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きみは〜.4

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streetpoint

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きみはペテン師












 仁王は先ほどから面白くなかった。

 汐屋と別れ、渋々コートに戻って練習をし、昼に汐屋と約束を一方的にだがされた学食へ柳生と来たのだが、食事中からずっと柳生と汐屋は2人で囲碁談義を続けていた。囲碁に詳しくない仁王は会話に入る事が出来ない。 

 よって、面白くない。


「この間の竜王戦は面白かったですね」

「途中までは黒が完全に有利だったけど、白の悪手と思われたあの一手が後で利いたよね。あれのおかげで大逆転だもん」

「私のような素人には分かりませんが、あなたはアマの女流チャンピオンじゃないですか」

「プロとアマじゃレベルが違うよ。私じゃあんな手思いつかない」

「アマでもプロに勝つ事はあるでしょう?」


 といった具合で、会話に入る隙間も無い。

 ぼんやりとアイスコーヒーを飲みながら視線を彷徨わせていると、先ほど汐屋に告白をしていたバレー部の前田がやってくるのが見えた。

 汐屋に気づいた前田は、仁王と柳生にも気づいた。そして寂しそうな顔で仁王に笑顔を寄越すと、カウンターへと去って行った。

 自分が惚れた女が他の男と楽しそうに話しているのだ、見ていていい気持ちはしないだろう。前田が哀れに思われ、今度は簡単囲碁講座が始まった隣りにため息を吐く。

 楽しそうな汐屋の様子に、もしかしたら汐屋の好きな相手とは柳生の事ではないかと感じた。


 まさか、の……


 眼鏡で真面目で趣味も合う。柳生は少し変わっているが、汐屋とは会話が弾んでいる。お互いに悪い感情を持っていないということくらい、バカでも分かる。


「なあ、柳生。おまん、汐屋の事好きなんか?」


 我ながら少しいじわるだったかと思いながらも、いいパスを出したと思う。これで2人がどんな反応をするか観察出来る。


「……何を言っているんですか? 急に変なことを言い出して。汐屋さんに失礼でしょう」

「え? あ、私は平気だよ」


 少しだけ汐屋の顔が赤くなったように見えた。

 どうやら“まさか”は本当らしい。汐屋和葉は、柳生比呂士の事が好きなのだ。


「そろそろ行くかの」


 説教を始めた柳生を無視し、仁王は立ち上がった。

 これは面白くなりそうだ。


「まったく、困った人ですね。汐屋さん、しっかり言い聞かせておきますから、気にされないで下さいね。それではご馳走さまでした」

「じゃあの、汐屋。ごちそうさん」

「うん」


 食堂を出る時、仁王は前田を横目で見た。前田は食事をとりながら、汐屋の事を見ているようだった。







~~~







 「のう、真田」

「何だ? 口を動かす暇があったらもっと早く足を動かせ」


 部活をさぼろうと教室を出た所を真田に捕まり、仕方なく部活に勤しんでいた仁王は、隣りを走る真田に声を掛けた。

 運動の基本は足腰。テニスもご多分に漏れず練習前はランニングをする。試合が近い今は本格的な走り込みをやっていて、走る距離も長めだ。本気で走る気がない仁王は、自分を見張る為にピタリとくっついて走る真田から汐屋の情報を収集することにした。

 汐屋は基本的に誰に対しても「さん」や「君」を付けて名前を呼ぶが、真田だけは呼び捨てだった。これはかなり仲が良い証拠だと思われる。


「汐屋と仲が良さそうじゃが、どういった知り合いなんじゃ?」

「あいつとは小学校の頃からずっと一緒だ。家も近所だし、そういう知り合いだ。汐屋がどうかしたのか?」


 なるほど、真田と汐屋は幼なじみという間柄のようだ。それなら仲が良いのも頷ける。


「いや、お前さんも汐屋も真面目で似たもの同士じゃなあ、と思ってな」

「似ている? 貴様が特別不真面目なだけで、俺も汐屋も至って普通だ」


 くだらんと吐き捨てるように言う真田に、類は友を呼ぶということわざを思い出す。友人関係はやはりお互い共通する何かがあるほうが上手く行くだろうし、一緒にいて疲れることも無いだろう。


