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100話到達記念企画、首輪の謎に迫る! - (2012/07/20 (金) 03:48:42) のソース
**100話到達記念企画、首輪の謎に迫る! ◆hqLsjDR84w ◇ ◇ ◇ 一しきり苛立ちを言葉に代えてみて、いい加減喉が少し痛くなってきた。 その辺りで、才賀勝はようやく悟る。 いくら声を張り上げたところで、意図が伝わることはなさそうだ――と。 どんなに叫んでもどこ吹く風で、むしろなんでこの少年はこんなに怒っているんだろうフェイス決め込んでいる二人を前に。 肩で息をしながら、いまさらになって察した。 「…………」 ついに口を閉ざし、勝は眼前の二人にじとりと視線を向ける。 その鋭さは『見る』というよりもはや『睨む』寄りであったのだが、それに気付いてくれる相手はこの場にいない。 艶のある黒い髪を腰まで伸ばした二人は、怪訝そうな表情でお互い顔を見合わせる。 そうしてから、まったく同じことを言うのだった。 「「どうかしましたか?」」 髪と同じ漆黒の中華服を纏う年齢不詳の男・朧。 巫女服を着た女子高生ほどの外見の、実際には死んで三百年も経っているというベテラン幽霊・おキヌ。 おそらく、両者ともに悪意があるワケではない。 そのように、勝は判断していた。 知らず突拍子もないことをしでかしているので、非難の意味が分からないのだろう。 勝の脳裏を掠めるのは、彼がしろがねと呼ぶ銀髪銀眼の女性・才賀エレオノールの姿だ。 一見いつも冷静で落ち着いているように思われやすいのだが、彼女にもまたそういう面がある。 (……大丈夫かなぁ、しろがね) 彼女にとって守るべき存在である才賀勝が、こうして殺し合いに巻き込まれている。 それだけで、彼女が平静を失うには十分すぎる。 きっと、激しく取り乱してしまっていることだろう。 慌てて、なにかしら突拍子もないことをしでかしていそうだ。 いるのかは定かではないが、彼女に同行者がいれば迷惑しているかもしれない。 現在の勝のように叫んでいるかもしれないし、それに対しエレオノールはおキヌや朧ののように困惑しているかもしれない。 そんな姿がやけに鮮明に連想できてしまい―― 「別に、なんでもないよ」 勝は、叫ぶのをやめることにした。 その理由は、勝自身にも分からない。 ただ、エレオノールもなにかしでかしてるかもしれない。 そう思うと、なんだか怒る気が失せてしまった。 混乱した彼女の姿を思い出したせいで、なにを言っても無意味だと分かってしまったのだろうか。 勝自身も理由がよく分からずにいると、おキヌはなにか思い出したように手を叩く。 「そういえば勝くん、もう明るくなりましたし首輪を調べてみたらどうですか?」 勝は、はっとしたように目を見開く。 死者を告げる放送があったからだろうか、いまのいままでそのことを忘れていた。 急いでリュックサックから首輪を取り出す。 この行動に対し、朧はまったく驚いたような素振りを見せない。 プログラムを打破するにあたって、越えるべき大きな壁の一つが首輪だ。 その首輪がこうして取り出されたというのに、眉を動かすことさえしない。 おキヌが首輪をしていないことを知っていたというのか。 だとすれば、はたしてどのタイミングであったのか。 顔を合わせて以降、勝は朧が平静を乱す姿を見ていない。 ならば勝が朧の存在に気付く前に、朧はおキヌの首輪が外れていることに気付いたのか。 それとももっと後だったが、にもかかわらず感情を揺らすことさえしなかったのか。 朧と遭遇した際のことが、勝のなかにフラッシュバックする。 しろがねの血を飲んだことで鋭くなっている五感でさえ察知できぬ接近。 才賀正二とフェイスレスから受け継いだ記憶をもってしても、読み取れない動き。 黒賀村で修行を積み、フェイスレスのゲェムで経験を重ねたというのに、そんな勝を一蹴する実力。 考えれば考えるほどに、底が知れない。 口にはしないものの、勝は静かに朧への警戒心を強める。 「やっぱり……繋ぎ目は見当たらないや」 時間をかけて首輪全体をしげしげと確認し、勝は呟く。 本来首に触れている内側の部分にも、微かな溝さえ存在しない。 目で見るだけでなく、表面を指で擦ってみるが見た通りである。 