超変身! 俺の名前を言ってみろ! ◆vtepmyWOxo
「機体にガタは来てねえな……なるほど、確かにこいつはいい機体だ」
蒼い格闘戦用機の中でテッカマンアックス――いや、ゴダードは呟いた。
「さっきの嬢ちゃんもなかなかの腕前だったが、あっちの男は相当できるな。
タカヤ坊より、いやもしかしたらワシより腕が立つかもしれんな」
戦いを思い出し、小さく温かみのある笑みをゴダードはこぼす。
比較的ラダムの精神支配による影響の少ないアックスは、ある意味一番人間味を備えたテッカマンと言える存在だ。
声には、敵対者全てを破壊し殺しつくす残虐さではなく、人間の武道家として相手を称賛する響きがあった。
「あんな連中だけじゃなく、ミユキ嬢にタカヤ坊までいる。こりゃあ、モロトフの奴は相手を見くびって足をすくわれかねんな」
いつも自信満々で、シンヤ坊に敵愾心丸出しで接しているモロトフことテッカマンランスが、
派手にとちるところがこの上なく幻視できてしまう。ちなみにゴダードが知る由もないが、実際このテッカマセランス、
見事に主催を見くびって首を先程吹っ飛ばされた。合掌。
「ただまあ、これがある限り早々負けるつもりもないが……」
そう言ってゴダードが手の中で転がすのは、緑色をした結晶。すなわち、テッカマンアックスのクリスタル。
今回の殺し合いでは、クリスタルに互換性があることから、一人一つずつクリスタルは支給されていたのだ。
ミユキには、タカヤのテッククリスタルが。
タカヤには、シンヤのテッククリスタルが埋め込まれ、ブラスター化して暴走している。
モロトフにも、テッククリスタルが支給されるはずだったが……会場に行く前にレモンに渡され爆死。
同じようにゴダードにもクリスタルは渡されている。もっとも、彼のみ本人のものだったが。
テッククリスタル自体に能力の差異がない以上、どれでもいいのだが、やはり自分のクリスタルを渡されて悪い気はしない。
「さて、それじゃあ行くか……」
一戦交えた疲れも取れた。
ソウルゲインがゆっくりと腰を上げる。
先程の人のいい男の顔は消え、代わりに浮かぶのは冷徹な殺戮者、テッカマンアックスとしての表情。
再び、テッカマンが獲物である「人間」を探し走り出した。
■
荒野を疾走する一騎の巨大戦車。
「エルエル、ところでせっかくだからワシが足とり手とり……」
「お断りするわ!」
結論から言おう。エルデの腕前では、到底ダイターン3を使いこなすことはできなかった。
解析のためにも基地施設のあるG-5へ向かう途中、移動がてらに操作の練習を行ったが、あまりにもお粗末なものだった。
腕利きならば、それこそあっという間に撃墜されてしまうくらいに。
エルデは、そのためダイタンクで運用することに決めた。砲撃などの照準合わせなどならば、メディウス・ロクスでもやってきたことだ。
足を止めて、一種ダイタンクは移動砲台として運用。近付いてくる敵は、腹立たしいがこのジエーが撹乱して寄せないようにする。
それが、最良の選択と言えるだろう。
そうやってつい先ほどまで敵の襲来を予測していたからこそ、迅速な行動が間にあった。
「エルエル! 誰か近付いてきてるにゃ!」
「……分かってるわ。ひとまず黙っててちょうだい」
この老人が口を開くと、余計なことにしかならない。そんな予感を感じながらも、ジエーの拘束を解き、コクピットから蹴りだす。
なんだか喘ぐような声がしたが、頭痛のタネになるだけなのでスルーする。
「こちらには抗戦する意思はないわ。もしよければ……」
そこまで言った時だった。近づいてくる機体の手に青い光が灯り、こちらへまっすぐと向かってくる――!
