10分後
訓練性たちは、毎回座学を行うための教室へと向かっていった。
「雫さん、残念でしたね。引き分けで終わってしまって。」
中原は、急ぎ足であるく雫に歩調を合わせながら尋ねた。
「そうね、でも・・・何ていうのかしら。言葉では言い表しずらいんだけど
部隊のメンバーとの壁って言うのかな?そんな感じのものがなくなったって感じがするわ。」
雫にしては、言いよどんでいたが中原も同様に言葉では言い表しずらい”何か”が部隊の中で
なくなったような感じがした。
「そうですね、私もそう思います。」
中原と雫は、その後教室へと急いだ。
「そろっているようだな。」
氷室はそういいながら、大きな紙の束を脇に抱え教室へと入ってきた。
「敬礼!」
「よし、休め。」
「各分隊の分隊長。この資料をメンバーに渡せ。」
氷室は、そういうと脇に抱えていた束を出しそれを分隊長に取らせた。
「よし、いきわたったようだな。」
氷室は、そういいながら資料が行き渡った事を確認した。
「まずは、野球の訓練は生憎、中断されてしまったが何かつかめたことはあったか?」
訓練生たちは、それぞれに思案顔になり、
「そうだな・・・源訓練生。貴様は何かつかめたか?」
雫は立ち上がり、
「答えを、掴む事は出来ませんでしたが、何か言葉では言い表しにくいのですが
何かをつかめたような気がします。」そういうと、氷室は座れと雫に言い。
普段の氷室ならこんな要領の得ない答えをだしようものなら何をさせられるか空恐ろしいものがあったが
今回ばかりは、
「それでいい、貴様らはまだこの答えを見つけられないだろう。しかし、この”答え”こそが
物量で押してくるBETAに対しての剣となるだろう。」
氷室は、そう言い終えると
「よし、ここからは明日行われる訓練についてだ。」
(なんで、訓練の説明に資料なんか?)
「資料を開いて見てみろ。」
氷室にそういわれ訓練生達は、資料を開いた。
「「「「「「!?」」」」」」
声こそ上げるものはいなかったがその資料にはこう書かれていた
「新任衛士とのサバイバル」
「今回は、サバイバルを行ってもらう。今回相手をするのは横浜基地から研修生として
来ている衛士たちだ。」
横浜基地・・・訓練生たちは、この言葉に反応した。
この基地といえば色々と噂がたえない基地である。
自分達が使っているXM3もこの基地からのものらしい。
(確か、あの基地ってBETAの襲撃で衛士がほとんど戦死して大規模な補充をしていたわよね?)
雫は、以前基地の話題になっていた事を思い出していた。
(噂は、本当だったのね。)
今回の、新任衛士の研修というのがその噂の証拠としては十分だった。
「詳しくは、資料に載っている通りだ。詳し見ておくように、今日の訓練はここまでだ
ゆっくり体を休ませておけよ。」
その日のPXにて・・・
「雫さん、今回の訓練どう思いますか?」
中原は、隣にいる雫に今回の訓練についてたずねた。
「そうね、一応配布された資料には、ざっと目を通したけど。イマイチ腑に落ちないわね」
雫は、そう言うと鯖味噌を口に運んだ。
「そうですね。わざわざここまでの規模の訓練をやる意図がわからないです。総戦技演習でもなさそうですし。」
雫は、鯖味噌を飲み込み終えると
「そうなのよね、でも、今は訓練の事に集中しましょう。教官たちにしかわからない事だわ」
「そうですね、今は明日の訓練のことを考えるべきですね。それと、提案なのですけど
あとで、綾華さんも混ぜて作戦会議しませんか?予めここまでの情報がわかっているので。」
「そうね、そうしましょうか。でも、今回は相手だけじゃなくて訓練生も大隊規模なんだから
そっちの方の分隊長たちも来て欲しいわね。」
そういうと、雫はあたりを見回し
「分隊長は、全員いるみたいね。食事が終わったら声掛けてみましょう。」
中原は、その提案に首を立てに振り同意の意を示した。
「というわけで、分隊長たちに集まってもらったんだけど、こうしてみると結構いるわね。」
全部で今のところ集まったのは9人であった、その中に男性は一人も含まれていいなかった。
「全部で、9人です。」
中原は、周囲を見渡しながら雫にそうつげた。
「それで、まずは中隊ごとに分けたいんだけど。さっきの野球のチーム分けと同じでいいかしら?
