白銀の雷光

Facing each other world3

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thrones

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3:立体交錯

 「原因は、突き止められないままか…」
国際警察機構の自室で、カイは溜息と共に小さく呟いた。
生存者はおろか、目撃者もゼロ。
状況証拠だけで、物的証拠もナシでは、解決の糸口すら見つけられない。
カイが頭を悩ましている、その事件が起きたのはちょうど2日前。
真っ昼間の街で、瞬く間に全ての住人が惨殺されていたらしい。
そう、いたらしい―
おびただしい血の海が広がっていた。
それだけで、死体があった訳ではない。
だが、住人は1人として発見されなかった。
だから、惨殺されたのだろうと結論付けられた。それだけのことだ―
深い溜息を落とし、カイは疲労を訴える身体を椅子に預けた。
後にこの事件が、すべての始まりとなる―

 数時間後―
『すみません! 遅くなりました』
昼前になって、慌ただしく現れた人物に目を止めると、ベルナルドは驚愕に瞳を見開いた。
「カイ…様?」
ようやく絞り出した声が震えている。
硬直したままの執事を<カイ>はいぶかし気に覗き込む。
『どうしました?』
この優秀な執事の、普段見る事のない様子を不振に思い、何事かと訊ねた。
その時。
執務室の扉が開き、奥から姿を見せたのはカイ=キスクだった。
『なっ?!』
「これ…は?!」
二人のカイ=キスクの声が重なる。
「何者!」
カイが叫ぶ。
目の前にいるのは、何処から見ても自分だった。
しかし、自分がここにこうして在る以上、自分であるはずがない。
『貴様こそ何者だ?事と返答次第では、容赦しませんよ?!』
封雷剣を構え、臨戦体勢で<カイ>が詰め寄る。
「それはこちらの台詞だ!官職を装って、悪事でも働くつもりか?」
カイも剣を身構える。
「何処の誰かは知らないが、化けの皮剥がさせてもらう」
『その言葉、そっくり返させてもらおう。私に化けて、ただで済むと思うな!』
走り出したのは同時だった。
振り上げる剣と、降り下ろす剣が重なって火花を散らし、高められた法力が衝突して轟音が響き、余波が周囲の壁を粉々に砕いて行く。
「しまった…!」
『…!』
国際警察機構の内部で、このまま戦う事は得策ではないと判断した二人のカイは、二階から中庭へと場所を変えた。

『そこ!』
着地と同時、<カイ>がスタンエッジを放つ。
「くっ」
カイも体勢を崩しながら、スタンエッジで迎え撃つ。
相殺に成功しほっと気を抜いた一瞬、カイの眼前に<カイ>が割り込んだ。
<カイ>はスタンエッジを放った後、即座に追い討ちをかけていた。
咄嗟の判断で、カイは剣を<カイ>に向ける。
キンと高い金属音が聞こえ、突き出した剣は<カイ>の剣を止めた。
振払った勢いのまま、身体を半回転させて斬り上げる。
『!』
受け止めた<カイ>の手に鈍い痺れが走り、
組み合ったままピタリと動きが止まる。
「く!」
相反する力が均衡を保ったまま、二人は至近距離で睨み合う。
〔拉致があかない〕
<カイ>は力を込め剣を払った。
後退させたカイをスタンディッパーで追い掛け、返す刃で再び斬りつける。
カイは間一髪、剣を盾に攻撃を凌ぐ事に成功する。
『グリードセバー!』
思い掛けないところからの攻撃に、虚を突かれたカイは完全に対応が遅れた。
「しまっ…!」
頭上からの体重を乗せた一撃は、辛うじて身体を逸らしたカイの服を切り、肩口から腹部まで赤い血のラインを描いた。
『降参したらどうですか?次はこうはいきませんよ?』
「………」
不思議な感覚。
いや、これはむしろ目の前にいる者への不信感、だ。
戦い始めた時から感じていた。
最初は、偶然かと思ったのだ。
しかし…こうもこちらの考えが読まれるものだろうか?
先手、先手を取られる事に、カイは驚きを隠せなかった。
<カイ>もまた、漠然とした違和感を感じ取っていた。
それにしても、ここまで自分と同じニセモノがいようとは。
姿形はもちろん。
使う剣から技までそっくりなのは二人のカイにとって始めての経験だった。
―こうなれば
カイは一つの事を決意する。
後々の事を考えるとあまり気は進まないが、倒すにはこれしかないと判断した。
法力を最大まで高め、封雷剣に集中させる。
『まさか…!』
<カイ>も法力の集中に気付き、自らも高め始める。
「これで終わりだ! ライジング・フォース!!」
高められた法力が一気に放出され、雷が荒れ狂う。
〔間に合え!〕
カイから放たれたライジング・フォースが到達する直前。
<カイ>もまた同じ技でもって迎え撃った。
互いの奥義は、周囲を薙ぎ払い終息した。
終焉を迎え、静かになった後に残ったのは、瓦礫の山と戦闘のとばっちりで負傷した者数名。
カイは唖然と、もう1人の自分を見つめた。
ありえないと。
しかしいくら否定してみても、事実は変わらない。
変えようがない。

 ―なにかおかしい。いや、違う。
そんな事がありえるのか?
それは分らないが…
ここは、自分のいる世界(ばしょ)ではない気がする。
そんなことがありえるのかどうかは、この際置いておくとしてだ。
頭で理解するのではなく、感覚がそう訴える。
<カイ>は身を翻し、即座に警察機構を後にした。
どうしてこうなった?
混乱した頭で考えてみても、疑問が巡るばかりで、答えは一向に出そうにない。
何がなんだか分らないまま、<カイ>は巴里を後にする。
分らない事だらけのなかで、自分の事は自分が一番分っている。
〔巴里(ここ)には居られない〕
空を仰ぎ、考えても仕方ないと歩き出す。
これからどうすればいいのか―それすら分らないまま。


「カイ様!カイ様!」
ただ、呆然と立ち尽くしていたカイは、部下の声で我を取り戻した。
「大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫です。」
傷は深くない。
法力ですでに止血済みだ。
落ち着きを取り戻し、深く息を吐く。
「いかがいたしますか?」
「一応―…追手を向けて下さい。…形だけで、構いませんから」
「は!」
敬礼をし、去る部下を見送った後。
もう1人の自分が、逃げるように去った方に視線を向ける。
(あれは…間違いなく私だった。なにがどうなっているのか…ここ最近分らない事ばかりだ。まさか、トッペルゲンガーとかいうオチじゃないだろうな?)
カイは再び大きく息を吐き、瓦礫と化した本部を見て、再度の深い溜息を漏らした。



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