第16話 サバイバル編その3

「こちらΩー3! 前方に多数の敵を確認!数は、1個小隊規模こちらで対処するわよ!
Ωー1・2は先に行って頂戴!」
「Ωー1、了解です!」「Ωー2も了解だ!」
突発的な敵の出現、そのためにΩ-3は敵襲に対しての対処。
そして、Ωー1・2はそれぞれ左側、右側の迂回ルートを通り直ぐに拠点へと目指した。
本来であればこの数の敵なら対処できたはずである、しかし現在δ部隊が苦戦を強いられており
戦闘開始から3分程度しかたっていないのにもかかわらず3人も削られていた。
今までの敵より格段に強く、進行のスピードも速すぎるのである。
そのために拠点へと即座に進行しなければならなかった。δ部隊は、1個中隊と戦闘中であり
今の敵襲によりΩ部隊は1個小隊を相手にしなくてはならなくなったが、拠点には多くてもせいぜい2個小隊であり
δ中隊が持ちこたえられる時間を考えた結果
βマムの判断によりΩー1は敵襲による対処に当てられた。


「Ωー3のみんな!ここの敵をΩー1・2に近付けさせるんじゃないわよ!」
「「「了解!」」」
「田村!私について来て!あっちの二人を対処するわよ!」
「了解!」
前沢の声に反応し田村は、前沢の横に陣取った。
「それにしてもあれよね、やっぱりうまくいかないわものよね!」
雪野は、隣で匍匐をしながら銃の連射している川辺に話しかけた。
「そんなものだよ。あんまり作戦通りいったら面白くないしね!」
基本的に物静かな川辺にしては珍しく興奮していた。
「そうよね!」
そういい終わると二人は、叫びながら射撃を続けた。


「こちらΩー2だ!Ωー1!応答してくれ!」
坂下たちΩー2は、Ωー3の援護により戦域を離脱拠点の手前40の地点で
Ωー1と合流するために警戒を行っていた。
「こちらΩー1です。現在、拠点の手前20にいます。」
坂下は齊藤の冷静な声を聞き、今の敵襲による緊張からか声を荒げている事に気付いた。
「すまん、少し声を荒げてしまった。今からそちらに向かう。」
坂下がそう言い終わり移動しようとした直後・・・
「みんな伏せろ!!」
阪口が声を上げた直後一発の銃声が聞こえた。
その飛んできた弾は、ちょうど坂下はたっていた所でその部分はペイントの色に染められていた。
「Ωー2!何かあったんですか!?」
無線機から齊藤の声が聞こえ坂上は無線機に手をのばした。
「こちらΩー3、敵の奇襲にあったようだ。すまないがこちらも敵の対処に部隊を割かなくては
ならなくなった、先に行ってくれ。」
「敵の数は、いくつかわかりますか?そこから離脱する事も不可能ですか?」
「いや、まだわからないが2人は必ずいるはずだ。離脱するのもむずかしそうだ・・・
先ほど狙撃されて気付いたのだが相手の狙撃能力はかなり高そうだ、
距離的にはこの銃と周り環境を見る限るでは距離50の間にはいると思う。
こっちは、Ωー1が狙撃されないよう今から牽制を仕掛けてみる、その間に行ってくれ。
幸いここは背の高い樹木が多い。腰をかがめれば狙撃される心配はないだろう。」
「そうですか・・・では、私たちは先にいかせてもらいます。」
「そうしてくれ。βマムにはこちらから報告しておく。」
「了解です。」

