アットウィキロゴ
チェンジ・ザ・ワールド☆
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

チェンジ・ザ・ワールド☆

少年兵

最終更新:

streetpoint

- view
管理者のみ編集可
少年兵













 ベニーランドの貧困街は、相も変わらず胡散臭い連中で溢れ返っていた。

 右を見ても左を見ても、陰気くさい顔をした男女が、しみったれた腐りかけの看板を掲げる店に出入りしては暗号のような会話を交わす。

 そこが一体何の店なのか、一見しただけでは分からないのだが、案外真っ当な商売をやっている連中が多いからこれがまた面白い。

 朝でも薄暗いこの路地を、シンは1人で歩いていた。数週間前に入った仕事が全て終わり、依頼人にターゲットを無事引き渡した帰りなのだが、喜んだ依頼人に酒を勧められたために朝になってしまった。

 こういう面倒な時に限ってカッツは先に帰っていて、シン1人で依頼人の相手をしなくてはいけなかったりする。

 カッツの野性的感はそういった方向にもよく働くようだ。

「よお、シン。朝帰りとは相変わらずお盛んなこって」

 顔なじみのカフェの店主に店先で声をかけられ、シンは苦笑する。

「違うよ、仕事帰りだ」

「はははっ、よく言うぜ。たらしのシン様がよぉ」

「あー、はいはい。コーヒー1杯な」

 オープンテラスと言えば聞こえは良いが、店内の面積が猫の額ほどしかないそのカフェは薄暗い路地にはみ出してテーブルを置かねばならない。おかげで自然と外に座る形になる。これを店主は無理矢理オープンテラスと呼んでいる。

 シンはそのオープンテラスに無造作に置かれた椅子に腰掛け、店主のブルースが煎れる安物のコーヒーの香りを嗅ぎながら空を見上げた。

 実はこのブルースが先ほど言った『たらし』という単語は隠語になっていて、MBとの仲介役をしているブルースが依頼の情報を伝えたい時に使う。

 ちなみにカッツやルーズが相手の場合、この隠語は変わる。カッツの時は『いい女いるぜ』で、ルーズの時は『いい酒入ったぜ』だ。ブルースが相手に合わせて皮肉を隠語にしているらしい。

「ふう。相変わらずここはジメジメしてるな……」

「そりゃあ仕方ないさ。ここはベニーランドだ。俺達みたいな人間が必死こいて生活したところで、上に行くには知恵も度胸も無さ過ぎらあ」

 独り言を呟いたつもりがブルースに聞こえていたらしく、返事が聞こえてきた。

「今日は上で夢を見てた連中も、明日にはこの下町で新聞紙を布団代わりにしてるかもしれない。ここはそういう所さ。あんたらみたいに自分たちから進んでこんな所に住もうって変わり者もたまにいるがね」

 そう言ってブルースは豪快に笑った。朝から元気がいいことだ。

 そしてシンの前に暖かいコーヒーを置くと、自分も隣りに腰掛けて上を見上げた。

 相変わらず上はきらびやかで美しくて、近代的なビルが品よく立ち並んでいる。

「で?」

 一口コーヒーを飲んだシンがブルースに尋ねる。

 ブルースはすうっと小さなCDをテーブルの上に置き、ため息を吐いた。

「リドヒムかららしいが、これを届けてくれたヤツの話しでは、あっちはかなりヤバい状況だと……」

 リドヒムと聞いて、シンは一瞬戸惑った。そしてゆっくりと受け取ったCDを上着のポケットに仕舞い、目の前を通り過ぎて行く人の流れに視線を向けた。

「あそこの情勢はいまだ不安定だからな」

 過去の映像と同時に嫌な思い出もよみがえり、シンは胸の奥がチリチリと痛むのを感じた。

「半年程前に一度派手にやりあってから、また治安が不安定なんだろ? 新聞で読んだよ……戦争か。結局どこへ行っても人間のやることは大昔から変わらないよなあ。宇宙に出ても、地球にいた頃の食べ物や飲み物を必死こいて作って食ってるんだし」

 ブルースの言葉を聞きながら残りのコーヒーを飲み干すと、代金をテーブルに置いて立ち上がる。

「ご馳走さん」

「ああ、またいつでも飲みに来な」

 笑顔で言うブルースに別れを告げ、住み慣れた廃ビルを目ざして歩き出した。

 薄暗くて狭くて臭いこのベニーランドの下町でも、あそこにいるより数百倍ましだ。

 そう、シンが生まれ育った惑星『リドヒム』は、何十年も前から内戦が続く、地獄のような星。地獄など見た事はないが、もし存在するとすれば、それは人間の残酷さそのものだとシンは思う。

