人間爆弾の恐怖~序章~ ◆s2SStITHHc
鎮座するヴァルシオン改の眼前に、大破したアカツキを転がす。
一頻りの作業を終えたラウ・ル・クルーゼは∀ガンダムのコックピット内で汗を拭い、
機体を飛ばしてその場を離れる。ヴァルシオンは動かない。
ミストが気絶していることを確認したクルーゼは、とある策を練っていた。
コウ・ウラキが消え、∀ガンダムに自分が乗っている。
その顛末をミストにいかに歪曲して伝えられるかに、彼の今後は大きく左右されるからだ。
先ほど見た、バルゴラ・グローリーとヴァルシオン改の戦闘。
短い付き合いながらも大体把握したミスト・レックスの性格。
それらを総合し、ミストをよりよく活用する為の嘘を練り上げる。
仕込みは全て終了し、後はミストが目覚めるのを待つのみ。
程なくして、ヴァルシオンが動き始めた。周囲を見渡し、困惑した様子だ。
それを上空から見下す∀ガンダムのビームライフルに火が灯り、慎重に狙いをつける。
「さて、一芝居打つとしようか」
完全に再生したコクピットの中でクルーゼが不敵に笑って引鉄を引き、粒子の奔流が放たれた。
◇
「ぐっ……お、俺は一体どうなったんだ……?」
目を覚ましたミストは、自分の身体に重大な傷がないことを確認し、機体に火をいれる。
次々と点燈していくディスプレイとコンソールを把握しながら、異変に気付いた。
「ここは地上じゃないか! まさか、俺はあのコロニーから落下したのか……?」
天を仰ぎ見るが、コロニーは当然視認できない。
時間もそれほど経っていないようだし、転移装置に辿り着けたのだろうか?
「でも、そんな記憶はない……俺はどうやってあの敵から逃れたんだ?」
続いて、周囲の様子を窺うミストの目に、大破したアカツキが映る。
そのMSはもちろん、彼の仲間のラウ・ル・クルーゼが乗っていたはずの機体だ。
「ク、クルーゼさん! 一体どうしたんです!」
慌てて通信波を飛ばして声をかけるが、一切反応はない。
ヴァルシオンの腕を伸ばしてアカツキを引き寄せようと、ミストが機体を操作した瞬間。
背後から、ビームが襲い掛かった。
ヴァルシオンのABフィールドが発動し、自機の四肢を狙う砲撃を無効化する。
「くっ! あの子供に追いつかれたか!? ……って、コウさんじゃないですか! 何をするんです!」
振り返るミストの視界に入ったのは、粒子を撒き散らしながら上空に佇む∀ガンダム。
クルーゼと同じく、自分と行動を共にしていたコウ・ウラキ少尉の機体だ。
「コウさん! まさか俺達を裏切ったんですか!? いくら不意討ちしたって、俺はコウさんに降参なんてしませんよ!」
「裏切ったのは君の方だろう……! ミスト・レックス!」
錯乱し、俄かに感情を高ぶらせるミストの耳に届いた声は、想像を裏切るクルーゼの声だった。
自分より遥かに怒りを湛えた口調で、次々とビームライフルを撃ち込んでくる。
「ク、クルーゼさん? 何故あなたがコウさんの機体に乗っているんですか!」
「君がそれを私に聞くかね……! ウラキ君を殺した君が!」
ABフィールドに全てのビームを弾かれつつ、∀は高速でヴァルシオンに接近してビームサーベルを抜く。
応じるヴァルシオンもディバイン・アームを抜いて、重金属粒子で構成された∀の凶刃と鍔迫り合いを演じた。
「俺がコウさんを殺した……? そんな筈はありませんよ! 何かの誤解じゃないんですか!?」
「君はあの青い敵機との交戦後、突如として我々に襲い掛かった! あれが誤解であるものか!」
「そんな……事がっ!」
「私は君を許さない……ウラキ君に託されたこの∀の全てで、君という悪を断つ!」
まったく身に覚えのない憎悪をぶつけられ、困惑するミストに、クルーゼの容赦ない攻撃が見舞われる。
40m近いサイズ差があるにもかかわらず、鍔迫り合いはクルーゼに軍配を上げようとしていた。
身の危険を感じたミストが一旦その場を離脱するべきか、と思案した瞬間、彼の頭に激痛が走る。
(これは……あの時と同じ……まさか!?)
