チェンジ・ザ・ワールド☆
鬼頭13日目・No.3
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私のやんごとなき王子様
「すみません、疲れてらっしゃるだろうと思って起こさなかったんです……」
「座れ」
「は?」
少し乱れた髪を手櫛で整え、先生は私の前に丸椅子を寄越した。一瞬戸惑ったけど、言われた通り椅子に座る。
じっと私を見る鬼頭先生の視線が思いのほか真剣で、恥ずかしくなった私はふいと顔を反らした。
一体どうしたっていうんだろう。また何かからかうネタを考えてるのだろうか?
「例えば、だが」
「はい」
体ごと私と向き合うと、先生は急に話し出した。
「俺がお前を好きだと言ったらどうする?」
「―――はいいっ!?」
ガシャン! と音を立てて私は椅子から腰を浮かせた。
またこの人は私をいじめて遊ぶつもりなんだ。
すぐにまた椅子に腰を降ろして、私は肩もついでに落とす。
「はあ……先生。その冗談はちょっと悪質です」
「例えばと言っただろう? 答えられないのか?」
ジロッと先生を睨んで、私はもう一度大げさにため息を吐いた。
「嬉しいですよ。嫌われるよりやっぱり好かれた方が嬉しいですし」
投げやりに言ったけど、本当は心臓がおかしくなりそうな程鳴っていた。
だって私は鬼頭先生の事が好きなんだから、冗談でもそんな事言われたら嬉しいに決まってるじゃない! もう、心臓に悪い人だなあ!
「そうか……なら問題ないな」
「え? どういう事ですか? ―――わあ?!」
私は椅子ごと先生の側に引っ張られた。目の前に鬼頭先生の綺麗な顔があって、どこを見ていいのか分からず忙しなく視線を泳がせる。
「なっ、何してるんですかっ!?」
「何を? そうだな、お前はどうしたい?」
この人は一体何を言っているんだろう?
私は混乱し、少しでも離れようと先生の胸の辺りを両手で押した。
しかしその腕を簡単に掴まれてしまい、脱出は失敗に終わった。
「前にお前は言ったな? 愛情不足を補えば俺の性格も変わる、と―――」
合宿中に一緒に行った夜の海辺での会話を思い出す。
確かに私はあの時、悲しい過去を語ってくれた先生にそう言った。
無言で先生の目をおずおずと見つめて頷くと、先生は私の腕を引いた。
「ならお前が補え……俺の不足分の愛情を――――いや、お前にしか出来ない。どうだ? やってみるか?」
「先、生……」
気付けば私は先生の腕の中にいて、そのさらりとした黒髪が私の頬に当たっている。
ドキドキしていた心臓は急に元気を失って、冷たく冴えた頭で先生の言葉を理解していた。
先生は、私に自分を愛するようにと言っているんだ。だけど……私でいいんですか?
「おい。返事は?」
「あっ! は、はい!」
黙ってしまった私の顔を覗き込み、先生がいつもの冷ややかな目で答えを急かす。
弾かれたようにその目と対峙して、私は微笑んだ。
先生が私に補えと命令したんだ。私にしか出来ないって。それなら私でいいって事だよね。
「私がいくらでも補います。先生がいつも笑っていられるように」
「……そうか」
ふっと笑った先生の顔は今まで見たこともないほど優しくて、私は目を奪われた。
今までの事も含めて、苦手だった鬼頭先生の事を良く知ろうとしなかった過去をちょっと後悔したけど、でもそれはこれから埋めて行けばいい。
演劇祭は私に最高のプレゼントを与えてくれた。
これから大変な事がたくさん待ってるだろう。でも、私は負けない。
この愛しい人を守ると、そう決めたから。
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