 そして戦地が地獄なのだと痛烈に感じる。

 人間ほど残酷で優しくて脆くて強い、不可思議な生き物は存在しない。愛を訴える一方で生きる為に平気で人を殺す。矛盾しているくせに法則的だ。

 物心ついた頃には銃を握らされ、家族を守る為に人を殺して来た。シンはそんな生活がずっと嫌だった。

 いつか戦争などない世界で暮らしたいと願いながら、それでも家族の為にリドヒム政府軍の特殊部隊に13歳で入隊した。

 どうすれば人を簡単に殺せるか、ありとあらゆる武器の扱い方を叩き込まれ、戦術を学んだ。

 戦場では狙撃手をしていたシンは“ヘイズのシン”と渾名を付けられていた。まるで霧のようにいつの間にか現れ、敵を狙撃して去って行く事からそう呼ばれていたらしい。

 その家族もシンが15歳の時、戦争とは関係の無い、交通事故で全員死んでしまった。もう軍にいる理由は無かったが、出て行った所で行く場所など無いシンは、軍に身を起き続けた。

 そんな事がいつしか引き金を引く事に無感情になりつつあったシンは、自分を見失いそうで怖かった。

「ふう……」

 リドヒムへは軍を去ってからのこの6年、一度も訪れていなかったのだが、今回は仕事だからそうも行かないだろう。

 最近のリドヒムは戦争の行なわれている地域が限定されていて、以前よりは幾分戦地が縮小されているらしい。この5年でどれほど姿を変えたのか、少しだけ様子を知りたいような気もした。

 深いため息を吐き出すと、丁度下町の一番外れにあるMBの住処である廃ビルが見えて来た。

 いつ見てもみすぼらしくて、自分たちに良く似合う。瓦礫と呼んでも遜色のない入り口に体を滑り込ませ、シンは階段をゆっくりと降りて行った。









 ****








 カッツはまだ寝ているらしく、リビング……と勝手に言っている中央の部屋のソファーにはルーズが1人で座っていて、美味しそうな朝食を食べていた。

「お帰り。お酒に付き合わされたんですってね、ご苦労様……あ、何か食べる?」

 シンが階段を降りて来ると、そちらを振り返って声を掛ける。

「いや、自分でやる」

「ふうん。珍しい」

 硬そうなフランスパンをがぶりとかみちぎりながら、ルーズはシンを見て微笑んだ。

 いつもやろうと思うより先にルーズがしてくれるおかげで料理当番をする事が少なくなったが、元々カッツと2人しかいなかったのだ。シンもそれなりに料理は作れる。それに、特殊部隊に所属していたおかげで生きる為に何でも食べて来たシンは好き嫌いがないし、カッツに至ってはその辺に生えている雑草や木の根っこを食べても腹を壊さない程頑丈に出来ている為、ご馳走などなくてもいつも満足出来る、素晴らしい腹具合をしている。

 キッチンで適当に卵やベーコンを焼いて、先ほどルーズがかじっていたフランスパンの残りにオリーブオイルを軽くかけて塩を振ると火で炙る。

 出来上がった料理を皿に乗せ、ルーズの向かいのソファーに腰を降ろすと、ブルースから受け取ったCDをルーズの前に差し出した。

「戻って来る途中にブルースからもらった」

「新しい依頼?」

 CDを手にとって食後の紅茶をすするルーズがチラリとシンを見る。

 無言で食べ進めるシンの様子に、ルーズはノート型端末にCDを入れて再生した。

「随分映像が汚いわね」

「リドヒムからの依頼らしいが、情勢が不安定だからちゃんと録画出来なかったんだろ」

「一時期は落ち着いていたのに。半年前の戦闘以来、また不安定なのね。あ、映った」

 映し出される映像は不鮮明で、かなりノイズが走っていた。耳障りな雑音の隙間に、13、4歳くらいの男の子の姿が映し出される。

『……が……どうしても、会いたい人、いるんだ……ヘイズ……シン……』

 ピクリと手を止め、ルーズとシンは同時に顔を見合わせた。

 少年は続ける。

『ーーーたいんだ……だから、シンに会って……たいーーー』

 苦し気な表情でそう言う少年の手に、自動小銃が握られている事にルーズは気付いた。遠くで銃声のような音も微かに聞こえている。

『て、る……シン。会いに来てーーーくは、チェイスJr.。父さんは、死んだ……探して欲しい。ヘイズ……』

 ガタン!

