悲しみの星空


沈黙。
B-3からの離脱に成功したヴィンデル、マシュマー、タシロ、副長。
彼らは何一つ言葉を交わすこともなくB-4上空を飛行していた。
空にはもう星が見えている。
「艦長、このまま会話も何もなさらないおつもりで?」
「いや、私も無論そんなつもりはない。彼らとは話をしたいと思っている。こんな通信機を通してではなくな」
前方を飛行するマジンカイザーとアストラナガンを見つめタシロは答えた。
副長もまたそれを聞くとゆっくりとうなずき再び周囲の警戒を始めた。
(そうだ・・・彼らとはゆっくりと話をしたい。)
あのSTMCを思わせる化け物・・・。
タシロはあの化け物のことを知る必要がある。
否、知らねばならないと思った。
彼らならもしかしてあの化け物の事を何か知っているかもしれない。
知るということは・・・武器だ。
だからこそ盗聴の可能性のある支給機体の通信機を通さず直に話をしたかった。
副長もそれを理解してくれた。
この狂ったゲームの中、副長に出会え、共に行動することが出来たのは本当に幸運だったと、タシロは一人神に感謝する。
だが、思考はそれだけでは終わらない。
もうまもなくゲームが開始されてから三日たつ・・・。
タシロは毎回放送の死亡者の数を数え、蓄積していった。
その数40。
最初に集められた部屋にいた人を見た限り、人数はおそらく60~80前後だろう。
(既に半数以上は死亡してしまったことになる・・・。)
この老いぼれが生き延び、若く未来ある命が散っていく。
その事実に憤りを感じながらも、思考を続ける。
ゲームもここまできたのだ。
いかなる結果になろうとこのゲームの終焉はそう遠くない・・・。
そうだ、だからこそこのタイミングでのあの化け物の出現に違和感を感じる。
―主催者は何をしたい?
先の放送を聞く限り、主催者に対して反抗を行った者がいる、という内容を受け取れた。
―それをきっかけとして、自分に牙を剥く可能性のある参加者に対する対抗策か?
いや、それならその反抗者の首輪を爆発させればいいだけだ。
―では、首輪を解除された時のために?
……それもこのゲームのエリア内に解除できるような装置等を置かなければいいだけだ。
―では何故?
一つの考えがタシロの頭をよぎる。
(主催者は私たち参加者を生かして返すつもりはない・・・?)
残りの参加者全てをあの化け物で抹殺する・・・。
参加者同士の殺し合いに飽きたのか?
―所詮、私たちは主催者の暇つぶしに集められただけなのか?
少ししてタシロは思考を止める。
例え・・・例えそうだとしても・・・私は・・・私たちは生の可能性をあきらめはしない。
主催者が何を考えていようと、私たちは生きるために、持てる可能性を全て出し切るだけだ・・・!
絶望するのはそれからでも・・・遅くはない。


それから数分飛行を続けていると、左手に森が見えた。
「艦長、艦の前方左手に森が見えます」
「分かっている。副長前の二人に通信を繋げてくれ」
「了解です」
副長が前の二機へと通信を繋げる。
「二人共聞こえるか?私はこの機体のパイロット、タシロ・タツミというものだ。
 見たところ君たちの機体はかなり損傷している。君たち自身の疲労も心配だ。
 我々の機体前方に森林がある。一度そこへ着陸し、休息をとらないか?」
いきなりの通信にヴィンデルは疑い深い顔をする。
「・・・見ず知らずの他人を、いきなり信用しろと?」
ゲームに乗っていない参加者であろうことは、先の化け物と遭遇したときの彼らの発言を聞けば明らかだった。
だが用心には用心をということで、ヴィンデルは返答した。
「では私が先に下に降りよう。なんなら上から撃ってくれてもかまわんよ」
「・・・了解した」
「ところで・・・その黒い機体に乗っている者だが・・・」
通信を入れたものの何も言葉がないアストラナガンへの対応にタシロは困っているようだ。
「・・・気にするな。こいつは問題ない」
そう返したヴィンデルの声には明らかな嫌悪が混じっていた。

