―視界いっぱいに広がるグレーの空、雨の中に霞む遠くのビル。
あたしだけが、世界に取り残されたようだった。
そう考えると少しロマンチックに思えるけど、現実は空き地の土管に濡れ鼠な女子高生が体育据わりしているだけで
土管の中から見える灰色の空と聞こえてくる雨の音はあたしを一層憂鬱にさせるだけだった。
「とりあえず、晴れたらエミん家に行って…ダメだ、ババアネットワークですぐばれる」
十数分前、あたしは家出した。わかってくれない母、無関心なだけの父。
大げんかして、駆け出したあたしは雨に濡れて、この空き地で雨宿りしている。
「叔母さんの家…けど電車代たんないし…どうするかな」
ため息ついて鞄の中を見る。教科書、文庫本、文庫本、手帳、文庫本、漫画。
そして、あたしのお気に入りの本。
「鞄に本だけ詰め込んで…家出したのは良いけれど、本だけじゃどこにもいけない。馬鹿だぬ、あたし」
しかたなしに本を読み、雨が止むのを待つことにした。晴れたらここからでることぐらいできる。
それならじっとしているより、ずっといい。そんなことを考えながら
―ちゃぷん、ぴっちゃん、ぺたっ、ぺたっ
どれくらいたったんだろう?
87ページ読んだところで、何か音が聞こえた。足音だ。
唐突に聞こえてきたソレは、唐突に止まった。
顔をあげて文庫本から視線を外に向けると黄色のゴム長をはいた足がそこにいた。
「4年3組日和瑞希」
小さく声に出して読む。ふちに書かれた小さな名前。4年生にしては綺麗な字。お母さんか誰かが書いてあげたんだろうか?
「ひわ、みずき…みずき」
あたしの大好きなあの子。喧嘩の理由にもなった、あたしの恋人。
…あの子も今頃、どうしているんだろう?
「誰か、いるんですか?」
雨の隙間をぬける、澄んだ声。急に自分の名前を呼ばれたのが不信なのか、それとも他に何かあるのか
親猫を呼ぶ子猫のように憂いを含んだ、声。
「みずき…ここにいるよ。………ごめん、驚かせちゃった?」
最初は静かに、しばらく間を置いてから陽気にあたしは呼びかける。
2、3歩、ゴム長が後退りし、少女が屈み込んで土管を覗き込む。
短く切り揃えた黒い髪、少し細い頬から顎のライン、まるまるとした、大きな瞳、口は瞳に負けないぐらい大きく、ぽかんと開けられている。
「……………何しているんですか?」
ぽかんと開けられた口がしまり、怪訝そうにたずねる。
「雨宿り…お姉ちゃん、傘がなくて困ってるんだ。」
自分でもわかる、ぎこちない声とぎこちない笑顔。
あたしの顔をじっと覗き込んでいた瑞希は目をとじ、うーんとうなりだした。
「あの…お姉さんびしょびしょで、そのままだと風邪をひくと思います。」
心配してくれているけれど、知らない人と話すのは怖いのか、おどおどした様子で話しかけてくる。
「そうだね、だけれどお姉ちゃん、傘もタオルもないから…瑞希ちゃん、でいいのかな?よかったらお店か…駅まで傘に入れてくれないかな?」
心配してくれるなら、どうにかなるかもしれない。
できるだけすまなそうに、少し声を高くして頼んでみる。
「私の家は駅とは反対なんです。それに、その…お姉さん、服が透けてて…お店は恥ずかしいと思いますから…」
言われて見れば、あたしの制服…白い半袖のブラウスはところどころが透けて、ぺったりとくっついている。
確かに恥ずかしくはあるけれど、このままでいるよりはいいんだよ。そのことを伝えようとするより先に、瑞希がまた声をかけた
「だから…私の秘密基地にきませんか?」
おどおどしない、はっきりした声を。
ザァーッ、ザァーッ…
―雨の中、外に出かけないといけないのは嫌だけれど、雨の音を聞いたり、雨の日を見るのは好き。
雨の日に、誰かと一緒に居るのが好き。
雨の音が他の音を隠すから、雨が風景隠すから、晴れよりずっと、隣に居る人を感じられるから。