緊急回避しようとしたが、あまりに図体の大きいダイタンクでは回避し切れなかった。
衝撃で揺れる機体。
「エルエル~!?」
「わたしはいいからさっさと行きなさい! 敵よ!」
こいつが前に出て足止めしなければすぐに落とされてしまう。
命綱を相手に握られているも同然なことに苛立ちを覚えながらも、ダイタンクの砲門を敵に向けた。
■
「ほう、この場で出会った即席コンビか知らないが……なかなかやるな……!」
ネズミだかなにかよくわからない着ぐるみかと思えば、ソルテッカマンのようなパワードスーツなのか、いい動きをする。
仲間の砲撃の隙にこちらの死角に回り込み、的確にこちらの関節やスラスターなどを狙ってくる、その動き。
窮鼠、というわけでもないだろうが小さな牙をこちらに突き立てようとしてくる。
もちろん、ゴダードも相手の狙いを知ってあたってやるわけにはいかない。正確にステップを刻み、攻撃を回避する。
無理に前に出ようとしても、ネズミの狙い撃ちで動きを止められるのが関の山。
そこを容赦なく本命の砲撃で落とされる。
攻撃を回避しながら、攻撃に転じるのはなかなか難しそうだ。
「どちらかだけでも動きを止められれば、いいだが……っと!?」
ネズミを落とし、木偶の坊となった戦車を落とすのが手っ取り早そうだが、それをやろうにもネズミに集中すること自体が危険だ。
機体の動きこそ素人だが、砲撃の正確さだけは見るところがある。
若さにまかせた突撃ではなく戦局を、余裕を持って見抜き、行動する。
これは、シンヤ坊やタカヤ坊の稽古まで付けていた、武道において免許皆伝の腕を持つゴダードだからこそできる技術だ。
かれこれ15分は砲撃の嵐をゴダードは回避を続ける。
そして、ゴダードは気付く。
タンクが、じわじわと砲撃のたびに下がっていることに。
おそらく、距離を取るためだろう。しかし、それはゴダードにとってきっかけとなった。
ネズミの砲撃をあえて無視し、一気にゴダードは前に出る。
正確な砲撃が向けられる。
だが、
「そこが隙だッ!」
機体を、一瞬だけ引き戻す。
砲撃が正確だからこそ、少しの動きでかわせる。
そして、距離が空いたからこそ、一回だけなら回避しきってから次弾が到達するより、こっちが動き出すほうが早い。
ソウルゲインの腕が唸りを上げ、打ち出された。その手は正確に――戦車の砲身を粉砕した。
砲身に詰まっていた砲弾が引火したのか、大きな爆発を起こす戦車。これでもう遠距離狙撃は心配ない。
「おのれ~よ~くもエルエルちゃんを!」
「まだ死んじゃいないわよ……」
「死んでない」という女の声を無視し、こちらに喰ってかかるネズミ。
だが、もう問題ない。ネズミだけなら、もう相手ではない。確かにソウルゲインではこいつを捕えるのは難しいかもしれない。
だが、ゴダードには切り札がある。
砲撃が止んだことで、機体を撃たれることなくなった。
ならば、もう心配はない。コクピットからゴダードは身を乗り出し、落下する。
突き出すのは、他でもないテッククリスタル。
放たれる声は―――
「テックセッタァー!!」
重厚な緑色の装甲に包まれたテッカマンが、大地に降り立った。
いくら動きがすばしっこいネズミ言えど、テッカマンの機動力に比べれば相手にもならない!
「ウホッ、いいテッカマン!」
「ほう、テッカマンを知っているのか!」
「と~ぜん! そしてこのボン太くんは多分テッカマンとも戦ったことがあるスペシャル仕様じゃ!」
テッカマンアックスの攻撃を、器用に銃で捌くいやボン太くんという名のネズミ。
しかし、所詮はしわくちゃの老人の使うパワードスーツ。精力的な男の超人の肉体である、テッカマンに勝てる筈がない。
瞬く間に、ボン太くんは劣勢に追い込まれていく。
「ぬぬ~!! これが連邦の新型ぁ!?」
「死ねぇい!!」
振り下ろされる斧型テックランサーを紙一重でボン太くんはかわし、ロケットランチャーを打ち込むがテッカマンには傷一つ付けられない。
距離があくが、アックスは即座に詰めようとした。しかし、ボン太くんの不可思議な動きに、突撃を停止した。
突然、つけているスーツの頭を脱いだのだ。戦場で防具を外すなど、愚の骨頂でしかない。
脱がれたぬいぐるみから露出したのは、おかしな髪飾りを付けたしわくちゃの醜い老人だった。
「どうした!? カブトを脱いだからと言って俺は容赦するつもりはないぞ!」
チッチッチッ、とぬいぐるみの短い指を器用に振る老人。
そして、アックスをまっすぐ指さした。
「その目……攻撃を止めぬ瞳…… ならば体裁を取り繕う必要はないな……」
先程のふざけた老人の声ではない。鋭い眼光とともに、老人の空気が一変する。