「さて、まずは阪口礼をいうぞ。たまには役に立ってくれるな。」
先ほどの阪口の言葉がなければ自分はアウトになっていたはずであった。
「“たまに”じゃなくて“いつも”だろ?」
阪口は、胸を張りながらそういったが・・・
「なに言ってのよ陽平、たまにって言ってくれただけでも智子に感謝しなさいよ。」
藤林は、そのように煽り立てた。
「そうだぞ、お前はよく坂下に迷惑かけてるだろうが。昨日なんかPXで
坂下にお盆渡そうとした瞬間にこけてサバ味噌ぶっ掛けただろうが。」
新河もそれに便乗した。
そんな3対1の状況でも
「新河が言った事は正しいけど藤林のは理不尽でしょうが!」
確かに藤林の言葉は理不尽であるがこんな事にももう慣れてしまった。
最初は、長い腰に届いている長い髪と可愛い顔立ちのため近寄ったのが
間違いであったのかもしれない。
「お前ら、そろそろお話してられないぞ。阪口狙撃してきた方向から何かわかるか?」
坂下は、緊張をほぐすための会話を打ち切り真剣な顔で阪口に話しかけた。
「距離は絶対50の間だね。この銃のレンジから考えると
もっと長いかもしれないけどこんなに背の高い木々に覆われてたら50までは近づかないと撃てないと思うね。」
阪口も今までの顔つきとは異なり真剣であった。
「わかった、Ωー1も移動を開始してるだろう。敵との距離がわかればこちらから攻撃できるだろう。
では、いくぞ!」
「「「了解!!」」」


「俺らだけで攻略できると思うか?」
中村は、部隊の仲間にそういった。
「いや、βマムによれば拠点には1個小隊しかいないらしいからな。
だとすれば可能性は多少でも高くなるな。」
森上は、現状を考えた結果を答えた。しかし、あくまでも予測の範疇を越えないものであった。
「俺は、勝てると思うね。相手が誰であろうとここまで前線に出ずに拠点で
縮こまってる奴らだからな。」
中岡の言っている事も装であったがしかし・・・
「中岡、その可能性もないとは言わないが今の状況を見てみろこんなにも俺達の
作戦を見透かして対処してくるやつだそんな奴らが拠点を手薄にすると思うか?」
森上は、冷静な意見を述べた。
「確かにその可能性は、捨て切れません。油断しないでいきましょう。」
「そんな事は、わかっている。」
そのような会話をしていると拠点の手前10まで来た。
「皆さん、今から拠点を襲撃します。拠点に存在する、CPを倒せば終わりです。いいですね?」
「「「了解。」」」
そういい終わるとΩ-1のメンバーは、襲撃を開始した。

今回の用意された拠点は、曲がりなりにも演習場の一角なのだが
小さな指揮車両と周りには土嚢がつみあげられただけのものだった。
(恐らく、用意するのに時間がなかったんだろうな・・・)
森上はそんな事を考えた。
すると、声が聞こえてきた。
「ここまで、これたのは1個小隊だけか・・・残念だな。」
森上らΩー1が拠点の指揮車両に近づこうと周囲を警戒しながら走っていたときだった。
森上らは、その声に反応しすぐさま自らが一番近い土嚢へと身を潜めた。
「さて、今ここにいるのは俺とCP、拠点の防衛を含めた4人だけだ。」
(なぜ、わざわざ相手の手の内を明かすんだ?いや、罠か?)
森上が、土嚢から若干身を乗り出すと3人がΩー1が襲撃した入口に近い
土嚢に身をかがめていた。
(さっきまでいなかったはずよね!?しかも、この声聞き覚えが・・・)
齊藤は、走りながらも周りをしっかり確認していたはずである。
そして、齊藤もその声の主を向くと一人の男に目がとまった。
土嚢にかがんでいる為、顔しか見ることが出来なかったが齊藤にはそれで十分であった。


