本土防衛線編
某月某日
「隊長!!二時の方向に要塞級3!このままでは、全滅しますよ!!」
春雄の網膜には、年若くして突撃前衛長に上り詰めた、平賀中尉の凛々しい顔が映った。
「くっ!わかってるよ!!ビーチ2・6・11は、二時の要塞級に対処!!今、支援砲撃の要請するから持ちこたえろ!!いいな!?」
「「「了解!!!」」」
(なんで、さっきから支援砲撃の要請してんのに来ねえんだよ!!くそっ!こんなときにHQが混乱してんじゃねえぞ!)
春雄は、先ほどから要請していた支援砲撃が来ないのはHQの混乱のせいだと考えていた。
確かにHQが混乱するのも無理はない。BETAの本土上陸スピードが速すぎるのである。現在、春雄たち極東国連軍第13師団(光坂基地)・第1戦術機甲大隊通称・ビーチ大隊。
大隊長である「中原 春雄」は、指揮能力に秀で、突撃前衛長の「平賀 正人」は卓越した操縦技術を会得している。しかし、大隊規模ともなるとこれらの突出した能力の持ち主だけでなく個人の能力と部隊全体の連携の練度が驚異的であることによるために生還率も奇跡の68%であった。
しかし、その奇跡も所詮は奇跡でしかないという事を思い知ることとなる。
「こちら、ビーチ1!!HQ、支援砲撃はまだか!?」
ザーッ・・・こちr・・・・HQ・・・支援砲撃の開始は、3分後である。
「!!こちら、ビーチ1!確認するが3分後だな!?」
ザッー・・・そうだ・・・・速やかに距離3000後方の山麓に身を隠せ。
「了解!!たのむぜぇ~~」
「ったく!!隊長も要塞級を相手にしてみてくださいよ!こいつら、面倒な相手なんですよ!!」
「頑張れ。お前らならできるぞ。」
「了解!・・・っと!衝角か危ないな!よっと」
平賀は、正面から来た衝角を片方のスラスターだけを吹かせ上半身をひねることで回避し、要塞級の懐に入り込み長刀で要塞級の関節を切り裂いた。
「はああっーーー!!」
橋本美優は、叫びながら要撃級の群れへと突撃する。
橋本は、右手に短刀を掴みもう左手には、長刀を掴むのが彼女の戦闘スタイルなのだ。
「てやぁっ!」
橋本は、短刀で要撃級の尾節を切り裂き、要撃級・戦車級が群がってくると同時に跳躍噴射でその場から離れ、大型種が少ない位置を即座に見つけ短刀を突撃砲に持ちかえキャニスター弾を発射、大地は、真っ赤な絨毯に包まれた。そして、近づいてきた要撃級の胴体に長刀を深々と突き刺す。
「美優!やるな!!さすが、俺の彼女なだけはあるな!!」
平賀は、戦闘中にかかわらず大胆なことをさも当然のように言い放つ。
「ふんっ! うるさわね! いつ、あたしがあんたの彼女になったのよっ!」
橋本は、いつものやり取りをいつものように行っていた。そして、この部隊では公認の仲である二人でなのだ。
「よっしゃ!じゃあ、俺も行くぜ!」
平賀の戦闘スタイルは、基本的には長刀を中心にし、突撃砲を使用した至って平凡な戦闘スタイルであり突現前衛というポジションの基本を踏んでいる。
「行くぞ!!」
長刀を両手で構えると地面を滑るように一足飛びに突撃級に近づきその脇腹に長刀を突き立てた。そして、平賀の乗る機体に津波のように襲いかかるBETA群を物ともせずにその場で跳躍……
2秒前に平賀のいた位置には、BETAが殺到した。そこにキャニスター弾を撃ち込むと小型種は、元の形がわからないほどの肉塊へと変化していく。しかし大型種は、その攻撃を物ともせずにまた旋回し移動を始めた。平賀は、跳躍後に最もBETAの少ない地点を検索しそこに向かって跳躍ユニットを吹かせた。そして、着地し向かってくるBETAに向かって長刀を振り回す。その様は、まさに翼を持った剣士のようである。
「お前ら!そのくらいにして下がるぞ!!そろそろ、“スコール”の時間だ!」
ビーチ大隊では、支援砲撃のことをスコールというそう言い始めたのは、中原に他ならない。
そして、部隊は、迫りくるBETAを牽制しながら距離2000後方に下がった。
現在彼らは、山梨県の西部にて後退しながら戦闘を行っている。実際、作戦上本来であればもっと離れた位置でBETAとの戦闘がおこなわれるはずであり兵站も確立され戦車部隊などと共に闘っているはずであったのだが……
しかし、九州の戦線が瞬時に崩壊その戦線で食い止めることができなかったためにBETAは、一気に中国地方へ侵攻。そして、京都から政威大将軍が脱出したのは、ほんの少し前のことである。そして、わずか1週間ほどでBETAは、九州・四国・中国地方を制圧してしまった。