アルコールランプに火を灯すと狭い秘密基地はよけいに狭く感じる。影が消えてしまうから。
「ずいぶん、本格派なんだ…お父さんと作ったの?」
空き地で知り合ったお姉さんは珍しそうに見渡しています。
きっと、段ボールにビニールシートを被せたぐらいだと思っていたんだろうな。でも、私の秘密基地は違う。
「お母さんと一緒に造ったんです。お母さん、自衛隊の人だから、こんなの簡単だって言ってました。」
ベニヤ、木板、廃材で造られた小さな小屋。入り口はカモフラージュしてあるし、鳴子や落とし穴が仕掛けてあるから知らない人が侵入しても、大丈夫。
でも隅っこにある段ボールの「じゅうえいそう」だけはよくわかりません。
「…すごいお母さんだね。うらやましいよ」
お姉さんは話しながら、栗色の髪をタオルで拭いている。
洗われた猫みたいにブルブルと身体を震わせると、乱雑に制服を脱いで、身体を拭き始めます。
私より少し長い、スラッとした足。淡い水色のブラジャーに包まれた、ふっくらとした胸。
くびれた腰に流れる、栗色の髪。
「―綺麗」
つい、口に出してしまう。お姉さんがゆっくり、私を見る。
「ありがと。どこが一番綺麗かな?」
何でだろう、その一言で、頬が熱くなってしまうし、恥ずかしい気持ちになってしまう。
「お姉さんが…あ、その、髪が綺麗だって」
言葉を出すとよけいに恥ずかしくなって…何だか間がもたない。
お姉さんが脱いだ制服をリコーダーと裁縫糸の即席ハンガーにかけて、背を向ける。
…私も、あんな風に、大人な身体になってしまうんだろうか?
「地毛で…自慢なんだ。綺麗な髪だって誉めてくれてありがとう。あ、私は雲井玲香。お姉さんでなくて、玲香でいいよ」
後ろにぺたんと座り、頭を撫でてくる。しっとり濡れて、でもほんのりと暖かい。
雨の日、外に出かけないといけないのは嫌だけれど、雨の日は嫌いじゃない。
いつもより少しだけ寒いから、一緒に居てくれる人が暖かい。
「その、髪が綺麗だなって」
ずっと前、あたしは自分の髪が嫌いだった。
姉や母、周りのみんなと違う、変な色。
この色のせいで、不良だなんて言われたこともあった。
「玲の髪は綺麗。ふわふわした毛質にあっているし、自然な色だもの」
あのコがある日、撫でながら誉めてくれた。
その日から、この髪はあたしの自慢。
今、同じ名前のコが同じ場所を誉めた。ただの偶然…だけれど、あたしの憂鬱が消えてゆく。
「地毛で…自慢なんだ。綺麗な髪って誉めてくれてありがとう。私は雲井玲香。お姉さんでなくて、玲香で良いよ。」
見ず知らずのあたしを秘密基地に案内してくれたこと、髪を誉めてくれたのが嬉しいから
あたしはみずきの横に体育座りして頭を撫でた。
綺麗な黒髪のショートヘア。そっと指を通すと、シトラスの香りが洩れてくる。
あたしより小さな、暖かい身体。雨で冷えたいたから、喧嘩していたから、よけいに温もりが愛しくて、あたしは小さな身体を抱き締めた。
肩を抱き、身体を寄せて、頬と頬を重ねる。
温もりを感じながら、膝を触れ合わせ、頭を胸元に抱く。
「…瑞希…」
目を細め、名前を呼ぶ。今、あたしが一番欲しい温もりの名前。
「おね…玲香さん?」
怪訝そうな、どこか不安そうなみずきの声が、あたしをハッとさせた。
急にこんなことをしたから驚かせたのだろう。
「あ、ごめんね。少し肌寒かったからさ。…そういえばみずきちゃん、あんなところで何してたの?」
苦し紛れに、あたしは頭の片隅にあった疑問を口に出した。
あの空き地は、晴れなら下校途中の小学生が公園がわりに使い、土管の上は猫の指定席になっている。
猫が心配で見に来たのかと思ったけれど、みずきはあたしの胸元でうつむき黙ったままだ。
「家に、帰りたくなかったんです…お家に帰るのが、嫌だったから、秘密基地に…」
