白銀の雷光
Benedictus -祝福を与えたまえ
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その日は朝から重く雲が垂れ込め、身を刺すように冷たかった。
カイはいつもと同じように、国際警察機構の一室で机に向かい、書類を片付けていく。
「ふぅ…」
一息ついて立ち上がり、大きく屈伸する。
同じ体勢での作業に、いい加減飽きてきていた。
ふと、窓の外の風景が目に入る。
(ああ、ついに降ってきたか…)
白いものがふわりと舞い降り始めていた。
まるで、妖精のようなそれは街を白く染めていく―
すべてを白く包み込む雪に、神聖なものを感じずにはいられない。
身を浄められるような気持ちで、カイは少しの間雪を見入っていた。
カイはいつもと同じように、国際警察機構の一室で机に向かい、書類を片付けていく。
「ふぅ…」
一息ついて立ち上がり、大きく屈伸する。
同じ体勢での作業に、いい加減飽きてきていた。
ふと、窓の外の風景が目に入る。
(ああ、ついに降ってきたか…)
白いものがふわりと舞い降り始めていた。
まるで、妖精のようなそれは街を白く染めていく―
すべてを白く包み込む雪に、神聖なものを感じずにはいられない。
身を浄められるような気持ちで、カイは少しの間雪を見入っていた。
ようやく仕事を再開して、積み上げられた書類の束と格闘する。
時折時計の針を気にしながらだったため、仕事に集中できていないのも確かで、カイにしては珍しく作業効率が悪かった。
それでもその日は何もなく平和に時間が過ぎて、すべてを片付け終わらぬままそろそろ仕事も終わり。
そんなタイミングで緊急呼出しがかかった。
(こんな時に…!!)
内心舌打ちして、呼出しに応じる。
「なんでしょう?」
平静を装っていたが、声のトーンが低くなった。
いら立ちを自覚して、カイはらしくないと苦笑する。
通信を入れてきた者は、慌てた様子で事の顛末を簡潔に伝えてきた。
「…分かりました。私もすぐそちらに向かいます。」
「お願いします!」
いくら用があっても、仕事を放りだせる性格でなく、カイは通信を切り
大きく溜息をつくと、重い足取りで警察機構を後にした。
時折時計の針を気にしながらだったため、仕事に集中できていないのも確かで、カイにしては珍しく作業効率が悪かった。
それでもその日は何もなく平和に時間が過ぎて、すべてを片付け終わらぬままそろそろ仕事も終わり。
そんなタイミングで緊急呼出しがかかった。
(こんな時に…!!)
内心舌打ちして、呼出しに応じる。
「なんでしょう?」
平静を装っていたが、声のトーンが低くなった。
いら立ちを自覚して、カイはらしくないと苦笑する。
通信を入れてきた者は、慌てた様子で事の顛末を簡潔に伝えてきた。
「…分かりました。私もすぐそちらに向かいます。」
「お願いします!」
いくら用があっても、仕事を放りだせる性格でなく、カイは通信を切り
大きく溜息をつくと、重い足取りで警察機構を後にした。
遅くなってしまった。
待ち合わせの時間は、とうに過ぎている。
最速で事件の処理を済ませ、カイは急いで警察機構の自室に戻ってきた。
手早く片付けを終え、今度こそ邪魔が入らない事を祈りながら帰途につく。
待ち合わせの時間は、とうに過ぎている。
最速で事件の処理を済ませ、カイは急いで警察機構の自室に戻ってきた。
手早く片付けを終え、今度こそ邪魔が入らない事を祈りながら帰途につく。
街外れの小さな教会。
この時間ともなると、訪れる者も居らず雪の中、ひっそりと佇んでいる。
ミサも終わり辺りに人気はなく、自分の吐く息が白く見て取れた。
急いで駆け付けたカイは、弾む息を整え静かに扉を開いた。
そこに待ち人の姿を見付け、ほっと安堵の息を漏らす。
「遅くなって、すみません。待っていてくれたのですね」
天使のような姿の少女が、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「もちろんです!カイさんから連絡を頂いた時、私びっくりしました」
「そう…ですか?」
「ええ。とても意外でした」
優しく微笑む彼女の笑顔に、カイは苦笑を浮かべる。
「私の方から呼び出しておいて、遅れてくるなど言語道断です。
本当に申し訳ありません」
すぐに表情を曇らせて、謝罪するカイに首を振り