「スコール来るぞ!!!ビーチ大隊距離1000後退しろ!!山麓に身を隠せ!」
「「「了解!!」」」
「弾着……5……4……2…1。今!!」
(くっ・・・相変わらず物凄いな。)
「HQ!こちら、ビーチ1。これより、ビーチ大隊は、神奈川県相模原市西部を目指し後退する!」
「こちら、HQ・・・後退は、認められない。現在、BETAの東進が止まらない、どうにか持ちこたえてくれ。」
「はあ!?何言ってんだ!!こっちは、もう12時間以上連続戦闘してんだよ!しかも推進剤も弾薬も刀も全てが足りねえんだ!!せめて、補給のために下がるくらいは認められるだろうが!」
ザッーーーー・・・・・ザッーーーー・・・
「こちらビーチ1!!誰か応答しろ!!」
ザッーーーー・・・・
「くそっ!!無線がいかれやがった!!ビーチ1よりビーチ全機!!誰か、HQと連絡取れる奴いるか?」
「こちら、ビーチ3.無理です!!」
「こちら、ビーチ10、こちらも無理のようです!!」
「くそっ!!ビーチ全機、少し時間をくれ!!」
春雄は、そういうと部隊の後方に下がった。
「「「了解!!」」」
(くそ!!こんなんじゃ、補給も支援砲撃を頼めねえぞ・・・どうする・・・こういう時こそ冷静になれ・・・・)
春雄は、自らを落ち着かせBETAと戦闘を行いながらHQとの交信方法を考えていた。
(今、交信できねえと他の部隊の戦闘状況もデータリンクがあったとしても詳細までが手に貼りわけじゃない・・・しかも、HQとの連絡が取れなくなったとすると恐らく無線がいかれたはずだ。だとすると今後データリンクは、回復しない。そんな、状態じゃあとてもじゃないが戦えない。
しかも補給しねえと、あと1時間持てばいいくらいだし弾薬も推進剤もない・・・・支援砲撃がなかったらそれよりも時間がねえな・・・・・・ったく、こんなときあいつ・・・・”中村早季“だったらどうするんだろうな・・・)
春雄は、昔の戦友のことを思い出していた・・・彼女は、普段はその優しさから周りからは好かれその強さに惹かれるものが多かった。
しかし、彼女の本当の強さは、
戦術機の操縦技術ではなかった・・・その心の強さであったと春雄は考えていた。そして、彼女は・・・・あの戦闘で、戦死した。
先の大陸での戦闘・・・HQは、現在のように質の高いものではなかった。
さらに、大陸での戦闘の連続でHQも疲弊しており、入ってくる様々な情報の処理が追いついていなかった。
レーザー照射警報は、鳴ったが光線級の出現地域の特定が遅れ、さらに支援砲撃も耐レーザー弾を使い切っていた。
そして、事件は起きた。
彼女は………“俺を庇って死んだ”
俺は、その事件で仲間の死というものがどんなものかを知った。
そして、俺は誓った。どれだけ、青臭く、考えが甘いと言われようとなんとしてでも・・・・
“仲間を守ろうと”。
誰も死なせない、誰も悲しむ思いはさせない、俺の見てきたものを全て守ると誓った。
しかし、すべてを守ることは、出来ないといことはわかっていた。
現にすでに何人もの仲間を失っていた。今回の戦いでも既に8人の仲間を失っているのだ。
他の奴らに言わせれば一回の戦いで数人の仲間を失うだけで済んだのは、運が良かった、奇跡だなんていう奴もいる。だけど、俺から言わせれば仲間の死は、数なんかで計れるものではなかった。
一人一人、大切なやつがいて・・・それぞれに夢を持っていた。
だから、俺は、そんな奴らを守るために戦っている。
そして、今回も・・・・・
「ビーチ各機に次ぐ!!これより、本隊と合流する。さっきのHQの報告によると本隊は、神奈川県と山梨県の県境にて戦闘中だそうだ。合流後補給しそのまま本隊の指揮下に入る。」
「ちょっ!!待ってください。そんなことしたらここのBETAは、誰が止めるんすか!?」
「俺だ、俺が止める。お前らのS-11を置いていけ。」
「「「「!!!」」」」
「ったく、別に死に行くわけじゃねえよ。俺に考えがあるんだよ。ここは、ちょうど周辺が山地だしな効果的にS-11を使えばこの辺一帯のBETAを殲滅出来るはずだ。俺の援護にビーチ11、7を付ける。これで、文句ないだろ?」
(こちら、ビーチ2。これは、隊長には、聞こえてない。今から、話すことを一緒にやってくれる奴は、協力してくれ。・・・・)
「俺の援護機以外のビーチ大隊各機は、ビーチ2の指揮下に入れ。こっちから、本隊の連隊長以下隊長たちには、今回の旨を伝えておいた。」