「りょ・・!良介!!」
齊藤は、その顔を見た直後声を上げてしまった。
「齊藤、知り合いなのか?」
近くにいた、森上がそう尋ねてきた。ここから見える中村、中岡も驚いた表情をしていた。
そしてそこには・・・自分と幼馴染の岡崎良介がいたのである。しかし、齊藤自身は
岡崎が衛士になったと言うのは最近聞いたので知っていたが横浜の衛士だとは聞いていなかった。
「綾華か!本当に久しぶりの再会がこんな風になるなんてな。本当は、連絡したかったんだけど
上官に駄目だって言われたから連絡できなかったんだ。ゴメンな。」
齊藤にとっては再会は、とても嬉しいのだが・・・
「良介、今はそんな事は言いの!なんで私達がここに入ってきたときに攻撃しなかったの!?」
齊藤には珍しく丁寧な言葉遣いではなく語気も強かった。
そんな齊藤に岡崎は、
「そんなことって・・・酷いな~。まあ、でも今は仕方ないな・・・
俺が攻撃しなかったのはお前ら“どれだけ強いか”見るためだよ。」
「くっ・・・!」
そんな、やり取りを見ていた中岡は、
「そんな、大口たたいていると泣きをみることになるぞ?」
「威勢のいいのがいるな、お前なんていうんだ?俺は、岡崎良介だ。」
中岡としては、こんな奴に名乗りたくはないのだが
しかし武家出身者であるが故にさらに軍属の者としては、上官に対しては名乗るのが礼儀であった。
「俺は、中岡裕次郎だ。」
中岡は上官に対する態度で接しなかったが岡崎は別段気にした様子もなく・・・
「中岡裕次郎か・・・後、他の2人も名乗ってくれないか?」
森上や中村も理由は違えど挑発とも取れるものに乗りたくはなかったが、
中岡と同じく軍属の者としては、上官の命令は絶対であった、
「中村朋也訓練生であります。」「森上悠希訓練生です。」
「なんかついこの間まで訓練生だったから、そういう風に話されるとやりづらいな・・・!」
「おっと!いきなり撃ってくるとはやっぱり威勢がいいな中岡。」
中岡は、岡崎が話している途中にいきなり銃を撃ったのである。
「岡崎少尉、無駄口はもういいので早く決着つけましょうよ。」
そういうと、中岡は口の端に笑みを浮かべていた。
「そうだな・・・おっとC中隊から通信だ。・・・そうか。」
岡崎は、土嚢にしゃがみこみながら無線機を手に取っていた。
その間Ω中隊も相手の警戒をしながら、状況の確認と牽制の射撃を行っていた。
そして、今この土嚢から飛び出し攻撃を加えるのは自殺行為であった。
なぜなら、岡崎の周囲5mには2人がこちらに銃を構えていたのである。
ほんの10秒程度のこてであった・・・そして、岡崎の言葉にΩー1は愕然とした。



「お前らの囮部隊が“ほぼ全滅”したそうだ。残存部隊も撤退を始めているらしいが
こっちが追撃を加えてるから全滅も時間の問題だな。」
岡崎は、今のδ部隊状況を淡々と伝えた。
「「「「!!」」」」
Ωー1の全員は、言葉を失ってしまった。
「・・・ッ!でも、それが本当だって言う証拠はあんのかよ!!」
中村は、声を荒げた。
「証拠なら多くあるだろ?まずは、さっきからお前らはCPから何の報告もきてないだろ?」
(確かに、さっきから報告が一切ないわ!)
「おそらく、δ部隊の指示、状況把握でお前らに通信できなかったんだろうな。
ほら、CPに聞いてみろよ。」
「こちらΩー1、βマム応答して下さい!」
ザザーッ・・・ザザーッ・・・
「っ!βマム応答してください!」
ザーッ・・・


