「クリスさん、クリスさん」
「……ん」
クリスが目覚めた時に瞳に映ったのは自分の先輩である風鳴翼とよく似た少女の顔であった。
「翼……先輩……翼先輩!?」
「良かった。目覚めたみたいですね」
クリスの次のリアクションは食人鬼として指名手配されている翼が目の前にいることに対する驚きであった。
それだけにツバサは翼にあまりにもよく似ていた。
顔はもちろん、声やシリーズを重ねる度にしぼんでいくように見える乳(フォローすると周りの発育が良すぎるだけ)は紛れもなく翼のそれである。
違いは銀色の髪を持っていること、SAKIMORIを名乗り年齢不相応にキビキビした翼よりもいくらか幼く見える雰囲気である。
「あんたは食人鬼……いや、やっぱあれは主催の嘘だったんだな。そうだろ?」
「……」
クリスの期待が混じった言葉にツバサはなんとも言えないという表情になる。
翼が
テラカオスとして食人を行ったことは事実であることや、自分は翼と顔が似ているだけで彼女を素体にして産まれたテラカオスの更に分身・子供のようなもので翼本人ではないのだから。
「クリスちゃん……」
目覚めたクリスに
シマリスが声をかける。
だがその声はどことなく元気がない。
「シマリス、どうしたんだよ元気ねえじゃねえか……それにここはどこなんだ?
あそこにいる連中は誰なんだ?」
周囲を見るとここは物置の中ではないことに気づく。屋外のようだ。
しかし時刻は体内時計換算で夜ぐらいだろうが、夜の暗さというには違和感の感じる暗さがあった。
いったいどこなのか?
そして周囲には覚えのない顔を持つ参加者がたくさんいた。
いずれも悲しそうな雰囲気を醸し出している。
「ゼクスや社長たちはどこ行ったんだ?」
「それは……」
「待ておチビちゃん、そこからは俺から言う」
「ベルナドットのオッサン、これはいったい……」
ツバサ、シマリスの後から遅れるようにベルナドットがクリスの前に顔を出した。
そして機械的すぎず感情的すぎずにありのままを語った。
「まず、ここは千葉県の浦安だ」
「千葉県? あたしたちは神奈川県の横浜にいる拳王連合軍に会いに行ったんじゃなかったのか?」
「お嬢ちゃんが寝ている内に事情が変わったんだ。
そいつについては後から話すが、俺たちは拳王連合軍じゃなくて
イチローチーム改めイチリュウチームに身を寄せることになった」
「……ところで巨大物置はどこに行ったんだよ? ゼクスや社長たちは今どこにいんだ?」
「……物置は破壊され、ゼクスの旦那、Lの旦那、イナバ社長たちは狂信者に殺されたよ。クローントルーパーと避難民も一人残らず全滅だ。
お嬢ちゃんとおチビちゃんが探していた天子も、狂信者として俺たちを襲い、戦いの中で死んだ。
生き残ったのは俺たちだけだ」
「え……」
ベルナドットの言葉にクリスは凍りついた。
□
クリスが気を失っている間に状況は動いていた。
まずアナキン組と物置組を含むイチリュウチームが合流を果たした。
アナキン一行、物置組など自分たちが知らない内に見慣れない仲間が増えていることにみんなが驚きつつも
新たな仲間として受け入れられた。
そして自分たちの知らない内に命を落とした者たちに悲しみ悼むのであった。
暴走リオレウス制止と
聖帝軍の救助及び偵察。
二つ同時に進められた作戦は事実上の失敗に終わり、待機組も犠牲を強いられた。
だがそれを責める者は誰ひとりいない。
全員がボロボロであり、誰ひとりとして遊んでいたものはいないのだ。
物置のモブ避難民1人すらも助けられなかったことに関しては皆が自分に責任があるとさえ思っていた。
ただただ犠牲になった物置組含む仲間たちの冥福を祈り、未だに帰ってきていないソウルセイバーの身を案じた。
そして
第六回放送の内容はアナキン一行や物置組も含んだイチリュウチームに衝撃を与えた。
ある程度はカオスロワちゃんねるやドラゴンネットワークで先に知っているとは言え、だ。
ユーノとなのはのカップルは預かり知らぬところでレオリオまで死んでいたことを悲しんだ。
サラと逃げている途中で放送に集中している余裕がなかったナッパは内容を後から聞かされ、サイヤ人の王子であるベジータの死に衝撃を受けた……彼が知る範囲での最強のサイヤ人はベジータだったために。
さらにベジータを殺した存在が目の前にいるお世辞にも強くは見えないユーノとくれば驚きも倍増である。
ユーノはサーシェスのように本来は持ち得ない力を持っていたとしてもだ。
「すまない……瘴気にやられてあの時は自分を制御できなかったんだ」
