「完成だ。季節柄、雪かきの必要もあったから、生徒たちと一緒に楽しませてもらったよ」
慧音が作ったのは、等身大の橙の雪像だ。
ちょっと顔の造詣がいびつな気もするが、尻尾や耳、服装やアクセサリーなど、細かいところまで、忠実に作り上げている。
周囲に一緒に作られた、子供たちの手による雪だるまや雪兎がとても賑やかそうで微笑ましい。
ちょっと顔の造詣がいびつな気もするが、尻尾や耳、服装やアクセサリーなど、細かいところまで、忠実に作り上げている。
周囲に一緒に作られた、子供たちの手による雪だるまや雪兎がとても賑やかそうで微笑ましい。
「私も完成よ。未来の最先端素材を使ったギミックドール!」
夢美が作ったのは、1/8サイズのギミックドール。
ギミックドールなのに関節部は人の関節と同じように滑らか素材となっている。
しかも驚き、何とこの人形、人肌の温もりを再現しているのだ。……本当に必要かそれは?
衣装がやや薄っぺらい気もするが、それ以外は、商品としても売れそうなほどの逸品だろう。
ギミックドールなのに関節部は人の関節と同じように滑らか素材となっている。
しかも驚き、何とこの人形、人肌の温もりを再現しているのだ。……本当に必要かそれは?
衣装がやや薄っぺらい気もするが、それ以外は、商品としても売れそうなほどの逸品だろう。
「――両者、作り直し!」
だが、ジャッジメントシーズン8号の判定は……双方共に黒!
九尾の仮面審判がそれぞれの橙人形を結界でコーティングし、使役した式神(人型の前鬼後鬼)に撤収させてしまう……
九尾の仮面審判がそれぞれの橙人形を結界でコーティングし、使役した式神(人型の前鬼後鬼)に撤収させてしまう……
「貴様ら、橙の可愛さをなんだと思っている!? その程度の再現度で、橙を作ったとぬかすつもりか!? 笑止!」
「だ、だったらどうしてお持ち帰りした!?」
「失敗作だろうと橙は橙よ!」
「矛盾しまくってるわよこの仮面審判(狐)……」
「ええいうるさいうるさい、とにかく私を満足させるだけの橙人形を作りなさい! できるまではおうちに帰しませんからねー!」
「だ、だったらどうしてお持ち帰りした!?」
「失敗作だろうと橙は橙よ!」
「矛盾しまくってるわよこの仮面審判(狐)……」
「ええいうるさいうるさい、とにかく私を満足させるだけの橙人形を作りなさい! できるまではおうちに帰しませんからねー!」
なんか駄々っ子のようになってしまった九尾審判はさておくとして、言ってることは大問題だ。
つまりそれは、この恐ろしく高いミッションが成功するまで、何度も何度も橙人形を作り続けねばならないということ。
輝夜の難題にも匹敵するこの状況――だが、苦境であるからこそ見える、一抹の光もまた存在する。
つまりそれは、この恐ろしく高いミッションが成功するまで、何度も何度も橙人形を作り続けねばならないということ。
輝夜の難題にも匹敵するこの状況――だが、苦境であるからこそ見える、一抹の光もまた存在する。
「協力しよう」「ええ、そうしましょう」
もう勝負などどうでもいい。とにかく審判を満足させてしまえば勝ちだ。
――かくして、二人の飽くなき挑戦が幕を開けた。
慧音と夢美、まずは互いに情報交換。
夢美の未来の知識は、慧音にはわからないことだらけだ。だが「夢美に何ができるか」を把握するのには大いに役立った。
一方、夢美もまたインスピレーションを貰った。子供たちと共に雪像作りに励んだ慧音から、発明とはまた別種の、創作の喜びを教わったのだ。
そして二人は動き出す。
慧音は歴史を集めた。人形創作の歴史、そして橙の歴史だ。
古今東西の人形作りとその情熱、そして妖獣としての、また式神としての橙の生い立ちと、それにまつわる悲喜交々。
それらを入念に調べ上げ、己の脳内に、「理想の橙人形」を作り出す。
一方、夢美はちゆりから、自分の蔵書と論文を送ってもらう。
もう一度、自分にできることを一から洗いなおす。人の形を作り出すに当たって、自分の頭脳と能力は、どう使うべきか。