「こちらβマムだ!!!すまなかった。δ部隊の対応でそちらに連絡できなかった!
守備はどうだい?」
「高山さんはどうしたのですか?青野さんは、情報の整理をしていたんじゃ?」
青野俊夫は、今回の訓練では広報で情報処理をしていたはずである。
「高山は、今δ部隊の撤退ルートの確保と拠点の防衛の準備に追われているんだ。
そっちの状況も教えて欲しい。」
「こちらは、拠点に突入後敵の出現により現在戦闘中です。
δ部隊はどうなりましたか・・・?」
青木は、それを聞くと少し沈んだ声で、
「δ部隊は・・ほぼ全滅した。現在残っているのは、5人だ。今拠点の手前300に
て後退中だが後退できるとは思えない・・・。そちらが拠点を落とすのが先か
それともこちらの拠点が落ちるかのどちらかだ。」
「・・・そうですか、ではこちらは作戦に戻ります。」
齊藤は、無線機を手にした腕を力なくおろした・・・
「綾華、俺の言った通りだったろ?」
齊藤は、少し俯きながら
「その通りよ、そっちがこっちの拠点を落とすのが早いか
私達がここを落とすのが早いかどうかよ。」
「こっちの話はそれだけだ・・・もう時間がないんだろかかって来な!」


岡崎の挑発に・・・
「無礼るなよ!!」
中岡は、そう叫び土嚢から上半身を乗り出し銃を乱射した。
「中岡っ!!少し落ち着け!!」
森上の叫びを無視・・・いや、彼には聞こえていなかったのかもしれない。
「くっ!朋也!齊藤!中岡の援護だ!」
森上は、左前にいる中村と右側にいる齊藤に中岡を援護するように伝え
自らは、銃撃のなか右前(齊藤よりも5m前)にいる中岡に近づこうと
しゃがみながら移動し、時には土嚢の上から牽制をしながら近づいた。
「中岡落ち着け!」
中岡に近づいた森上は中岡の肩を掴み土嚢の内へと力づくで抑えた。
「っ!森上!貴様、俺の邪魔をするのか!?」
中岡は、やはり興奮していた。彼は人よりもプライドや誇りを
重んじておりさらに武家出身であるがためにこういう挑発には乗りやすい傾向にあった。
「違う!少し冷静になれ!お前らしくないぞ!」
「くっ・・・!」
「よし、落ち着いたみたいだな。」
中岡は、何か意痛そうな顔をしていたが森上は無線機を手に取った。
「齊藤、今から俺の考えた作戦をやりたいんだがいいか?」
「はい、構わないです。っ・・・!」
齊藤は、土嚢から頭を少し出し敵に対し射撃を行っていたが敵も
正確な射撃で齊藤や中村を攻撃していた。
「中村も聞いてくれ、作戦はこうだ。」


「まず、今回は目の前の敵を殲滅するっていう積極策じゃない。
CPを倒せば終わるんだから指揮車両に一番近い齊藤を指揮車両に近づけて
CPを撃破だ。そんで俺達3人は、齊藤の援護だ。簡単だろ?」
森上は、簡単だと言ったが実際齊藤が一番近い位置にいると言っても距離は
最短でも5m、近いように思えるが実際敵からの射撃にさらされる事になる。
「今は、それしかないみだいだな!こっちは、援護の準備は出来てるぞ!」
中村は、土嚢に銃身を置きながら射撃をし話している最中も撃っていた。
「私もそれで構いません。タイミングは任せてください!」
齊藤も同じように牽制をしていた。
「よし!いくぞ、タイミングが整ったら言ってくれ!俺達は、お前の前に出る!」
森上は、そういうと先ほどから一言も発していない中岡と共に齊藤の正面に移動した。
中村も同様に齊藤の斜め前に移動した。
(ん・・・?あいつら、移動し始めたぞ・・・そういうことね。)
岡崎は、今移動したΩー1の布陣をみてひとつの結論にたどり着いた。
この岡崎は、謙虚な男であり人望も厚い、さらに戦術機やこういう戦闘に関しても
秀でていた。そのような逸材を見つけた横浜基地の“副指令”は恐ろしい人である。


