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タイム・リミット

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タイム・リミット














 季節は秋。

 読書の秋、スポーツの秋、食欲の秋、エトセトラ……

 そんな楽しい秋なのに、雪緒の目の前で突っ伏す男、桃城武には辛い季節……らしい(本人談)

 雪緒はさっきから何度もため息を吐く桃城をちょっと鬱陶しいと思いながら、それでも黙って話を聞いてやっていた。


 これで何人目? え~っと、ひい、ふう、みい……


 中高一貫の青春学園の名門テニス部でレギュラーを務める桃城は、もちろんモテる。

 バレンタインとか誕生日とか、そういったイベントの度に山のようにプレゼントをもらっているのを何年も見てきた。

 でも3年の先輩方にもっと最強な人が何人もいるから桃城のは少ない方らしい。

 それでも雪緒から見れば十分すぎるほどの量だし、贅沢な悩みだと思う。


 何の縁か、中等部から5年間ずっと同じクラスになり続けたおかげで、桃城とはがっつり友情を築いてしまっていた。

 友情故にこうやって振られた可哀想な桃城を慰めてあげるのも雪緒の仕事の一つとなってしまっていた。


 放課後の教室はもう誰もいなくて、雪緒は生徒会の書記をしていてこれから仕事があるのだ。

 ついでに言うと、桃城は先日引退した3年に変わって中等部時代同様副部長になっている。だから今日も部活に行かなければいけないはずなのだが、どうもそれどころじゃないらしい。

 海堂新部長が切れている姿が目に浮かぶ。


「桃……」


 もういい加減生徒会の仕事に行きたいなあ。などと思い、なるべく優しく声を掛けてみる。


「ーーーあんだよ」


 何故話を聞いてあげている雪緒に対して切れ気味なのか分からないが、桃城の機嫌は治っていないらしい。

 仕方ないとため息を吐いて、雪緒はしっかりと立てられた桃城のツンツン頭を優しく撫でてやった。


「あ~。よしよし。元気出しな? きっと桃の事ちゃんと分かってくれる素敵な女の子が現れるよ」

「ーーーそのセリフ5回目」


 数えるなっ! っていうか、覚えてるか、普通?


 雪緒は机の上に置いている自前の小さい置時計に目をやり、もう一度慰めてやる。


「何回でも言ってあげるからさ。本当に桃の事分かってくれる女の子が現れるまで…………だから、もうそろそろ手を放せ」


 そう、雪緒はここに桃城がやって来た時から逃げないようにしっかりと左手首を握られたままだった。


「お前なあ! 親友がこんなに落ち込んでんのに、放せってなんだよ、放せって! それにさっきの言葉だって心がこもってねえんだよ!」


 急に顔を上げた桃城が雪緒に噛み付きそうな顔で怒りをあらわにする。

 そんなちょっとイタイ桃城に、雪緒は冷めた視線を浴びせる。


「っ……あんだよ?」

「元気じゃん」

「お前の所為で傷心が吹き飛んだんだよ!」

「良かったね」


 ニッコリ笑ってやると、桃城はパッと手を放した。


「あ~もうやってらんねえ! 普通友達が振られて落ち込んでたら話聞いて優しい言葉かけるだろ?」

「桃の場合高校に入ってからこれで……7人目だもん。いい加減学習しない桃に嫌気がさしてきた」


 そう、これで7人目だ。思い出した。


「ひで~な! ひで~よ!!」

「はいはい、分かったから早く部活行きなさいよ、副部長さん」


 鬼! 人でなし! という罵声を聞きながら、雪緒は鞄を持って教室を出て行った。














 「付き合ってられないよ」


 桃城は確かに良い奴だ。

 あっさりした性格で、細かい事を気にしない。それでいて面倒見が良く視野も広い。明るいおかげでクラスではいつもムードメーカー的な存在で、場を盛り上げることに命を掛けているから皆に好かれる。