森の上空へ差し掛かり、着陸できそうな場所を見つけ、ヒュッケバインガンナーは着陸した。
続いてマジンカイザー、アストラナガンと続く。
再びタシロはヴィンデルへと通信を入れる。
「ものは相談なんだが、先ほどのこと化け物の出現までのいきさつを話してもらえんかね?出来れば機体の通信機でではなく、直に」
「・・・そちらから降りてもらえるのなら、私も機体から降りるのを了承しよう」
「艦長さすがにそれは・・・!」
副長が呻く。
「かまわんよ。彼らはゲームに乗っている人物ではない。それは確かだ」
そういうとタシロはヒュッケバインから降りていく。
しぶしぶ副長も続いて降りてきた。
あとは・・・
「その機体のパイロット。本気でミオを助けたいと思うのなら、その機体から降りろ」
そう言い放ったヴィンデルの声には何の感情もこめられてはいなかった。
少しの沈黙の後、マシュマーがアストラナガンから降りた。
それを確認し、ヴィンデルもマジンカイザーのコクピットから降りる。
タシロはマシュマーを、沈黙を守っていたアストラナガンのパイロットを少し見て、話を切り出す。
「さて、まずは私の言葉を聞いてもらったことを感謝する。あの化け物についての話をしてほしい。食事でもとりながらな」
そう言いタシロは軽くウィンクする。
副長は主催者が参加者に用意した母さんのシチューなるものをせっせと作っていた。


「―――というわけだ」
「・・・そうか。話を聞かせてもらえた事を感謝する」
副長が急いで用意したシチューを食べながら、タシロはヴィンデルから話の一部始終を聞いた。
マシュマーは相変わらず沈黙を続けていた。
そして残念ながら彼もあの化け物については詳しくは知らないとのことだった。
(それにしてもあの化け物が人を取り込んでいたとは・・・。)
これでは迂闊に手をだせない。
「その・・・ミオという少女は救い出せるかね?」
「分からん。なにしろあの化け物の情報が少なすぎる。これではどうやって救えばいいか・・・」
そこまでヴィンデルが言ったとき、マシュマーが沈黙を破った。
「キッサマァァァァアアァッッッッ!!!!!」
そう叫び、いきなりヴィンデルへ殴りかかった。
不意をつかれたヴィンデルは地面へ倒れ、マシュマーはその上に馬のりになる。
「貴様が!!!ミオを救うなど!!そんな言葉を口にするな!!!!!」
「なんだと!!!」
マシュマーに負けずヴィンデルも叫ぶ。
ヴィンデルの顔を拳で殴り続けながらマシュマーが叫び続ける。
「貴様さえ!!貴様さえいなければミオは救えた!!!!貴様らがぁっ!!!」
「止めないか!!我々が争いあってどうする!!」
タシロが止めに入るがマシュマーはタシロを手で思いっきり撥ね退ける。
ヴィンデルはマシュマー意識がタシロに向いた一瞬自由になった右腕でマシュマーの首をつかみ、無理やり地面に押し倒した。
今度はヴィンデルが馬乗りになりマシュマーを殴っている。
「君も!!やめないか!!!」
タシロが叫ぶ。
「今ここで!止めたところでまたこいつは私達に牙を剥く!」
「だが・・・!」
そう言いかけたタシロの肩に副長は手を置き、首を横に振った。
「く・・・!!」
マシュマーも自由な手でヴィンデルの胸ぐらを掴んでいた。
「貴様らを・・・貴様らを殺しておけば!こんなことにはならなかった!!」
「何を!」
「私は殺さねばならない!参加者を、主催者を!ハマーン様の命を、ブンタの命を奪った奴らを!!」
ヴィンデルに殴られながらもマシュマーは叫ぶ。
二人共切ったのか口から血を流している。
「貴様のしていることは!貴様が殺そうとしている奴と同じだ!憎しみに憎しみを返してどうなる!!」
「それでも!私は殺さぬわけにはいかんのだ!仇をうたねばならんのだ!!」
「なら!!この私の怒りは!アクセルを・・・部下を殺された怒りはどこにぶつければいい!!
 仇の貴様を殺したからといって、アクセルが戻ってくるわけではないのだ!!
違うか!!ええ!!?」
そういってヴィンデルは自分の拳をマシュマーの顔のすぐ横へ叩きつけた。
「殺したいのは私も同じだ・・・!だがアクセルはそんなことを望みはしない!
 自分が殺されたからといって、私に自分を失ってまで仇を討てなどということは言わんのだ!!
 貴様が言った者たちは・・・、殺されたもの達は貴様に仇を討てと・・・自分を見失えとでも言うのか!!違うだろ!!」
「・・・なら・・・私にどうしろというのだ・・・・」
泣いていた。
マシュマーにはさっきまでの狂気は欠片もなくなっていた。
「私の・・・力不足で・・・注意不足で・・・死なせてしまったのだ・・・・それでも私に参加者を殺すなというのか・・・!」
ヴィンデルもマシュマーももう拳に力など入れてはいなかった。
「どうすればいいというのだ・・・・。私は・・・・大切な人を失い、もはや帰る場所すら失った私に・・・!」
ヴィンデルも、タシロも、副長もなにも言わなかった。
いや、言えなかった。
この哀れな男に。
ゲームによって狂わされた男に。
冷たい星空に、一人の嗚咽だけが聞こえた。
―このゲームは・・・人を、人の心を狂わせる・・・・・・



