部はソファーから立ち上がった。


「え?」

「和葉の怪我が大した事ないとはいえ、あまり長居すると疲れるだろう?」


 こんな時に急に紳士になるのはどういうことかと、心の中で突っ込んだ忍足は息をついた。


「せやな……またメールするし、あまり無理しなや?」

「本当にありがとうございました」


 こんな時、他人行儀な丁寧な話し方がすごくもどかしく感じる。普通に「ありがとう」と言ってくれた方が遥かに嬉しい。

 玄関まで見送りに来た和葉の顔を、じっと見つめる。


「どうしました?」

「怒ってへんの?」

「何をですか?」

「勝手に家まで押し掛けて、迷惑やったんやないかて……」


 目を伏せる忍足に、和葉は優しく言った。


「迷惑なんて……びっくりしましたけど、本当に嬉しかったです。私の事を心配してくれてありがとうございます」

「ああ、いや……」

「早くしろ、忍足」

「わかっとる。ほんなら、またな」

「はい」


 静かに閉まったドアの音を背後に聞きながら、忍足は自分の中のもやもやに整理をつけていた。


 これはもう決定やーーー俺、和葉さんの事、好きになりよるみたいや……


「やめておけ」

「は?」


 エレベーターに乗り込むと、跡部が突然言った。


「和葉は、やめておけ」

「なんや、跡部。お前和葉さん狙いなんか?」


 茶化すように言ったが、跡部は真剣な表情で忍足を見返した。


「そうじゃない。確かにあいつは良い奴だし、美人だが、誰とも付き合わない」

「ーーーどういう事や?」


 エレベーターを降りてマンションから出ると、リムジンが止まっていた。それに跡部が乗り込み、忍足と樺地も続く。


「和葉は、昔大好きな人がいた」


 シートに腰掛けると、跡部が語り出した。和葉の好きな人と聞いて、忍足は一瞬胸が痛んだが、黙って続きを聞く。


「相手は和葉の5歳年上の兄で、クラシック界では結構有名な若手バイオリニストだった」


 だった……過去形だ。


「ここからは俺も本人から聞いた訳じゃないから正確かは分からねえが、その和葉の兄貴は和葉に惚れていた」

「は? それって……」

「心配するな、和葉の好きはそういう意味の好きじゃないし、二人は本当の兄妹じゃねえ。和葉の父親が医者だってのは知ってるか?」

「ああ」

「その病院に交通事故で運ばれて来た家族がいて、5歳だった男の子だけ助かったらしい。身寄りの無かったその男の子を、和葉の両親が養子にしたんだ」


 なるほど、和葉の優しさは、両親から受け継いだものなのだと忍足は少し微笑ましくなった。


「和葉は子どもの頃から可愛かった。初めて会ったのは俺様が8歳の時で、ドイツに旅行に行った時だ。和葉の母親のコンサートを観に行って、知り合いだというので和葉の家に招待された。その時俺が和葉と仲良くしてたら、和葉の兄貴は子ども相手にものすごい嫉妬してやがった。子どもの俺にもはっきり分かるくらいにな」


 跡部が8歳というと、和葉が13歳でその兄は18歳という事になる。忍足はちらりと樺地を見た。理由は無かったのだが、8歳の跡部から見れば、和葉の兄はこの樺地くらいに映ったのではないかと思ったのだ。


「和葉に近づく奴は、子どもだろうと敵意むき出しにするんだ。もし、和葉に好意を寄せる男がいたらどうなると思う?」

「何かあったんか?」

「和葉が17の時にな……兄貴が刺したんだよ、和葉の同級生をーーー」


 !?


「刺された相手は幸い命に別状はなかったが、和葉の兄貴はその後すぐに自殺した……和葉の目の前でなーーーそれ以来、和葉はどんな辛い目に遭おうと酷い目に遭おうと、涙を流さなくなった。そして、男と一定の距離を保つようにしているって聞いた」


 忍足は言葉が出なかった。自分の兄が同級生を刺し、目の前で自殺をしたのだ。想像もつかないような恐ろしい経験を、和葉はしていたのだ。マスターの言ったとてもつらい事とは、この事だったのだ。


「俺がドイツで和葉達に初めて会ったすぐ後に家族で日本に引っ越して来たんだが、兄貴は音楽の勉強の為にドイツに残っていた。そして兄貴が日本を拠点として音楽活動をする事になった時、その事件が起きた」

「それって6年前やろ? せやったらニュースとかで報道されたんと違うか? そんな悲惨な事件やったら俺の記憶にも残ってそうやけど……」

「確かにニュースでも報道された。だが、詳しい内容には触れないように俺の親父がマスコミに手を回したからな。それに6年も経てば記憶は薄れて行くもんだろ」

「なるほどな……」

「だから、和葉はやめておけ。お前、和葉の事好きになりかけてんだろ?」


 忍足は何も言い返せなかった。跡部が言った事が事実だったから。

 それでも、やはり忍足は和葉の笑顔が見たいと思った。心の底から笑えるように、出来る事なら自分がしてやりたいと思った。

 跡部の話を聞いて同情したからではない。それほど和葉に惹かれているからだ。







                    続く…



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