チェンジ・ザ・ワールド☆
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翌日からは魔物に出くわす回数も増え、帝都に近づく毎に村や町もギルドの人間や騎士の姿が目立つようになって行った。
山を越え、船で海を渡り再び陸路を進む。出発して10日、とうとう帝都に到着した。
「さあて、閣下にお目通り願いましょうか」
城門が見える道の真ん中で、ユウキは不敵に笑う。
「隊長、くれぐれも穏便にお願いします」
「ーーー私、そんなに乱暴に見えるのかしら?」
「あなたは私の知り合いに似ているので心配なんです」
「ああ、幼なじみのユーリ?」
「幼なじみではありません、腐れ縁です!」
「はいはい。フレンの大好きなユーリに似てるなんて、光栄ね」
「隊長っ! 誤解を招くような言い方はやめてください!」
目くじらを立てるフレンを他所に、ユウキはさっさと門兵の前まで歩くとチラリとフレンを見て笑った。
「ユウキ・オレスカ。スクワントより緊急の報告の為帰城した。アレクセイ閣下にお目通り願いたい」
ユウキの顔と名に、門兵達はざわついた。
「すぐにアレクセイ閣下に伝えて参ります、しばしお待ちを!」
バタバタと走り去る門兵を見届け、ユウキはくるりとフレンを振り返ってその場に座った。
残った門兵は離れた所からユウキを怖々見ている。
「随分と怖がられているようですね」
「“アレクセイ閣下と大げんかして暴れた末、城を破壊し兵士100人に怪我をさせて田舎に左遷された化け物”」
「何ですか、それは?」
「私がナイレンの部隊に行った後に城で流された私の悪口」
「ああ、それでやたらと怖がっているんですね。ーーーでも、あながち間違いではなさそうですが」
頬杖をついて少しばかり膨れるユウキに苦笑する。
スクワントに配属されて数週間が経った頃、海から町へ入港予定だった商業船が魔物に襲われているという報告を受け、ユウキ指揮の元5名の部隊が組まれ海へと出た。
その部隊の中には言っていたフレンは、そこで初めて魔物と戦うユウキの姿を見た時、そのあまりの強さに驚愕したのだった。
剣を抜いたと思った次の瞬間、3匹の魔物が倒れていた。太刀筋が見えないほどの俊速の剣。あれほどの腕があればアレクセイが名指しで自分の部隊に引き抜いたというのも頷けるし、ブラスティアは必要無いと言ったユウキの言葉にも納得できる。
「どーせ私は化け物ですよ」
「隊長は何故、アレクセイ閣下をそんなに嫌っているのですか?」
「……フレンは本当にアレクセイ閣下の事を尊敬しているのね」
「ええ。国の為に力をつくしておられる方ですから……」
目を細めて口を尖らせるユウキを子どもっぽいなと思っていると、先ほどの門兵が戻ってきた。
「すぐにお会いになるとのことです。どうぞ、お通り下さい」
「ありがとう」
パッパとズボンの汚れを払うと、ユウキは門の中へと入って行った。フレンもそれを追う。
広くて美しい城は、相変わらずの威圧感だった。
以前フレンがアレクセイと謁見した広間へ通されると、部屋の中央でフレンは足を止め片膝を着いて項垂れた。
その斜め前方でユウキも同じように膝をついた。
後ろ姿だが愉快な気分でない事があからさまに伝わって来る。それほどユウキはアレクセイが嫌いなのか。
ギイイイィィ
と、重厚なドアが開く音がし、高らかな靴音が2人の前方で止まると声が反響した。
「久しぶりだな、ユウキ」
「はい」
「反省して私の部隊に戻してやるという話し、やっと受ける気になったのか?」
部隊に戻してやる、という言葉にフレンはピクリと反応する。
「ーーー今日はその事ではありません」
「では何だ?」
「私が現在配属されているスクワントですが、先だって報告のあったシドンタリアと似た状況になりつつあることをご報告へ参りました」
「ーーーというと?」
「以前報告書を何度か提出しているのでご存知と思いますが、海から時折大量のエアルが流れてきて、山と海の魔物が凶暴化しています。それが日増しに酷くなっていて、先日は町のシルトブラスティアにも影響が出て、一時止まる事態になりました」
「最初の報告を受けたのは一年以上前になるか……シドンタリアのようにエアルを大量放出しているブラスティアを見つけたのか?」
「いいえ……しかし、海の中にエアルが沸き出す場所を見つけました。そこから吹き出すエアルが、風に乗ってスクワントへ流れているようです」
ユウキが言い終わると、アレクセイはしばらく考えるように顎に手を当てた。
