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あーあ。もう最悪。
空を見上げてわたしは溜息をついた。
家を飛び出した時はまだ曇り空だったのに、走ってるうちにポツポツときて、それから3分ともたずにザーザー降りだ。
おかげで、髪も服も靴も、シャワーを浴びたみたいになってしまった。
今は、潰れたお店の軒先に避難しているけど、やまないことには帰られそうもない。
寒い。
震えが起きて、わたしは自分の体を抱きしめるみたいに縮こまった。
濡れた服が張りついて気持ち悪い。
もう帰りたい。
でも雨がやまないと帰れそうもない。
どうしよう。ずっと降ってたら、ずっとここにいなくちゃいけない。
その時、不安になったわたしを脅かすみたいに空が光った。
「ぃやっ!」
慌てて耳を塞いだけど、あのゴロゴロっていういやな音はしっかり聞こえてくる。
やだやだ、やめてよもう。
なんで雷なんか鳴るの。
怖い――怖い怖い怖いよぉ。
わたしは身動きすることもできまくなって、その場にしゃがみこんだ。
我慢しようと思っても、涙が勝手に出そうになる。

「柚果。バカユズカ」
ああ泣いちゃう、と思った瞬間、わたしの大好きな声がした。
バカっていうのは嫌だけど。
そっちを向いたら、彩ねえちゃんが傘を差して歩いてくるとこだった。
「あんた、なに家出なんかしてんの。晴香さん、心配するでしょ」
彩ねえちゃんは、わたしのおかあさんを名前で呼ぶ。
わたしが生まれる前からの知り合いらしい。
「し、心配なんかしないもん」
立ち上がりながら文句をつけると、彩ねえちゃんは唾をとばして叫んだ。
「するに決まってんでしょ、バカ」
彩ねえちゃんは口が悪い。
お隣に住んでて、わたしがもっと小さい頃から遊んでもらったりしてたから、優しいのはわかってるけど。
口癖なのか、絶対わたしのことをバカって言う。
「じゃあ、彩ねえちゃんはおかあさんに言われて探しにきたの?」
「違うけど」
「ほらっ、心配してないじゃんっ」
「言われる前にあたしが自分で来たんだよバカ」
またバカって言った。信じらんない。
「あんたが傘も持たないで走ってくの見たから、こんなこったろうと思ったんだよ」
「正解ですね。おめでとうございますっ」
イーっだ。わたしは舌を突き出して、おもいきり憎たらしい顔をしてやった。

ホントは迎えに来てくれて凄く安心したし、それが彩ねえちゃんで嬉しかった。
もう雷だって平気だ。
でも、だからって素直に飛びつくのは悔しい。
わたしは怒ってるんだって、アピールしとかないと。
「ったく……」
彩ねえちゃんは、わたしの隣に並んで傘をたたんだ。
「あたしがあんたくらいの時か、もっと小さい時にね、よく高校生だった晴香さんに遊んでもらってんだ」
「彩ねえちゃんが?」
「家出もしたし。そのたんびに迎えに来てくれたのが、晴香さんだった」
おかあさんが高校生の時。えーと……。
彩ねえちゃんが6歳でおかあさんは高校3年生とかだ、たぶん。
その頃に家出って、彩ねえちゃんひどい不良だ。
「あたしは晴香さんのことが大好きで、だから、高校出てすぐ先生と結婚しちゃった時は寂しかったな」
「ふぅん」
彩ねえちゃんが何を言いたいのかよくわからなくて、わたしは適当に頷いた。
「そんでできたのがあんたよ」
「わたし?」
「あたしの晴香さんの愛情を独り占めしてさ。ヤキモチなんてもんじゃなかったね。こっそりどこかに捨ててやろうかと思った」
「ちょ、ちょっと」

「冗談よ……半分は」
え、半分ってどの部分?
彩ねえちゃんの横顔を見ると、悪者みたいに口の端っこを上げてる。
「でもさ、よく見るとかわいいんだ」
「誰が?」
「あんたよ、バカ」
わたしの頭をぐりぐり撫で回して、彩ねえちゃんは笑った。
「守ってあげたくなるって言うか、なんでもしてあげたくなる。そりゃ晴香さんだってメロメロになるわよ」
なんだかくすぐったい。こんなこと言われたのは初めてだった。
「だからさ……なんの話だっけ?」
「さあ?」
なんの話だろうと思って一生懸命聞いてたのに、彩ねえちゃんがわかんないならわたしがわかるわけない。
彩ねえちゃんは、「えーと」なんて首を傾げて悩んでた。
「つまり、晴香さんに愛されまくって育ったあんたが、心配されないわけないって話よ」
「うん」
「わかった?」
「なんとなく」
「よろしい」
彩ねえちゃんは傘を広げた。
「帰るよ」

わたしは一瞬迷ったけど、彩ねえちゃんにくっついた。
だってここで置いてかれたら困る。雷もまだ鳴ってるし。
傘はそんなに大きくなくて、ぴったりくっついてないと濡れてしまいそうだった。
迎えに来るなら、もう1本傘持ってきてくれればよかったのに。
「ちゃんと謝るんだよ」
そう言って、わたしを見つめる彩ねえちゃんの目はとっても優しかった。
「で、そもそもなんで家出したの?」
「え、と……」
わたしはケンカの理由を思い出していた。
なにがきっかけだったか忘れちゃったけど、たしかおかあさんが、女の子同士は結婚できないのよって。
それでわたしが、外国に行けばできるもんとか。
ああ、そうだ。
「ふふ」
わたしはおかしくて、笑うのを我慢できなくなった。
「なによ、気持ち悪い」
「あのねぇ――」
これを言ったら、彩ねえちゃんどう思うんだろ。
原因は、わたしが彩ねえちゃんのお嫁さんになりたいって言ったからだよって――。

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最終更新:2009年08月14日 23:47