「私や仲間のみんなを守るためだったの! どうか許してあげて!」
ベジータの上司部下の関係であったナッパに謝罪するユーノとなのは。
だが、事情を聞いたナッパはそんな二人を恨むことはしなかった。
「謝るのはよせやい。
話を聞く限り悪いのはベジータだ。
おまえたちは自分の身を守るために戦うしかなかっただけじゃねえか。
ハス太ってガキもベジータが襲いかからなければ死ぬことはなかった」
「だけど……彼も妻を失って暴走していただけかも」
「女房を失って悲しいなら女房のためを思って心を強く持ち、殺し合いに立ち向かうべきだったろうに。
それがクラウザーの歌に酔いしれて仲間らしき男を裏切り殺し合いに乗るなんてプライドや女房を捨てたも同然の行為だ。
サイヤ人の恥さらしめ、奴にもう王子を名乗る資格はねえ!」
「……」
「……すまねえな兄ちゃん、嬢ちゃん。
俺の同胞の暴走を止めてくれてよ……むしろ仲間が死んだ件を謝るべきは俺の方だ」
ナッパはサイヤ人の誇りを捨ててクラウザーの歌に逃げたベジータを痛烈に非難する。
ベジータの実力を高く買っていたのだが、どうやら見込み違いだったと落胆している。
殺し合いと野球を通して人の強さや絆の素晴らしさを知ったからこそ、ベジータの弱さをナッパは許せず、ユーノに関してはベジータを止めてくれた男として敬意すら持っていた。
「レオリオさんまで死んじゃうなんて……」
「僕らが離れた後に聖帝軍の暴走ロボとの戦いが都庁にあった。
たぶんそれに巻き込まれたんだろう」
レオリオの冥福を祈るなのはとユーノ。
余談だが、彼らはレオリオを殺したのがベジータで、ベジータを本当に殺した相手が小町と桑原であることにはまだ気づいていない。
「しかし、オシリスがまだ生きていたとは驚いたぜ」
放送で拳王連合軍の主力の大半が死んだのと同じくらい嬉しいニュースがあった。
6/が今しがた口にしたオシリスのまさかの生存である。
「ホルと同じ神様ホルからね、下半身がちぎれただけで神特有の生命力で生きながらえてたのかもしれないホル」
「あの時僕たちがオシリスが死んでいると決めつけずにいたら……」
「イチローの旦那、そうは言ってもあんな巨体ミレニアム・ファルコンのどこにも積めやしない。
無理に載せたら重量オーバーで墜落しちまうぞ。あん時は仕方なかったんだ……ゼクスの旦那たちと同じでな」
オシリスの生命力の強さを知らなかったとはいえ、普通の生物なら死んでいてもおかしくない状況で生きていたことにイチローたちは驚く。
だからこそ戦地に置き去りにしたことが気がかりであったがベルナドットの意見も最もであり、船に積めないオシリスは飛行能力を失った時点で置いていくしかなかったのだ。
他にも主催が安倍から再びベイダーに戻ったなど、ベイダーの口々から(ブラフでなければ)裏切り者の安倍は粛清されたらしい。
どうやら主催も一枚岩ではなさそうだ。
「しかし、僕が一番気になるのは……」
「…………」
ユーノを始めとした視線が、指名手配されているハズの食人鬼『風鳴翼』と
瓜二つである『ツバサ』に向く。
危険な食人鬼と恐れられた少女がイチローたちの窮地を救い、今目の前にいる。
疑いや奇異な視線を向けるな、という方が無理があった。
助けられたシマリスたち以外は。
「ツバサちゃんを信じて、この子は悪い子じゃないの!」
「いいの、シマリスくん……風鳴翼が食人行為をしていたのは事実なのだから」
「ん? まるで他人
みたいな言い方で自分はやってないような言い方じゃありませんこと?」
「私は厳密には指名手配された風鳴翼の成れの果て、残滓なんです。風鳴翼から産まれた別個体なんです」
「??? 話ガミエマセンネ……」
イチローの窮地を救った風鳴翼らしき人物……どうやら後で詳しい話を聞く必要がありそうだ。
念のため、アナキンとギムレーは別々の思惑の下、心を探るフォースと観察眼を用いてツバサの内面を探る。
(混沌の気質は持ってはいるが邪念は一切感じられない……混沌の体現である暴君テラカオスでありえるのか、こんなことが?)
(
光と闇の属性を持ちながらも均衡が取れている……そんな感じが彼女からはする)
(感じられるフォースの波動……余計な不純物がなくなったせいで、内包する力は若干下がったが安定感は抜群のイメージだ。
前が放射能垂れ流しの原発なら、こちらは安定供給が約束された発電所だな)
(イチローや物置組への信頼度は高め……SやAのような愛だの恋だのはないが、彼女の方から友情を感じているのは本当のようだ)
――つまり、彼女は今のところ信用できる!
