白銀の雷光
キセキ -強く願う-
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カイが聖騎士団に入団してから何度か季節が巡り、今年もまたもうすぐしたら雪が降り始める季節になっていた。
遠征を終え、ちょうど帰途に付いて3日目。
それは突然やってきた。
ギアの群れに襲われたのだ。
団員達は一様に任務を終え、気が緩んでいた事が災いし、多くの団員が命を落した。
部隊は混乱し、全く統率が取れない状態に陥ってしまっている。
とにもかくにも自分を護るのが精一杯だった。
それは突然やってきた。
ギアの群れに襲われたのだ。
団員達は一様に任務を終え、気が緩んでいた事が災いし、多くの団員が命を落した。
部隊は混乱し、全く統率が取れない状態に陥ってしまっている。
とにもかくにも自分を護るのが精一杯だった。
混乱の中、剣を振い、多くのギアを切り捨てながら戦っていたカイも、気が付けば辺りにギアはおろか、団員の姿も見えなくなっていた。
どうやら逸れてしまったらしい。
今となっては、どれくらいの団員が生き延びたのかさえ定かでなかった。
確認する術を持ち合わせていない―
この状態では、恐らくみんな殺されてしまったかも知れない。
そんな思いが頭を過った時、ふと、あの憎らしい男の顔が浮かんだ。
そして、その事でほっとする自分に少し驚く。
あの男はきっと生きているだろうから。
殺しても死なないのではないかとさえ思わせる。
はっと、我に帰りいつまた、ギアに襲われるかも知れないこの場所を離れるため、カイは重い体で歩き始めた。
どうやら逸れてしまったらしい。
今となっては、どれくらいの団員が生き延びたのかさえ定かでなかった。
確認する術を持ち合わせていない―
この状態では、恐らくみんな殺されてしまったかも知れない。
そんな思いが頭を過った時、ふと、あの憎らしい男の顔が浮かんだ。
そして、その事でほっとする自分に少し驚く。
あの男はきっと生きているだろうから。
殺しても死なないのではないかとさえ思わせる。
はっと、我に帰りいつまた、ギアに襲われるかも知れないこの場所を離れるため、カイは重い体で歩き始めた。
「ちっ」
短く舌打ちして、最後のギアを切り捨てたソルは、忌々しくその骸を見た。
カイと逸れてしまった。
クリフに『よろしく頼む』と言われた以上、ギアに襲われて殺されましたでは話にならない。
これから、何処にいるかも分からないカイを探さなければならない事に、抑えた怒りが込み上げる。
怒りに任せ、ギアの骸を踏みつぶすと、ソルは歩き始めた。
カイの考え方から、大体の行動予測はつく。
問題なのは体力で、その体力が不確定要素となって、特定が難しい。
どちらにしろ、範囲が広すぎる。
増々憂鬱になりながら、ソルは先を急いだ。
短く舌打ちして、最後のギアを切り捨てたソルは、忌々しくその骸を見た。
カイと逸れてしまった。
クリフに『よろしく頼む』と言われた以上、ギアに襲われて殺されましたでは話にならない。
これから、何処にいるかも分からないカイを探さなければならない事に、抑えた怒りが込み上げる。
怒りに任せ、ギアの骸を踏みつぶすと、ソルは歩き始めた。
カイの考え方から、大体の行動予測はつく。
問題なのは体力で、その体力が不確定要素となって、特定が難しい。
どちらにしろ、範囲が広すぎる。
増々憂鬱になりながら、ソルは先を急いだ。
日が落ちて、辺りはすっかり暗くなり、深淵の闇がどこまでも続いている。
聞こえてくるのは自分の荒い息使いだけで、無気味なくらいの静けさが、息を殺して闇に潜む人ならざるものの存在を覆い隠しているようで、カイは初めて味わう孤独に、恐怖感を拭い去ることはできなかった。
聞こえてくるのは自分の荒い息使いだけで、無気味なくらいの静けさが、息を殺して闇に潜む人ならざるものの存在を覆い隠しているようで、カイは初めて味わう孤独に、恐怖感を拭い去ることはできなかった。