(全く・・・まさか良介とこうやって戦うとわね・・・)
齊藤は、作戦のプレッシャーよりも岡崎とこのように戦う事になるとは思わなかったという
驚きと彼の優しさにも気付いていた。
(本当だったら、とっくに片をつけられるてるのにね。全くおせっかいなやつなんだから。)
岡崎は、最初私達の強さを見ると言っていたが本当は、“私達を鍛える”ためにそうしたのだろう
これは本来の戦闘ではないし、ましてや命のやり取りでもない。
そして、昔から周りの皆を巻き込んで他の街の子供達と野球で勝負することになったときも
チーム内でレギュラーを決めると称して皆を練習させていた。
(ふふっ・・・やっぱ“良介らしい”よ。)
齊藤は、程よく緊張を解くと心の中でいく瞬間を待っていた。
「齊藤、そろそろいいか?もたねえぞ!」
森上が齊藤に叫んだ。そして・・・
(・・・・・・・・いまだ!)
齊藤は全力で走り出した。肺の中の空気を全て使い尽くしそれでも齊藤は走り・・・
指揮車両の扉の前までたどり着いた。
「やりました!」
齊藤の声は嬉々としていた。
「よし!」
中村は、声を上げて喜んだ。森上も笑みを浮かべ
中岡もほんの少し笑顔を浮かべた。
「突入します!」
齊藤も無線機ごしながらも喜びの色が伺えた。


しかし、そう簡単にことが運ぶわけがないのである・・・


バンッ!!
森上ら3人の無線機越しに一発の銃声が聞こえた。
今は、無線機を常時音を拾うように設定してあり、その1発の銃声も齊藤のものだと思った。
「よっしゃっ~~~~!岡崎少尉!!俺達の勝ちですよ!」
「岡崎少尉、この訓練俺達の勝ちです!」
「ふんっ、大きな口をたたいていたわりにはこんなもんか。」
中村・森上・中岡は、それぞれに勝利宣言をした・・・


がしかし・・・土嚢から少し顔を出している岡崎は、薄笑いを浮かべていた。


その表情を見た後無線機から齊藤の声が聞こえてきた。


「すいません・・・・“やられて”しまいました。」
「「「!!!」」」
森上らは、愕然とした。

「さて、お前ら・・俺は最初から“4人”っていったぞ?CPは、“戦わない”なんて
渡された資料には、載っていなかったと思うけどな?」

確かに岡崎の言うとおりである。資料には“CPは、拠点にて指示を出す。”
としか書いていなかった。しかも冷静に考えてみればこっちのCPもしっかりと装備を整えていた。

「全く・・・お前たちは、もう少し冷静に物事を考えろよ。後、お前らの拠点にこっちが攻め入ったぞ。」


(くっ・・・中岡に冷静になれなんて言っておいてこのざまかよ!!俺も冷静じゃなかったてことかよ・・・!)


齊藤は、指揮車両に入った途端誰もいないことに気付き、数歩だけ奥に入ってしまった。
その隙に扉の戸に隠れていたCPに後ろからやられた。運悪くこの指揮車両は扉が“引く”のでなく“押す”タイプのものだった。
当然戸を押すタイプのものは開けられた戸と壁にわずかな三角形の隙間が出来るためその空間に潜んでいた。


「さて、お前らどうする?このまま指揮車両にまた突っ込んで綾華と同じことになると思うぞ?
まっ、と言っても、もう指揮車両には近づけさせないけどな。」

「完全に読まれてたった事かよっ!くそっ!!」
中村は、拳を地面にたたきつけた。

「あ~後一つ、指揮車両にいるの“CPじゃないからな” “CPは、俺だ。”」
「「「!!!」」」
森上らはここに来て、完全に自分の頭が固かったことを悔やんだ。
確かに、CPは指揮車両にいなければならないなんでことはない。、
「「「っ!」」」
そして森上は、ある事に気付いた。
先ほど齊藤がβマムと連絡を取った際にその通信を全員聞いていたのだが
その際青野が
(高山は、今δ部隊の撤退ルートの確保と拠点の防衛の準備に追われている。)
と言っていた。この時点でこちらのCPである高山は、“指揮車両から離れている”
のである。
「完全に俺達のミスだ!」
中村は、また叫んだ。

「ようやく気付いたみたいだな。お前らは、今のミスで“仲間を殺し”
“部隊の勝利をも潰した”んだぞ。これが、実戦だったらどうする?
もし、BETAとの戦いでこんなことを起したら部隊の仲間はとっくに死んでいるな。
しかも、人類の絶滅にも貢献したわけだ。」

「「「!!」」」

この言葉に、森上らは反論は出来なかった。
もし、これが実戦だったら?
もしこの作戦の失敗によって多くの人が犠牲になるとしたら?