戦いを強制するかのような思考介入。
それを必死で抑えながら、最悪の結論にミストのニューロンが辿り着いた。
(この機体に、搭乗者を暴走させる機能があって……それで、俺はコウさんを……?)
クロスマッシャーの発射ボタンに伸びそうになる手を片方の手で押さえる。
見れば、∀が自機に蹴りを入れるようにして離れ、ビームサーベルを突き出して突撃しようとしていた。
「ま、待ってくださいクルーゼさん! 俺の話も聞いてくださいよ! この機体には恐ろしい仕掛けがあったんです!」
「……何?」
ヴァルシオンの眼前で∀がブレーキをかけ、訝る様にビームサーベルを向けたままで武装解除を促す。
話を聞いてくれれば、とミストはディバインアームを放り投げ、機体の両手を上げて降伏した。
∀はサーベルを収め、地上に降り立ってヴァルシオンに通信を送る。
「……わかった、君の話を聞こう。機体から降りたまえ」
「あ、ありがとうございます!」
喜んで機体から降りるミストは、当然気付かない。
通信先のクルーゼがほくそ笑んでいることに、など。
◇
「……どうでした?」
「君のいう通りだったよ、ミスト君」
ヴァルシオンを調べる、と言って機体内部に入り、しばらくして帰還したクルーゼを迎えるミスト。
操縦センスの高いミストは碌にマニュアルなど読まずに操作していたのだが、
ヴァルシオンのコクピットのどこかにそういったものがあったらしい。
クルーゼは淡々とした様子で、ゲイム・システムの効用について語った。
ミストはそんなクルーゼの目(仮面で隠れているが)に非難の色が混ざっているように感じ、ぼそりと愚痴をこぼす。
「なんで俺が責められなきゃいけないんです……責めるべきなのは、この機体を支給したシャドウミラーの方でしょ」
「それはそうだが……」
ミストの言葉に、流石のクルーゼも少々不快感……というより違和感を覚える。
事実は違うとは言え、自分のせいで人が死んだという事を突きつけられたのにこの態度はいかがなものか。
一方のミストも、自分を無言で見つめるクルーゼとの間に険呑な空気を形成する。
(やはり姿形が同じでも宇宙人は宇宙人というわけか……意外と扱いが難しいのかも知れんな)
(俺が悪くないって事は分かった筈なのに……地球人ってのはみんな結果だけで人を非難するのか……!?)
ミストは罪悪感からか、自分がコウをどう殺したのか詳細を聞く気にもなれなかった。
なんともいえない重い空気を振り払うように、クルーゼがなるべく明るく言葉をかける。
「だが……安心したまえ、ミスト君。ゲイム・システムは外部から止められるようにしておいた」
「本当ですか!」
(嘘だよ……フフフ)
嘲笑を噛み殺しながら、クルーゼがミストに手のひらサイズの赤いスイッチがついた機械を示す。
これを押せば、ゲイム・システムの発動を抑えられると説明を受け、ミストの表情がパッと明るくなる。
もちろんそんな説明は口から出任せで、このスイッチの正体は核ミサイルの起爆ボタンだ。
ミストが気絶している隙にヴァルシオンの内奥に仕込まれた∀ガンダムの虎の子の核弾頭一発は、
このスイッチ一つでいつでも爆発できるように、ヴァルシオンの中で眠っている。
(君が大勢の敵や味方と接触する機会があったなら……私はその場を離れてこれを押すことになるだろう。
他にも敵に撃墜された時に誘爆したりすれば、少なくともヴァルシオンを倒す強敵を一人消せるしな……。
ゲイム・システムと核弾頭による二つの意味での爆弾手駒……いや、人間爆弾とでも呼ばせてもらうか、ククッ)
