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チェンジ・ザ・ワールド☆
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試合に向けて(垂司)No.1

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はなもあらしも














 笠原道場に出向いた翌日の早朝、ともえはまだほの暗い道場で一人矢を一心に放っていた。

 弦がこすれる音、矢が空気を裂きながら飛んで行く音、矢が的に的中する音。

 朝の澄んだ空気にそのどれもがよく反響し合い、ともえの心を震わせていた。

 田舎の道場ではそれなりに強かったともえだが、ここ日輪道場の面子の腕を見たともえは少し自信を消失しかけていた。誰もが自分より上手で、人を魅了する何かを持っている。

 少しでも追いつきたい、足を引っ張りたくはないと強く煩悶し、こうして朝から一人で矢を射続けているのだが――


 タンッ!


 みっしりと的が見えないくらい矢が刺さった所でともえは息を吐いた。


「はあ……」


 何度射ても分からない。自分には一体何が足りないのか。それとも気付いていないだけで、どこか悪い癖でもあるのだろうか?


「――熱心だねぇ」


 突然声をかけられ、ともえは反射的に振り返った。


「垂……司さん……」


 振り向けばいつからそこにいたのか、垂司が入り口の戸に軽く手をかけてこちらを見つめていた。

 まさかこんな早朝から、しかも道場で垂司と会うとは思いもよらなかったともえは、驚きの眼で彼を見つめた。


「おはよう」

「あ、おはようございます!」


 そんなともえに微笑むと、垂司はすっと道場内へと足を踏み入れた。


「貸してごらん」


 優雅な足取りでともえの隣に並んだ垂司は、綺麗な指をともえの弓へとそっと伸ばした。


「あ、はいっ」


 促されるまま自分の弓を垂司に預けると、ともえはその一挙手一投足に集中した。

 凛とした空気の中、垂司は恬淡とした様子で弓を構える。

 けれど次の瞬間――的を見る目が見る者の心臓を抉るかのような鋭さを放ちはじめた。

 ともえが息を飲んだその刹那――


 タンッ!


 放った矢は風を切り、見事的の中心に命中していた。


「すごい……」


 ともえは自然と感嘆の声を漏らした。

 的の中心、それそのものに当てる事は真弓だって道真にだって出来るだろう。

 けれど垂司はそれを‘ともえの弓’でやってのけたのだ。

 弓にも矢にもそれぞれ癖がある、表情もあってそれはまさに人の心そのものともいえる。

 それを今、目の前の佳人は何の苦もなく操った。初めて触った、ともえの弓で――だ。


「良い弓だね」

「有難うございますっ」


 先ほどまでの鋭い視線はどこへやら、垂司は飄々と微笑みながら弓をともえへと返した。


「真っ直ぐで、とても素直だ。良い子だね、弓もともえちゃんも」

「えっ」


 急にそんな事を言われたものだから、ともえの頬はさっと色めいた。


「おい」


 ともえが戸惑いを隠せないでいたその時、ふいにまた声がかけられた。

 声のした方へと向くと、そこには道真が立っていた。


「や、おはよう。早いね」

「……なんでもいいけどよ、ともえに下らないこと言うなよ。あんたのその口の軽さのおかげでこっちは昨日嫌な思いしてんだ」

「嫌な思い……って」


 もしかして橘の事だろうか――? ともえがそれを問うてみようか逡巡していると、垂司は道場の外へと足を向けていた。


「邪魔をしたね」

「あ、いえっ! あのっ」


 何か言わなくては、でも何を言えばいい――そんなともえの内心の迷いを見透かしたように、もう一度垂司は微笑んだ。


「ともえちゃん、弓は人の心だよ。それそのものなんだ。だから君は君と真っ直ぐ向き合えばいい」


 その言葉にともえはハッとなった。

 思えば昨日笠原道場に行ってから、笠原の者には負けたくないと相手の事ばかりを気にしていた。そしてその結果がもたらしたのは、剣山のように矢が刺さった冷たい的――ともえは肩に入った力を、ふぅっという息と共に少しだけ抜いた。


「大丈夫、ともえちゃんなら――ね」

「あ、有難うございます!」

「…………」


 そんな二人の様子を道真が面白くなさそうに眺めていたが、彼が口を開く前に垂司は軽く手を振って、泰然とした様子で道場をあとにした。


「再開するぞ」

「うん!」


 シュッ! タンッ!


 矢が空を切り的を射る音を後ろで聞きながら、垂司はそっと宙を仰ぐ――――


「弓は人の心――だから自分と向き合えばいい……か。自分自身から目をそらし、結果弓を捨てた人間の言う言葉じゃ無いな」


 自嘲気味に笑うと、垂司はどこへともなく立ち去った。










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