奇しくも水面下で対立するアナキンとギムレーの答えは一致していた。
「みんな~! 休めそうな場所発見したで~!」
放送とツバサについて考察している途中で、一匹のモブドラゴンの背に乗ったはやてがやってきた。
彼女は他が考察に手を回している中でサラの配下であるアウラの民と共に周囲の偵察を行っていたのだ。
安全確保のための残敵の掃討や生存者の発見。
特にほぼ全員がダメージを負っているイチリュウチームは体を癒すための休憩所の確保と、ブリーフ博士による瘴気や風鳴翼の片手につまった「何か」の研究を進めるためには機材の揃った研究施設が一刻も早く必要であった。
偵察により浦安市内に狂信者の残党や危険人物がいないのは確認済みだが、同時にモブ参加者一人足りともも生存者がいないことがわかった。
ワイルドハント率いる狂信者部隊がイチリュウチームへの襲撃を完璧にするために作戦の障害となるモブをひとり残らず皆殺しにしたためだ。
街やモブが持っていた支給品も狂信者が全て回収しており、その回収した品はギムレーがワイルドハント部隊ごと焼いて灰にしてしまったので手に入らない。
その代わりアウラの民は休憩にも研究にも使える施設が一箇所だけ生き残っていることを知らせてくれた。
「アナキンさん、この先に大型の病院があるんや、そこなら休憩にも博士の研究にも使えるで!」
「なるほど、でかしたよはやて。
だが、次の狂信者の襲来にも備える必要があるな」
「うう~ん、当たり前やけど病院は砦になるように設計されてないし防備を固める必要があんねんね。
ギムレーさんもいるけど銃弾や砲弾が万が一に届かないとも考えられないし」
「手間がかかりそうだな、僕が改装して要塞化させようか」
病院は更地になってしまった浦安遊園地よりは屋根や壁がある分だけマシではあるが、砦にするには心もとない。
そこで機械に強いアナキンは防備を強化するために天魔王軍から奪った支給品を使って病院の防衛力を固めようとするが。
「いや、その必要はない」
「え?」
「ギムレー、何をするんだ?」
「みんな、ちょっと暗くなるが我慢してね」
ギムレーの器が指パッチンすると、ギムレー本体がその超巨大な体を使い丸くなるような形で浦安市を覆った。
そのようにすることでギムレー自身が狂信者やマーダーなどの外敵から仲間を守るシェルターとなり、攻撃も侵入者も入り込まないようにした。
中は光が射さないので真っ暗になるがそこは、浦安市で生き残っている施設の光でカバーすればなんとかなる。
「浦安市は完全に僕の体で覆った。
ネズミ一匹足りとも入ってくることはない。
アナキンも病院をわざわざ改装する手間が省けただろ」
「…………ああ、そうだね。仕事が減ってその分ゆっくりできるよ」
自分自身の肉体を使った完全かつ最速で防護壁を作り出したギムレーに対して仲間たちから賞賛の声が上がる。
アナキンも労力を節約できて嬉しかった。
というのは表向きは、ギムレーはアナキンが病院の要塞下を行った際、自分に有利な改装……例えば自分に不都合な参加者を抹殺できるように仕込まれる可能性があったので、回避策として自分の体を使ったのだった。
実際アナキンも目的の障害になる参加者の殺害こそ本意ではないが、自分に有理な改装を病院に施そうとしていたところをギムレーに止められた。
無理に改装を強行すれば怪しまれるので、ここでの軍配はギムレーに上がることになった。
「みんなボロボロだ。蛮に萃香、クリスちゃんもまだ伸びている。
善は急げだ。早いところ、病院に向かおう」
水面下で睨み合うギムレーとアナキンに気づかない一行は、イチローの言葉を皮切りに全員で病院へと向かうことになった。
□
病院にたどり着いた一行は病院に残された僅かな治療道具や、アナキンが天魔王軍から奪った回復薬全てを使い、体力を回復させた。
だが全員を全回復するほどの量や質はなかった。
「ホルゥ……ラミレスの足、サラの翼、ナッパの尻尾を治すのは無理ホルか?」
「残念だけど、そこまで質の良い薬がなかった」
「せめて切れた部位が残っていれば良かったんじゃが、全員なくしておるからの……傷口を塞ぐので精一杯じゃ」
「心配シナイデ、ホルスサン」
「気持ちだけで嬉しいですわ。野球をする分には問題はありませんし」
「俺は満月の光を浴びて大猿化できなくなっただけだ。
大猿化で賄ってた分の戦闘力は気合と根性でなんとかするぜ」
ラミレス、サラ、ナッパの失った部位の傷口は塞がってしまい、二度と取り戻せないかもしれないが、三人ともそれで落ち込むことはなくホルスを諭した。
そして部位の喪失などは治らないものの、怪我自体は確かに治り全員が戦闘ができるレベルには回復した。
特にナッパは何度も死にかけて回復すると戦闘力が格段に高くなる特性上、今までは感じられなかった体の軽さを感じていた。
さらにブリーフ博士とアナキンによってイチローたちの首輪も外され、戦闘力の制限はなくなった。
それにより……
「……イチロー!? ナッパ!」
「流石に首輪があるのとないのじゃ違うね。体がとても軽いよ」
「すげえぜ、元以上にパワーがみなぎってやがる」
特にイチローとナッパの纏う増大したオーラに、気を手繰れるタイプの者は思わずたじろぎそうになる。
その力はやろうと思えば地球を破壊できるレベル。
本気の投球なら地球に超巨大隕石をぶつける並の威力を発揮できる。