「ちっと気になることがあっての、汐屋がどんな性格なんか知りたかったんじゃ。やっぱり真面目なんじゃろ?」

「他人の詮索をするなど、悪趣味極まりないぞ! たるんどる! さっさと走らんかっ!」

「なんじゃ、ケチ臭いこと言うてからに。まあええ、ほんじゃあ自分で確かめるわ」

「いや、ちょっと待て」

「なんじゃ?」


 怒鳴られたのでスピードを上げようとした仁王はすぐに意気をくじかれた。


「貴様のような人間が汐屋にちょっかいを出せば、あいつに害が及ぶ。やはり俺が教えてやろう」


 偉そうに言う真田に、やっぱり自分は信用がないのだと改めて思い知らされた。まあ、教えてくれるというのなら、折角なので教えてもらおう。そして、汐屋と接触して色々と尋ねればいい。

 自分の嘘を見破ったことや柳生のこと、前田とのことや好きな人物のことなど、仁王の興味は尽きない。


「それじゃあ、どんな性格で何が好きとか教えてくれ」

「む」


 それからランニングが終わるまでの間、真田は汐屋のことを教えてくれたが、真田の情報は非常に乏しく、幼なじみとは思えないほど貧相なものだった。

 これでは最初から真田などに聞かずに自分で直接聞けば良かったと少し後悔した。













 仁王は部活が終わってから、ふらりと囲碁部の部室の前へとやってきた。

 中からはパチパチと碁石の音が聞こえて来る。対局中はしゃべったりしないので、本当に静かだ。


 どうしようかのう……


 汐屋の事を探ろうとここまで来たものの、綿密な計画を立てていないのでどう接触を図って良いのか考えあぐねている。

 一旦体制を整えるしかないと背を向けた時、ドアが開いて中から人が出てきた。


「あれ、仁王君」

「よお」


 偶然出てきたのは汐屋だった。仁王の顔を見て不思議そうにしている。


「どうかした?」

「いや、随分遅くまでやってるんじゃな」

「明後日が大会初日だからね。でももう終わるよ、学校閉まっちゃうし」

「ほうか、大会頑張れよ」

「うん、ありがとう。仁王君達も地区大会でしょ?」


 何故ここにいたのかを追求されなかった仁王はほっとして、汐屋との会話を続けた。


「まあ、常勝立海が地区大会ごときで負けるはずがないけぇ、気楽なもんじゃ」

「ーーー常勝だなんて、どうして勝手に決めるのかな」

「は?」


 汐屋はぼそりと言って、薄暗くなりはじめた外を睨んだ。

 その顔はどことなく辛そうに見えた。


「だって常に勝ち続けるなんて人間には不可能じゃない。それなのに勝つことが当たり前みたいに周りが言葉で縛って……そんなの全然楽しくない」


 仁王の胸は苦しくなった。

 知らず拳を握っている。


「テニスだって囲碁だって、誰かを倒すことが本来の目的じゃないでしょ? 自分自身と戦って、弱さを克服するためのものだと私は思う。敵だの味方だの、私はそういうの嫌い。私は純粋に囲碁が好きだから強くなりたいの……」

「ーーーー」

「おうい、汐屋っ」


 汐屋のなんとなく共感出来る言葉を聞いていると、部室の窓が開いて男子部員が顔を出した。


「いつまで休憩してるんだよ。そろそろ時間だから終わるぞ」

「ごめん。すぐ行く。それじゃあ仁王君、またね。お疲れさま」

「ああ」


 部室へと戻って行った汐屋の声が、まだ耳に残っている。

 いつの間にか部内全体、学校全体から常勝することが当たり前のようにプレッシャーをかけられていた。おかげで仁王が本来やりたかった、テニスを心から楽しむ。ということが出来なくなっていた。

 強い相手と試合がしたい。純粋に強い相手と戦って勝ちたいという気持ち。そのために柳生をゴルフ部から引き抜いたのにーーー

 それに自分自身気づいていなかった為、いつも部活をさぼるという行動に出ていたのだ。本来ののんびりした性格も相まって、のらりくらりと適当にかわすことが常になっていた。

 帰る道すがら、仁王はぼんやりと汐屋のことを思い返す。

 汐屋和葉。

 不思議な少女だ。





                                続く…







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