ぽつりぽつりと漏れた声に、あたしはくすりと笑ってしまった。
あたしの笑い声にみずきが少しだけ鋭くした目をして振り向く。
「あ、ごめん。あたしと同じ理由だと思ったら何だかおかしくてさ」
鋭く、とがっていた目が今度は大きく開き、同じように口も開く。
「玲香さん、も?」
「そ、あたしも。家に帰りたくなかったんだ。…ケンカしちゃってね。みずきちゃん、も?」
できるだけ恥ずかしそうに、笑いながら話す。
みずきも同じように笑って、理由を話してくれれば良いと思ったから。
みずきは小さく笑った。すぐにはっとして頭をさげる。
「ごめんなさい…高校生のお姉さんでもそんなことあるんだと思ったら、何だかおかしくて」
妙にかしこまる様子がおかしくてあたしがまた笑う。
「いいよ。だからあたしも笑ったんだし」
安心したようにみずきが笑う。あたしも笑いながらみずきの頭を撫でる。
互いの「嫌」が吹き飛ぶように願いながら。
「…理由、聞いてくれますか?」
少し低めに抑えられた声。それとは逆に力を抜き、あたしに預けられるみずきの身体…。
「教えてくれるんだ?…ありがとう」
そっと撫でながら頭を撫で、身体を抱く。
「今日…学校で…生理が…来ちゃって」
「…ナプキン忘れて、男の子にからかわれた?」
胸元でみずきの頭が左右に揺れる。
「初めてで…何だか、怖くて…先生はおめでとうって言ってくれたんですけれど」
寒さのせいじゃない。みずきの身体が震えている…
あたしは腕に少しだけ力を込め、みずきの頭に顔を乗せた。
「…身体が何だか重いし、自分のじゃないみたいで…違う私になってしまったみたい…お母さんたち、違う私でも平気なのかなって」
また少し、みずきを抱く手に力を込める。
あたしも何だか怖かったけ。自分の内側から溢れる血が。ちょっとずつ変わってく身体が。
なぜか怖くて、自分の身体が嫌い。それで、なかなか眠れなかった。一人自分を抱きしめ、泣いていた…
「大丈夫だよ、みずき…怖くても、大丈夫。みんなそうなんだから」
話しかけながらそっとみずきの頭を撫でてやる。彼女が振り向き、潤んだ瞳があたしを捉えた。
「玲香さん…」
「あたしも怖かったけど…今は違う。大人の身体になるのも悪くないよ」
そういって、お姉さんは私をギュッとしてくれた。
ふっくらとした、柔らかい膨らみ。ひんやりと―でもどこか暖かい―お姉さんの肌。しっとりした、長い髪。
その全部から、雨の匂いがする…雨の匂いに包まれるように、ほんのりと甘い香りがした。
お姉さんの手が私の頭と背中をゆっくりゆっくり撫でてくれる。
なぜかなぁ…ほっとするのに、指先が離れて、もう一度触れる度、お腹の下がキュッとして切ない気持ちが沸いてくる。
「あの…玲香さん」
「うん?なぁに?」
胸の谷間から私の顔を離して、お姉さんが覗き込んで来る。
瞳が大きいから?それとも色のせいなのかな、ずっと見ていると吸い込まれてしまいそう。
「みせて、もらって…いい、ですか…?」
長いまつ毛が上下にパチパチと動いて、お姉さんが首を傾げる。
「…何を?高校の教科書とか?」
「大人の、からだ…」
ああ、頬が、身体が熱くなってきてる…しっかり見ていられなくて、私はお姉さんの胸元に顔を埋めた。
「大人の、からだ…」
…トンネルの向こうは不思議の街でした。
山の向こうは青い海だった。
小学生の口から出たのはびっくりワードでした。
よし、落ち着けあたし。
みずきの頬が真っ赤になってゆく。よほど恥ずかしかったらしい。
すぐにあたしの胸元に埋まり、顔を見せてくれない。
女子高通いの身だけれど、下着姿でなく、裸体を晒した相手なんて、瑞希ぐらいだ。
…ちょっと恥ずかしい。下着姿のあたしに見せてと言うことは、やっぱり裸体を見たいということなのだろう。
大丈夫だよと言った手前、見せて安心させるべきだろうか?