すなわち、超理不尽級実力者。
(この強さ、片方だけで邪竜として覚醒した僕と同格以上か! 敵でなくて良かった……)
レーザービームやジャイアントストームの最大火力は物理に75%・万能50%カットの耐性を持つギムレーすら直撃は致命傷になるレベル。
残った僅かな割合でもHPをゴッソリと持っていくダメージを叩きだすかもしれないからだ。
もし望めば残った日本の土地全てを破壊し、大災害が起きる前に世界を滅ぼすことも可能だろう。
二人が世界の滅亡を求める悪鬼ではなかったのは幸いだった。
なお高すぎる火力は味方を巻き添えにするリスクが発生するが、火力以外にも白兵戦能力・スピード・防御力も上昇している。
バットと素手だけでも生半可な実力者なら瞬殺できるだけの力はあるだろう。
「これでドリスコルのゼオライマーにも対抗できる……!」
イチローは瞳の中で冷血漢である狂信者のパイロット・ドリスコルに
リベンジの炎を燃やす。
今は亡きゼクスは首輪の外れていないイチローではドリスコルに絶対に勝てないと言った。
首輪の有無による制限による実力差、理不尽級相手に対策を練られたスキル、そしてドリスコル自身の卑劣さの前に一度は敗北した。
しかし、首輪はなくなってゼオライマーと真正面から戦える力量は確保した。
後はスキルと卑劣な心に負けない作戦と勇気、仲間との連携であった。
6/やベルナドットなどゼオライマーとの戦いの恐怖を味わった者たちも、今度は勝てるかもしれないという期待の目をイチローとナッパに向けていた。
「なんだ? ここはどこだ?」
「イチロ~、ドリスコルは、ゼオライマーはどこにいったんだ?」
イチローとナッパの強大な気を感じたためか長いこと気絶していた蛮と萃香も目覚めた。
さらに奥の方でクリスも目覚め、ツバサの存在やシマリス・ベルナドットの言葉に戸惑った後、嘔吐した。
誰しもが心配する中、ホルスが(巨乳美少女の異常事態と見て)いの一番に助けに入る。
「だ、大丈夫ホルか!?」
「たぶん、自分が人を喰っちまったことを思い出しちまったみてえだな」
「人を喰……ホルゥ!?」
ベルナドットがポロっと呟いた言葉にホルスは一瞬固まった。
「全部思い出したぜ……私は突然熱を出し、食欲が異常に湧いて、自分が抑えられなくなって糸目の避難民をこの手で殺して喰っちまったんだ……」
「クリスちゃん!」
「クリスさん、しっかり!」
思い出したくもない人肉の味を思い出し、気持ち悪さで吐き続けるクリス。
吐瀉物をよく見ると牛や豚では考えられない長い毛などが混じっていた。
「だが、アンタが……ツバサが私を助けてくれたんだ……気を失う最後の記憶にそこだけは残っているよ」
「クリスさん……」
「しかし、どういうことなんだ! 私は人の肉を食いたいなんて思ったことはない!
なのに……あの時だけ私は私じゃなかった! 誰か説明してくれよ!」
人を喰った罪悪感に苛まれるクリス。
皮肉にも食人鬼になりたての頃の翼と同じ後悔を感じていた。
違いは早々に救助されてズルズルと悪鬼の道に走ることはなかったということである。
「うむ、集団全体で混乱が生じておるようじゃの。
ここで一旦、状況の整理に入るのはいかがなものかの?」
ブリーフ博士は病院のナースステーションから持ち出したであろうホワイトボードを全員がいる玄関まで引っ張り、あえて穏やかな口調でそう言った。
□
イチロー・6/のグループは悪評を受けた聖帝軍の正体を確かめるために現場に向かった。
聖帝軍ロボットの歌のせいであまり近寄れなかったが、聖帝軍が都庁の者を手を組んでいるところを目撃。
それをオシリスが聖帝軍は悪逆集団の都庁と手を組んだとみなし、遠まきから戦場に残った手勢を始末しようとした。
その結果、ドリスコルの乗るグレートゼオライマーの奇襲を受けてオシリスがやられる。
イチローたちと物置組は必死に戦ったが勝つことはできず、大半の物置組を犠牲にして漸く逃げることができた。
浦安の手前で天子率いる狂信者部隊の追撃を受け、ロビンフッドとレックス他クローントルーパーが犠牲になるが、キングストーンの力に覚醒したツバサのおかげで辛勝した。
ナッパ・サラ・ソウルセイバーの三人は暴走したリオレウスを止めるために拳王連合軍がいる横浜港まで止めに行った。
しかしリオレウスは復讐を果たすために狂信者まで使い、足止めを行う。
この際にソウルセイバーは狂信者の囮になるために一時離脱、死亡放送は流れていないのでまだ生きていると思われるが……
結局、リオレウスに追いつくことはできず、リオレウスは横浜港に毒ガスを撒く暴挙に出る。
だがなぜか毒ガスは不発。リオレウスはボコボコにされていた。
ナッパとサラは救助に入るが、熱斗・ダイアー・タクアンと言った拳王連合軍の主力を挫くも敗走。
リオレウスも助け出すことができず、後に翔鶴に惨殺される結果になった。
ラミレス・ギムレーらは遊園地の待機組だ。
実働部隊であるイチローたちの代わりに情報収集を行っていたが、収穫は大きかった。
ギムレーが邪竜の力で沖縄に現れた驚異を感知、これに立ち向かうための戦力を作り出すのが救済の予言の目的であると推測した。
また、カオスロワちゃんねるに投稿されたレスや動画の不審点から都庁を危険のない集団だと看破する……これに関してはアナキン組との接触で大当たりとなった。