 ちょっと短気なところは玉に傷だが、高校生になってからはそれも随分落ち着いた。

 約一名テニス部部長の海堂薫とはライバルだから表面上は仲が悪いし、相手が海堂だとすぐに切れるが。

 顔を合わせれば何かと張り合って、突っかかったりおちょくったり……雪緒の目から見れば、それはもう毎日楽しそう。

 そして桃城は高校に上がって彼女も出来だして、雪緒も少しは落ち着けるかと思っていたのに、彼女が出来たと騒いで毎回雪緒の所にやって来ては今度は振られたと言って泣きついて来る。

 いくらアドバイスをしても聞いているのか聞いてないのか、よくもって1ヶ月。最短では1週間で振られたというのもある。


 何がしたいのかさっぱり分からない。



 ーーーああ。そうか。



 雪緒は廊下を歩きながらふと窓の外へ視線を移した。

 桃城もやっぱりただの男という訳か。


「最低だな、桃城武」

「汐屋」


 侮蔑を思いっきり込めて呟いてやると、廊下の先から名前を呼ばれ雪緒は顔を上げた。

 そこは生徒会室の前で、生徒会長の大石がこちらに向かって手を振っていた。


「すみません、遅くなってしまって」


 すぐに表情をよそ行きモードに変換すると、雪緒は大石に駆け寄る。


「いや、大丈夫だけど。もしかして何か用があった? 引き継ぎなら今日じゃなくても明日でもいいよ。徳島は始めてるけど明日にしようって言えるし」


 ああ、なんて優しい先輩なんだろう。桃城と大違いだ。


「全然。ちょっと面倒くさいの(桃城)に捕まってただけなので」

「そう? それならいいんだけど……じゃあ、始めようか」

「はい」


 隣りの大石をチラリと見上げる。

 トクンとなる心臓。

 雪緒はこの優しくて頭のいい先輩を尊敬していて、そして密かに恋をしていた。

 今までは生徒会という接点があったが、これが無くなればもう話す機会もなくなるだろう。3年は来月の選挙が終われば引退するのだ。

 桃城の付き合いで何度かテニスの試合を見に行った事もあった。

 中等部時代から数えたら10回以上にはなると思うが、なにせイケメン揃いの青学テニス部だ。試合の時は応援に来ている女の子の数が半端じゃなくて、雪緒は出来るだけ行かないようにしていた。