「…あっ」
何かに足を取られ、転んでしまった。
立ち上がる体力も気力も残っていないカイは、その場に倒れこんだままぼんやりと空を見た。
月はおろか星さえ見えない。
心を、深い闇の中に引きずり込まれそうな錯角に陥る。
不安に押しつぶされそうになりながら、それでも自分の立場をカイは分かっていた。
だからこそ、決して弱音を吐く事はしない。
覆いかぶさる闇に手を伸ばす。
ここから自分を引き上げる、差し伸べられる手を求めるかのように。
(私は何をしているのだろう―…)
ふいを突かれたとは言え、多くの団員を失った。
伸ばした手が、無意識に胸のロザリオを握りしめる。
死んでいった者達の魂が救われるように。
祈りを捧げ、カイは静かに目を閉じた。
何かに足を取られ、転んでしまった。
立ち上がる体力も気力も残っていないカイは、その場に倒れこんだままぼんやりと空を見た。
月はおろか星さえ見えない。
心を、深い闇の中に引きずり込まれそうな錯角に陥る。
不安に押しつぶされそうになりながら、それでも自分の立場をカイは分かっていた。
だからこそ、決して弱音を吐く事はしない。
覆いかぶさる闇に手を伸ばす。
ここから自分を引き上げる、差し伸べられる手を求めるかのように。
(私は何をしているのだろう―…)
ふいを突かれたとは言え、多くの団員を失った。
伸ばした手が、無意識に胸のロザリオを握りしめる。
死んでいった者達の魂が救われるように。
祈りを捧げ、カイは静かに目を閉じた。
ガサリ。
ふいに闇が動いた。
カイは咄嗟に身を翻して剣を構える。
「どうやら無事だったようだな」
暗闇から聞こえてきた声は、忘れたくても忘れられないものだった。
「まだ動けるか?」
覗き込んできた瞳は、この男らしからぬ優しいもので。
正直驚いた。
こんな表情ができると思っても見なかったから。
いつも見ているソルの顔は、人をバカにしたような嫌味なものばかりだった。
その顔をまじまじと見つめていると、反応を返さないカイに呆れたのか、ソルが言葉を続けた。
「大丈夫か?頭でも打ったんじゃねぇのか?」
余計なその一言に、少しでも見直した自分がバカだったと、前言を撤回してソルの顔を睨み付ける。
「お前に、心配などしてもらわなくても結構だ。」
差し出された手を払い、一歩踏み出したとたんぐらりとバランスを崩す。
「無理すんな。立ってるのも辛いはずだ」
咄嗟に出した腕一本でカイの体を支える。
ソルもギアの群れを相手に、一戦交えていたが息一つ乱してはいない。
絶対的体力の差。
カイがどう足掻こうと、埋める事の出来ないものだった。
文句の一つも言ってやろうかと思ったが、気が抜けたせいでそんな余裕がなく睨み返すだけに留めた。
変に言い返して、余分な体力を消耗する必要もない。
次の瞬間体が宙に浮いて、カイは軽々とソルに担ぎ上げられていた。
「なにをする!」
「その体で歩けねぇだろうが」
そう切り返されれば反論も出来ない。
黙り込んだカイを後目に、ソルは何事もなかったかのように、カイを担ぎ上げたまま歩き出した。
村につくまでの間、カイは一言も喋らなかった。
疲労のため、眠っている訳でもないらしい事は気配で分かる。
ただ、時間だけが静かに過ぎていった。
ふいに闇が動いた。
カイは咄嗟に身を翻して剣を構える。
「どうやら無事だったようだな」
暗闇から聞こえてきた声は、忘れたくても忘れられないものだった。
「まだ動けるか?」
覗き込んできた瞳は、この男らしからぬ優しいもので。
正直驚いた。
こんな表情ができると思っても見なかったから。
いつも見ているソルの顔は、人をバカにしたような嫌味なものばかりだった。
その顔をまじまじと見つめていると、反応を返さないカイに呆れたのか、ソルが言葉を続けた。
「大丈夫か?頭でも打ったんじゃねぇのか?」