「ありがとうございます、クルーゼさん! 俺、やっぱりクルーゼさんと会えてよかったです!」
「いや、私も頭に血を上らせて君を攻撃してしまった。許してくれ」
「そんな、俺とクルーゼさんの仲じゃないですか! コウさんの事は残念だったけど、
俺がコウさんの分まで頑張りますから、一緒にシャドウミラーを鎮圧しましょう!」
なんとか鎮火した場の険呑な空気に任せて、クルーゼがミストに地図を示す。
地図に描かれた地上の縮尺は、宇宙MAPにおける惑星と比べて小さすぎた。
「どういうことなんでしょう……わざわざ地球をリングにしておいて、こんな狭い範囲しか使わないなんて……」
「地球の他の場所に、シャドウミラーの本拠地があるのかも知れんな。そら、海上を見てみたまえ」
ミストがクルーゼに促されて海上に視線をやると、そこにはオーロラが出ていた。
比喩でもなんでもなく、海上のある位置……恐らく、この地図の端の部分に、
天と地全てを覆うような旭光が隔てているのだ。とてもではないが、自然の物には見えない。
「あれは一体……」
「推測だが、あれも空間転移に順じた技術ではないか? 恐らく地図の反対側の位置まで飛ばしてくれるのだろう」
「そうか……禁止エリアに囲まれたりして脱落なんて事、シャドウミラーが許すはずがないですしね」
殺し合いを強要する連中の非道さに憤るミストの肩を叩き、クルーゼが気さくにオーロラを指差す。
「アレに飛び込む勇気はあるかね?」
「もちろんです! シャドウミラーを倒してコウさんの仇を討つ為にも、立ち止まってなんかいられませんしね!」
言うが早いか、ミストはヴァルシオンに乗り込んでオーロラに突撃していった。
不都合な事が起こらないと確信してから、クルーゼもオーロラに飛び込む。
その先にあったのは―――。
◇
「うおっ!? なんだいありゃぁ!」
「わぁ……」
ジロン=アモスと相羽ミユキは、突如オーロラから飛び出してきた巨大なロボットに驚いて機体を止める。
彼らもまた、移動中に海上のオーロラを見咎め、好奇心からそれに近づいていたのだ。
警戒するように海上で後退するジンバだったが、クルーゼとミストの受けた衝撃は彼らの比ではなかった。
「なんだ……あの怪物は……」
「アトリームにもあんなのはいませんでした!」
想像したことすらない生物的なフォルムを持つジンバに驚愕するクルーゼに、頼まれもしない補足をいれるミスト。
しかし動転も束の間、クルーゼの駆る∀ガンダムのビームライフルが放たれる。
相当な機動性でそれを避けるジンバを尻目に、ミストが抗議の声を上げた。
「クルーゼさん! いきなり何をするんです!」
「通信より早い威嚇射撃さ。これで相手の腹積もりが読める。我々のように友好的でないならば反撃してくるだろうし、
もしあの怪物の搭乗者(いるのかどうかも分からんがな)が我々と同じ方針で動いているのなら……」
さもありなん、ジンバは動きを止め、交戦の意思を見せずにこちらの様子を窺う。
そして、クルーゼが予想するジンバの次の行動は―――。
(ミスト君のようにバカ正直に通信を送ってくるか、一目散に逃げるか……さて、どちらかな?)
超然とした態度でジンバを見遣るクルーゼ。
しかし、ジンバの次の行動は、そんなクルーゼの予想を凌駕した。
「ジロンさん、どうしましょう……逃げた方がいいんじゃ……」
「へへっ、あいつ等が大真面目に殺し合いをやる気なら、もっとドカドカ撃って来てるよ!