 急にシンが立ち上がり、じいっと画面の少年を凝視した。そしてすぐにくるりと身を翻し、階段へと向かう。

「ちょっと、どこ行くの?」

「ーーー今回の仕事はオレ1人で行く」

 いつになく険しい表情のシンに、ルーズは嫌な予感を覚える。

「1人でなんて行かせられないわ。この男の子が言っているシンって、あなたの事なの? ヘイズって何? あなた確かリドヒム出身よね?」

「チェイスが死んだって……オレの所為だ……だから、オレが行かなきゃ」

「シンっ!?」

 そう言い残し、シンはすごい勢いで階段を駆け上がって行った。ルーズは慌ててシンを追いかけようとしたが、先ほど再生していたCDから大きな爆発音と叫び声が聞こえて来て足を止める。

 すぐに画面の前に戻り、巻き戻した。

 少年がシンを探して欲しいと訴えた直後、建物の向こう側で爆発音が響き、閃光が走った。そしてたくさんの人の悲鳴と銃声。市街地で撮影されたらしいその映像は、それを最後に途切れてしまった。

 ルーズは急いでカッツの部屋へと階段を昇る。









 ドンドンドン!!

「カッツ、起きて! シンが1人でリドヒムへ向かったの! カッツ!!」

 ドンドンドン、ガンガン!!

 拳では追いつかないと思ったらしいルーズはドアを激しく蹴る。

 ガンガンガン!

 ガチャリーー

「……うるせーな。俺は低血圧なんだ。もちっと静かに起こしてくれ」

 のそりとドアを開けたカッツに、ルーズが声を荒げる。

「ただの二日酔いのクセに何言ってるの、すぐにシンを追いかけるわよ!」

「ああ? シンがどうしたって?」

「だから、1人でリドヒムに行ったって言ってるでしょ!?」

「子どもじゃねーんだ、ほっとけ……あと5分したら起きるわ。朝食はフレンチトーストでお願いしーーーうわあっ!?」

 再び部屋の中へ戻ろうとしたカッツの襟首を掴み、ルーズは強引に廊下へと引きずり出した。

「寝ぼけてるんじゃないわよ、いいから行く! 眠いなら船の中で寝てなさい!」

「いたたたっ! ル、ルーズさん? 暴力反対っ」















 カッツとシンが知り合ったのは今から7年程前の事。

 宇宙ではエンドを基点とした新たな惑星を手に入れるべく、意味の無い戦争が繰り返されていた。

 地球を滅ぼしたその兵器と欲望をそのまま宇宙へ持ち込み、毎日のように人や宇宙船の残骸を宇宙へまき散らす日々に人々もいい加減嫌気がさしていた頃、たまたまカッツが所属するエンド軍部隊が、リドヒム軍からの要請を受けて派遣された時に知り合った。

 ただでさえ宇宙のあちこちで戦争が激化していた当時、内乱で政治的にも不安定状態が続いていたリドヒム惑星政府が、内乱の首謀者を含む反政府軍を一掃する為にエンドに応援を要請したのだ。

 シンはリドヒム軍特殊部隊の斥候として、指揮を取るカッツを隊長としたエンド軍と組んで前線に借り出されていた。

 その時の事は今でも鮮明に覚えている。

「とにかくすげー男前でさ、それだけでムカつくのに銃の腕も半端無いときやがった。百発百中ってやつだな。俺が殺せと命じたヤツは、どんな不利な状況でも必ず殺してくれた。ヘイズってのはシンの通り名だよ」

 カッツから語られる昔話に、ルーズは何とも言えない気持ちになった。



 今までこの3年間生活を共にしてきたというのに、ルーズはカッツやシンの過去をほとんど知らない。恐らく過去の記憶が無いルーズの事を気遣って、2人は極力そういった会話をしないようにしてくれているのだろう。2人が出会った頃の事を聞くのはこれが初めてかも知れない。

「このガキがチェイスJr.って事は、親父はシンが当時組んでいたチェイスで間違いないだろうな。スナイパーは2人一組で行動する事が多い。狙撃手と観測手の2名だ。チェイスはスナイパーとしての腕もかなりのもので、目標までの距離、風向、障害物など、あらゆる状況を的確に判断してシンに引き金を引く最高のタイミングを伝えてた」

「どちらも一流だから、斥候として使ってたのね」

「残念だが俺の部隊の狙撃手ではシンやチェイスの足元にも及ばなかったからな……チェイスには1人息子がいて、写真を見せてもらった事があったな。戦争が続いてたからチェイスが持ってた写真もまだ3歳くらいのだったが、子どもが笑って暮らせる世の中にしたいから、早く反政府軍を掌握して戦争を終わらせたいってよく言ってたよ」