余計なその一言に、少しでも見直した自分がバカだったと、前言を撤回してソルの顔を睨み付ける。
「お前に、心配などしてもらわなくても結構だ。」
差し出された手を払い、一歩踏み出したとたんぐらりとバランスを崩す。
「無理すんな。立ってるのも辛いはずだ」
咄嗟に出した腕一本でカイの体を支える。
ソルもギアの群れを相手に、一戦交えていたが息一つ乱してはいない。
絶対的体力の差。
カイがどう足掻こうと、埋める事の出来ないものだった。
文句の一つも言ってやろうかと思ったが、気が抜けたせいでそんな余裕がなく睨み返すだけに留めた。
変に言い返して、余分な体力を消耗する必要もない。
次の瞬間体が宙に浮いて、カイは軽々とソルに担ぎ上げられていた。
「なにをする!」
「その体で歩けねぇだろうが」
そう切り返されれば反論も出来ない。
黙り込んだカイを後目に、ソルは何事もなかったかのように、カイを担ぎ上げたまま歩き出した。
村につくまでの間、カイは一言も喋らなかった。
疲労のため、眠っている訳でもないらしい事は気配で分かる。
ただ、時間だけが静かに過ぎていった。
遠くに村の灯りを見付け、ようやく一息つけるだろうとソルは胸を撫で下ろす。
いくらなんでも、動けないカイを担いでギアの群れに襲われたらと思うと内心冷汗ものだったのだ。
いくらなんでも、動けないカイを担いでギアの群れに襲われたらと思うと内心冷汗ものだったのだ。
「……もっと丁寧に扱え」
ようやく辿り着いた宿で、カイをベッドへ転がすと文句が返ってきた。
「なんだ、文句を言うだけの体力は戻ったみてぇだな?」
「…………」
自分の情けない姿を、よりによって一番見られたくない奴に見られてしまった。
悔しいけれど、何も言い返せずカイは黙り込む。
会話が途切れて、部屋の中が静かになった。
ようやく辿り着いた宿で、カイをベッドへ転がすと文句が返ってきた。
「なんだ、文句を言うだけの体力は戻ったみてぇだな?」
「…………」
自分の情けない姿を、よりによって一番見られたくない奴に見られてしまった。
悔しいけれど、何も言い返せずカイは黙り込む。
会話が途切れて、部屋の中が静かになった。
「みんな…どうなったのだろう……」
「さぁな。あの状況で生き残ってるやつがいるとは思えねぇが。」
ポツリと、小さく呟かれた独り言のような問いに、ソルは無関心に答えた。
ソルにとっては、他のやつがどうなろうと関係のない事だった。
「そうか…」
ようやく一言だけ声を絞り出して、突っ伏した。
泣いているのかと思った。
「おい」
覗き込んだカイの目に涙はなかった。
「なんだ?」
それでも、向けられた顔は今にも泣き出しそうだった。
本人はその事に気付いていないように思えた。
そう言えば―
クリフから聞いた事がある。
幼くして『聖騎士団』という、特殊な環境で育ったのだと。
(泣き方を知らないのか?)
次期団長と言われ、期待を一身に背負って、泣く事はあってはならなかった―
否、どんな時でも泣く事を許されず、泣けなかったのだ。
(酷いな―…)
正直そう思う。
けれど、同情する資格は自分にはない。
その原因は、自身にも関係している事だから。
深い溜息をついて、ソルは静かに部屋を出た。
「さぁな。あの状況で生き残ってるやつがいるとは思えねぇが。」
ポツリと、小さく呟かれた独り言のような問いに、ソルは無関心に答えた。
ソルにとっては、他のやつがどうなろうと関係のない事だった。
「そうか…」
ようやく一言だけ声を絞り出して、突っ伏した。
泣いているのかと思った。
「おい」
覗き込んだカイの目に涙はなかった。
「なんだ?」
それでも、向けられた顔は今にも泣き出しそうだった。
本人はその事に気付いていないように思えた。
そう言えば―
クリフから聞いた事がある。
幼くして『聖騎士団』という、特殊な環境で育ったのだと。
(泣き方を知らないのか?)