「いえ。いいんです。きっとなにかあったんだなって、思いましたから。
何もないのに、約束を破るような人じゃない事は、よく知ってますから―」
「…ありがとうございます。そう言ってもらえると、少し気が晴れました」
ようやく笑顔を見せたカイに、少女も嬉しそうに微笑む。
時間がゆっくりと流れて。
この時間ともなると、訪れる者も居らず雪の中、ひっそりと佇んでいる。
ミサも終わり辺りに人気はなく、自分の吐く息が白く見て取れた。
急いで駆け付けたカイは、弾む息を整え静かに扉を開いた。
そこに待ち人の姿を見付け、ほっと安堵の息を漏らす。
「遅くなって、すみません。待っていてくれたのですね」
天使のような姿の少女が、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「もちろんです!カイさんから連絡を頂いた時、私びっくりしました」
「そう…ですか?」
「ええ。とても意外でした」
優しく微笑む彼女の笑顔に、カイは苦笑を浮かべる。
「私の方から呼び出しておいて、遅れてくるなど言語道断です。
本当に申し訳ありません」
すぐに表情を曇らせて、謝罪するカイに首を振り
「いえ。いいんです。きっとなにかあったんだなって、思いましたから。
何もないのに、約束を破るような人じゃない事は、よく知ってますから―」
「…ありがとうございます。そう言ってもらえると、少し気が晴れました」
ようやく笑顔を見せたカイに、少女も嬉しそうに微笑む。
時間がゆっくりと流れて。
「いけない。忘れるところでした」
思い出したように話を切り出して、
「早くしないと、ジョニーさんを怒らせてしまいそうですね」
カイは悪戯っぽく笑う。
コートのポケットを探り、小さな包みを取り出して、
「メリークリスマス。そして…ハッピーバースディ。」
「え?」
明らかに動揺して、ディズィーが困惑の表情を浮かべる。
「私にも祝福させてください」
カイの穏やかな微笑みに、促されるようにディズィーは包みを受け取った。
「ありがとうございます。大切にします…」
その存在を確かめるように、そっと握りしめ目を閉じる。
思い出したように話を切り出して、
「早くしないと、ジョニーさんを怒らせてしまいそうですね」
カイは悪戯っぽく笑う。
コートのポケットを探り、小さな包みを取り出して、
「メリークリスマス。そして…ハッピーバースディ。」
「え?」
明らかに動揺して、ディズィーが困惑の表情を浮かべる。
「私にも祝福させてください」
カイの穏やかな微笑みに、促されるようにディズィーは包みを受け取った。
「ありがとうございます。大切にします…」
その存在を確かめるように、そっと握りしめ目を閉じる。
「そろそろ戻りましょう」
別れの言葉に慌てて、ディズィーはカイを見上げた。
「きっと、貴方の帰りを待っていますよ」
「あ…あの!ちょっと待って下さい…私にも…プレゼントさせてください」
慌ててカイの手を取り、引き止める。
「私に…ですか?」
「はい。今日がどんな日なのか、メイさんに聞きました。ですから…その…
私も持ってきたんです。」
ディズィーは少し戸惑いながら、可愛くラッピングされた袋を差し出した。
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
カイは袋を受け取り、微笑む。
別れの言葉に慌てて、ディズィーはカイを見上げた。
「きっと、貴方の帰りを待っていますよ」
「あ…あの!ちょっと待って下さい…私にも…プレゼントさせてください」
慌ててカイの手を取り、引き止める。
「私に…ですか?」
「はい。今日がどんな日なのか、メイさんに聞きました。ですから…その…
私も持ってきたんです。」
ディズィーは少し戸惑いながら、可愛くラッピングされた袋を差し出した。
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
カイは袋を受け取り、微笑む。
「開けていいですか?」
ディズィーが赤くなって下を向き、小さく頷いたのを見て、カイは丁寧に封を切った。
中から出てきたのは、ロングマフラーだった。
ところどころ目が不揃いなのは、恐らく彼女が自分で編んだものだからなのだろう。
彼女があまり器用でないと、以前言っていた事を思い出した。