「いいな?生き残れよ・・・作戦開始!」
中原は、出来るだけいつものように振舞った。
「・・・・・おい、お前ら何ボッーとしてんだよ!」
大隊長である中原の命令に従う者は、いなかった・・・
「隊長の機体が一番損傷が少ないんです。推進剤の残りから考えても隊長“一人”で直接本隊に戻った方がいいんです。それに、さっきからだましだまし機体を動かしてましたけど隊長以外の機体は完璧な状態で動くことが出来ないんですよ。」
「ビーチ2より各機に次ぐ、ビーチ1は、これより本隊が防衛戦を構築している地点まで交代する。ビーチ大隊各機は、隊長の後退援護と後方1300に広がる山麓付近に防衛線を引く。いいな!」
平賀は、
「「「「了解!!!」」」」
「何言ってやがんだよ!!!!平賀!俺だけ下がって何が出来んだよ!お前らの今の状態じゃ1時間も持たねえぞ!」
「わかってますよ・・・隊長。だからこそです。隊長が直接本隊に合流してくれればそこから少なからずこちらに援護を回すことができるかもしれません。HQとの無線連絡が出来ない今では、今後本隊との連絡が取れなくなってしまう可能性もゼロではないはずです。あらかじめ、この戦線が崩れても隊長が報告しておけば即座に対応できるはずです。
私は、この案が現在取りうることのできる最善の方法だと考えます。」
「くっ・・・だとしてもだ!俺以外の奴でもいいだろうが!」
「さっきも言いましたが、本隊まで戻ることのできる機体は、隊長の機体だけです。後退する際も戦闘がないわけではありません。今の俺たちの機体だと途中で推進剤が切れて主脚走行だけになってしまいます。それだけじゃ、無理ですよ隊長・・・隊長の言っていることは、わかりますが最善の方法では、ないです。隊長自身もわかってるんじゃないですか?」
その通りだ・・・俺自身も俺が行くのが最も本隊に合流出来る可能性が高い。
「隊長・・・俺は、もう家族も兄弟も大切な人たちも全て失いました・・・本当を言うと
今も逃げ出したいと思っています。」
平賀は、少し悲しそうな顔をしながらそう言い始める・・・
「すべてを失った俺は、何のために生きていくのか誰のために生きていくのかわからなくなりました。そして、自分を見失っている俺を隊長たちは、部隊に引き入れてくれました。
部隊のみんなは、孤児の俺を本当の親のように・・・兄弟のように・・・本当の“家族”のように接してくれました。そこで、俺は、気づいたんです。俺が生きていく理由は、
“家族のように大切な隊長たちや愛する人を守る”ことだって・・・だから、俺にも
守らせてくださいよ隊長。」
「でもなっ・・・!」
「隊長!!私たちは、隊長のことを守りたいんです!!隊長は、何度も私たちを助けてくれました。今度は、私たちが隊長を助ける番です。このまま、隊長が死んだら・・・私たちは、守りたいものも守れないじゃないですか!!!」
「橋本・・・・」
「隊長、俺たちは、後悔したくないんですよ・・・大切な人を失いたくないんですよ!!だから、お願いします!」
「くっ・・・・わかったよ。でもな、これだけは守ってくれ・・・“絶対に死ぬな”
いいな?」
「「「「了解!!!」」」」
そして、俺は、俺を含めた3機でその場を離れた。一応、念のために機体のコンディションが比較的に良い2機が援護についた。
(まただ・・・俺は、結局また守られちまった・・・)
そして、大きな爆発が起きた。
「!!!」
「おい・・・どういうことだよ?くそっ!!馬鹿野郎!!!」
「隊長!!だめです!いかないでください!!ここで、行ったら彼らの決めた覚悟を踏みにじることになりますよ!!」
「お前ら、しってたのかよ!!あいつらが“S-11で自爆”するなんてよ!!」
「ええ、でも大丈夫ですよ。彼らなら・・・信じてあげてください。彼らは、生きて帰ってくるって。」
「くっそぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
彼ら、ビーチ大隊の活躍で山梨県に引かれた防衛線は守られた。その後、本隊に合流した春雄たちは、状況の報告を行い援護のために数機の戦術機と共にすぐさま踵を返し仲間の元へと戻ったが、そこは、すでにS-11の爆発で地形が変化していた。そして、その周辺にはBETAと思われる黒く焼けた死体が無数に散らばり、そして・・・