みずきも勇気を出して言ったんだ…お姉さんなあたしが応えないと何だか情けないよね。
「わかった…みせてあげる」
言葉を出し終えるとあたしの鼓動が速くなる。応じるように、みずきの鼓動が速まり、ゆっくり彼女が顔をあげる。
「みせてあげる…あたしの身体を」
もう一度言葉にして、腕の中の温もりを離し、立ち上がる。
ホックを外して、肩から紐を通して行く。
みずきが黙ってあたしの行為を見つめる。
小屋の中は雨の音で満たされていて…なのに、下着の落ちる音だけははっきり聞こえた。
淡い色のブラジャーとショーツがふわりと床に落ちて…私の前には、何もつけていないお姉さんがいて…。
息が詰まりそう。どきどきして、お腹の下の切ないが胸を押しているみたい。
レストランのアイスクリームみたいに丸くて綺麗な胸…お母さんと違って、淡い色のついた乳首。
お腹の下は、やっぱりと私違ってふわりとした毛がはえている。
「おいで、みずき…もっと近くで見ていいし…触ってもいいよ」
足を伸ばして座ったお姉さんが手招きしながら私を見てる。
甘い香り…吸い込まれてしまいそうな目…そして、声。
私はゆっくり…さっきみたいに近くで触れたくて、感じたくてお姉さんに近づいて行く。
熱っぽい顔をしたみずきがあたしの体に触れてくる。
さっきとの違いはあたしの体を覆う薄布があるかないかだけ。
そのはずなのに、みずきの手は少し熱っぽくて、あたしの鼓動はゆっくりと…深く刻まれている。
瞼を綴じたみずきがあたしの胸元に顔を埋め、指先が乳房を押す。
あたしの手は自然と頭を撫でて…みずきの熱が収まるのを待っていた。
「みずき…さっきからずっと胸ばっかりだけれど…みずきが本当に気になるのは、こっちじゃないのかな?」
乳房に触れたままの手を掴み、ゆっくりアンダーヘアを撫でさせる。
あたしは何をしているんだろう?行き過ぎ確実の性教育。
そんなことはわかっているけれど、あたしは…腕の中の温もりにもっと触れてもらいたいのだ。
「怖い?」
「いいえ…でも、何だか」
胸元から見上げるみずきの顔が赤い。あたしは構わず言葉を続ける。
「みられてるのは、みずきじゃないから」
「怖い?」
「いいえ…でも、何だか」
胸元から見上げるみずきの顔が赤い。あたしは構わず言葉を続ける。
「みられてるのは、みずきじゃないから」
今、あたしはどんな顔でこのこをみているんだろう?
うなずくみずきが、あたしのソコをみる。
恐る恐る、指先が恥丘を撫でてゆく。
以下未完
-
エロが入ってるのに、
序盤の方は小説としての書き方が濃くて、心を清らかにする文章でした。
後半のエロい部分も、
前半からの自然な流れで話に入る感じがします。
ギュッと抱き合い、
瑞希が玲香の胸元に顔を埋め、玲香が瑞希の頭を優しく撫でるところは純愛フィクションの様な印象を受けます。このシーンにはとても心癒されました。
全体的に素晴らしい作品だと実感します。
もし続きがあるなら
ぜひ読ましていただきたいですね!
-- 名無しさん (2011-05-05 02:15:42)
最終更新:2011年05月05日 02:15