もし・・・「「「「自分たちの大切な人たちをなくしてしまったら。」」」


「そろそろ、拠点の制圧が終わる頃だろうな。お前らこのままだと負けるぞ?
それと、お前らがここに来る途中に別れた仲間達だけどな。“全滅したから”援軍も来ないぞ。」
すでに、こちらに勝ち目はなかった。
このまま突撃したところで返り討ちにあうだろう。
しかし・・・
「よし、お前ら・・・俺ら3人でせめて相手に一矢報いるべきだ。」
森上は、二人の顔を見た。二人とも顔をゆがめていたが
それは、自身も同じ事なので気にはしなかった。
「確かにそうだな・・・まだ、負けたわけじゃないな。」
中岡は、若干絞り出すように声を出し、中村も頷いた。
「よし、じゃあまずは、作戦だ時間がないから手短にするぞ。
まず、中岡を最初に左側のほうに走りこませる。時間差で中村が右に
次に俺が正面に突っ込む。
その時点で中岡が敵の方に突っ込んでくれ。
同様に中村も時間差で行く。俺は、そのまま正面から行く。
近づいている最中は、絶対撃つな。弾がなくなるからな。
だれか一人でもたどり着いて岡崎少尉をアウトに出来ればいい。」

森上の作戦は、簡単に言えばこういうものだ。
まず、時間差で3方に散る。その時敵との距離は離れていく事になる。そして敵は攻撃を1つか2つに集中、また3人に攻撃がバラけてもその分回避
しやすくなるため目標である岡崎には近づきやすくなる。
そして、3方に別れた後反転し敵の陣地にまた時間差で攻撃3方からの攻撃であれば
敵は正面・左・右を対処しなければならなくなり、敵に近づいて攻撃できる可能性が増えると言うわけだ。

「よし、説明は終わりだ。時間がないからもう行くぞ!」
森上の声の後中岡が走り出した。
(くっ!こんな弾幕のなか突っ込むって自殺行為だろ!)
「よしっ、俺も行く!!」
中村も中岡の3秒後に走り出した。
「行けぇ~~~!!」
森上も叫びながら中村の3秒後に突撃をした。
相手との距離は直線で15mその間に土嚢は、2箇所あるが今はそんなのに隠れて移動している暇はない。
森上が、飛び出したと同時に中岡が反転し敵に突っ込んだ。この時点で中岡は、被弾こそしなかったものの
何度もこけそうになった。
「なんで、当たらないのよ!!」
中岡を狙っている女性が叫んだ。
そもそも、今回渡された小銃は連射には向かない。30発の装弾数に加え連射時の集弾率は悪い。さらには、連射性の
よさがあだとなりマガジンを交換する頻度が多くなっていたのである。しかも、マガジンの交換の際には、
銃撃がやむ。なぜなら、他の方向を対処しなければならないからである。
遠ざかっていた、中岡や中村は銃を撃たずに近づき、森上も同様だった。
本来であらば住を連射したほうがいいのかもしれないが今回は、
こんな短い距離で乱射しようものなら直ぐにマガジンの交換する必要が出てくる。
この間わずか8秒である。