次期団長と言われ、期待を一身に背負って、泣く事はあってはならなかった―
否、どんな時でも泣く事を許されず、泣けなかったのだ。
(酷いな―…)
正直そう思う。
けれど、同情する資格は自分にはない。
その原因は、自身にも関係している事だから。
深い溜息をついて、ソルは静かに部屋を出た。
カチャリ。
音を立てドアノブが回り、扉が開く。
どこへいっていたのか、ソルが帰ってきた。
「…ほらよ」
声を掛けられて、上げた顔の前にカップがあった。
「好きだっただろ?」
「?」
何の事か理解できずに、呆然とソルの手にあるカップを見つめる。
「ほら」
いつまでも取ろうとしないカイの手に、カップを握らせて、ソルは隣に腰を下ろした。
カップから立ち上がるいい香りで、カイはようやく言われた事を理解した。
「……まさか、コーヒーカップに紅茶煎れてきたのか?」
「なんだっていいだろ?!飲めりゃ」
呆れて小さく溜息をつき、紅茶に口をつける。
この時にはまだ、ソルが自分を気遣ったのだと考える余裕もなくて。
ただ、一口飲んだ紅茶は、今まで飲んだ事のない不思議な味がした。
「ソル…これ…」
本当に紅茶か?と言おうとして、後の言葉を飲み込んだ。
どうせ聞いても答えはしないだろう。
紅茶を飲み終えて、カップを戻す。
「何を考えていた?」
唐突にソルにそんな事を聞かれ、固まってしまう。
他人に感心など持たないソルから、まさかこんな事を聞かれるとは思っても見なかった。
「…ああ、部隊にいた親しい者を…思い出していた」
そこで言葉を区切り、遠くを見つめて
「もう―…会えないんだな…」
感情のこもらない声が、他人事のように現実を呟く。
音を立てドアノブが回り、扉が開く。
どこへいっていたのか、ソルが帰ってきた。
「…ほらよ」
声を掛けられて、上げた顔の前にカップがあった。
「好きだっただろ?」
「?」
何の事か理解できずに、呆然とソルの手にあるカップを見つめる。
「ほら」
いつまでも取ろうとしないカイの手に、カップを握らせて、ソルは隣に腰を下ろした。
カップから立ち上がるいい香りで、カイはようやく言われた事を理解した。
「……まさか、コーヒーカップに紅茶煎れてきたのか?」
「なんだっていいだろ?!飲めりゃ」
呆れて小さく溜息をつき、紅茶に口をつける。
この時にはまだ、ソルが自分を気遣ったのだと考える余裕もなくて。
ただ、一口飲んだ紅茶は、今まで飲んだ事のない不思議な味がした。
「ソル…これ…」
本当に紅茶か?と言おうとして、後の言葉を飲み込んだ。
どうせ聞いても答えはしないだろう。
紅茶を飲み終えて、カップを戻す。
「何を考えていた?」
唐突にソルにそんな事を聞かれ、固まってしまう。
他人に感心など持たないソルから、まさかこんな事を聞かれるとは思っても見なかった。
「…ああ、部隊にいた親しい者を…思い出していた」
そこで言葉を区切り、遠くを見つめて
「もう―…会えないんだな…」
感情のこもらない声が、他人事のように現実を呟く。
一粒の雫がカイの頬を伝った。
「ぁ…」
カイは自分が泣いている事を気付かなかった。
後から後から溢れ落ちる涙を止める事ができず、初めての経験に戸惑う。
「何をしたんだ?」
震える声。
止まらない涙に狼狽えて、カイはぼやける視界でソルを見た。
「紅茶を、呼び水に使った」
「呼び水?」
「泣きそうな顔してたぜ」
「…!そんな事!!」
「ないってのか?なら自分で気付いてないだけだ」
ソルに指摘されて、カイは押し黙った。
(そうなのだろうか?)
自分にも分からない。確かに悲しいと思った。けど
「声殺して泣いてんじゃねぇ」
声も出さずに、涙を拭うカイを見て頭を抱える。
どうやら、事ここに至ってもお膳立てが必要らしい。
(手のかかる坊やだぜ…)
「坊やは坊やらしく泣きわめいたらどうだ?」
「そんな事…!!」
反論しようとしたとたん、いきなり抱き寄せられ、ソルの胸に顔を埋める格好になる。
「泣ける時に泣いておけ」
ソルからこんな台詞を聞くとは、夢にも思っていなかった。
静かな低い声が、心の中に滑り込む。
今まで、ずっと長い間止められていたものが、堰を切ったように溢れ出す。
「…うっ……くっ」
小さな嗚咽がもれて、ソルの胸にすがりつくように腕を回す。
「強くなければ…!強く…なる、からっ…!」
自分に言い聞かせるように、痛みを伴い吐き出される悲鳴を、ソルは無言で聞いていた。
「お前が…悪いんだからな…っ!今…だけ、今だけ…だから!」
震えるカイの体を抱きしめ、ああ。と短く答える。
「くっ…ふ うぁ… ぁぁぁああ!!」
嗚咽だったものが絶叫へと変わる。
涙が枯れるまで、カイはソルの胸で泣き続けた。
「ぁ…」
カイは自分が泣いている事を気付かなかった。
後から後から溢れ落ちる涙を止める事ができず、初めての経験に戸惑う。
「何をしたんだ?」
震える声。
止まらない涙に狼狽えて、カイはぼやける視界でソルを見た。
「紅茶を、呼び水に使った」
「呼び水?」
「泣きそうな顔してたぜ」
「…!そんな事!!」
「ないってのか?なら自分で気付いてないだけだ」
ソルに指摘されて、カイは押し黙った。
(そうなのだろうか?)