次に何をやるつもりか、と身構えながらも相手の行動を考え、武道家としてわずかに高揚をアックスが感じた時、
老人は息を大きく吸い込み叫んだ。
「激しいいぢめを得る為に変えていた……この顔でいる必要も……ない!! そうだ……これが本当の私ッッッ!!」
老人の身体が、眩い光に包まれる。
それは――まさにテッカマンのテックセッターの輝きに似ていた。
「ジ・エーデル・ベルナル!! 設定年齢19歳 蟹座のB型ッ!!!」
高らかな宣告とともに、光の中から現れたその姿は………
「「美……美形だッッッ!!」」
アックスもエルデも声を合わせてそう叫んだ。そう叫ばないといけない気がした。
実際、光の中にいたのは美形だった。バラも持っちゃったりする美男子だった。
「そ、それでどうするの……?」
なんだか、触れてはいけないものにおそるおそる触れるような口調で美形なジ・エーデルに話しかけるエルデ。
それに対して美形は、
「逃げる!」
「……はっ!?」
アックスもエルデも全く状況がつかめず固まっている隙に、再びぬいぐるみのカブトを着けてすたこらさっさと走り出す美形。
完全に凍りついた空気のまま、僅かに時間が流れ、
「ふ、ふははははははは! 一本取られたか! だが……どうやらお前は見捨てられたようだな!」
エルデが我に帰るより、戦い慣れしていたアックスのほうが早かった。
アックスは瞬く間にダイタンクの胸部にとりつくと、斧型のテックランサーを振り下ろした。
メキメキと音を立て、強引に引きはがされるダイタンクのコクピット部の装甲。
「待って! あなた、あの連中の言いなりになるつもり!? 私ならこの首輪を解析して解くこともできる、ここは手を組みましょう!?」
エルデの命乞い。
「ほーぅ」
しかし、それに対してアックスには冷徹な返事を返した。
「こう見えても俺は、星間飛行用のエンジンを開発したこともあるんだ。こう見えても電子工学の権威なんでな」
エルデの顔が凍りつく。
自分が生き残るにあたって相手に提示できる、「生存させておくことの利点」がもうなくなったことを分かりやすく示していた。
エルでの横にあるディバックを肩に担ぐと、恐怖と怒りでないまぜになったエルデを、アックスは視線だけで黙らせた。
それでも、何か言おうと唇を震わせるエルデに対して、アックスの返答は一つ。
「ボル………」
せきを切ったかのように放たれる命乞いの数々――全て無駄。
「待って! 私という存在を殺すのは、人類全体に対して大きな損害なのよ!」
発射態勢よし。残りエネルギーよし。
「AI1さえ完成すれば、世界そのものが革変できる! それを生み出すことが出来るのは私だけで―――」
容赦など、あるはずがなし。
「……――テッカ――――――!!」
指向性の反物質砲が、ダイタンクのコクピットを中心に装甲をめくり返し、動力炉ごと反物質が反応する。
その爆発は―――ただただ圧倒的。
【エルデ・ミッテ 支給機体:ダイターン3(無敵鋼人ダイターン3)
パイロット状況:蒸発
機体状況:大破 】
【テッカマンアックス 搭乗機体:ソウルゲイン(スーパーロボット大戦OGシリーズ)】
パイロット状態:疲労(中) カラスの首輪を所持
機体状態:良好
現在位置:G-5 基地
第一行動方針:殺し合いに乗り優勝する
最終行動方針:殺し合いに乗り優勝する】
「あーりゃりゃ。こりゃエルエル死んじゃたかな~~?」
手をおでこに当て、ボルテッカの輝きをジ・エーデルは見ながらそう嘯いた。
「んー、あの手のマッドサイエンティストは結構あとまでパターンで残ると思ったんだけどなあ、
あ、もしかして僕とキャラ被ってるから? ま~より天才が生き残るのは当たり前か!
どっかの造作もありませんの人とめい☆おーもそうだったしね!」
そう言って、再びボン太くんスーツを身にまとうジ・エーデル。
「ふもっふ、ふもふも、ふもー!」
(訳 さーて、気を取りなおしていってみようかー!)
【ジ・エーデル・ベルナル
支給機体:量産型ボン太くん(フルメタルパニックふもっふ)
パイロット状況:良好 大興奮 背中と右手の甲に痣
機体状況:良好 弾薬小消費 ボイスチェンジャーの不具合解消
現在位置:G-5 荒野
第1行動方針:ちょっとやめてよね、人の頭の中を覗き見ようとするのは!
ボクはそういう事をされるのが一番嫌いなんだよ、プンプン!
最終行動方針:それは秘密だよ~ん!
備考:何やら色々知っているようだが……? 次元力の行使は制限されているようだが……?】
【07:30】
最終更新:2010年02月21日 17:47