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梓さんが好き。
きらきら輝いて見える栗色の髪が好き。
あたしを見る時の優しい目が好き。
あたしを呼ぶ時の柔らかい声が好き。
あたしに触れる指先の温かさが好き。
でも、それを伝えることは、たぶん……ない。

お姉ちゃんがおかしい。
地味で内気で根暗でいっつもうじうじしてたお姉ちゃんが、高校に入ってからなんだか妙に明るい。
中学の時は学校へ行く以外ほとんど引きこもりみたいな生活を送ってた人が、休日にいそいそと出かけたりしている。
黒ぶちメガネがコンタクトになって、野暮ったかったお下げが髪が可愛らしいボブに変わった。
極めつけは、ゴールデンウィーク中に家に遊びに来たお友だちの存在だ。
なにしろお姉ちゃんは今までたった1回だって友だちを連れてきたことなんてなかったんだから。
お母さんなんか涙を流しそうな勢いで感激してた。
またこのお友だちというのが、なんでお姉ちゃんと親しくなったのかが不思議なくらいの美人さんだった。
本当に、なんでこんな人がお姉ちゃんと……。
あたしは最初、梓さんは優しいから、友だちもいないようなお姉ちゃんのことが可哀想で一緒にいてくれるのかなと思った。
だけど、どうもそういうわけじゃないらしいと気づくまで、そんなに時間はかからなかった。

「ジュース持ってきたよ」
あたしがコップを2つ乗せたトレイを持って部屋に入ると、並んで座ってた二人が何気なく体を離した。
離したってことは、寄り添ってたってことだ。
「いつもありがと、さやかちゃん」
梓さんがお礼を言って、笑いかけてくれる。
それだけであたしは息が止まりそうだった。
お姉ちゃんはそんなあたしをじっと見つめている。
邪魔されて、内心おもしろくないんだろう。
そんな顔しなくたって、すぐ出て行くわよ。
「ね、さやかちゃん。日曜日、海に行かない?」
行きたい!
そう答えようとした瞬間、お姉ちゃんが眉をしかめた。
「梓……」
「え? いいじゃない。みんなで行った方が楽しいよ」
深い意味なんかないに決まってる。
梓さんはただ親切で誘ってくれただけ。
だからあたしは無邪気に喜んで見せようと思った。
なのに、お姉ちゃんはそれも嫌なんだ。
なんてワガママなんだろ。
あたしがちょっと梓さんに近づくのも許してくれないなんて。
お姉ちゃんは意地悪だ。
「あ、ご、ごめんなさい。日曜は、友だちと出かけるんだ」
「そっかあ、残念。じゃ、また違う日に誘うね」
「うん。楽しみにしてる」
あたしは泣きそうになって、それがなんだか悔しくて、飛び出すように部屋を後にした。

こんなんこと、気づかなければよかった。
気づかなきゃ、なにも知らないバカなこどもでいられたのに。
お姉ちゃんが梓さんのこと好きなんだって。
そして梓さんがお姉ちゃんのことを好きなんだって。
梓さんに恋をしてしまったあたしには、すぐにわかってしまった。
なんでお姉ちゃんなんだろう。
あんな、なんの取り得もない人。
あたしじゃダメなんだろうか。
あたしの方が成績だっていいし、運動も得意だ。友だちだってたくさんいるし。
それにあたしの方が美人になる。絶対。
それに、それに……あたしの方が梓さんのこと、好きなのに。
あたしがこどもだから?
それだけのことで、あたしは負けちゃうんだ。戦いもせずに。
「さやか」
キッチンに突っ立ていたあたしは、お姉ちゃんの声にびっくりして顔を上げた。
お姉ちゃんは口をきゅっと結んだ怖い表情で、あたしを睨みつけている。
なにか文句でも言いに来たのだろうか。
でもお姉ちゃんは黙ったままだ。
「なに?」
あたしが訊くと、お姉ちゃんは突然涙を流し始めた。
それはもうボロボロと。小っちゃい子どもみたいに。
「な、なになに。なんなの」
「……らないで」
「は?」
「梓、とらないで」
「……なに言ってんの?」
この人の頭の中はどうなってるんだろう。
どうしたらあたしが梓さんをとるなんて思えるんだ?
「だって、梓、いつもさやかのこと楽しそうに話すの。今日だって、さやかのことばっかり」
「や、それはさぁ……」
たぶんあたしを妹みたいに思ってるからじゃないかと。
梓さん、一人っ子だって言ってたから。

「それに、さやか……梓のこと、好き、でしょ……?」
「えっ!」
そうか。
あたしがお姉ちゃんたちのこと気づいたなら、同じようにあたしの気持ちがバレてても不思議じゃないってことだ。
まいったなあ。
あたしは頭をかいて、溜息をついた。
泣きたいのはあたしの方なのに。
「梓さん、お姉ちゃんのこと大好きだと思うけど」
「ホント?」
「わかんないの?」
「梓、あんまりそういうこと言ってくれないから」
あたしからは、全身で好きって叫んでいるようにしか見えないのに。
意外と本人は気づかないもんなのかなあ。
「大丈夫だよ」
二人が別れるとこなんて、少なくともあたしには想像できない。
「今は、ね」
「え?」
「5年後はわかんないよ」
首を傾げるお姉ちゃんに、あたしは精一杯の強がりを言う。
できれば、現実になるようにと願いをこめて。
「だって5年たったら、あたしももう子どもじゃないもん。その時、梓さんがあたしの方がいいって言ったら……どうする?」
「ま、負けない」
珍しい。
お姉ちゃんが、胸をはって堂々としゃべるなんて。
「あたしも、負ーけない」
梓さんが好き。
でも、それを伝えることは、たぶん……ない。今は、まだ。

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最終更新:2009年08月14日 22:04