俺の勘によれば、相手は二人ともちょっと取り乱してるだけだと見たね……。
だったら、このジンバのオーバースキルの出番だよっ! まずあの小さい方からいきますか!」
ジンバのオーバースキル『窃盗』。
先ほどミユキをダイテツジンから引きづり出したときのように、手をかざし、掴み取る動作を行うジンバ。
ダイテツジンやヴァルシオンと比べてコクピットの位置が分かりやすい、∀ガンダムにその魔手が伸びる。
「!?」
クルーゼが咄嗟に、顔の前に電流が走るような感覚と共に機体を後退させる。
次の瞬間、クルーゼの仮面は剥ぎ取られ、ジンバの手元へと移動していた。
こんなもんいらねえ、とばかりに海に放り捨てられる仮面。
クルーゼはそれを唖然と目線で追うが、回収できるはずもない。
「ありゃ、外しちゃったよ」
「あの仮面……テッカマンの物じゃないと思うけど……」
通信が通っていない為、両陣営に意思疎通の術はない。
よって、ジロン側のお気楽な空気とクルーゼが吐き出す怒りは噛み合わず。
「おのれ……私の仮面を! ……い、いや落ち着け、あぐっ、あぐっ!」
激昂しかかる精神をなんとか沈め、手持ちの老化抑制剤を懐から取り出して飲みこむクルーゼ。
精神安定剤代わりに使えるほど量があるわけでもなかったが、それでも飲み込まずにいられない。
クルーゼにとってあの仮面は、ただ顔を隠す為のものではなかった。
自分の忌まわしい生まれをなんとかして忘れたいという感傷の現れとも言える存在だったのだ。
とりあえずコクピットにあった赤いサングラスをつけて急場を凌ぐクルーゼに、ミストの困惑する声が届く。
「クルーゼさん、大丈夫ですか!? 今俺の方から通信してみたんですが、あちらに戦闘の意志はないそうです!」
「……盗まれ損という訳か……わ、わかった。一旦陸に降りて会談の場を持つとしよう……」
しっくりとこないサングラスで顔を隠しながら、クルーゼはジンバとヴァルシオンを先導し、陸地に降り立った。
◇
「すごい、美女と野獣だ……!」
「な、なんだと!?」
自己紹介を終えてからそれぞれ機体から降り、向き合った四人。
筋骨隆々とした丸顔のジロンと可憐なミユキを見て、あまりに率直な意見を述べるミストに、
ジロンが顔をメロンにするような勢いで食って掛かり、それを仲裁するクルーゼとミユキ。
早くもグループ内のポジションが確定した瞬間であった。
「全く……いきなり撃ってくるわ、人を野獣呼ばわりするわ……なんなんだい、あんた達は?」
「すまなかったな、ジロン君。威嚇射撃だったのだが、誤解させてしまったかな?」
「ご、ごめんなさい……私がジロンさんを止めていれば、クルーゼさんの仮面がなくなる事も……」
「大丈夫さ、ミユキちゃん! それにクルーゼさんにはさっきの仮面よりそっちの方が似合ってますよ!」
最初はピリピリしていたジロンも、ミユキという緩衝材のお陰でクルーゼたちと打ち解け、
お互いにシャドウミラーに敵対する意志を確かめ合い、これまでの行動を語り合った。
もちろんクルーゼはコウの存在自体を語らず、ミストのほうをチラリと見て恩を売る。
少なからず罪悪感を覚えていたミストは、純粋に気を使ってくれたと取ってクルーゼを羨望の眼差しで見つめた。
ジロン達も、それぞれの探している人物やこれまでの経緯をクルーゼ達に教える。
「ふむ……ジロン君もミスト君と同じで、地球の人間ではないのか……驚きだな」
「惑星ゾラを知らないのかい? ミユキもそうだったし、なんか寂しいねえ……なあ、ミスト?」
(俺の出身はアトリームだよ……! ジロンさんのような野生児メインの星とは一緒にされたくなかった……!
大体三日間逃げ切れば何をやっても無罪だなんて、法制度からして破綻してるじゃないか!)
「おいミスト、どうした?」
「あ、いえ。俺も異星人だけど、みんなとメンタルは変わらないつもりですよ」
「そしてミユキ君は私と同じ地球人だが、知る文化や常識はまるで違う、か……」
「地球を席巻するラダムを、本当に知らないんですか?」
きょとんとした顔で問い掛けるミユキに、男性陣が総出で頷く。
あまりに違う文化の集合に、この中では比較的冷静なクルーゼが目眩を覚える。
(素晴らしい……彼らの世界を全て巻き込んだ戦争が見たい!)