後、人数的に
戦術機の編成単位で行うけどいいかしら?」
すると各所から同意の声が聞こえた。
「ありがとう、次は中隊呼称なんだけどα、β、γ中隊でいいかしら?」
「構わないです。」
井上佐奈や他の者も同意した。
「後、中隊長は各中隊ごとに決めてちょうだい。」
「ここからが本題の作戦なんだけど、α中隊は意見をまとめてあるんだけど他の人たちの意見を聞きたいんだけど意見のある人はいる?」
「私たちに、考えがあります。」
井上らβ中隊であった。
「先程、私たちで話あったので戦略概略図を使って説明しますね。」
井上らが、説明し始め7分がたち、
「という事です。簡単にまとめますと、
1、索敵、小隊ごとに行動、敵を発見した場合CPに報告
2、一時後退あらかじめ用意した奇襲
3、奇襲が成功または失敗した場合のどちらでも斥候をだす。
4、敵の位置を把握作戦の立案・再編、残った部隊の再編
5、拠点を襲撃。囮部隊と敵部隊が戦闘開始、その後別働隊が拠点に侵入
このような感じですね。」
「私たちと考えは、ほとんど同じだけど、」
上原瑞穂は、この作戦に対する疑問を口にした。
「作戦がこの通り推移するとは、限らないと思うんだけど・・・
あともう一つ疑問なんだけど、拠点を守る人数はどのくらいかな?」
「上原の言うとおり、こんなにも作戦通り行くとは思えないんだが・・・。
後、上原も言っているが拠点を守る人数も気になるんだが。」
坂下智子も上原の意見に同調し他のものも首を縦に振っていた。
「そうです、おそらくこの作戦通り行くとは思っていません。相手は、新任の衛士の方々ですので・・・
ですが、その部分は皆さん隊長陣にその場においての適切な判断に委ねたいと思います。
それと、拠点を守る人数ですが6人です。このメンバーは、β、γ中隊より抽出します。」
「わかったわ、でも状況報告は事細かにして欲しいし、CPのポジションも用意しなきゃいけないみたいだけど
そこのところは大丈夫かな?」
「はい、こちらのほうにCPとして戦闘に参加していただく方を決めてあります。」
「わかったよ、ありがとう。」
その後、様々な疑問点を話し合い、
「そろそろ、時間になりそうね。今日はもう解散にしましょうか?」
「皆さん、お疲れ様でした。」
井上がそういうのと同時に皆も労をねぎらい解散した。
同日の司令室にて
大場は、自らの席で先ほど来た報告にほくそ笑んでいた。
「もう、例の計画の”機材”が運び込めれたか。」
大場は、手元にある膨大な資料の中から一枚の紙を手にした。
「横浜の新任衛士の研修というカモフラージュか、もしこれが少し以前だったら
ただの子供だましにもならんかっただろうな。」
今、横浜は先の横浜基地襲撃と桜花作戦による損耗で基地の整備に追われていた。
衛士の数もほとんど先の襲撃などで無くしており、基地の設備もよくやく7~8割は復旧した程度であろう。
また、桜花作戦の大成功によりオルタネイティブ4の地位は向上し、その地位向上によりこの基地には多くの資金がつぎ込まれたらしい。
オルタネイティブ5推進派の連中もなりを潜めていた。そのために、この基地に関する情報や物資の流通もかなりの情報操作などにより
本当の情報を手に入れるのは難しく、本当に手に入れようとすればかなりの時間と金と労力
さらには、それ相応のリスクを背負わなければならなかった。
そのために、このような子供だましのカモフラージュでも成功してしまうのである。
しかし、それでもそのリスクを背負ってまで計画の中枢を盗もうとする者が後を絶たない。
それには、あの女狐も手を焼いていたと考えられる。(これはあくまでも私見であるが・・・)
また現在の横浜基地は、計画を実行するためとその重要性から新任衛士も今期だけでも何十人といるらしい。
しかも、その衛士たちも日本を中心に各国(といっても祖国を失った者たちである。)の将来有望な
エリートを集めたらしい、これも女狐が裏で工作していたらしい。
「よくこんな時期に”例の計画”を進行させているとは、恐ろしい女よ。」
大場は、不敵な笑みを浮かべまた資料の山に手をつけた。
「・・・と言うわけよ、大丈夫かしら?」
雫は、訓練のために基地から北西の森林地帯へと向かう軍用車両のなかで、
中原・齊藤とともにα中隊に作戦の概要を説明し終えたところであった。
全員が首を縦に振った。