アナキン組との接触で人を怪物に返る瘴気の存在を知り、首輪解除の恩恵も同時に受ける。
そしてサーシェスを生みだしたとされる瘴気を消すためにウルトラマンゼロの力が期待されたが……狂信者の奇襲によりDAIGOとダイゴ諸共ゼロが死亡。
日本中の瘴気を消す手段はない……と思われた。
アナキン、なのはとユーノ、狸組は元々は個別のグループであったが渋谷109で合流。
合流前にユーノが都庁の地下でベジータの襲来により怪物化、なのは以外を敵としか認識できずに殺してしまう。
アナキンは主催の手先であるニャル子を捕まえて捕虜にした。
狸組は主催拠点である九州ロボに潜入し大災害の原因らしいTCや主催人員の情報を得て、都庁への接触により瘴気に纏わる情報と瘴気を解き明かすための食人鬼・風鳴翼の切断した腕という検体を得た。
都庁の協力もあって首輪解除も可能になった。
そして更なる情報を求めて国会議事堂にたどり着くが、そこで
天魔王軍と遭遇戦へ。
天魔王軍は自分たちの悪行を都庁に擦り付けた集団であり、おそらく警察組を壊滅に追いやった真犯人である。
戦いは有利に進んでいたと思われたが度重なる不運により一転攻勢されはやてとブリーフ以外が猛反撃を受けて死亡。
だがアナキンの助太刀のおかげで天魔王軍は全滅した。
狂信者のせいで捕虜だったニャル子を失うも渋谷109へ退避し、そこで運良くなのはとユーノと合流。
その後はアナキンの提案でイチリュウチームと合流することに。
なお、TCや主催陣営の情報は、掲示板で都庁の世界樹=ヘルヘイムの誤解をはやてが解こうとした際にクラウチングされたらしく爆破されて無くしてしまった。
物置組の残党もといゼクス組は狂信者に襲われている中で物置という名前の高性能シェルターの司令官であるイナバ社長と出会い救われたところから話は動き出した。
イナバ社長はゼクスたちに救済の予言を持ち出し、世界を救って欲しいと言った。
またイナバ社長はイチリュウチームを始め、まだ世間には知られていない別の予言を知っていた。
一方で物置組は別行動を取っていたダイジョーブ博士は拳王連合軍が風評被害に踊らされただけの対主催を物置組に教えると同時に、都庁の世界樹=ヘルヘイムであるということを誤解を拡散してしまった。
とりあえずダイジョーブ博士と合流し、拳王連合軍が本当に安全なら同盟を組むつもりだったが、そこでツバサを追っていた謎の集団に襲撃される。
なんとか逃げ延びたものの、今度はイチローたちと戦っていたドリスコルや天子に目をつけられてしまい、多くの仲間を失った。
最も謎の多い少女・ツバサ。
見た目はそっくりであるが風鳴翼とは別個体であるらしく、彼女を素体にして産まれたテラカオス・ディーヴァの残滓。
ありたいに言えば、風鳴翼の子供とも言える存在だ。
風鳴翼及びディーヴァ時代の記憶はほとんどないが、捕食で世界を救おうとしたこと、都庁での悪い思い出、沖縄で敵が現れ敗北したこと、夢で出会った男の話は覚えている。
都庁での悪い思い出は食人マーダーだったので迎撃されて痛い目を見たと思えば間違いないだろう。
問題なのは沖縄に現れた敵『シャドウ』のことであり、どうやら混沌の因子とは違う力を振りまいており、そのせいで沖縄は崩壊寸前となっていた。
おそらくTCであり、テラカオスである彼女しか対抗できなかった。
だが何らかの事情で敗北、シャドウはより力をつけて母体となったディーヴァを撃破した。
恐るべき、参加者共通の敵である。
ツバサとして転生する寸前に夢の中で最初のテラカオスを名乗る男にテラカオス因子を集めるように頼まれ、物置組と合流した。
そこでテラカオス因子が(瘴気の力も手伝って)暴走し食人鬼となっていたクリスを発見し、因子を吸収する特殊能力で元の人間へと戻した。
テラカオスとは人の中に眠る混沌の因子を集められ、TCにも耐えられる特別な存在らしい。
食人行為も因子を集めるための手段だったと思われる。
産まれたばかりで当初は状況に翻弄されるしかなかったが、ディーヴァ時代より引き継がれたキングストーンの助力により覚醒しイチローの危機を救った。
さらにキングストーンに教えられた一部記憶により、『ディーヴァ』として捕食による誤った救済の道を辿らずに『ツバサ』として別の救済の道を行くことを決めたのだという。
「――こんなところだろうかの」
ブリーフ博士が仲間たちの話を元に情報をまとめたが、場はかなりざわついた。
自分の知りえぬ情報、特に自分たちの考えを根底から覆す情報にはどよめきを隠せるわけがなかった。
「都庁がヘルヘイムじゃないって本当でぃすか!?」
「危ねえ……オシリスの奴が早とちりで女ロボットを狙撃したら危うく都庁との開戦が確定するところだったぜ……」
都庁は純粋な対主催――
イチローの部隊と物置組は都庁=悪の集団の話を真に受けていたために、都庁と直接接触したはやて・ブリーフの話には衝撃を受けていた。
物置組はしばらく交戦回避するつもりだったのでまだ良いが、6/が頭を抱えたようにオシリスが攻撃を加えたなら最後対主催同士の戦争が始まったであろう。
都庁へ向かったらしい聖帝軍に関しては情報不足なのでなんとも言えないが、おそらくこちらも風評被害のレッテルを貼られた対主催集団である。
逆に。
「拳王連合軍……やっぱりロクでもない奴らだったのか」
「私が疑っていた通りだよ!
