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利根10日目・No.2

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streetpoint

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私のやんごとなき王子様














 今日は実際に私達が作った衣装を着用しての通し稽古。朝から細かい補正をして、皆でドレスやらタキシードやらを前が見えない程抱えて演劇の練習をしている部屋を行ったり来たりと大変だった。

 大きな問題もなく、自分が作った衣装を着る子と修正が必要な箇所を話し合い、それを持ってミシンの前に戻って来ると、利根君が声を掛けて来た。


「なんとか間に合ったね」

「あ、うん。良かったよ、本当に」

「演劇担当の人達も喜んでくれてたね」

「うん!」


 衣装を持って行った時の皆の喜ぶ顔を思い出し、私も笑顔になった。


「ところで小日向さん。今日花火大会があるって知ってた?」

「聞いたよ。近くの島から上がるんでしょ?」

「そうらしいね。俺知らなくってさ、良かったら一緒に見に行かない?」

「えっ? わ、私?」


 驚く私に利根君は微笑んで頷いた。


「夕食の後で部屋まで迎えに行くから。それじゃあ、また後で」


 私の返事を待たずに手を振って去って行った利根君は、いつもと少し違う印象だった。昨日海岸で話した事を思い出す。

 繋いだ手の温もり。優しい利根君の微笑み。

 また今日も一緒に笑ってもいいのかな?














 利根君は約束通り夕食後部屋まで迎えに来てくれた。

 さなぎはとっくに米倉君と出かけていなかったけど、私はずうっとドキドキしっぱなしだった。利根君ファンのさなぎに言ったら、すっごい羨ましい! って言われたんだけど、彼氏がいる人が贅沢よね。


「この辺なら人も少ないみたいだね」


 そう言って腰を下ろしたのは林道を抜けた開けた場所だった。ふと下を見ると海岸にはたくさんの人影があって、花火が上がるのを今か今かと待ち構えている。

 去年さなぎと行った花火大会は浴衣を着てて、帰った頃には下駄で足の皮がむけて大変だった事を思い出していると、近くの海面からシュルシュルと第一発目の花火が打ち上がった。


 ドーーーン!!


 大音響を響かせ、心臓の内側から体全体を振るわせるような振動が走り抜けた。

 夜空に弾けた大きな色鮮やかな花火に、一斉に喝采が起こる。


「……綺麗」


 利根君と一緒にいるからだろうか。花火も見慣れた物や風景も一味違って見える……恋って偉大だな。さなぎも今頃米倉君と一緒に空を見上げているんだろうか。

 次々と重力に逆らって空へと投げ出されて行く花火の雨に、私は時間を忘れて魅入っていた。


「すごく近いね」

「うん、音も花火も目の前に迫って来るみたい」


 すぐ近くに利根君の体温を感じて、私はくすぐったい気持ちになった。ずっとこうして利根君の隣りにいられたらいいのに―――


「利根君」


 私は聞き覚えのあるその声に、思わずドキリとして顔を弾かれた。振り向くとそこには水原さんが立っていて、苦しそうに私達を見ていた。


「こんな所にいたのね、探したわ……ちょっと、いい?」


 途端に苦しくなる心臓。


「何かあったの?」


 首を傾げる利根君に、水原さんは近づいて腕を取った。その様子に胸がツキンと痛む。


「話しがあるの。少しでいいから、付き合ってもらえないかしら?」


 きっとこの間の告白の返事が欲しいんだと思った私は、立ち上がって林道の向こうを指差した。


「えっと、何か大事なお話みたいだし、私は違う所で見て来るね」

「待って、行かないで小日向さん」

「え? でも……」


 驚いて足を止め、海の上に浮かぶ花火をバックに佇む利根君とじっと私を睨む水原さんを振り返る。


「水原さん、ごめんね。俺は……君の気持ちに答えられない」

「……どうして?」


 水原さんの声が微かに震えている。私はどうしていいか分からず、ただじっと息を潜めてその場を見守っていた。


「俺は君を好きにならないから」


 花火の音の隙間からはっきりと聞こえた利根君の答えに、私は驚いた。もちろん私だけじゃない、言われた本人である水原さんも驚いた顔をしている。

 けれどすぐに見開いた目を元に戻し、利根君から視線を足元に落とした。


「――随分はっきりと言うのね……でも、それにも理由がある、という事かしら?」


 すごく傷ついた顔の水原さんに、利根君は無言で頷く。


「分かったわ。それじゃあ、失礼するわね」


 最後にもう一度私を睨んだ水原さんは潔くその場を去って行った。











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