つまり、ただ輪っか状をした銀色の金属の塊でしかない。 これでは、いかにフェイスレスの『分解』技術を所持する勝とてどうしようもない。 工具を差し込む溝や穴がないのならば、工具があっても分解なぞできるはずがない。 いわば、打つ手なし――だ。 「ふむ」 歯を噛み締める勝の傍らで、朧は口元に手をやって唸る。 視線を首輪から不可視の結界に移し、最後におキヌを見据えた状態で固定する。 「彼の持つ首輪は、あなたのものですね」 「は、はい、そうですけど……」 見透かすような視線にたじろいでいるのか、おキヌは言い淀んでしまう。 それに「固くならないでください」とだけ返し、朧は考え込むように黙る。 「不可解ですね」 数十秒ほど黙考してから出された結論は、そんなものであった。 つい聞き返してしまった勝に、朧はその詳細を答える。 「『殺し合い』に霊を参加させること自体は、別段おかしくもありません。 強制的に霊を祓う方法などいくらでもありますし、そんなことをしなくとも魂自体を強引に霧散させることも可能です。 もちろん彼女のような霊格の高い霊となれば、後者を行うのは困難でしょうが…… とはいえ、このプログラムに呼び出された面々を見る限り、やってのけるものは少なからずいるはずです」 「ひいっ」 朧が淡々と告げる内容に、おキヌがか細い悲鳴をあげる。 見れば、身体が小刻みに震えており、その瞳には涙が溜まっていた。 そんな彼女の素振りに、朧が触れることはない。 「が、この首輪。 霊を参加させておきながら、霊ならば容易に外せてしまう。 このような首輪しか用意していないというのは、はっきり言って不自然です。 大気の流れさえ塞き止めるほど強固な結界を、これほどの規模で維持し続けられるのならば―― その技術よりも遙かにたやすく、霊であろうと外せぬよう首輪に霊的保護を仕込めたはずなのです。 以上が、第一に不可解な点ですね」 一拍置いて、また続ける。 「もう一つ。 こうして彼女を呼んでいるのですから、キース・ブラックは霊の特性を知っているはずです。 にもかかわらず、『霊ならば容易に外せる首輪』をわざわざ嵌めた。 それも解せない。外れると分かり切っているのですから、首輪など必要ないのです」 どちらともに、勝も違和感を抱いていたことだった。 ただ、そこから先に進めなかった。 不可解だと気付きながら、いかなる意図があるのかと思いながら、ずっと考え続けながら―― 一向に答えが出なかったのだ。 「じゃあ、この首輪は……いったい」 「分かりません。ですが」 勝の希望に反して、返ってきたのは勝が出したのと同じ結論だった。 「首輪を『外される』ならばともかく、『外れてしまう』のはキース・ブラックにとっていちいち対処するべき事態ではないのでしょうね」 言い切って、朧はまた口を閉ざす。 おキヌはなにか言おうとしていたが、これといって浮かばないらしい。 しばらく時間が空いてから、勝が沈黙を破る。 「僕も、同じことを考えていました。 自ら幽霊を参加させておいて、この首輪というのは理解し難い。 この殺し合いには、おキヌさん以外にも幽霊が何人かいるようですし」 告げられた勝の言葉に、朧は目を丸くする。 ここに至って初めて、勝は朧が感情を露にした姿を見た気がした。 「いえ、このプログラムに幽霊は彼女一人しか参加していませんよ」 「……えっ」 「私が読み取った限りは、ですが。 霊のものと思しき気配は、最初の部屋には一人分だけでした」 今度は、勝が目を丸くする番だった。 「で、でも、名簿には死んだはずの人たちが……」 「それは分かりません」 きっぱりと答える朧をよそに、勝は思考を巡らす。 蘇るのは、放送が行われる少し前のことだ。 物干し竿の柄紐を解けば時空に穴が開くと、鉄刃が言い出し―― 事実、なにもない空間に穴が開いた。 結界が張られており役には立たなかったが、そこは問題ではない。 ――時空移動。 そんな、勝の知識ではありえぬ現象。 それに対策を取っている以上、キース・ブラックはそれを知っていることになる。 (だったら、この名簿に記されている『死んだはずの人たち』は――もしか、して……) ふざけたことを考えているとは、勝自身思っている。 時空移動などという前提自体が失笑ものなのも、重々承知している。 だというのに、勝の身体は勝手に震えてしまうのだった。 