「後、3点話す事があるからよく聞いてね。」
雫がそう言いと中原が話し始めた。
「では、あとポジションの確認なのですが・・・」
そういうと一枚の紙を取り出した。
「皆さんには、小隊ごとに行動してもらうと説明しましたけど、
基本的には中隊単位で動いてもらいますのでこのようにポジショニングしていただきます。」
中原は、そういうと取り出した紙を全員に見えるような位置に置いた。
ポジションは、このようなものであった。
前衛 齊藤・中村・中岡・森上:小隊呼称:αー1(源小隊長)
中衛 源・朝倉・松浦・勝名:αー2(齊藤小隊長)
後衛 中原・佐橋・坂上・久我:αー3(中原小隊長)
「これは、皆さんのもっている能力を考えたものなのでこのポジションを中心に様々な陣形を
取ると思います。」
中原が言い終えた後、今度は雫が話し始め、
「後、一番重要な事なんだけど”一人で戦おうと思わないでね”。
今の私達はまだ訓練課程も終わってないし個々の能力も秀でてるものもあれば劣ってしまっているものもあるわ
私達が勝つにはみんなとの連携が重要になってくるわ、だから無理して一人で戦おうとしないで。」」
「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」
「後、それともうひとつあるのですが・・・」
齊藤は、そういうと・・・
「今回の訓練は、先ほど説明したと通り四方10kmしかありませんがその地形は、予め渡された
地図を見る限りでは、平坦な地形ではなく比較的緩やかな起伏に富んでいます。
この地形を利用するのはもちろんですが、昨日の雨によりぬかるみや樹木の枝や葉・根などに
より進軍が困難になると思いますので、注意するようにしてください。私からは、以上です。」
齊藤がいい終わり、それと同時に軍用車両も目的地に着いた。
「よし、全員そろっているようだな。」
氷室は、訓練生より一段高い台の上から訓練生たちを見渡した。
「20分後に訓練を開始する、各自装備とブリーフィングを済ませておけ!」
「「「「「「「了解!!」」」」」」」
訓練生達は、すぐさま所定の位置に集まった。
「これから、訓練開始よ。言っておくけど今回の訓練は今までと違って
実践に近いものよ。弾もいくらペイント弾だといっても当たり方によっては大怪我を
するから油断しないで、後は相手に本気でぶつかるだけよ!」
雫の掛け声とともにそれぞれが己自信に気合を入れた。
「それにしても、完全装備じゃないとはいえ10kgか。」
森上は、装備を装着した後一人言を漏らした。しかし、近くにいた雫はそれを効き逃さず。
「確かにそうね膝・肘・頭のプロテクター、あとは、装備の小銃とその他の装備をつめた背嚢だからね
そこそこ、重量があるのは当然ね。」
雫は、そういい終わると中隊長たちの集まりのために言ってしまった。
「後、10分ですね・・・朋也くん。」
中原は、緊張からかさほど用事がるわけでもないのに隣にいる中村に話しかけた。
「そうだな、まあでもあんま緊張すんなよ。生き死にがかかってるわけじゃないからな。」
中村の言葉安堵を覚え、
「そうですね、頑張りましょうっ!」
中原の気合の篭った声に中村は笑顔で
「そうだな、頑張るか。」と答えた。
「皆さん、ポジションについたようですね。今回、拠点にてCPを務める高山楓
です。今回は、人数の問題でCP兼HQとなります。
CP呼称は、β中隊所属なのでβマムと呼称してください。宜しくお願いします。」
「作戦開始、1分前です。皆さんリラックスして下さいね。」
高山は、全員の緊張をほぐすためと肝に命じて欲しい事を口にした。
「皆さんは、一人ではないです。皆さんの周りには、多くの仲間がいます。わかりましたか?」
「「了解!」」
全員の唱和が帰ってきた後
「作戦開始、5秒前、4、3、2、1、作戦開始!」
高山の高らかな掛け声とともに訓練が開始された。
午前10:00 作戦開始
「α中隊は、西側にβ中隊は北西、γ中隊は南西に移動開始しました!」
高山の状況報告にα中隊ー中隊長の源雫は、
「みんな、部隊が移動を開始したわ。このまま、距離1500まで前進よ。」
「「了解」」
βー2・3
「それにしても、やはり歩き難いな。」
坂下は、地面が昨日の雨によりぬかるんでため先程から歩く速さが変わっていなかった。
「しょうがないと思うの。これでも、予測通りの速さだから大丈夫なの。」