しかしその目眩は困惑からくるものではなく、歓喜の果てにあるものだった。
シャドウミラーに従って優勝すれば、その夢想も叶うだろう、とクルーゼは震えた。
そんなクルーゼの様子に気付かず、他の者たちはこれからどうするか話し合っている。
クルーゼは気を取り直すと、自分の提案が最も映える瞬間を狙い、議論に割り込む。
「ジロン君とミユキ君が置去りにした、ダルタニアスという巨大ロボットの事だが……」
「ああ、あれね。俺はミユキに乗ったら?って言ったんだけどさ、ああいう巨大ロボは苦手らしいのよね」
「私に最初に支給されたダイテツジンっていう大きなロボットをすぐに壊しちゃったから、不安で……」
「しかし、この場において戦力はあればあるほどいい。できれば回収したいが……」
「じゃあ、俺がひとっ走りヴァルシオンで拾ってきますよ!」
クルーゼがミストに視線をやる。あまりお遣いを頼みたいタイプではない。
かといって、ヴァルシオン以外に50m級の機体を運びうる機体などいないし……否。
パイロットを連れて行けばいいのだ、とクルーゼが思い遣る。
「いや……私が行こう。ミユキ君、諦めるのは試してからでもいいのではないかね?」
「え……」
「もしかしたら、簡単に動かせるタイプの機体かもしれない。同じ地球人のよしみだ、私の∀に同乗したまえ
……最も、君がテッカマンとしての力とやらを使って戦うのなら話は別だがね」
「ちょっとちょっと! 俺はまだミユキを預ける程あんたらを信用しちゃいないぜ!」
「君のお兄さんへの思いには私も胸を打たれた……私にも大事な親類がいてね。
君の気持ちは誰よりも良く分かるつもりだよ、ミユキ君。だからこそ、君自身も戦う覚悟をして欲しいのさ。
誰かを守るために、誰かを傷つけねばならぬ時がある……戦争だろうと、そうでない時だろうとね。
そのために、人は力を求めると言っても過言ではない。それがどんな結果を生もうと省みることなく……!」
ジロンを無視してミユキにだけ語りかけるクルーゼ。
ミユキは迷っていたようだが、やがて決意したようにジロンに告げる。
「ジロンさん……私、クルーゼさんとダルタニアスを取りに戻ります。
このクリスタルは、お兄ちゃんの為の物だから……私は、これを使いません」
「な、なんだって!? いいのかい、ミユキ!」
「私も、力を貸してもらうだけじゃ悪いですから。お兄ちゃんだけじゃなく、皆の為に戦います……たとえ、短い命でも」
微笑むミユキ。しかし、その微笑みが何を意味するのか、ジロンだけには分かる。
先ほどは軽い調子で言ったが、小一時間前にダルタニアスを発見した時はひと悶着あったのだ。
放置されていたダルタニアスを諦めた時、ミユキの顔には戦いへの拒否感があった。
それでも尚、戦う覚悟を決めた彼女を、どうして止められるだろうか。
「わかった……俺も、付き合うよ」
「それは必要ない。ジロン君、君にはミスト君と共に、雪原地帯の市街地に向かって偵察を願いたい。
我々もすぐにそちらにいくから、待ち合わせといってもいいだろうが」
「おいおい、だから俺はまだあんたらを信用してないって……」
言いかけるジロンに、クルーゼが自分のディバッグを投げ渡す。
そこには、この島で生きるために不可欠な食料など、一つの欠損もなく全てが封入されていた。
ミユキに促し、彼女の分もジロンに預けるクルーゼ。
「これで、私が仮に彼女を殺しても何も得をすることはなくなった訳だ。なんなら、∀の武器も預けようか?」
「貸してくれるってんなら貰いますけどさ。う~ん……分かったよ。とりあえず信用してやるさ」
迷いなく自分のメリットとなり得る全ての物を預けたクルーゼを一応認め、ジロンは渋々頷いた。
ビームライフル、ガンダムハンマー、ビームサーベルなど、めぼしい装備をジンバに移す∀ガンダム。
一方、置いていかれそうになったミストが、クルーゼに小声で伺いを立てる。