イチローたちの仲間の竜を殺すだけじゃ飽き足らず、バラバラにするなんて人の所業じゃねえ!」
「拳王連合軍が安全という情報を物置組に、ヘルヘイムの情報を、ほぼ同時期に全国に発信したダイジョーブ博士も死んでいる。
たぶん拳王連合軍に有利、これから戦うであろう都庁に不利な情報を発信させて利用した挙句に殺されたんだろうね」
拳王連合軍は大バッシングを受けていた。
特に物置組出身のクリスは仲間が騙されたことによる怒りが大きい。
ユーノの推理では拳王連合軍に接触した時にダイジョーブ博士を騙すか洗脳するかをして利用し、自分たちはまっとうな対主催と言い張り、敵には孤立化を与えるためにヘルヘイムの情報を世界に拡散させたのだと思われる。
ダイジョーブ博士が消えたのは横浜港から離れた位置だが、時限式の爆弾を車に付けられていたと考えれば暗殺も想像しやすい。
そうでなくともリオレウスをバラバラにしたことにイチリュウチームは憤慨していた。約一名を除いて。
「俺はそうは思わねえ」
「ナッパ様……」
「みんな聞いてくれ、俺はリオレウスを助けるために奴らに攻撃を仕掛けた。
その際に俺は奴らは仲間を庇い合い、仲間の死に悲しむ様子を見たんだ。
俺は拳王連合軍が冷血な奴らとは思えねんだ」
ナッパは横浜港の戦いで見た。
深く傷ついたタクアン眉毛の少女をマッチョな男が悲しみながら駆け寄り、熱斗が白髪の少女をリオレウスの攻撃から庇う瞬間を。
ナッパにはそれを見たことで拳王連合軍が血も涙もないヒャッハー集団ではないと信じたくなった。
だが……仲間たちの反応は冷ややかであった。
「なるほど、血も涙もないってことはねえらしい」
「じゃあ!」
「だが、それだけでは拳王連合軍が悪逆非道ではない証拠になりゃしないさ」
「蛮?! だが奴らはお互いを庇いあって……」
「ナッパ、身内には優しいが部外者には排他的な汚い連中なんてわんさかいる。
仲間を守りあったのも互いの利用価値があるから今は失いたくないってだけともとれるしな」
蛮はナッパの拳王連合軍善人説を否定する。
それを認めたくないナッパは自分が知った真実を突きつける。
「撒かれた毒ガスも消えたんだ。放っておいたら横浜港が壊滅するレベルのな。
きっと拳王連合軍の奴らが何かしてくれたんだ」
「自分たちにとっても危機とあらば動く。その手の事態に対処できる支給品があったんだろう。
そもそも止めた方法やメンバーがわからないということは、関係ない誰かさんが止めてくれた可能性もある」
「それは……」
「リオレウスの件は仲間を殺されたことに対する怨恨・報復と考えられないことでもない……が、それを証明する手段がないのも事実。
そして、敵とはいえバラバラ死体にすれば関してどのような心境を周囲が抱くか容易に想像がつく。
気の弱い民衆が怯えるくらい想像つくだろ……一人ぐらい止めようとしなかったのか」
一息間をおいて、蛮なりに拳王連合軍がどういう存在かを分析する。
「拳王連合軍は本当に対主催かもしれないが、俺らや都庁とは違う。
周囲への被害や世間の目をまるで気にしちゃいない手前勝手なトラブルメイカー。
確かに狂信者のような悪と戦っているかもしれないが、同時に奴らは弱者を助けていないんだ。
今までの破壊は手違いによるもの?
緑間とのび太などは明らかに奴らの過失、誤解を解くより犠牲者に謝る素振りを見せるべきだろ。
ホワイトベース組とは和解した? 集団の2/3を殺してからの和睦は制圧って呼ぶんだ。
ダイジョーブ博士が何者かに殺される可能性を考慮して護衛ぐらいつけなかったのか?
悪意がないならないであまりにも浅慮がすぎる。
どんな思惑を抱いてようとも、こんな奴らと一緒に戦おうものならイチリュウチームの評判もガタ落ちになるな」
「評判如きで拳王連合軍を切り捨てようというのかよ?」
「評判が落ちればイチリュウチームも対主催に狙われるハメになるぞ!
四六時中狙われたら野球の試合や救済の予言どころじゃなくなる!」
「う……」
「これ以上、敵を増やしたくないなら例え善人であっても拳王連合軍と手を組むのは得策じゃない。
『世界のため』なら仕方ないと割り切るしかないんだろうよ……」
蛮の解答は拳王連合軍が仮に対主催であったとしても、同盟は組まずに見捨てる冷徹かつ合理的な判断であった。
実際、イチリュウチームが拳王連合軍と仲良しこよししようものなら、チームの世間的評価は間違いなくだだ下がりである。
向こうからは無実の訴えをしているが、全ての証拠は疑われる側の口から出たことであり、無実説も辻褄は合うには合うが拡大解釈をすればでまかせとも考えられる。
せめて和解したらしいホワイトベース組の誰かが生きていれば事実確認もできるが、残念ながらホワイトベースは1人を残して全滅してしまった。
もし世界を救う気があるのなら拳王連合軍は信用してはいけない……これにはナッパ以外の全員が頷いた。
「まあどのみち、向こうとの戦いは十中八九避けられないだろうがな。
最低でも二、三人ぐらいの面子をこちらの攻撃で殺している。
それでリオレウスを殺すに飽き足らず解体するぐらいに頭に血が上った連中だから報復は必ずしてくる。
先ほどギムレーが
宣戦布告を行ったし、仕掛けてくる可能性は濃厚だ」
「………くッ」
「ナッパ、てめえを責めるつもりじゃねえ。
リオレウスを助けるためにあの時は攻撃するしかなかったんだろ?