市原琴美は、坂下に対し作戦には何等問題ない事を告げた。
「ああ、確かにそうだな。」
γー1・2
「 歩きづらいのもそうなんだけど、樹木の根とか枝もすごいね。」
上原は、手に持ったサバイバルナイフで邪魔な枝を切りながらそう言った。
「しょうがないわね、これでまだマシなほうじゃない?それにしても胸が苦しいわね。」
近藤は、そう言うと胸の辺りに当たっていた背嚢のベルトをずらした。
「近藤、それって暗に胸の大きさを見せつけてるの?」
上原は語気を強めたが顔はいたって冷静そのもののため見方によっては、大変怖いものである。
「そう言うつもりじゃ、なかったんだけど・・・」
近藤は、そういい少したじろいだ“フリ”をした。
「全く、あんたたちはいつもそんな感じね。見てて面白いわ。アハハ」
前沢遥香は、いつものように二人の仲裁に入った。
「遥香、笑いごとじゃないよ。これは、重要な事なんだよ?」
上原は、顔は向けずに前沢に言った。
そんなやり取りをみていたγ中隊の隊員は、それぞれに笑い声をあげた。
そんな会話が聞こえてきたCPの高山は、(これも、緊張を和らげるためかもね。)
と、あえて注意はしなかった。
時は、少し遡り・・・
「なんで、俺達が訓練生なんかの訓練に付き合わなきゃなんねぇんだよ。
今回は、xm3とか基地施設とか先任衛士たちとの交流とかだけだと思ってたのによ。」
「仕方ないんじゃない、私達の基地の”副指令”殿は、何を考えてるかよくわからないところもあるし。
まあ、早めに終わらせてとっとと帰りたいわね。」
男女の新任衛士(高橋・田中)は、毒づきながらもすでに装備やその他の準備は、すでに終わっていた。
「まあ、お前達そういうなよ。俺達もついこの間まで訓練生だったんだからな。しかも、この間のBETAとの
戦いよりは、マシだろ?」
一人の男が、そういいながら近づいてきた。
「おっ、岡崎良介“中隊長”じゃあ、ありませんか、何ごとでありましょうか?」
高橋は、思い切りわざとらしい笑顔を浮かべ冗談混じりで今回の訓練の“中隊長”殿に敬意を払った。
すると岡崎は、苦笑い混じりで
「おいおい、やめてくれよ高橋。今回は、たまたま中隊長になっただけだろ?しかも、お前らだって・・・」
岡崎が、言い終わる前に田中は
「そんなことないじゃない、岡崎は、戦術機に乗せたらこの部隊で1・2を争う腕前なんだし、
指揮官適正だって高いじゃない、その才能少し分けて頂戴よ。」
田中は、そういうと岡崎の肩をたたいた。
「まあ、高橋なら突破力、田中なら正確無比な射撃が秀でてると思うけどな?
俺なんかよりすげえだろ。他の部分でもすごいし。」
そんな“中隊長たち”の会話を見ていた新任衛士の一人は、
(貴方達、3人とも化け物じゃない。この部隊のTOP3なんだから・・・)
そして、訓練開始1分前に合図か出された後、岡崎はあることを考えていた。
(綾華、今お前はこの訓練に参加しているんだろ? まさか久しぶりの再会がこんな形になるかもしれないなんてな・・・)
午前10:10 作戦開始より10分経過
「αー1よりα部隊各員に告ぐ、」
雫は、ある程度まで前進したところで、
「現在、奇襲部隊の準備が整った。これより、敵との遭遇後
奇襲地点まで敵を誘導する。ポイントは、わかっているな?」
「「「「「了解!」」」」」
「それにしても、周りの環境がこんな状態じゃあ、後退するのも大変そうだな。」
森上は、隣にいた中村に話しかけた。
「確かにそうかもな、まあ相手も同じ条件だからな。どうにかなるだろう。」
「そうだな。」
「ポイントAまで前進が完了した。これより、小隊ごとに行動しろ。
αー2は前方警戒、αー1は、左右翼警戒、αー3は後方警戒をしろ。」
「了解しました。」「了解です。」
「αー1よりβマム、所定の地域に到着。いまだ、敵との遭遇は認められず。」
「βマム、了解した。奇襲部隊であるβ中隊を除き、γ中隊いまだ敵とは遭遇していない。
警戒を怠るな。」
「αー1了解。」
「すぅ~~、はぁ~~~・・・」
雫は、初めての中隊長に対する緊張を和らげるために大きく深呼吸をした。
「雫さん、大丈夫ですか?」
朝倉は、雫が緊張している事が表情や染み出ている汗からよくわかった。
普段ならそのようなことは、今までほとんどなかった。
「大丈夫よ、少し緊張してるだけだから。都は、大丈夫?