 その時大石の試合も見た事がある。中等部の頃は何とも思わなかったのだが、高等部に上がって生徒会で一緒になってからどうやら好きになったらしい。

 このルックスでおまけに頭も常に学年トップ。そして絵に描いたように紳士で優しい。

 モテない訳が無い。

 だが、気持ちを伝えるつもりはない。

 桃城が何度も振られるのを見ていて、雪緒は恋愛に対して酷く悪い印象を持ってしまっていたのだ。こうやって見ているだけで十分だと思う。


「ああそうだ。ちょっと資料が多いから、引き継ぎに時間が掛かるかもしれないんだけど、時間大丈夫か?」

「はい、全然大丈夫です」

「そう。帰りは送って行くから、心配しなくていいよ」

「え? いえ、そんな、大丈夫です」


 焦る雪緒に、大石はいつもの爽やかな笑顔で言う。


「女の子が一人で帰るのは危ないよ」


 普通に女の子として扱ってくれる大石に、雪緒はまたトクンと胸が熱くなる。


「ーーーありがとうございます」














 大石の言う通り、作業が終わったのは19時を回った頃だった。

 本来もう一人ずついる書記と会計は、昨日少し仕事をして残りを全部雪緒たちに押し付け、結局来なかった。


「あちゃ~。こんなに遅くなるなら早めに途中で止めて明日に回せば良かったな」


 すっかり暗くなった窓の外を見て呟く大石に、雪緒は隣りで一緒に作業をしていた同級生で会計の徳島と顔を見合わせた。


「あいつら来なかったですからね。でも早く終わらせられて良かったじゃないですか。いつまでも先輩方に頼りっぱなしではいけないですから」

「はい。来月の生徒会選挙までにはきちんと引き継ぎ済ませておきたかったですし、問題ありません」

「真面目な後輩で助かるよ。選挙前で監査の方から早く引き継ぎを済ませてくれってせっつかれててね……急がせて悪かったな。さ、帰ろう」

「「はい」」


 立ち上がった大石を真似するように雪緒達も立ち上がった。



 校門を出てしばらく3人で歩く。

 会話の内容はもっぱら来月行なわれる選挙の話だ。雪緒はなるべく話題に参加しないように、黙って2人の話を聞いていた。


「汐屋立候補しろよ」


 徳島に言われて雪緒は顔をしかめた。


「え~。嫌だ」


 言われるだろうと思い、極力会話に混ざらなかったのに、徳島に恨みを込めた視線を投げて言った。


「何で? 汐屋なら会長任せられるし、きっと当選すると思うけど」


 大石までもがそんな事を言う。

 元々雪緒は生徒会に入るつもりなどなかった。ただ、風邪で休んでいた日に勝手にクラスの連中が立候補者を書く用紙に雪緒の名前を書いて提出していたのだ。

 もちろん抗議をしに行ったが受理された後でもうどうしようもなく、仕方なく落ちる気満々の演説をやったら逆にそれが受けてしまい、見事書記に当選してしまったのだった。

 いい加減な学校と生徒に、賛美の言葉を差し上げたいくらいだ。

 別に仕事自体はやり始めたら案外楽しくて、何より大石と知り合えたし、出だし以外は文句はなかった。

 だが大石が卒業してしまう来年、生徒会に居続ける理由はない。


「私みたいな無責任な人間が生徒会の仕事をやれている今が奇跡ですから」

「そんなことないよ! 汐屋しっかりしてるし仕事も早くて丁寧だし、なあ、徳島?」

「はい。俺もそう思います」


 2人してそんなにプッシュされても、本人のやる気が無いのだから仕方ないと思う。


「ーーーまあ、一応考えておきます」


 その後は違う会話にさりげなく移した雪緒の手腕で選挙の話は出なかった。



 そして徳島が途中で別れ、雪緒と大石の2人だけになった。

 こうして一緒に帰ることは何回かあった。

 一年の時は風紀委員をやらされていたので、帰りが遅くなった時は部活帰りの桃城とよく帰っていた。だが2年になって生徒会に入ってからは、たまに大石が家まで送ってくれた。帰りに話すテニスや勉強の話に、雪緒は大石の真面目さと誠実さを知って惹かれた。