ただ、拳王連合軍との戦いは避けられないとだけ思ってくれ」
ナッパだけでも不本意でありながら拳王連合軍の少女を1人殺害し、熱斗がリオレウスに殺されるきっかけを作った。
ギムレーは邪竜化に際し堂々と宣戦布告を行った。接触すれば報復戦争を仕掛けてくるだろう。
しゅんとした様子でナッパはサラのいる席の隣に座り、悔しげな表情で呟いた。
「サラ……俺は取り返しのつかないことをしたのかもしれねえ」
「ナッパ様、気を確かに」
カオスロワちゃんねるの情報は確実性に欠けるのは確かだが、拳王連合軍だけ例外的に動画による状況証拠が揃いすぎている。
動画にはきらりんロボ暴走時のように工作をされた痕跡もない。
そうでなくとも外部への配慮に欠けているのは事実なのだ。
ナッパ以外で拳王連合軍の味方につく者は誰もいなかった。
――テラカオス、そして救済の予言。
そしてイチリュウチームに最も大きな進展を持ち出したのは物置組の持っていたもう一つの予言とツバサの存在であった。
「マサカ予言ハ他ニモアッタトハ……」
「『聖別によって抑止の神は生まれ、しかし滅びの化身との戦いに敗れ、抑止の神の力を奪い取った滅びの化身は三千世界を滅ぼし尽くすであろう』ホルか」
「救済の予言と照らし合わせると聖別は殺し合い、抑止の神は化身、滅びの化身は僕が感じた沖縄に現れた驚異のことだろう……だいぶ見えてきたな」
新たな予言により、頭の回る者は救済の予言の目的とテラカオスの必要性が見えてきた。
「……えっと、つまりどういうことだ?」
「さっぱりでぃす!」
混乱気味のクリス・シマリス他数名に対し、ユーノが答えを示す。
「良いかい? 今までの話をよく思い出して。
テラカオスは瘴気をばら蒔かれた殺し合いの中で産まれた。
沖縄に現れたシャドウという存在は大災害の発生原因であるTCを纏っており、これはテラカオスにしか耐えられなかった。
そして二度目の大災害が迫っている世界で必要なのは、TCを吸収できるテラカオスということになる。
まさに抑止の神というべきだろう……だけどイナバ社長の持っていた予言ではそのままのテラカオスだと滅びの化身に負けてしまうらしい……」
「事実、私の母体であるディーヴァはシャドウに負けました。
世界はまだ大丈夫ですが再戦しても勝てる気がしません。キングストーンの力があっても」
「そのための強化プラン及びコントロール手段が救済の予言なんじゃないのかな?」
奇しくも少し前に都庁同盟軍と聖帝軍が導き出した答えとほぼ同じ解答をイチリュウチームは手に入れた。
「よくわかったけどテラカオスに頼る以外の方法はないの?
殺し合いに頼らない解決策はなかったの?」
「残念だがなのはくん、そればかりは無さそうじゃ」
「え?」
テラカオスに頼る以外の解決策もあるのではないかと疑問に思ったなのはに対し、一つの日記をパラパラと捲っていたブリーフ博士が答えた。
「博士、それは?」
「難しすぎてとても読めないということでベルナドットくんから譲られた『TCホール観察日記』じゃ。
著者は科学都市ニルヴァーナ出身の阿笠博士と弟子のヒート博士。情報の信頼はできる。
彼らによるとTCとは全ての生き物に必要不可欠じゃが、過剰摂取すると大半の者が破裂。生きていても存在が狂ってしまう摩訶不思議なエネルギー。
むしろ世の摩訶不思議を可能にさせたエネルギーとも言っておくか。
非生物にも作用するようなので、これが原因で大災害が発生したのは確実じゃ。
TCホールとはTCを適量に撒くことで宇宙を安定させているホワイトホールにして源泉。
この源泉が何らかの理由で暴走したからこそ大災害が発生したと思われる」
「大災害はテラカオスしか抑えられないんですか?」
「源泉が暴走した場合、この宇宙にある全ての生き物が死滅する。
日記上ではテラカオスのことは一行も書いてなかったが、それは著者二人が知らないだけで古代人はテラカオスだけが耐えられると知っていたんじゃろう。
たぶん古代にも大災害があったんじゃろう。
現状ではテラカオスだけが大災害に対抗できる鍵と言える。
時間があれば他の選択肢もあるんじゃろうが、もう大災害は目前に迫っておる。
模索しようにも世紀末と化したこの世界で新技術の開発を行うならば百年はかかるじゃろうしね。大災害の方が待ってくれんじゃろ」
次の大災害がいつ発生するかまでの具体的な時間はわからないが、TCの塊である化身が地上に降り立つぐらいなのだからそんなに長く時間は残されていないだろう。
もはやテラカオスによるTCホール暴走の食い止めだけが地上に残された手段であった。
「しかし、わからないのは何で予言がこんなにばらけてんだ?