結構、重そうにしてるけど。」
雫は、朝倉の背嚢や装備しているというより、装備に装着されているといった感じに見えた。
といっても朝倉は、何度もこれより重たい装備を持って訓練しているので重たくはあるが
まだ疲れは全くなかった。
βー1、2,3
「それにしても、僕達が奇襲部隊としてこんなところに隠れてるとわね。」
阪口陽平が文句を言うのも無理はない。カモフラージュのための顔のペイントはまだいいのだが、隠れている場所・・・
樹木が生い茂り地面もぬかるんでいる最悪の場所である。
しかしこの場所は奇襲には、適切な場所であった。
「仕方ないよ、これでもまだ雨も降ってないし、長時間ここにいるわけじゃないんだから。
マシなほうだと思うよ。」
入江汐も同様な状態だったが、あまり嫌そうではなかった。
「汐ちゃん、すごいね~。僕なんか、もうギブアップだね。」
阪口は、そういうと手をヒラヒラさせていたが、なんだかんだ
彼は、こう見えて意外としっかりしているので入江も彼を頼りにしていた。
「陽平、また喋ってんの?あんたも、緊張感ないわね~」
藤林もまた、二人とは少しはなれたところに陣取っていた。
「明日香ちゃん、勝手に無線機使ったらまずいよぉ~~」
神田椋は、藤林に注意をしたが、
「そうねさすがにまずいわね、それにしてもなんか暇ね。」
なんとも緊張感のない藤林に神田は、
「明日香ちゃん、訓練中だよ。暇じゃないよ。」
「だって、ここでじっとしてるだけじゃないの。」
「もうすぐ、ここに敵が来るんだよ?注意してないと・・・」
神田が、そう注意していると無線機から声が聞こえた。
「βマムよりα、β中隊に告ぐ!γ中隊が接敵。現在、奇襲ポイントより
方位南西 距離1300にて、交戦中。現在より15分後には、奇襲ポイントに、
つく模様。α中隊は、γ中隊の後退を支援せよ。繰り返す・・・」
「っく!!、さすがに、もう話してらんないわね。」
藤林は、そういうとすぐさま装備の確認と徐々に近づいてくるであろう銃声に耳を傾けた。
「αー1より中隊各員!γ中隊の支援にまわるわよ!」
「「「「「了解!」」」」」
α中隊は、今までの倍の速さで距離1200はなれたγ中隊の元へ向かった。
「γー1(上原)より、γ-2、γー3!被害の程度を教えて!」
「γー3(近藤純花)より、γー1!現在こちらに被害はなし、
このまま、γー2の後退を支援する。」
「γー2(前沢)より、γー1!今のところ、被害はないわ。
このまま後退する!」
「γー1了解!私達も、γー2の後退を支援するわ。」
γ中隊は、現在より3分前に接敵。前面に展開していた
γー2(前沢遥香・
雪野美佐枝・田村芽衣・川辺智優)は、接敵と同時に樹木の間に隠れた。
さらに小銃を乱射、味方と敵のペイント弾の嵐にそこらじゅうがペイントさん独特の色合いに染まっていった。
その後γー3の援護でγー2も敵との距離を30に戦線を後退・維持していた。
(それにしても、おかしいかな。あんなにわかりやすいところにいたなんて・・・
もしかしたら、何かあるかも・・・)
上原は、そのように危惧しすぐさまCPへと報告した。
「γー1より、βマム。敵の様子におかしいところがあるから、α、β中隊
ともに警戒をうながして下さい。」
「βマム了解、引き続き後退を続けてください。」
「γー1了解。」
(私の予想が外れてくれるといいんだけど・・・)
そう考えたのを最後に、上原はまた部隊に指示をする事に集中した。
「みんな!後、500後退よ。その後は、β中隊とともに敵を倒すよ!」
「「「了解!!!」」」
「βマムより、α、β中隊に告ぐ、敵の動きに不穏なところがある。
α・β中隊ともに警戒を怠らないように。β中隊は、後約5分でそちらに敵が到着する。」
「「「「「「了解!」」」」」」
(それにしても、本当におかしいわね。今のところ一番突出していたγ中隊が
接敵したのは、おかしくないけど私達もγ中隊からは、途中まではそこまで離れていなかったはず・・・
それなのに私達が離れた後、こうも簡単に敵を発見できるなんて・・・
っく!!!!もしかして!!!!)