口内に溜まった唾液を呑み込み、呼吸を整える。 そうして意を決してから、勝はある疑問を口にした。 「お、おキヌさん、朧さん、訊きたいことがあるんだけど――」 ――ここから先は『首輪の話』ではなく、ゆえに語られるのはまた別の機会となる。 【A-4 西端/一日目 朝】 【才賀勝】 [時間軸]:黒賀村である程度過ごしてから。 [状態]:健康 [装備]:物干し竿@YAIBA [道具]:首輪×2(おキヌ、朧)、ランダム支給品0~2(人形はなし)、基本支給品一式 [基本方針]:殺し合いを止める。 【おキヌ】 [時間軸]:本編にて生き返る前(美神令子の時間移動能力を知っている時期) [状態]:不健康、首輪解除 [装備]:無し [道具]:マーラの銀鏡@スプリガン、ランダム支給品0~1、基本支給品一式 [基本方針]:勝についていく。 ※幽霊です。『本人が触れたいと思うもの』以外はすり抜けます。 【朧】 [時間軸]:不明 [状態]:健康、首輪解除 [装備]:無し [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、水晶髑髏@スプリガン、中性子爆弾@ARMS [基本方針]:殺し合いに乗る気はない。 ◇ ◇ ◇ 紅麗は、キース・ブラックの意図を見定めようとしていた。 『高槻涼の絶望』や『殺し合い自体』とは、少し考えづらい。 前者にしてはお粗末であるし、後者にしてはぬるい。 つまり高槻の知らぬ目的が、ブラックにはあるということだろう。 ならば、真の目的はいったい―― (……答えを見出すには、あまりに材料が足りなすぎる) しばし考えてみるが、結論が導き出されることはない。 小さく息を吐いて、紅麗は思考をいったん切り上げる。 あの程度脳を使ったところで疲労などないが、答えの出しようがない思考をしてしまったことへの徒労感はあった。 気を取り直すように、紅麗はリュックサックから首輪を取り出す。 明るい場所で確認してみても、やはり継ぎ目一つ存在しない。 継ぎ目のない首輪を人に嵌めるなど、そんなことは不可能だ。 もしも首輪自体が大きければ話は別だが、そんな簡単に持ち上げて外れるような代物ならば苦労はしない。 実現不可能な技術と聞いて、紅麗のなかにまず浮かぶのは一つ。 人類の技術では本来作り得ない武具・魔道具。 (違うな) 首輪がその一種だとすれば納得はいくが、紅麗はその説を却下する。 魔道具に存在する核がないし、なにより魔道具に精通した紅麗の知識にない。 次に思い至ったのは、御神苗優がメモに残したオーパーツだ。 しかしその可能性もまた、紅麗は切り捨てる。 オーパーツに関して並々ならぬ知識を持っていたらしい御神苗優のことだ。 もしそうであるのならば、メモに記していることだろう。 (結局、なにも分からないということか) 考えながら、紅麗は再び首輪を見やる。 ここで、一度考え方を変えてみる。 視認できないだけで、継ぎ目があるのだとすれば。 つまり――『幻術』。 知らず、紅麗の右手が左腕に伸びる。 まるで、そこにいるなにかが疼くかのように。 (ありえんな。一瞬ならばともかく、現在に至るまで気付かぬはずがない) 左二の腕を擦りつつ、紅麗は結論を出す。 幻術に誑かされた経験がないワケではない。 しかしそのほとんどにおいて、すぐに見破ることができた。 仮に紅麗が見破れなくとも、彼の相棒たる紅の瞳は誤魔化せない。 それに、このプログラムには口寄せ師が呼ばれているというのだ。 霊媒体質である口寄せ師ならばすぐに見破れる幻術など、かけるのは手間の無駄だ。 そのように判断し、紅麗は視線を黙ったままの高槻涼に飛ばす。 「――――ッ」 思わず、紅麗は目を疑う。 視線の先にあるのは、涼の首輪である。 紅麗が全力で放った炎を浴びても、溶解する気配すら見せなかった、涼の首輪。 その内側に、微かに見て取れたのだ。 御神苗優の首輪にはなかった――小さな継ぎ目が。 見間違いではないかと、紅麗が目を凝らす。 「……ッ!?」 その瞬間、高槻涼の身体が激しく震えた。 なにかを感じ取ったかのように、目を見開いて息を呑んだのだった。 ――ここから先は『首輪の話』ではなく、ゆえに語られるのはまた別の機会となる。 【F-4 民家/一日目 朝】 【高槻涼】 [時間軸]:15巻NO.8『要塞~フォートレス~』にて招待状を受け取って以降、同話にてカリヨンタワーに乗り込む前。 [状態]:左二の腕から先を喪失(処置済)、スーツ@現地調達 [装備]:基本支給品一式、支給品1~3(未確認) [道具]:なし [基本方針]:人間として、キース・ブラックの野望を打ち砕く。 ※左腕喪失はARMS殺しによるものなので、修復できません。 【加藤鳴海】 [時間軸]:20巻第32幕『共鳴』にて意識を失った直後。 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、支給品0~2(確認済み) [基本方針]:仲間と合流し、殺し合いを止める。戦えない人々は守る。 【阿紫花英良】 [時間軸]:20巻第33幕『合流』にて真夜中のサーカス突入直後。 [状態]:健康 [装備]:形傀儡@烈火の炎、キャプテン・ネモ@からくりサーカス、ヒヒイロカネ製の剣@スプリガン [道具]:基本支給品一式、支給品0~1(確認済み) [基本方針]:とりあえず紅麗についていく。 【紅麗】 [時間軸]:22巻210話『地下世界の消滅』以降、SODOMに突入するより前。 [状態]:脇腹に傷(処置済み) [装備]:なし [道具]:基本支給品一式+水と食料一人分、支給品0~2(確認済み)、首輪(優)、優のメモ付き名簿、ジャバウォックの爪×3@ARMS [基本方針]:プログラムを破壊し、早急に帰還する。そのために役立つ人物や情報を手にしたい。染井芳乃を捜索。 ◇ ◇ ◇ 基本的に、ゼオン・ベルの眠りは浅い。 先ほどまではダメージも大きく体力の回復を優先させて寝入ったが、ひとまず傷の塞がった現在は違う。 瞳を閉じていながらも、その脳は動いたままだ。 明瞭な思考ではないが、それでも朧気ながら巡り続ける。 いま彼の脳内を埋め尽くすのは、プライドを傷つけられた屈辱である。 なにせ、次期魔界の王となるべき雷帝ゼオンが首輪を嵌められているのだ。 「ちッ」 たしかに眠ったまま、ゼオンは舌を鳴らす。 首輪が憎いという思いは、寝ていようと変わらない。 そもそも、他者に縛られている事実に腹が立って仕方がない。 その上そいつの思惑通りに動いている現状が、心底気に喰わない。 首輪のことが脳を埋め尽くしているせいだろう。 夢として蘇るのは、この地での二度目の戦闘である。 呪文を唱えることなく雷や炎を放つ魔物を、ゼオンは打ち負かした。 ――その魔物の首輪を爆発させることで。 当初ならばともかく、いまとなってはその結末すら苛立たしい。 ブラックの用意した首輪のおかげで生き延びたように思えて、はらわたが煮えくり返る。 あんなことをせずとも、倒すことはできたはずだ。 「……ふん」 怒りのあまり、眠りから覚めてしまう。 傷口をなぞって回復具合を知ることで、ゼオンは大して時間が経過していないことを知る。 再び舌打ちを吐き捨てて、ゼオンはふと考え込む。 先ほどの夢の通り、ゼオンが蹴り飛ばしただけで首輪は炸裂した。 だというのに、どうしてそれ以前には爆発しなかったのか。 蹴っただけで爆発するほどの耐久力ならば、武士と呼ばれた少年に雷を浴びせた際に余波で爆発して然るべきである。 どう考えても、蹴りよりも中級呪文『テオザケル』のほうが威力は上だ。 にもかかわらず、なぜ―― 「まあいい」 考えかけて、ゼオンはすぐにやめる。 首輪についてなど考えるだけ無駄だ。 全員殺した上で、キース・ブラックまで殺せばいい。 結論を出して、ゼオンは再び瞳を閉じる。 数秒のうちに再び眠りに落ちると、今度ゼオンの夢に出てきたのは自分が手に入れるはずだった力だった。 夢のなかで歯を噛み締め、自分のものであるはずだったバオウを睨みつける。 ――ここから先は『首輪の話』ではなく、ゆえに語られるのはまた別の機会となる。 【F-5 倉庫内/一日目 朝】 【ゼオン・ベル】 [時間軸]:リオウ戦後、ガッシュの記憶を垣間見るより前。 [状態]:疲労(小)、腕と腹部にダメージ(感知には少しかかる)、睡眠中 [装備]:ゼオンのマント、ゼオンの魔本@金色のガッシュ!!、神慮思考@烈火の炎 [道具]:基本支給品一式、獣の槍@うしおととら、金糸雀@金剛番長、携帯電話(とらの写真&動画)@出典不明、モデュレイテッドARMSのリミッター解除装置@ARMS [基本方針]:殺し合いに優勝し、バオウをこの手に。