何度も失敗を繰り返し、一生懸命編んだに違いない。
カイはマフラーを袋に戻さず、そのまま首に巻いた。
「とても暖かいです。編んだ貴方の気持ちが、伝わってくるからでしょう」
良い毛糸を使っているのはカイにも分かった。
何より、心を込めて編んだもの。
彼女の気持ちが心を暖かくする。
カイはその事を思うだけで、自然と笑みが漏れた。
そしてふと思い出す。
握りしめてきたディズィーの手が、氷のように冷たかった事を。
無理もない。
この寒さの中、長時間待っていたのだから。
自分のせいでこんな目に合わせてしまった。
カイはディズィーの笑顔に、いたたまれなくなる。
「すみません」
着ていたコートの前を開き、冷えきったディズィーの身体を抱きしめた。
「きゃっ?!」
突然の事に驚き、小さな悲鳴が漏れる。
「カイさん?」
「………」
返事はない。
ただ、抱き締められて。
強ばった身体から少し緊張が解ける。
「ぁ…」
(暖かい…)
そっと目を閉じる。
服越しに伝わる体温が、心地よく安心できる。
ディズィーの身体にようやく体温が戻って、カイは手を解いた。
着ていたコートを脱ぎ、ディズィーにかける。
「着て行ってください。風邪でもひかせたら、私がジョニーさんに殺されそうですからね」
「でも!それではカイさんが…」
不安げな表情で、言い募ろうとするディズィーを、やんわりと制して
「私の事なら心配いりません。貴方にいただいた、このマフラーがありますから」
優しく微笑んで、カイはディズィーに手を差し伸べた。
「さぁ、もう戻らないと。随分遅くなってしまいましたし」
「はい」
弾けるような笑顔で、カイの手を取る。
二人はそのまま教会を出た。
ディズィーが赤くなって下を向き、小さく頷いたのを見て、カイは丁寧に封を切った。
中から出てきたのは、ロングマフラーだった。
ところどころ目が不揃いなのは、恐らく彼女が自分で編んだものだからなのだろう。
彼女があまり器用でないと、以前言っていた事を思い出した。
何度も失敗を繰り返し、一生懸命編んだに違いない。
カイはマフラーを袋に戻さず、そのまま首に巻いた。
「とても暖かいです。編んだ貴方の気持ちが、伝わってくるからでしょう」
良い毛糸を使っているのはカイにも分かった。
何より、心を込めて編んだもの。
彼女の気持ちが心を暖かくする。
カイはその事を思うだけで、自然と笑みが漏れた。
そしてふと思い出す。
握りしめてきたディズィーの手が、氷のように冷たかった事を。
無理もない。
この寒さの中、長時間待っていたのだから。
自分のせいでこんな目に合わせてしまった。
カイはディズィーの笑顔に、いたたまれなくなる。
「すみません」
着ていたコートの前を開き、冷えきったディズィーの身体を抱きしめた。
「きゃっ?!」
突然の事に驚き、小さな悲鳴が漏れる。
「カイさん?」
「………」
返事はない。
ただ、抱き締められて。
強ばった身体から少し緊張が解ける。
「ぁ…」
(暖かい…)
そっと目を閉じる。
服越しに伝わる体温が、心地よく安心できる。
ディズィーの身体にようやく体温が戻って、カイは手を解いた。
着ていたコートを脱ぎ、ディズィーにかける。
「着て行ってください。風邪でもひかせたら、私がジョニーさんに殺されそうですからね」
「でも!それではカイさんが…」
不安げな表情で、言い募ろうとするディズィーを、やんわりと制して
「私の事なら心配いりません。貴方にいただいた、このマフラーがありますから」
優しく微笑んで、カイはディズィーに手を差し伸べた。
「さぁ、もう戻らないと。随分遅くなってしまいましたし」
「はい」
弾けるような笑顔で、カイの手を取る。
二人はそのまま教会を出た。
「遅くなってすいません」
ジョニーに謝罪し、船内に消えるディズィーを見送る。
「ま、あんただから信用するが、こんな事はこれきりにしてくれ」
無言でカイが頷いたのを確認して、
「よ~し、出発だ」
合図と共に、飛空挺が舞い上がる。
カイはその影が見えなくなるまで、夜空を見つめていた。
ジョニーに謝罪し、船内に消えるディズィーを見送る。
「ま、あんただから信用するが、こんな事はこれきりにしてくれ」
無言でカイが頷いたのを確認して、
「よ~し、出発だ」
合図と共に、飛空挺が舞い上がる。
カイはその影が見えなくなるまで、夜空を見つめていた。