雫がある考えにたどり着いたと同時に銃声が響いた。
「こちらαー2!!接敵!数は・・・見えるだけで8人!二個小隊規模です!」
「くっ!αー3は、αー2の援護!αー1は、このまま全周警戒!1分でいいから時間を頂戴!」
「「「「「了解!」」」」」
雫は、今の状況を冷静に判断し自分のたどり着いた結論が正しい事に確信を持った。
「こちら、αー1!現在、二個小隊規模の敵と交戦中!
β中隊に伝えて頂戴!!γ中隊と交戦中の敵は囮よ!このままだと、すぐにでもβ中隊にはそこから
撤退するように伝えて!狙われてるわよ!」
「こちらβマム、了解。直ちに後退するように命じます。α中隊は、可能であれば交戦中の敵を
排除、速やかに当初の作戦通りγ中隊と合流し所定のポイントまで後退せよ。」
「了解!!」
「αー2!そっちの被害状況はどう?」
雫は、無線機越しに小銃独特の音が無数に聞こえ流れ弾が樹木に当たり枝が折れる音が聞こえた。
「こちら、αー2!、現在こちらに被害はありません、すでに3人倒してます。」
「了解、今から援護に向かうわ。このまま片付けましょう。」
「了解。」
雫は、αー2の活躍により戦況が良好に推移している事に少しだが安堵していた。
「撤退だ!後退しろ!」
敵の小隊長であるらしい男がそう叫ぶと敵は、徐々に後退し始めた。
「深追いはしないでいいわ。このままγ中隊の援護に向かうわ!」
「「「「「了解!」」」」」
γー3
「すぐ、後退してα中隊と合流しないとまずいですよぉ~」
田原愛歌は、半ば泣きながら小隊長である、近藤純花に提案した。
「確かにそうね。さっきのCPからの報告を聞く限りでは、全滅しちゃうかもしれないかもねぇ。」
近藤は、田原の提案に少しブラックな冗談で答えたが実際、今の状況は芳しいとは言えない。
「えっ!?たっ、た、た、大変じゃないですかぁ~」
うろたえている田原に少し離れた、と言ってもたかだか3mぐらいで正確な射撃で
援護を行っている男がその手を休めずに会話に入ってきた。
「近藤さ~ん、あんまり田原をいじめないで下さいね。」
高山直路は、さらに泣きそうになっている田原をみかね助け舟を出した。
「いじめてないわよ。かわいい田原と遊んでたのよ。」
近藤は、そのように言い訳をしたが
「そうだったんですか?僕には、そうは見えなかったのにな~」
この部隊の男の中では1・2を争う童顔の持ち主であるが体つきまで小さく
幼いというわけではなく標準的であった。
また、取り分けその容姿から一部の女子に人気があった。
そして、近藤とはよくこのようなやり取りをしているのである。
「それは、あんたの見間違いよ、私が田原をいじめるなんてありえないわよ。」
近藤がそういい終えると、そんな状況を見かねた、榎本有紀子は、
「純花さん、愛歌さん、お話もそこまでにして下さいね。」
「わかったわ~。ほら、γー2がみんなの援護を待ってるわよ。」
榎本有紀子は、いつものように明るく振る舞っている近藤を見て僅かな安堵を覚えた。
彼女がまだ冗談を言えている状況であれば、まだどうにでもなる状況だという事であった。
γー2
「ちょっと!このままだとこっちに被害が出るわよ?」
雪野美佐枝は、小隊長である前沢に無線で話した。
実際、前沢と雪野はさほど距離が離れているわけではないが、前線の何十という
前や後ろからの小銃の発砲音の中で会話は、聞こえなかった。
「そうね、このままだとまずいわね!でも、もう少しよもう少しで
α中隊と合流できるからね。それまで頑張るわよ!」
そんな、激励を飛ばした前沢に
「前沢さん、そろそろ弾も切れちゃいます。せめて、
もう少し後ろに下がって補給させてもらわないと!」