「そう来るか!これは、なかなかだな。でも、無闇に突っ込んでもやられるだけだぞ?」
岡崎は、そういうと一番近づいている、中岡のほうを向いた。
バンッ!!
この銃撃の中では、一発の銃声ごとき聞こえるはずないのだが中岡には聞こえた気がした。
「!!」
中岡は、やられてしまった。
今までは、適当な乱射のために左右や姿勢を低くする事で致命的な被弾はしなかったが
正確に狙われた一発は、見事に中岡の胸に直撃した。
そして、中村も・・・
「くっ!!」
中村は、岡崎にやられたわけではないがやられてしまった。


「ほら、後はお前だけだよ!」
敵の残りの二人もマガジンの交換をしていた。
もしこの交換が終われば確実に森上はやられる。
「ッ!!」
岡崎は、森上のほうを向いた。森上との距離はわずかに5m
そして、銃の引き金を引こうとした。
バンッ!!


岡崎の銃声の前に一発の銃声が聞こえた。
「うおっ!!」


「あんた、後ろががら空きよ?」


「藤林!?」
藤林は、ちょうど拠点の入り口に一番近い土嚢から正面にいる岡崎を狙撃した。
アウトになり拠点の端で座り込んでいた中村が声を上げた。
その声につられ齊藤、中岡も顔を向けた。


「お前、やられたんじゃ!?」


「はぁ?何言ってんのよ。どうにか切り抜けてきたわよ。残ったのは私と
坂下だけだけどね。坂下は、現状の報告中、こっちが勝った旨を伝えてもらったるわ。
それとあんた達の無線機がオープンの状態になってから。
状況は、把握してるわ。この少尉がCPなんでしょう?」
確かに岡崎は、“全滅した”と言っていたはずである。

「お前ら、敵の情報を信用しすぎなんだよ。俺のデマ情報も見抜けないなんてな。」
「くっ!!」
森上らは、またしても冷静さを失っていたらしい。
ただ、一回確認を取ればよかったのだ。それだけのことだったのにだ。

「さて、俺がやられたってことは訓練終了か。そうだ、お前ら4人にアドバイスだ。」
岡崎は、そういうとΩー1を自分の前に集めた。

「綾華、お前は、もっと周囲を警戒できるようにしろよな。
今回は、CPは戦わないなんていう固定概念を作っちまったからやられたんだぞ。」

「中岡。お前は、もっと仲間を頼れ。お前の能力が高い事は認めるが、
もっと仲間を信用してみろ。」

「中村。お前は、もう少し視野を広くしろ。視野を広く取れば見えなかったものが
見えるようになって、さらにお前は強くなる。」

「最後に、森上。お前は、表面的には冷静に見えるかもしないが
内面の冷静さが欠けている。お前が冷静に判断できるようになれば仲間を
守れるようになる。」

岡崎は、それぞれに今回の戦闘で見つけた。弱点を的確に指摘した。


「あ~それと、俺をアウトにしたやつも含めてあとで俺ら新任衛士から
アドバイスがあると思うぞ。それじゃあ、戻るかな。」
岡崎は、そういい残すと帰るための車が用意されているポイントへと向かった。


そして、森上らも車が待つポイントへと向かった。
その間アドバイスをもらった4人は、無言で何かを考えているようであった。


ポイントに到着後、森上たちだけでなくδ部隊やCPが同じように考え込んでいた。
そして、訓練生と新任衛士は講堂へと集められた。


「全員そろったようだな。」
氷室教官の声が響いた。
訓練生たちは、勝ったにも関わらずその喜びを浮かべているものはいなかった。
「さて、今回の訓練だが・・・本来であれば貴様らは負けていたんだぞ?
しかも、貴様らの拠点が落とされた時点で岡崎少尉らは勝ったにも関わらず
それを、伏せて戦ってくれたんだ。」
訓練生たちには、すでにその事は十分にわかっていた。
森上たちもさっき聞いたのだがこちらの拠点は、齊藤がやられた時点ですでに
落ちていたのである。それを知らなかったのは、Ωー1と生き残りである、
坂下と藤林だけであった。しかも、そのときのΩー1と岡崎とのやり取りは全て
無線機越しに聞こえていたらしい。
そして、勝利条件も変更され10分いないに岡崎を倒せば勝ちであった。
「さて、ここからは、新任衛士を代表して岡崎少尉からお話しがある。」
氷室はそういうと岡崎に敬礼をとり岡崎も敬礼を返し、壇上へと上がった。

