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女の子がじっと私を見つめている。
小学3、4年ぐらい。…でも最近のコは発育いいからもうちょっと下かもしれない。
クリクリとした目がこれでもかというほど大きく開いて、びっくりしたような、
ぽかーんとしたような…。
実は私も内心、衝撃を受けている。
でも一応大人なので、顔には出さないようにしているつもり。
いつまでもびっくり顔で私を見つめてるその子に、口の端を軽くあげて微笑みかけた。
なんでもないことのように、なにも知らないことのように、私は隣にいる友人との
おしゃべりを続けた。

女の子はまだ私を見つめている。
彼女がなぜ私をみて驚いているのか。その理由を私は知っている。…たぶん。

いま私は友人とTDLにいる。
アトラクションの長い行列を友人とおしゃべりをしながら待ち時間を過ごしていたのだが、
ふと何か強烈な視線を感じて、振り返った。
その瞬間、私は硬直してしまった。

その光景、その空気、その女の子、その瞳…。

以前みた夢の光景そのままだったのだ。
信じられないが、本当にそのまんまの光景だったのだ。
その子がこうも驚いた顔をしているのは、おそらく彼女もそうなのではないだろうか。


私たちは夢の中で会ったことがある…。

しばらくして、人の流れが少し進んだときに後ろを振り返ってみたら、あの見開いた目は
落ち着いていたものの、まだ私をみていた。
気になりつつも、目をそらしてしまう。
またしばらくして、その子の姿を探してみる。
私のいるところより数メートル後ろにいるその子は、おそらく家族と一緒に来たのだろう、
今度は私のことなど忘れたかのように、母親らしき人と談笑していた。
その横顔をみた瞬間、知らんぷりした自分にちょっとばかり後悔が走る。

行列の折り返しでUターンし、境界ラインを挟んで彼女の真横に立った時、私は思い切って
声かけることにした。
彼女をじっと見つめながら静かに微笑んで、その子にだけ聴こえるように…。

「…私のこと、覚えていてくれた?」

その瞬間の彼女の笑顔といったら…。
ぱぁーっと輝くような、それはそれはもう可愛くて可愛くて…。


そうして私は恋に落ちた。

女の子は初瀬藍(はつせあい)。10才、小学4年生だった。
私は神島あや子(かみしまあやこ)。22才、公務員。
ひとまわり違うことになる。
驚いたことに、同じ地元で、大きな川を挟んでの隣町同士だった。

TDLでは、笑顔を見せつつ訝しげの母親と私の友人の視線をさらりと流しながら、
私たちはオトモダチになった。
あれ以来、ちょくちょく私の家に遊びに来るようになった。私が藍の家へ遊びにいく
こともあれば、一緒にお出かけすることもある。
もちろん平日は仕事なので土曜か休日だけなのだが、藍の両親は共働きで週末も仕事に
なることが多いらしく、ちょうどいいベビーシッターと思われたようだ。
私にとっても、大変好都合でよろしい。
それでもたまには家族と一緒にお出かけすることもあるとかで、「かぞくサービス
しなきゃいけないんだ」と言いながらため息つく藍が可愛くてたまらない。

迎えに行った時タタタタタと駆け寄って私の胸に飛び込んでくる藍。
私の部屋に着くや否やまるで幼稚園児のようにすぐに抱っこを望む藍。
キスの何たるかも知らず無邪気にちゅっちゅっと頬にキスしてくる藍。
いつでもどこでも片時も離れずにまとわりついてくれる藍。
私のことをアヤちゃんと呼び私がアイちゃんと呼ぶと弾けんばかりの笑顔の藍。
可愛くて可愛くて、愛おしくて、ちょっぴりドキドキして…。
これを恋と言わずなんと言おうか。

私は藍を決して傷つけまい、大切にすることを密かに誓った。

あの夏の日の出会いから半年ほど過ぎた頃。
ポカポカと温かい冬の日差しの中、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
ふと目を覚ますと、目の前に藍の寝顔が見えた。
光に反射してキラキラしてみえるまつげ。
艶やかなハリのある肌。
すぅっとのびた鼻筋。
透き通るようなピンク色の唇。
あどけない幼顔なのに、妖艶に映るその小さな唇に引きつけられるように、唇を寄せて…、
静かに触れた。

「…ぅん……」

思わず、はっと飛び起きた。
私、いま何してた?

藍に対する愛おしさが募れば募るほど、決してこの子を自分の情欲で汚すことはしないと、
決めていたのに。決めていたハズなのに…。
胸が苦しくなってたまらない。

私は藍を起こし、今日はもう帰るようにと促した。
起き上がってもまぶたをこすりながら、私にしがみついてくる。
その瞬間、そのぬくもりにまた切なく苦しくなってきた。
きゅぅっと藍を抱きしめる。
「アヤちゃん?」
私の様子に何かを感じたのか、藍ははっきり目を覚まして訝しんできた。
ダメ、自制して、気をつけなくちゃ。

いつものように、藍と手を繋ぎながら橋を渡る。
甘く切なく、ちょっぴりさみしいひとときだ。
藍はいったいどこからそんなに話題を見つけてくるのかと思うほど次々とおしゃべりしてくる。
そして、くるくる変わる表情。
見てるだけで幸せな気分になる。
でも今はちょっとだけツラい気分も混じっている。

藍の家の玄関前に着くと、これもまたいつものように、私に抱きついてきた。
しかし今日はいつもと感じが違う。私の胸に顔をうずめたまま、しばらく動かなかった。

「アヤコさん…」
「……ん?」
「どこへも行かないでね」
「…え?」
「ちゃんと、ずっと、そばにいてね」
「…どうしたの?」
「………」

藍の、大人びた目つきにドキっとした。

次の瞬間、体がすぅっと寒くなる。
いつもの藍に戻って、元気良くおやすみなさいと言いながら、玄関の向こうへ消えていった。

帰り、橋を渡りながら、さっきの藍の様子を思い返す。
いつもはアヤちゃんと呼びかけるのに、アヤコさんと呼ぶ藍にときめいてしまった。
はぁ~。
どうやら今夜は眠れそうもない…。


それ以来私は藍のことをまともに見られなくなってしまった。
なんとか普通に接しようとするのだが、自分の情動を抑えるのに必死なので、
どうしてもぎこちなくなる。
当然ながら、その変化は藍にも伝わる。
みるみるに藍がしょんぼりしていくのがわかり、申し訳なさと切なさで苦しくなる。
とうとう藍は泣きそうになるのをこらえながら、私の腰をまたぎ、私の胸に顔をうずめ、
私の体にしがみついて離れなくなった。

「アイちゃん?」

何も答えず、イヤイヤするように、ますますぎゅうっとしがみついてくる。
大きなビーズクッションのおかげで後ろに倒れずに済んでいるが、藍が全体重で
ゆだねてくる重みに幸せを感じる。

「アイちゃん…」

私は片手で藍の髪をなで、もう片方の腕で藍の体を抱きしめた。
私たちはしばらくそのままでいた。

どれほどの時間が過ぎただろうか。
唐突に藍が沈黙をやぶった。

「…アヤコさん」
「…なあに?」

「あたしのこと、好き?」

藍は頭を起こして私を見つめてきた。

「ええ、大好きよ」

いくつであっても女は女。
そこにいる藍はただの小学生ではなく、もの言いたげな瞳となまめかしい唇で私を誘う。
再び沸き起こるものを感じ、思わず視線をそらす。
すると藍は、私の頬に両手をあてて自分のほうに向かせ、すぅっと顔を寄せて、
その小さな唇で私の唇を吸い付いてきた。

「…こういうこと、したかった?」

かっと自分の顔が赤くなるのがわかる。

「あたしも、…したかった」

今度は藍も顔を真っ赤にして、私の胸にうずめてきた。

「…あ、あのね…、アヤコさんのこと…考えるとね…、ものすごく…ドキドキするの…。
……それと、それから…、あの…、その…」

励ますように、藍の頭をなでてあげる。

「……お、お…オシッ…コ…の…とこが………きゅーって……イタくなるの…………」

蚊のなくような声で、恥ずかしそうに藍は打ち明けてきた。

「……でも、……そこに……手を…あててると、少しだけ……ラクになる…の…」

耳まで真っ赤にして、私にますますしがみついてくる。

私は藍の髪をなでながら、答えてあげた。

「私もよ…」

ピクっと藍が私の顔を見ようとしてくる頭をとっさに押さえた。

「見ないで」
「アヤコさん?」
「恥ずかしいから、見ないでちょうだい。藍だってそうでしょ?」

コクっとうなづく藍に、髪をなでながら、私も正直に話す。

「私も藍のことを考えると、ドキドキするし、アソコがきゅーっとする」
「…あの、…ア…アヤコさんも、…さ、…さわったり…する…の?」
「するわ」
「…アヤコさんも…ラクに…なるの?」
「ちょぴっとだけ、ラクになるわ」

藍の体の緊張が少しばかり緩んだのがわかる。

「ずっと悩んでた?」

コク。

「どこかおかしいンじゃないかって心配した?」

コクコク。

「全然おかしくない。私も藍と同じよ」

きゅっと抱きしめ直してあげた。

「…よかっ…た。…すごく、コワかった」

それからも藍はたどたどしいながらも自分の気持ちを打ち明けてきた。

これが、どういうことなのかってこと、わかってると思う。…たぶん。
これが、いけないことなんだってこと、わかってる。
お母さんには、言えないことだってことも、わかってる。
あたしはまだ子どもで、アヤコさんは大人で…。
こんなこと、誰かに知られたら、アヤコさんが困ることになるってことも、わかってる。
でも、どうしたらいいのかわからないの。
アヤコさんが好き。
お母さんとお父さんが好きってことと全然ちがう。
アヤコさんのこと考えてると、ものすごくうれしくて楽しくなるの。
アヤコさんが大好きってこと、ガマンしてるとものすごく苦しくなるの。
アヤコさんが一緒にいてくれないと、ものすごくさみしいの。
アヤコさんが笑ってくれないと、ものすごく哀しいの。

「それなのに、アヤコさん。今日はずっとそっけなかった…」
「………ごめん」

藍の頭を起こし、藍の顎に手をやり、そぉっと唇を寄せて、藍にキスをした。
私の気持ちがその唇から伝わるように…。

「藍が大好きよ。藍のことが大好きで、藍にこんなことしちゃいけないと思ってて…、
でも藍の顔をみるとキスしたくなっちゃうから、顔を見ないようにしてた。…ゴメンね」

そういって笑顔をみせると、藍はじわっと泣き始め、再び私の胸にうずめてきた。

「藍、大好きよ」
「あたしもアヤコさんが大好き」

藍を送る帰り道。橋の上を歩きながら、私たちは幸せにひたっていた。
手を繋ぐだけじゃ物足りず、藍は私のコートの中に潜り込む。
いつの間に雪が降っている。
藍が濡れないようにかばい、結局私のコートに覆われながらヨタヨタと歩く。
ときどき立ち止まり、頭からすっぽり覆って、こっそりキスをする。
傍目ではただのじゃれあいに見える…と思う。

「ねえ、藍?」
「なあに?」
「いったいいつから私のことを好きになってくれてたの? …特別の意味で」
「最初からだよ」
「最初からって…、初めて会った時ってこと?」
「うん」
「うそぉ。そんなそぶりなかったじゃない」
「でもずっとアヤコさんのこと好きだったよ」
「それは…、特別の意味じゃなかったでしょ、最初の頃は…」
「うん~ん、最初から、特別の意味でアヤコさんが好きだったよ」
「だって、いつもいつも、まるでちっちゃい子みたいに、私のところに抱きつい…たり
してた…のは…」

じゃあ、子どもっぽく私に抱きついたのも、屈託のない顔して私の胸やお尻を触ったり
していたのも、無垢な顔でほっぺにキスしてきたのも、みーんな、わざとだったの?
そうたずねてみれば、藍はにまーっと笑って返してきた。

「だって、子どものふりすれば、笑って許してくれそうでしょ」

…子どものふりって。そりゃあなたは子どもだけど…。

藍は私のコートから出て行き、ちょっとバツの悪そうな顔をして…。

「だって、子どものやることは、周りのひとだって見逃してくれるでしょ」
「…………」

タタタタタと逃げて行く藍。


………こ、こんの、小悪魔ぁーーー!


小悪魔のような天使のような、にかーっと笑う藍に、私はかなわないと思った。



~終~

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最終更新:2009年08月14日 20:34