ハイエナの如くに


 そして全てが終わった後、男は安堵の溜息を吐いた。
 そう、その名はパプテマス・シロッコ。
 目の前で苛烈な死闘が行われる中、ただじっと戦いの終わりを待ち続けていた男。
「行った……か……」
 戦いの気配が完全に消え去った事を念入りに確認してから、ダンガイオーの操縦席を降り立って呟いた。 
 ……この戦いは、シロッコにとって驚愕の連続だった。
 ガイキングの圧倒的な戦闘力。
 ゲッター線の発現による、真ゲッターの覚醒。
 復活のテムジン。
 宇宙世紀の常識では計り知る事の出来ない驚愕が、シロッコを絶えず襲い続けていた。
 キラ・ヤマトとの会話によって、そして主催者が見せた超技術の片鱗から、
 未知の技術体系が存在している事には気が付いていた。
 だが、それでもなお目の前で繰り広げられた激戦は、シロッコに計り知れない驚愕を与えていた。

「運が良かったのだろうな……」
 ……もし生存が気付かれていたら、自分は確実に死んでいた。
 両腕を失ったダンガイオーでは、あの鉄也と呼ばれた男の攻撃を逃れる事は不可能だった。
 ダンガイオーが傷付いている事を利用した偽死。苦肉の策ではあったが、あの状況では最善手だった。
 確かに、賭けではあったのかもしれない。
 自分の生存が気付かれる可能性、流れ弾が機体に命中する可能性、
 広域破壊兵器を使用される可能性、全く無かったとは考えていなかった。
 だが、自分は賭けに勝ったのだ。
「手駒を失ったのは惜しいが……制御が不可能な駒など使い物にはならない。
 獅子身中の虫、という言葉もある。使い捨てるには良い頃合だったのかもしれんな……」
 キラ・ヤマトにゼオラ・シュバイツァー。二人の利用価値は、もはや殆ど無くなっていた。
 力押しだけで生き抜けるほど、この戦場は甘くない。
 特にすぐさま暴走を始めるゼオラの存在は、もはや害以外の何物でもなかったのだ。
 ……だが、あの機体。ゼオライマーの圧倒的な戦闘力は捨て難かった。
 しかし、それも過去の話だ。
 今の自分には、力がある。

「……ふむ、内部構造の異常か。出力自体には、特に問題は無いようだな。
 使用に支障が出ているのは、レーダー、バリア、通信機能か。
 腕と足の動きも悪い……それに装甲自体にも、ダメージが蓄積しているのか……」
 乗り捨てられたグランゾン。その状態を調べながら、シロッコは自分の読みが当たった事に満足を覚える。
 やはり、だ。
 やはり自分が思った通り、この機体は強大な力を持っていた。
 だが、激戦で負った損傷は決して浅い物ではない。今のグランゾンが、本来の力を発揮する事は不可能だろう。
 だが、それでも――
 それでもなお、この機体は強力だった。
 これまで自分が乗っていた機体、ダンガイオーと比べて遙かに。

「防御能力と運動性は大幅に低下しているが、攻撃力自体には影響が無さそうだ。
 となると、接近戦を避けて戦うのが良さそうだな……しかし、そうなってくるとレーダーの故障は痛いか。
 ……だが幸いにも、この世界はミノフスキー粒子の濃度が高い。
 つまりそれは、嫌が応にも有視界戦闘を行わざるを得ない事を意味している。
 レーダーの故障は、決して致命的な損耗ではない……!」
 そう結論付け、シロッコはグランゾンを飛び立たせる。
 かくしてパプテマス・シロッコは、当初の目的通り新たな機体を手に入れる事に成功したのであった。



【パプテマス・シロッコ 搭乗機体:グランゾン(スーパーロボット大戦OG)
 パイロット状況:良好、グランゾンの戦闘力に若干興奮気味
 機体状況:内部機器類、(レーダーやバリアなど)にくわえ通信機も異常、右腕に損傷、左足の動きが悪い
 現在位置:C-1
 第1行動方針:首輪の解析及び解除
 第2行動方針:新たな手駒を手に入れる
 最終行動方針:主催者の持つ力を得る
 備考:首輪を所持】

【二日目 17:30】





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最終更新:2008年06月02日 02:53