田村芽衣は、同じように無線機ごしに叫んだ。
補給自体は、この訓練では拠点で補給するか訓練地域に存在する
コンテナから弾薬を補給しなければならなかった。
そして、現在γー2の近くにあるコンテナは行軍の際に見つけたもので
距離はおよそ150後方であった。
「もう少し頑張ろう。前沢も言ってたけどもう少しでα中隊が援護に来るから、
それが来たら補給のために後退出来るからね。」
少し、取り乱していた田村に川辺智優は、いつもの大人しい様子ではなかったが
それでも、田村を心配している様子は伝わってきた。
「智優の言う通りだよ。ほら、怒ってないでもっと冷静になろう、
視野は広くね。ほら行くよ。」
「「「了解!」」」
前沢は、そういうとまた小銃の嵐の中指示を出しながら後退した。
午前10:27分
「αー1よりγー1!そちらの戦域の手前100まで来たわ。
今から敵の後ろに回って挟撃するけど、こっちの意図がわからないように
αー2だけ挟撃の任務につかせるわ。αー1・3は、挟撃班より少し早くそちらの援護に行くわ
敵のわき腹に行くから、そしたら攻勢に転じて頂戴。いいかしら?」
「γー1了解!!これで、助かるよ。ありがと」
雫は、先ほどの移動時に齊藤・中原とともに練った作戦を伝えた。
雫たちが出した、作戦とはこういうのものだ。
1、αー1,3は敵のわき腹へと向かい攻撃ここで、少し敵の数を減らす。
2、その後、新たな敵の出没を注意しαー2は後方へ回り更なる敵の混乱を誘う
3、混乱した敵にα、γ中隊で総攻撃
「αー2は、このまま敵の後方へと回ります。タイミングはこちらで判断します。」
「わかったわ、この作戦は貴方たちしだいなんだから頑張ってね。」
齊藤は、雫にそう告げると作戦行動へと移った。
αー2
「森上・中村・中岡さんは、私の前に展開してもらえますか?
私は、後方で皆さんの援護をしながら進みます。」
「「「了解」」」
「ところで、齊藤?これから、戦う敵の位置は把握できているのか?」
森上は、おそらくこちらの人数より少ないであろうことは予想する事は出来たため
そこの部分は問題ではないのだが、もし今存在している敵が囮部隊の一部だけだとしたら
逆にこちらが奇襲に会ってしまう可能性があったからだ。
「大体は、把握できています。現在、γ中隊と交戦中なのは1個中隊規模で
γ中隊の正面に展開している模様です。恐らく他の兵力は私達と交戦した戦力と
β中隊を追っているであろう敵戦力、拠点の防衛のみだと思われます。」
齊藤は、このように説明し隊長たちは一致した見解なのだが同様にこの考えには大きな穴があった。
「それって、全て確認できた訳じゃないんだろ?」
森上は、当然気になるであろうことを口にした。
「その通りです。ですが、この可能性が高いというのが隊長たちの見解です。」
森上は、納得したように頷くと、
「そうか、時間取らせた悪かったな。」
「いえ、かまわないです。」
γー1・2・3
「現在αー1・3が敵の側面から襲撃を加えるよ。α中隊が攻撃を開始したら、
γー2を先頭にγー1・2の順で攻撃を加えて、その後αー2が敵の後方から
さらに奇襲を加えるから、私達は混乱している敵を掃討するよ。わかった?」
「「「「「了解!!!」」」」」
αー1・3
「全員配置についたわね。これから側面から期中を加えるわ。
ここから、小隊ごとに行動するわよ。中原、何かあったら連絡頂戴。」
「了解ですっ!」
「いいわね?全員そろって訓練を終えるわよ?」
「「「「「了解!!」」」」」
「αー1・3作戦行動を開始するわ!!!」
最終更新:2009年03月29日 20:14