一個にしちまえば後世の俺たちも謎解きが楽だったのに、古代人も気が利かねえ。
そもそも世界規模の危機なら現代まで情報を残せよなあ」
「ナッパの旦那、古代人が大災害を食い止めた後も絶対に平和に過ごしていたとは限らねえ。
戦争で大事な物品が破損したりあっちこっちへ移動したりすることはよくあることだ。
遺物だってそれは同じだし、日本自体も世界大戦を経験済みの中で遺跡がまったく被害を受けなかったとは考えづらい。
情報が残らなかったのは……身内同士で争っている間に紛失したり、コストに見合わなくて研究を途中放棄したんだろ。よくある話だ」
「ああ、そうとも考えられるか」
「憶測の域は出てないけどな」
ベルナドットの憶測はある程度までは、当たっていた。
実際古代人同士が戦争を起こしたことが原因で予言以外を基本的に残すことができなくなったのだから。
「ひょっとして、ベイダーたち
主催陣はこれを知ってて殺し合いを使ってテラカオスを作り、世界を救おうとしていたホルか?」
「TCを知っているところからして考えられないでもないけど、あくまで自分たちだけ生き残るためって可能性も否定できない。
第一、予言にとって大事な野球選手を保護するルールも作ってない。
巫女や勇者みたいな他の者は揃えているとしても、野球選手を守ろうとしないのは釈然としない。
救済の予言を完遂できてないテラカオスは世界を救えずとも、ほんのひと握りの人なら助かるかもしれないしね」
「(ユーノくん、えらく感情的やなあ……)
うう~ん、主催幹部を1人でも捕まえないとなんとも言えへんなあ。
意外とテラカオスの特性や作り方だけ知っていて、救済の予言だけ知らなかったりして」
「まさか! 一番情報を持ってなきゃいけない主催に限ってそんなことあるハズない」
「…………そうだね」
主催には間接的に友や恋人の娘が殺された挙句自分が怪物にされたこともあり、ユーノの主催への目線は苛烈なものであった。
なお、はやてが適当に出した言葉は当たっており、すぐそばにいるアナキンが一瞬だけジト目になったが誰も気付かなかった。
「ここまできて漸く救済の予言やテラカオスの存在意義もわかってきたけど」
「儀式は野球しかないとして、巫女・器・歌・勇者はまだ何かわからないんだよな……」
「言うなれば数学の公式で答えだけ先にできあがって、式を埋める正しい因数がわからない状態じゃな」
この世界にテラカオスが必要なことや、大災害を乗り切るにはテラカオスに加えて救済の予言が必要なことはわかった。
一方で救済の予言の中身である儀式(野球)以外の答えはわかっていない。
四つは拡大解釈すればいくらでも当てはまってしまうだけに明確な答えが出ないのだ。
そして都庁と違い、彼らには答え合わせをしてくれる上位存在は現れなかった。
「都庁がどれだけ知ってるかわからないけど、合流した時にどこまで知ってるか聞くしかないか……」
救済の予言に関してはイチリュウチーム内部で解き明かすにはこれ以上は無理であった。
イチローが呟いたように、都庁が自分たち以上に予言を解き明かしていることを信じ直接会って聞くしかない。
「考察については一旦区切ろう……ツバサ、準備はそろそろできてるか?」
「ええ、整いました」
各対主催組織・救済の予言の考察が一頻り終わったところで、アナキンの言葉によって話は打ち切られ、メンバーの目線がツバサとユーノに向く。
ツバサの手にはいつの間にか太陽のような輝きを纏っていた。
「ユーノさんのテラカオス因子は根が深い。
クリスさんの時と違って受け入れ態勢に時間がかかったけど、これであなたを因子の暴走から解放できる」
「喜べユーノ、さっきはゼロが死んでできなくなってしまったが、彼女の力ならば君を救うことができるぞ」
「やったねユーノくん!」
「ああ、やっとこの体にかけられた呪いから解放されるのか……」
さっきは浄化者の死という不運によりできなくなってしまったが、ツバサに因子を吸収されることでテラカオス化が治る希望にユーノもなのはも喜んだ。
ちなみに主催のアナキンはツバサによってユーノのテラカオス化が治ることには前向きに考えていた。
これはユーノの中にあるテラカオス因子が消えるのではなくツバサに移ることによって、彼女がテラカオスとしての完成体に近づけるからだ。
ユーノも有望なテラカオス候補者だったが暴走の危険が強く、今後暴走されると予言に必要なイチリュウチームを試合ができないレベルまで壊滅させられる危険が有る。
幸いにもツバサは通常のテラカオスと違い理性を保っており、暴走の危険がない。
制御できない二よりは管理できる一。
暴発する危険があるユーノより危険の少ないツバサを完成に近づけた方が無難と見て、ユーノの因子やナノマシンを吸収させることにした。
「痛くはないハズですが、動かないでくださいね」
「わかった」
周囲が見守る中でツバサはユーノに向けて手をかざす。
するとユーノの中から黒い靄――因子とナノマシンが現れ、ツバサに吸収されていた。
「……思ったより侵食が激しい、今まで暴走しなかったのが不思議なくらい」
「え?! それって大丈夫なの!?」
「いや、治しきるのに時間がかかるだけです、あと3分はかかるかも」
ユーノのテラカオス化はかなり深刻であった。
水面下で育っていった因子はベジータ戦での覚醒に始まり、蓄積された戦闘ストレスにより仲間たちが気づかない内に育っていた。
それももうすぐ終わろうとしている。
(ツバサに因子を吸引される度に体が人間に戻っていく……僕は人間に戻れるんだ)
穏やかな表情をしているユーノの瞼の裏に移るは、なのはと将来を共に歩める未来。
フェイトとヴィヴィオたちこそいなくなってしまったが、その悲しみを幸せで埋めていける、そんな未来を思い浮かべていた。
―― セ カ イ ヲ カ オ ス 二 シ ロ
「これは!?」
「なんだと!?」
ツバサとアナキンの驚くような言葉、そして周囲のどよめきが聞こえてユーノが目を開くと。
驚くべき光景がそこにはあった。
最初はツバサの方がユーノのテラカオス因子(黒い靄)を吸っていた。
それがいつの間にやら逆流し、ユーノの方がツバサのテラカオス因子を吸っていた。
まるで吸引した分を取り戻すように……
最終更新:2019年03月12日 10:07