 宇宙を走る小型宇宙船の中で、どんどんと流れて行く星を横目にカッツとルーズは息を吐く。

 子どもが笑って暮らせる世の中にしたいから敵を倒したい。という思いは相手も同じだろう。

 敵、味方。そのどちらの気持ちも理解しなければ、戦争などいつまで経っても終わる事はないとルーズは思う。暴力で解決する事など何もないと、今までの歴史で嫌という程学んだはずだ。

「シンはチェイスが死んだのはオレの所為だって言ってた。どういうこと?」

「ーーーある日、俺の部隊は前線から一旦後方へ下がって隊を組み直してた。シンは俺に着いていて、チェイスは別のスナイパーと組んで見張りに出てたんだが……敵の基地に近づきすぎたチェイス達は逆に狙撃されたんだ。仲間は死亡。チェイスはなんとか逃げて来たが、目に怪我を負った。シンは自分が一緒に行っていればチェイスは怪我をせずに済んだし、仲間も死なずに済んだと言ってひどく落ち込んでやがったよ」

「でも、それはシンの責任じゃないでしょ?」

「まあ、俺の所為だな」

 おどけたように言うカッツを、ルーズが睨む。

「冗談だ……そう、シンの責任じゃねえ。だがその後、俺の命令を無視して突っ走ったシンとチェイスは、市街地での戦闘でミスを犯した。シンは、女の、しかも子どもを撃ち殺してしまったんだ……初めてシンは戦争で敵以外の一般人を手に掛けてしまった。それ以来、スナイパーとしても軍人としても使い物にならなくなっちまったんだよ。引き金を引く時に、どうしても少女の顔がちらついて、打てなくなっちまったーーー」

「だからシンは銃器系のものを一切扱わないのね……」

 いつもカッツとルーズの2人だけしか、銃を改造した道具を扱わない。シンは手袋に仕込んだてぐすを使ってターゲットを捕まえたり、進路を塞いだりする。

「それから1年後くらいにリドヒム軍が反政府ゲリラの首謀者を取っ捕まえて、一時的に内乱も治まった。それで俺達エンド軍は撤収し、後はリドヒムに任せて戻った。俺は使い物にならなくなったシンを、チェイス共々リドヒム軍から自分の部隊に無理矢理引き抜いて連れて来ようとしたが、チェイスは子どもがいるからと言って断ったんだ。で、シンの野郎だけ連れて帰った。それから俺もいい加減戦争に飽き飽きしてたから、シンと仲良く退役して今に至るって訳だ」

 一度欠伸をしてカッツは続けた。

「シンはずっとチェイスを残して来た事を心配してたからな。俺は気にする事ないって言ったんだが……。別に強制させられて軍に入る訳でも、反政府組織に加わる訳でもない。てめえで選ぶ事は出来るんだ。一般人だってそこから逃げ出そうと思えば逃げられる。が、金がなかったり頼る相手がいなかったりするから毎日頭の上でドンパチやってる街で生活してるだけだ……チェイスが怪我をしたのも、リドヒムに残ったのも、死んだ事も、ましてやリドヒムに生まれてしまった事も全てシンの所為じゃない」

「……後悔してたって事?」

「後悔とは少し違うな。シンはずっと人を殺す事に疑問を持っていた。それが、ガキを撃ち殺した事で疑問が確信に変わったんだ。銃が二度と握れなくなる位に、あいつは人の命を奪う事の恐ろしさを己で感じたのさ。誰かを殺すくらいなら、殺された方がましだってな。だから、チェイスを残して来た自分を責めているんだ」

「後悔と自責、ね。似たようなものだと思うけど」

 皆それぞれ思いを抱えて生きているのだと、ルーズは痛感した。

 シンやカッツの選んだ道は決して間違いではないと思うし、もし自分の過去が思い出されるのであれば、彼らのような選択をしていて欲しいと強く願う。

 チェイスJr.はシンの相棒だったチェイスの息子だろう。

 少年は父親と同じ選択肢を選んだのだ。

 武器を取り、誰かの命を奪う事で生きるという選択肢を……

 シンはチェイスJr.に会ってどうするつもりなのだろうか。ルーズは沈潜した。








                               続く…





次へ → 名誉のため

一つ戻る → 途絶える


お帰りの際は、窓を閉じてくださいv
Minimum Boutトップに戻る
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー