アットウィキロゴ
「ただいま」
私が自室のドアを開くと、いつものように3人が出迎えてくれる。
真っ先に元気な子犬みたいに駆け寄ってきたのは11歳の姫乃。
スカートは絶対に履かないし髪がベリーショートのせいもあってか、パッと見はまるきりやんちゃな美少年といったふうだ。
私がかがむと、背伸びしておかえりのキスをしてくれる。
唇の端っこに、ちょこんと控えめに。
「おかえり、美夜」
「姫、顔が汚れてるわよ。またサッカー?」
ハンカチで頬の土汚れを拭ってやると、姫乃は照れくさそうに頭をかいた。
「運動もいいけど、綺麗にしてないと友希に嫌われちゃうわよ」
「はーい」
素直に返事した姫乃は、自分のすぐ後ろに控える一つ年上の友希を振り返ってはにかんだ。
私の趣味で、フリルをたっぷりとあしらった白のミニワンピを着た友希が順番を待っている。
私が着たらロリータファッションと言われるかもしれないが、この場合は正真正銘のロリータだ。
姫乃よりも少しだけ背の高い友希が、同じように背伸びしてキスをしてくれる。
きちんと、唇を合わせて。
「おかえりなさい、美夜ちゃん」
「友希、これ可愛いわね」
1本の三つ編みにして垂らしていた背中までの髪に触れると、友希は嬉しそうに微笑んだ。

「タマちゃんがしてくれたの」
「そう」
友希の陰に隠れていたツインテールの女の子が、おずおずと前に出てくる。
珠子だからタマちゃん。10歳だが、同い年の子と比べても背はずいぶんと低い。
それでも一生懸命に背伸びして、キスしてくれる。
この子のキスは一番情熱的だ。吸いつくように私の唇をとらえ、たっぷりと味わってからようやく放してくれる。
「おか、え、り……美夜、さん」
「タマ、今日はなにをしていたの?」
「ピア、ノ……弾いて、た」
ゆっくりゆっくりと、彼女は言葉を紡ぎだす。
「そう。うまく弾けた?」
「タマちゃん、すごく上手なの。今日弾いてくれたやつ、なんだっけ。ほら――」
「愛の夢だろ」
「そう、それ。って、なんで寝てた姫が覚えてるのよ」
「ね、寝てねえよ」
「ウソ。イビキかいてたくせに」
「バ……おまえ、バカ。人聞きの悪い」
珠子は二人のやりとりを見て、声をたてずにクスクスと笑った。

床に腰を下ろすと、珠子が私と向かい合うようにして膝の上に乗ってくる。
彼女の特等席なのだ。
隣では姫乃が友希の膝枕で横になりつつ、こっちをちらちら窺っていた。
「おい、タマ。そこはオレの席なんだぞ。貸してやってるだけなんだからな」
そんなこと言われても、珠子は気にした様子もない。
私の胸にしがみついてうとうとしている。
「おい、タマ。そのおっぱいもオレんだからな。おい」
「やめなさいよ。姫にはあたしの胸があるでしょ」
「え、だって、友希の……小っちゃいも――あだっ」
おでこをピシャリと叩かれて、ようやく姫乃は黙った。
しょうのない子だ。
姫乃が言うには自分の嫁は私で、友希は旦那らしい。
もっとも彼女の言い分はともかくとして、実際には姫乃も友希も珠子もまとめて私のものである。
面倒見のいい、あるいは物好きな高校生のお姉さんなんてのは見せかけに過ぎない。
人間、肩書きには弱いのだ。
良家の娘で、生徒会長で、学年首席ときたら誰が疑うだろうか。
私がロリータコンプレックスのレズビアンだなんて。
教師も、彼女らの家族も、誰も疑ったりしない。
子どもを捕まえるのは、チャンスさえあれば意外と簡単な作業だ。
寂しさにつけこむこと。
自分の性別に疑問を抱いても、誰にも理解されずにいた姫乃。
金銭感覚の崩壊した両親をもち、貧乏なことを理由にいじめをうけていた友希。
コミュニケーションが苦手で、周りから持て余されていた珠子。
みんな簡単に近づくことができた。
今では放課後にここへ集まるのが決まりごとのようになっている。
でも私はそこいらの男たちのように、欲望に任せて彼女らを壊してしまうような愚かな真似はしない。
大切にして、慈しんで、私たちが愛し合えるように仕向けるだけ。
ここは私の楽園で、彼女らは私の天使なのだから。

「ねえ美夜ちゃん、夏休みのことなんだけど」
「ん? うん」
物思いに耽っていた私は、友希の声で現実に引き戻された。
「みんなで話してたんだけど、泊りがけで海とか行こうぜ」
「旅行か。いいけど、あなたたちスポンサーがほしいだけじゃないでしょうね?」
「見返りは用意してあるよ」
冗談で言ったつもりだったのだが、姫乃は真顔で返してくる。
「なに、見返りって?」
「あ、あのね」
友希が恥ずかしそうにうつむいて、膝の上の姫乃と顔を見合わせている。
珠子の表情も覗いてみたが、やっぱりもじもじしているだけだった。
「なに?」
「あ、あのね。あたし、来年中学生なんだよね」
「そうね」
「でさ、オレはこの前とうとう生理がきちまって」
「ああ。姫、もう死にたいってへこんでたわね」
「だから……」
「だから?」
首を傾げると、友希は溜息をつき、姫乃は苛立たしげに体を起こした。
「いい機会だと思うの」
「機会?」
「ああ、もう。だ~か~ら~さ!」
さっぱりわからない。
「泊りがけで旅行に行こうってのは、そういう意味なんだってば」
「そういう――」
「つ、つまり、私たちがまだ子どものうちに、美夜ちゃんに……あ、あげたいって」
「……んなっ! あ、あげたいって」
「言わせんなよ、美夜の鈍感」
「……セックス、だよ」
胸元からボソリと聞こえてきた珠子のつぶやきに、私は一瞬完全に固まってしまった。

「な、な、な、なに、なに言ってるのあなたたち」
「だって美夜、ロリコンだろ」
「私たちに、その、そういうことしたい……よね?」
「ちょ、ちょっと、待って。待ってよ」
なんだこれは。どういうことだ。
どうしてバレた?
彼女らに本性を見せた覚えなんかないのに。
「あの、美夜ちゃんショック受けてるみたいだけど」
「バレバレだったのにか?」
「ウソっ!?」
「いや、だって、ねえ」
「うん」
3人はそれぞれに頷きあって、勝手に納得している。
「風呂入る時、目がエロいよな」
「やたらキスさせたがるしね」
「机の、引き出し……本と、DVD」
「い……いやあああああああ!」
私は頭を抱えて身悶えた。
珠子が膝から落っこちたけど、それどこじゃない。
「美夜が壊れた」
「姫のせいじゃない?」
「トドメさしたのタマだろ」
「……ゴメン」
要するに、私の思惑は彼女らにはお見通しだったということらしい。
「あ、あは、あはは」
なんて滑稽なんだろう。
「お、落ちこまないで美夜ちゃん」
「そうだよ。いいじゃん、とりあえず二人は手に入るわけだし」
「……タマも」
「タ、タマちゃんはまだ早いから」
「でき、る……よ」

「んー、よし。わかった」
「姫!?」
「だって、タマだけ仲間はずれじゃ可哀想だろ」
「そうかもしれないけど」
「タマ、一緒に大人の階段のぼるか」
「のぼる……」
完全に置いてけぼりな感じで、話は進んでいく。
どうやら私はこの夏休みに3人の小学生と初体験してしまう流れらしい。
「あなたたち、いいの? それで」
私の膝にもう1回上がって、珠子が頷いた。
「あのね、ずっと考えてたの」
友希が左側から抱きついてくる。
「美夜ちゃんの動機は置いといて、あたしたちは現に救われてるわけだし」
右腕に姫乃が体を寄せてくる。
「感謝してんだよ。みんな」
「だから美夜ちゃんのほしいものをあげるね」
「減るもんじゃないしな」
不覚にも、ちょっと泣きそうになってしまった。
「ど、どうなっても知らないからね。私、遠慮したりしないわよ」
「いいよ。その代わり、返品はきかないけど」
「一生傍にいてやるよ。な、タマ」
「……うん」
そう言って3人の天使はそれぞれに私を抱きしめた。
「それならもう寂しくないでしょ、美夜ちゃんも」
「美夜は寂しがりやだからなぁ」
そんなとこまで見抜かなくてもいいのに。
もう完全に立場を逆転されてしまった気分だ。
「あなたたちには言われたくないわよ」
でも悔しいけれど、私はきっと寂しくなくなる。
それだけは、確実なことに思えた。

名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年08月14日 21:55