ひとまず回復を待ち、回復しきったら倉庫を調査。 ◇ ◇ ◇ エリアA-6を一気に駆け抜け、秋葉流はエリアB-6に到着した。 一時間足らずで一つのエリアを巡回したというのに、まったく疲れた素振りはない。 涼しい顔をしたまま、ふうと大きく息を吐いた。 「ま、そう簡単に見つかったりはしねーよなァ」 彼が探していた結界の起点は、A-6内には見当たらなかった。 霊力を放っているどころか、それらしい神具さえなかったのだ。 当たりをつけてみたものの、まったくの見当違いであったのだろう。 「やれやれ。無駄な時間使ちまったぜ、まったくよォ」 軽口を叩くような口調で、流は誰にともなく吐き捨てる。 しかし、これは嘘だ。 元より、結界の起点がすぐに見つかるとも思っていない。 怪しいのは禁止エリアすべてであって、そのうちの一つに来たに過ぎない。 他の二つのエリアも見て回りたいところだが、距離的なことを考えれば難しい。 「まいったね、こりゃ」 飄々とした態度を保ったまま、流は肩を竦める。 やけに冷たい胸中の思考を隠すかのように。 (そろそろ起きた頃かね) 口には出さず、設置した『仕掛け』に思いを馳せる。 再起不能にはしておいたが、もし再び永井木蓮が能力を使用した際―― あの仕掛けは自動的に発動し、木蓮の肉体は滅され土に還ることになる。 (俺だから騙されなかったが、うしおや耕助ならあっさり芝居に騙されかねねえしな) やたらとまっすぐに自分を見つめる二人を思い出し、思わず流の頬が緩んだ。 そのことにすぐに気付き、流は歯を噛み締めた。 彼らが見ているのは、本当の秋葉流ではなく―― 流のなかに吹く風が強くなる。 顔面に張りつけ続けてきた薄笑いが、消えてしまいそうになる。 この風を唯一止めてくれるアイツは、もうこの世にいない。 その事実を再認識することでようやく、どうにか薄笑いを保つ。 時間をかけて息を整えて、別のことを考えることにする。 彼らのような眩しいものたちではなく、暗く濁った下衆を。 (……そういやアイツの首輪、爆発しなかったよな) 結界を発動させても、永井木蓮の首輪は発動しなかった。 あの結界は『木』を滅する代物であり、『金』には大した効果はない。 それでも周囲の木が切り刻まれたことで、首輪にも衝撃が及んでいたはずである。 思えば、猛烈な爆発を喰らったはずの金剛猛も放送で呼ばれていない。 アレだけの爆発ならば、首輪にも爆炎は届いていただろう。 にもかかわらず、どうして―― (そういうこと……なのか?) 考え始めてすぐに、一つの結論が出る。 先ほどまで会場全体に張り巡らされた結界の起点を探していたせいか、別々の線がすぐに繋がった。 (『首輪自体が起点』であり、だから『簡単には爆発しねえ』のか……?) 線と線が繋がったとはいえ、単なる仮説に過ぎない。 そのことを重々承知していながら、しかし流はその考えを口には出さなかった。 盗聴や監視をされている可能性にも、すでに思い当たっていたのだから。 時間をかけて平静を取り戻し、流は北を見据える。 置いてきた二人は、きっとまだそこにいることだろう。 そちらに向かうべきか、否か。 流が下した決断は―― ――ここから先は『首輪の話』ではなく、ゆえに語られるのはまた別の機会となる。 【B-6 西端/一日目 朝】 【秋葉流】 [時間軸]:SC28巻、守谷の車を襲撃する直前 [状態]:健康 [装備]:鋼金暗器@烈火の炎、金属片いくつか(真鍮)@現実 [道具]:基本支給品一式+水と食料二人分、ランダム支給品0~1 飛斬羽@烈火の炎、トライデント特製COSMOS仕様サブマシンガン@スプリガン、ワルサーP5@スプリガン [基本方針]:―――――――― *投下順で読む 前へ:[[戦闘生命]] [[戻る>第二放送までの本編SS(投下順)]] 次へ:[[苦渋の決断]] *時系列順で読む 前へ:[[戦闘生命]] [[戻る>第二放送までの本編SS(時系列順)]] 次へ:[[苦渋の決断]] *キャラを追って読む |078:[[怒号――まともな奴ほど損をする]]|おキヌ| :[[ ]]| |~|朧|~| |~|才賀勝|~| |081:[[ノイズキャンセリング]]|ゼオン・ベル|~| 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