「まずは、今回の訓練ご苦労だったな。今回は、俺らが“負けた”。
何がどうあれ、お前らは勝ったんだ。だからもう少し喜べよな~。」
岡崎は、そういってくれたが訓練生達は素直には喜べなかった。

「それでだ、今回は初めての大規模訓練で学んだ事も多いはずだ。
そんでお前らは俺ら新任衛士からアドバイスを受けたと思う。」

「そのアドバイスは、あくまで参考程度だ。
俺らもついこないだまで訓練生だったし年もそんなに離れていない
というかほぼ同世代だ。だから、まだひよっこ同然だ。
BETAとの戦いもまだ間引き作戦に参加しただけだ。
そんな俺らからのアドバイスだが受け取るかは、お前らしだいだ。」
岡崎らは、すでにBETAとの戦いは経験していたがあくまでも
“間引き作戦”だけであった。
しかし、今の人類は、大規模な作戦を行うには、多少の時間が必要であった。
そのために、横浜基地の“副指令”は、AL4関連の作戦と
称して大陸の間引き作戦に参加させていた。(しかし、実際にAL4関連の作戦で
会ったのは紛れもない事実であった。)

「でだ、今回の訓練で学んだ事はあるか?よし、じゃあ森上!答えてみてくれ。」
岡崎に指名された森上に視線が注がれた。

「はい、今回俺が学んだ事は、初めて大きく“仲間”という存在を意識しました。
そして、その仲間とともに作戦に当たる事は大きな安心とともに、大きな不安を
覚えました。それは、“仲間の死”です。今回は、訓練ということで死者こそ
いませんが実戦になればそれも出てしまいます。
俺は、その仲間たちを守るためにはどうすればいいかを今回の訓練で学びました。」
森上は、が言い終わると岡崎は、満足そうな顔で・・・

「そうだ、お前の言う事は正しい、そして今この場にいる訓練生たちも
似た事を考えた者も多くいるだろう。今回、学んだ事は自身の身を守るだけでなく
“仲間”やお前らの“大切なものたち”も守るんだ。」
岡崎がそういい一瞬だけ時が止まったように思えた。

「そして、お前らに今回の訓練で俺らが一番伝えたかったことをここで伝える・・・」
岡崎は、真剣な顔でこう告げた。


「「一人では、誰かを守り、救うことが出来ない事が多くある。

そして、BETAとの戦いも同様に一人で戦う事には限界がある。

だとしたら、仲間とともに戦えばいい。

しかし、仲間の事を知らないのに共に戦う事は出来ない。

だから、仲間を知るために共に訓練に耐え、時には剣を交え、時には共に一時の時間をすごし、知り合えばいいのである。

そして、本当の仲間を得た時こそ、この世のどんな剣よりも鋭く、決して折れる事のない強さを手に入れる。」」


「これが、俺らの伝えたいことだ。まあ、要は仲間は大事にしろってことだな。」
真剣な顔つきが急に崩れ笑みを浮かべていた。

「以上で俺の話は終わりだ。」
そういうと、岡崎は壇上を下りた。
それと同時に氷室教官が壇上に上がった。

「貴様ら、岡崎少尉の言葉をよく肝に銘じておけ。いいな?」

「「「「「「了解!!!!」」」」」」
訓練生たちは、大きく返事をした。


ようやく、守る術・戦う術をみつけた・・・・・

簡単なことだったじゃないか・・・

仲間たちと共に戦えばよかったのか・・・


16話 仲間との絆  ~Fin~



最終更新:2009年03月29日 20:14
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