先ほどまで一緒に戦っていた仲間の戦術機も見るも無残な姿で転がっていた。確認出来た機体数は、18機でありその他の機体は、S-11で消滅していた・・・
そして、その内の13機は、機体の形を保ちその中の衛士も大きく負傷していたが生き残っていた。恐らく山地独特の反りたった斜面と窪んだ地形を利用し爆発の影響を最小限にしたのだろう・・・
ビーチ大隊、出撃数36機 隊長 中原 春雄 副隊長 平賀 正人
戦死者:20人
負傷者:13名(全て重傷・重体である。)
生還者:3名
ビーチ大隊の戦死者の多くは、20歳にも満たない若者であった。
多くの部隊は、こう言った。
あの防衛線を大隊でしかも“たったの20人の戦死者”で切り抜けたのは、奇跡だと。
俺は、そういった奴を片っ端からぶん殴っていた。数じゃない、20人には、それぞれ
の人生があって、大切な人がいて、夢があった。
そして、2002年 某日 某日
俺は、今日本を守った仲間が眠る地を訪れている。今も戦闘の爪痕は深く刻まれ、地形も所々窪み窪んだ部分は、小さな池となっていた。
「すいません、遅れました!」
“平賀 正人”は、前につんのめりながらも体勢を立て直し春雄の前にかけてきた。
「ったく、こういうときぐらいは、ちったあ早く来いよな~。
春雄は、息を切らし膝に手をついている平賀の頭にげんこつを下ろした。
「痛ったあ~~!」
「それにしても、あの戦いからもう4年か・・・早いな。」
この4年間には、さまざま事件があった。明星作戦による反米感情の高まり、人類に希望を与えた甲21号作戦、突如のBETAによる横浜基地襲撃そして、桜花作戦の奇跡的な大成功。また、戦死者を半減させたOS“XM3”の開発。
この4年間で人類は、本当に勝てるのではないかという希望・・・いや、もう希望なんていう不確かなものではなく本当に勝てるという具体的な可能性が見えているように感じる。
しかし、
その4年間の間にも多くの尊い犠牲があったのは、言うまでもなく帝国では、
先の作戦によりかなりの人員と兵器を失っていた。
「それにしてもお前も出世したよな~“大尉”どの~。」
平賀は、その言葉に多少うろたえた。
「何言ってるんですか!もう、隊長だって“中佐”でしょうが!」
「おっと、そうだったな。さて、今日は、“家族”に近況報告だ。」
春雄は、大きな御影石で作られた碑の前にしゃがみこみ手をあわせた。
「最近、佐波の作るパンが一段とすごいことになってな・・・・」
春雄は、他愛のない話を続け平賀もその会話に参加した。その会話は、まるで本当の家族のようであった。時に笑い、時に喧嘩をし、時に泣き、時に楽しみ合う・・・
「・・・でな、今度俺たち甲20号作戦に出陣すんだぞ。すげぇだろ・・・。本当に人類が勝てるかもしんねぇ、今から部隊の連中なんかはしゃいでんだぜ?これも、お前らのおかげだよ。あの防衛戦の前に言ってくれたよな?橋本・・・私は、平和な世の中になったら小学生の先生になってこの世界を守った仲間の話とかしてやるんだって。代わりにといっちゃなんだが俺がその夢を引き継いでやるよ。つっても小学校の先生は、無理だからよ部隊の仲間にだけどな。まあ、仲間を大勢殺した俺なんかがって思うかもしれないけどな・・・」
ゴツン!
「っ痛ぇ~~、平賀!!てめえ、上官を殴ってんじゃねえ!」
「家族が死んでいったのは、隊長のせいじゃないっすよ。みんな、自分の意思で守りたいものを守ったんです。」
そういうと平賀は、苦笑いを浮かべながら、
「美優だって守りたいものは、守れたんですよ・・・最後にあいつ俺に、
“これで、大切な人と大好きな人が守れるよ。正人・・・今まで楽しかったよ。ありがとう私も本当は、正人のこと大好きだったんだよ。じゃあね、また来世で会えたら平和な世界で正人と暮らしたいな・・・”
こんな別れ方だって覚悟してたはずなのに・・・あいつ最後に笑ってたんです・・・でも、頬には、涙が流れてました。俺は、美優の死が受け入れられなくて今までがむしゃらに頑張ってあいつのこと忘れようとしたのに・・・
平賀のほほに一筋の涙が流れた。
ここに来たら、なんでですかね、いつも涙が止まんないんですよ。あはは・・・あいつとの思い出がよみがえるんですけど・・・どれもみんなあいつが浮かべている笑顔なんですよ・・・
まだ、頭から全然離れてないですよ・・・っぐ、美優・・・
平賀は、俯きながら泣いていた。春雄は、平賀の肩に手をおいた。
最終更新:2009年09月18日 11:23