「ーーー分かった。こちらから魔導士を何名か原因究明の為に派遣しよう。しかし誰かが命令を聞かないおかげでこちらも色々と大変な時期だ、今すぐという訳にはいかない」
「っ……では、コアをいくつかいただけませんか?」
アレクセイの言うであろう言葉をあらかじめ予想していたらしいユウキは、すぐに代替案を出した。
「何をするつもりだ」
「私が研究を進めているエアル抑制装置に使用する許可をいただきたいのです。魔導士がスクワントに来て原因究明する間にもエアルは放出されます。これ以上魔物が襲って来る頻度が増えれば町民も行き来する人も危険に晒されますので……。エアルをある程度でも押さえることが出来れば、取りあえずは安心出来ます」
「お前のブラスティアが失敗しないとは限らない。それほど大量のエアルなら中和する程度の術式では間に合わないはずだし、かなり高度な技術が必要となるだろう? お前は騎士であって魔導士ではないのだ」
「実験段階では成功しています。ただ、コアが足りないだけです」
アレクセイとユウキはそこまで言うと無言で睨み合った。
先に折れたのはアレクセイだった。
「ーーーそのようなブラスティアに関する研究報告は受けていない。不確かなものに貴重なコアを渡す訳にはいかない」
「研究報告書なら持ってきています。どうか目を通してください」
あくまでもアレクセイの一手先を行くユウキ。これにはアレクセイも難癖をつけることが出来なかったらしい。
「ーーー分かった。一応報告書を読んで検討しよう。会議を開く、お前達は部屋で休んでいるといい」
「ありがとうございます」
城内の一室に案内されたユウキとフレンは、静かにソファに座っていた。
フレンは先ほどアレクセイが言っていたことがずっと気になっていた。おかげで座ってはいるが、何となく落ち着かない。
「どうしたの、フレン? 何だか落ち着かないみたいだけど」
「いえ、あの……アレクセイ閣下が言っていた事が気になってーーー」
「ん? ああ、もしかして私に城に戻れとかって言うやつ?」
「はい」
「スクワントの皆には内緒よ。シドンタリアにいた時、帝都に戻って来るように言われたの。断ったおかげでスクワントに飛ばされたんだけどね」
「そうだったんですか。アレクセイ閣下は随分と隊長の事を評価しているようですね」
「評価? まあ、そうかもね」
「城へ戻られるのですか?」
「私にはその気は無いんだけど……」
コンコン
と、そこで部屋をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します!」
ユウキが返事をすると、ドアを開けて入ってきた兵士は背筋を伸ばして顎を上げ、張りのある声で話し出した。
「オレスカ隊長、アレクセイ閣下が至急部屋へ来るようにと!」
「私だけ?」
「はい! 大事な話しがあるとの事です!」
「分かった、すぐに行くわ」
「はい! 失礼します!」
そして兵士が部屋を出て廊下でユウキを待つのを確認すると、ゆっくりとユウキは立ち上がった。
くるりとフレンを振り返る。
「ちょっと行って来る」
「分かりました」
パタリと閉じられたドアをしばらく見つめ、フレンは静かに目を閉じた。
一時間ほど過ぎた頃、フレンのもとへ先ほどの兵士がやってきた。
「フレン・シーフォ。オレスカ隊長はアレクセイ閣下より受けた大事な緊急の任務に入る為、スクワントへ戻る事が出来なくなった。オレスカ隊長からの伝言だ」
スクワントへ戻れない?
驚いて言葉を忘れたフレンを他所に、兵士はユウキからの伝言を続ける。
「『コアを持ってすぐにスクワントへ戻るように。到着し次第、アシュレイにコアを渡し、エアル抑制装置を作動させよ』との事だ」
「戻れないとは、どのくらいの期間戻って来られないのですか?」
「私には分からない。これがコアと、副隊長への隊長任命書だ」
手渡された麻袋と封書を手に取り、フレンはきつく目の前の兵士を睨む。
「隊長を守る事が私の任務です。伝言だけではなく、隊長に合わせてください。隊長の口から命令を貰わなければ動く事は出来ません」
「そう言うだろうとオレスカ隊長も言っておられた。これを」
もう一つ、紙切れを取り出してフレンに渡す。
小さな紙切れを開くと、走り書きの文字が一行。
『すぐにスクワントへ戻れ』
「ーーーっ。分かり、ました……」
ユウキの文字だと分かったフレンは、やむを得なしと荷物を持って部屋を出た。
必ず、また城へ戻って来る。
どうかそれまでーーー
「ーーーどうかご無事で」
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