 チラリと見上げる大石の顔に、またトクンと胸が鳴る。



 中学の頃、雪緒は桃城の事が好きだった。


 しかし自分の事を友人としてしか見ていない桃城に気付き、想いに鍵を掛けた。

 それから高校になり、嬉しそうに彼女の話をする桃城に、雪緒は傷つきながらもやっぱり見放す事は出来なくて、話を聞いていた。

 振られて泣きついて来る姿も、最初のうちは可哀想だと思い真面目に相手をしていたが、いい加減4人目辺りから疲れてきていた。

 その頃は雪緒も大石という新しい恋の相手がいたし、本当に桃城とはただの気の合う友人として接していたから、学習能力の無いその友人にほとほと呆れていたのだ。


「ねえ、汐屋」

「あ、はい?」


 ぼんやり昔の事を思い出していると、大石が話しかけてきた。

 先ほどから会話はしていたのだが、雪緒はどことなく上の空だった。


「疲れたんじゃないか? なんだかぼーっとしてるみたいだし」

「え? いえ、そんなことありません。ちょっと、考え事をしていただけなので」

「そう? それならいいんだけど……悩みがあるなら、俺でよければいつでも相談に乗るよ」


 そう言った大石の顔を見上げ、雪緒は苦笑した。


「はい、ありがとうございます」

「あれ? 俺、何か変な事言ったかな?」


 雪緒が笑ったので、大石は戸惑ったらしい。

 まさか自分の事を雪緒が好きだなんて、思いもしないのだろう。


「いいえ。大石先輩は優しいですね」

「そ、そうかな?」


 照れる大石に、雪緒は自然と思いを口にしていた。


「私、優しい大石先輩の事好きですよ」

「えっ!?」


 これには言った雪緒本人も大石も驚いた。

 慌てる雪緒。


「あっ、いや、そのっ。そういう意味じゃなくて、尊敬してるっていうか、頼りになるっていうかっ……」


 しどろもどろに言い訳をする雪緒の腕を、大石が取った。


「っ!?」


 驚いて大石を見上げると、困ったような顔で視線を横に逸らしたまま言った。


「俺は……汐屋の事、好きだよーーー」

「ーーーーえっ?」


 雪緒は大石の顔を見つめたまま動けなかった。


 うるさいくらいに心臓が鳴っていて、顔が熱い。


 大石が握った手がまるで自分の手じゃないみたいに重たくて、きっとそこから雪緒の異常な心拍数が伝わっているはずだ。


「その、で……良かったら……」


 大石が何か言おうとしたその時だった。


「汐屋!!」


 突然大声で名前を呼ばれ、雪緒と大石はびくりと肩をすくめて声の主を振り返る。


「……桃?」


 大石はそこでぱっと手を放すと、走ってやってきた桃城に慌てる。


「ど、どうしたんだ、桃。えらく慌てて……」

「すんません、大石先輩。そいつちょっと借りていいっすか?」


 そいつ。


 つまり雪緒のことだ。


「え?」


 桃城はどちらの返事も待たず、雪緒の腕をぐいと引っ張ると早足で歩き出した。


「ちょっ、ちょっと桃! 痛いっ! ってか大石先輩に失礼でしょっ?」


 振り向くと大石は呆然と立っていた。


「うるせー。話があるんだよ」

「私は大石先輩と話してたのよ!?」


 角を曲がって大石の姿が見えなくなると、雪緒は無言でどんどん進む桃城を見上げた。

 止まる気配のない桃城に、怒る。


「桃!」


 何度目かの角を曲がった所で、漸く桃城は立ち止まった。

 腕を掴む力が弱まった所で雪緒は腕を振り払う。


「もうっ! 一体どうしたの?」


 ずっと俯いて何も言わない桃城に、今度は逆に怒りが失せて行った。


 はあ~~~。相変わらず何を考えてるのか分からん男だなあ。


 桃城が声を掛けてきた時、雪緒達の後ろ側だった。

 恐らく学校を出た時間が同じ位だったのだろう。

 雪緒はまだ振られた事に落ち込んでいるのだと思い、優しく言った。


「どうしたの? 黙ってても分かんないよ」

「お前……」


 すぐに言葉を噤むと、桃城はこちらを振り向いた。

 今にも泣き出しそうな情けない顔をしている。

 彼女に振られた時もこんな顔をした事は無かった。

 ドキッとする雪緒。

 無言で桃城が話すのを待っていると、雪緒の肩に手を置いてまた項垂れた。


「ーーーお前、大石先輩の事好きなのか?」

「え?」


 先ほどの会話が聞こえていたとは思えない。遠くから走ってきたのだから。

 ということは、雪緒と大石の雰囲気を遠目に見てそう感じたのだろう。

 雪緒は目の前の桃城の頭に向かって呟く。


「……そうだよ」

「ーーーなんでだよ……」

「は?」


 何故なんでだよと言われるのか分からない。


「なんで……俺じゃないんだよ」

「はあ?」


 とんでもない事を言う親友に、雪緒は驚く。


「何言ってんの? だって、桃、彼女……」

「お前にヤキモチやかせるために決まってるだろ! 彼女なんて本当は一度も作った事ねえよ!」

「はあっ!?」


 顔を上げて睨む桃城を、雪緒は目と口を大きく開けたまま見る。


 言っている意味が分からない。


 桃城は雪緒の肩に置いた手を下ろし、苦しそうに言った。


「俺、ずっとお前の事が好きだったんだ。もしかしたらお前も俺の事好きなんじゃねえかって思ってたのに、お前はいつも普通だし、何考えてるのか分かんなかったから……だから、彼女が出来たって言ったらもしかしたらお前が嫉妬してくれんじゃねーかって……だから、今まで付き合ったって言ってた子達とはただ仲良くしてただけで、本当に付き合ってた訳じゃねえんだ」