クルーゼがいなければ、ミストにとってゲイム・システムを抑えるのが困難になるのだから、当然だろう。
「でも、徒手空拳で大丈夫なんですか? クルーゼさん。(それに俺の機体の、あのシステムは……)」
「問題ないさ。この機体のポテンシャルならば、手刀だけでもそれなりに戦えるよ。
(なるべく熱くなって戦わないようにしたまえ。そう長く離れるわけでもないし、戦闘を避けて動いてもいい)」
ミスト達は知る由もないが、それに加えて∀には核ミサイル、ビームドライブユニットといった武装がある。
クルーゼはそれを知っていて、戦力を増強し、かつ場合によってはミストたちを見限って行動できる流れを作る為に、
偽りの仲間に武器を預けて単独行動するという愚を犯したのだ。最も、今のところはミユキを殺すつもりもない。
(しばらくは君達と共に行動するのも悪くない。テッカマンとやらに興味もあるしな)
クルーゼはミユキをコックピットに乗せ、ミストとジロンの挨拶に返答しながら、∀を発進させた。
道中、より詳しくミユキの知り合いの話を聞こうと話題を振る。
"タカヤお兄ちゃん"ことDボゥイ、テッカマンブレードという男について、熱の入った解説を受けるクルーゼ。
妹が兄に向ける感情としては少々常軌を逸した物を感じるクルーゼだったが、とにかくその男は強いらしい。
彼女を手中に抑えておけば、大変使い出のある駒と成りうるだろう。
(家族、か……全く、素晴らしい物だよ)
敬慕する兄を語るミユキは気付かない。
本来の持ち主が、いやらしい視線で婦人を舐め回すために使ったサングラスの下の、クルーゼの本心に。
(なあ……ムウ、レイ……)
その、皮肉に。
【ジロン・アモス 搭乗機体:ジンバ(OVERMAN キングゲイナー)
パイロット状態:良好
機体状態:良好
現在地:D-7
第一行動方針:雪原の市街地に向かい、クルーゼとミユキを待つ
第二行動方針:ティンプと決着をつける
最終行動方針:シャドウミラーをぶっ飛ばす
備考:ジンバは∀ガンダムの武装を一部借り受けています】
【ミスト・レックス 搭乗機体:ヴァルシオン改@スーパーロボット大戦OGシリーズ
パイロット状況:良好
機体状況:前面部装甲破損 エネルギー消耗(中) 核弾頭秘蔵
現在位置:D-7
第1行動方針:仲間を集める(レイ、ディアッカ、カナード優先)
第2行動方針:雪原の市街地に向かい、クルーゼとミユキを待つ
第3行動方針:戦いに乗った危険人物、イスペイルは倒す
最終行動方針:シャドウミラーを倒す】
※ゲイムシステムは、戦闘が終了すると停止します。一定時間戦闘していると再び発動。
※ヴァルシオン改の内部に核弾頭がセットされました。クルーゼの遠隔操作でいつでも起爆できます。
【ラウ・ル・クルーゼ 搭乗機体:∀ガンダム@∀ガンダム
パイロット状況:良好 仮面喪失 ハリーの眼鏡装備
機体状況:良好 核装備(1/2)
現在位置:C-7
第1行動方針:手駒を集める(レイ、ディアッカ、カナード優先)
第2行動方針:ダルタニアスを取りに行って、雪原市街地でミストたちと合流する
第3行動方針:手駒を使い邪魔者を間引き、参加者を減らしていく
最終行動方針:優勝し再び泥沼の戦争を引き起こす(できれば全ての異世界を滅茶苦茶にしたい)】
※マニュアルには月光蝶システムに関して記載されていません。
※ヴァルシオン内部の核弾頭起爆スイッチを所持。
【テッカマンレイピア 搭乗機体:なし(∀ガンダムに同乗中)
パイロット状態:体力消耗
現在地:C-7
第一行動方針:タカヤお兄ちゃんを助ける
第二行動方針:私も……戦う!
第三行動方針:アックス、ランス、アルベルトに警戒
最終行動方針:みんなで生きて帰れる方法を探す
備考一:テッククリスタル所持
備考二:Dボゥイの異常に気が付きました】
【一日目 9:30】
最終更新:2010年04月13日 16:44