自分にも分からない。確かに悲しいと思った。けど
「声殺して泣いてんじゃねぇ」
声も出さずに、涙を拭うカイを見て頭を抱える。
どうやら、事ここに至ってもお膳立てが必要らしい。
(手のかかる坊やだぜ…)
「坊やは坊やらしく泣きわめいたらどうだ?」
「そんな事…!!」
反論しようとしたとたん、いきなり抱き寄せられ、ソルの胸に顔を埋める格好になる。
「泣ける時に泣いておけ」
ソルからこんな台詞を聞くとは、夢にも思っていなかった。
静かな低い声が、心の中に滑り込む。
今まで、ずっと長い間止められていたものが、堰を切ったように溢れ出す。
「…うっ……くっ」
小さな嗚咽がもれて、ソルの胸にすがりつくように腕を回す。
「強くなければ…!強く…なる、からっ…!」
自分に言い聞かせるように、痛みを伴い吐き出される悲鳴を、ソルは無言で聞いていた。
「お前が…悪いんだからな…っ!今…だけ、今だけ…だから!」
震えるカイの体を抱きしめ、ああ。と短く答える。
「くっ…ふ うぁ… ぁぁぁああ!!」
嗚咽だったものが絶叫へと変わる。
涙が枯れるまで、カイはソルの胸で泣き続けた。
「ケホッ‥ゴホッ…ケフ‥」
涙が出なくなって、呼吸が追い付かず激しく咽せる。
「………」
背中を撫でる手に、ピクリと体を震わせて、カイはようやく落ち着きを取り戻す。
「……すまない。醜態を見せた」
顔を見られたくなくて、ソルにすがりついたままバツが悪そうに呟く。
「俺は何も見てねぇよ」
相変わらずソルの素っ気無い言葉。
普段なら気を悪くするこの物言いも、今はとてもありがたかった。
「とんだ誕生日になったな」
(え?今なんて?!)
弾かれるように顔を上げてソルを見る。
今日は驚く事ばかりだ。なにか、天変地異の前触れではないかとさえ思う。
「Happy Birthday…」
耳元で囁かれるメッセージにゆっくりと目を閉じて。
涙が出なくなって、呼吸が追い付かず激しく咽せる。
「………」
背中を撫でる手に、ピクリと体を震わせて、カイはようやく落ち着きを取り戻す。
「……すまない。醜態を見せた」
顔を見られたくなくて、ソルにすがりついたままバツが悪そうに呟く。
「俺は何も見てねぇよ」
相変わらずソルの素っ気無い言葉。
普段なら気を悪くするこの物言いも、今はとてもありがたかった。
「とんだ誕生日になったな」
(え?今なんて?!)
弾かれるように顔を上げてソルを見る。
今日は驚く事ばかりだ。なにか、天変地異の前触れではないかとさえ思う。
「Happy Birthday…」
耳元で囁かれるメッセージにゆっくりと目を閉じて。
「見てみろよ―」
言われて顔を上げて、ソルの視線を追って、窓の外に目を向ける。
漆黒の空を、無数の星が流れては消えて。
その様は壮観だった。
「すごい…」
カイはその光景を、食い入るように見つめた。
「なにか願いごとしてみろよ」
「え?」
「これだけ流れてるんだ、ひとつくらい叶うかも知れないぜ?」
「そうだな…」
天体を彩る流星群を見上げて、カイはひとつの願いを託した。
その願いは打ち明かされず、カイの胸の中だけにそっと仕舞い込まれた。
言われて顔を上げて、ソルの視線を追って、窓の外に目を向ける。
漆黒の空を、無数の星が流れては消えて。
その様は壮観だった。
「すごい…」
カイはその光景を、食い入るように見つめた。
「なにか願いごとしてみろよ」
「え?」
「これだけ流れてるんだ、ひとつくらい叶うかも知れないぜ?」
「そうだな…」
天体を彩る流星群を見上げて、カイはひとつの願いを託した。
その願いは打ち明かされず、カイの胸の中だけにそっと仕舞い込まれた。
5日後―
カイとソルは奇跡的に聖騎士団本部へ帰還を果たす。
カイとソルは奇跡的に聖騎士団本部へ帰還を果たす。