【タシロ・タツミ 搭乗機体:ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレオリジナル)
 パイロット状況:上半身打撲
 機体状況:前面装甲にダメージ、Gインパクトキャノン二門破損、Gテリトリー破損
 現在位置:B-4
 第一行動方針:デビルガンダムへの対抗策を考える
 第二行動方針:デビルガンダムをどうにかする
 第三行動方針:リョウトの捜索、シロッコをどうにかする
 最終行動目標:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
 備考:AMガンナーに搭乗した副長が管制制御をサポート】

【副長 搭乗機体:ヒュッケバインMK3ガンナー(パンプレオリジナル) 
 パイロット状況:左足骨折(応急手当済み)
 機体状況:前面装甲にダメージ、Gインパクトキャノン二門破損、Gテリトリー破損
 現在位置:B-4
 第一行動指針:タシロを可能な限りサポートする
 最終行動指針:ゲームから可能な限りのプレイヤーとともに生還
 備考:AMガンナーへ乗換。AMガンナーはサポートのみ、本体操作は出来ません】

【マシュマー・セロ 搭乗機体:ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:激しい憎悪。強化による精神不安定さ再発(少し落ち着いた)
 機体状況:Z・Oサイズ紛失、装甲全体に亀裂、ディフレクトフィールド使用不能、EN及び弾数少。
      戦闘続行は厳しい。再戦闘には補給及び数時間の自己修復が必要
 現在位置:B-4
 第一行動方針:ミオの救助
 最終行動方針:???(この後のマシュマーの行動方針は次の人に任せます)】

【ヴィンデル・マウザー 登場機体:マジンカイザー(スクランダー装備)(α仕様)
 パイロット状況:全身打撲、アバラ骨数本にヒビと骨折(応急手当済み)、 頭部裂傷(大した事はない)
         マジンカイザー操縦の反動によるダメージ有
 機体状況:装甲全体に亀裂、EN残り少、戦闘続行は厳しい。
      再戦闘には補給及び数時間の自己修復が必要
 現在位置:B-4
 第一行動方針:ミオの救助
 第二行動方針:強力な味方を得る、及び他の参加者と接触し情報を集める
 最終行動方針:???
 備考:機体及びパイロットにDG細胞反応は無し】


【ハロ 搭乗機体:マジンカイザー(スクランダー装備)(α仕様)
 現在位置:B-4
 パイロット状況:機能を完全に停止】

【二日目 19:50】





前回 第206話「悲しみの星空」 次回
第205話「それぞれの仲間の絆と事情 投下順 第207話「悪魔に囚われし少女
第215話「精霊の導き 時系列順 第207話「悪魔に囚われし少女

前回 登場人物追跡 次回
第198話 タシロ・タツミ 第221話「遙か広がる戦いの荒野へ
第198話 副長 第221話「遙か広がる戦いの荒野へ
第198話 マシュマー・セロ 第221話「遙か広がる戦いの荒野へ
第198話 ヴィンデル・マウザー 第221話「遙か広がる戦いの荒野へ


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最終更新:2008年06月02日 04:21