 馬鹿すぎる。


 雪緒は桃城のお馬鹿さ加減に、言葉が出なかった。


 そんな事知らなかったし、もう遅い。


 だって、雪緒は大石の事が好きだから……


 確かに最初は嫉妬していた。

 だがそれももうすべて遅いのだ。


「ーーー桃の馬鹿」


 それだけ言うと、雪緒は桃城を置いて歩き出した。


「お、おいっ、待てよっ!」


 慌てて追いかける桃城。

 また腕を掴まれ、雪緒は動けなくなった。


「もう……」

「え?」

「もう、遅いよ・・・・・・馬鹿桃」

「なんだよそれ、どういうことだよ?」


 どうしてもっと早く言ってくれなかったのだろう。

 これではもう友人にも戻れない。

 そしてまた桃城の事を好きになんてなれない。


「私も、ずっと桃の事好きだった……でも、桃がいつも彼女が出来たとか、振られたとか言うのを聞いて、すごく傷ついてた……」

「ーーー」


 桃城は無言だ。


「でも、彼女出来たって聞いてから、何度も早く諦めて友達として接しなきゃって思って、すごくすごく苦労してやっと桃の事をただの仲のいい友達だと思えるようになって、大石先輩の事好きになったのに、それなのに……なんで急にそんな事言い出すの?」


 雪緒の目にはいつの間にか涙が溜まっていた。

 これ以上何か言うと、零れてしまいそうだ。

 でも、言葉は止まらなかった。


「ーーーもう、タイムリミットだよ……」


 とっくに期限なんて切れてた。


「そんなことねえよっ!」


 急に大声を出した桃城に、雪緒は驚く。

 掴まれた腕が熱い。


「俺は、お前が好きだ! 俺の事好きだったんだろ? じゃあ、もう一回好きになれよっ!」

「何いい加減な事言ってるのっ!? 大体あんたが悪いんじゃない! 人の気も知らないで、嬉しそうにヘラヘラ彼女の話聞かされる私の身にもなれっての!!」

「ごめん! でもお前が好きだっ!!」


 ガバッ!

 と桃城は雪緒を抱きしめた。

 いつの間にかこんなに大きくなっている。雪緒のことをすっぽり包めるくらいに。


 ドキドキする……


 雪緒は桃城の背中を叩いた。


 何度も、何度も力なく。


「馬鹿……桃の……ばかあーーー」

「ごめんな……馬鹿でごめん」


 再び桃城の事を好きになれるかなんて分からない。

 まだ大石の事を好きだという気持ちは確かにあって、だけど今こうして桃城に好きだと言われて嬉しい自分も確かにいて。

 先ほどの大石の言葉を思い出す。

 好きだと言ってくれた。

 自分が好きな人が、自分の事を好きだと言ってくれたのだ。

 そして今、自分がかつて好きだった人が、自分の事を好きだと言ってくれている。

 選ぶなんて出来ない。

 雪緒は桃城から離れた。


「ーーーごめんね、桃……私、返事出来ないよ」

「なんでだよっ!? やっぱり大石先輩の方がいいってのか?」

「そうじゃない! 大石先輩とは付き合うとかそんなこと考えてない……これは、私が自分で決めた事なの……誰とも付き合わない」


 桃城はびっくりしたように目を開いて雪緒を見つめていた。


「ごめんーーー」


 そう言って頭を下げて歩き出した雪緒を、桃城はもう追いかける事が出来なかった。


 どちらかを選ぶなんて出来はしない。


 誰かを傷つけない恋愛はないと、誰かが言っていた。確かにそうかもしれない。

 でも、雪緒は今どちらかを選ぶべきではないと思ったのだ。


 明日からはいつも通りに戻ろう。


 桃城とはもう友達には戻れないかもしれない。

 でも、それはお互いが招いた結果だ。

 素直になれなかった雪緒と桃城。

 自分を偽った事に対する報いを、今、受けたのだ。


「ーーーバイバイ、桃……大石先輩ーーー」


 これからまた、強くなれるかな。


 雪緒は星が瞬き始めた空を見上げ、涙をぬぐった。






                                END 







=あとがき=

すげえ……バッドエンドになりました。なのに全然悲しくない……あれ? なんでだろ?(笑)
しかも中途半端に長ぇ・・・・・すみません。
書き始めてから、このお題は跡部向きだったかなあ?とちょっと思いながらも、桃城で書いてしまいました。
大石の事をヒロインが好きにならなければハッピーエンドだったんですけどねえ。。。
ちょっと可哀想だったので、桃城にはまた別のお題で幸せになってもらおうと思います。




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