る~ことやま○ちのようなAI搭載のアンドロイドの構造から、さらに発想をひねり出し、新たな可能性を見出す。
――かくして、二人の飽くなき挑戦が幕を開けた。
慧音と夢美、まずは互いに情報交換。
夢美の未来の知識は、慧音にはわからないことだらけだ。だが「夢美に何ができるか」を把握するのには大いに役立った。
一方、夢美もまたインスピレーションを貰った。子供たちと共に雪像作りに励んだ慧音から、発明とはまた別種の、創作の喜びを教わったのだ。
そして二人は動き出す。
慧音は歴史を集めた。人形創作の歴史、そして橙の歴史だ。
古今東西の人形作りとその情熱、そして妖獣としての、また式神としての橙の生い立ちと、それにまつわる悲喜交々。
それらを入念に調べ上げ、己の脳内に、「理想の橙人形」を作り出す。
一方、夢美はちゆりから、自分の蔵書と論文を送ってもらう。
もう一度、自分にできることを一から洗いなおす。人の形を作り出すに当たって、自分の頭脳と能力は、どう使うべきか。
る~ことやま○ちのようなAI搭載のアンドロイドの構造から、さらに発想をひねり出し、新たな可能性を見出す。
――そして、また二人で揃って、互いのアイディアを交換し、練り直す。
ただの人形ではない。猫又の人形、弾幕少女の人形、式神の人形、橙の人形。
二人は己の全てを賭けて、ついに制作に当たる。
こうなると、後は早かった。二人は時代や種族を越え、互いを信頼しあい、互いの力を利用しあい、引き出しあった。
そして、ついに完成する――
ただの人形ではない。猫又の人形、弾幕少女の人形、式神の人形、橙の人形。
二人は己の全てを賭けて、ついに制作に当たる。
こうなると、後は早かった。二人は時代や種族を越え、互いを信頼しあい、互いの力を利用しあい、引き出しあった。
そして、ついに完成する――
「「できた」」
「そうか、よし見せてもらおう」
「そうか、よし見せてもらおう」
そしてJS8号は、奇跡を見る。
「こんにちは、ジャッジメントシーズンさん。今日もお仕事ですか?」
「こ……これは!?」
「? どうしたんですか、ジャッジメントシーズンさん……あれ、尻尾がある! 今日も藍様に尻尾借りてるんですか?」
「こ……これは!?」
「? どうしたんですか、ジャッジメントシーズンさん……あれ、尻尾がある! 今日も藍様に尻尾借りてるんですか?」
愕然とする。
そこにいる橙人形は、まぎれも無い橙――
そこにいる橙人形は、まぎれも無い橙――
「く……区別がつかない……!?」
JS8号の認識が崩壊する。
もしここに橙が現れたら、JS8号は、どちらが橙の本物かを、見破ることができない。
それは、彼女にとってあるまじきことだった。自分に橙のことがわからないなどと、そんな……
いや、待て。
もしここに橙が現れたら、JS8号は、どちらが橙の本物かを、見破ることができない。
それは、彼女にとってあるまじきことだった。自分に橙のことがわからないなどと、そんな……
いや、待て。
「――そうだ、時間をかければ、違いもわかるかも知れない」
ゆっくりじっくりねっとりしっぽり橙人形を鑑賞するのだ。そうすれば、細かい違いが見えてくるだろう。
それにまあ――本物ではない、と割り切ってしまえば、本物にはできないことだってできるわけだし――
そう思い立ったJS8号は、橙人形に、そっと手を差し伸べた。
それにまあ――本物ではない、と割り切ってしまえば、本物にはできないことだってできるわけだし――
そう思い立ったJS8号は、橙人形に、そっと手を差し伸べた。
「――橙よ。あなたのご主人が呼んでいるんだ、連れて行くから、私についてきてくれるかな?」
「え、藍様が? はい、わかりました。ファイトと関係あるのかな?」
「それは関係無いと言っていたよ。さあ行こうか――」
「え、藍様が? はい、わかりました。ファイトと関係あるのかな?」
「それは関係無いと言っていたよ。さあ行こうか――」
そうして、橙人形とJS8号は飛び立っていった。そこにいる慧音と夢美をガン無視したままで。
「……もう帰っていいよな?」
「そりゃそうでしょ。結局あの狐、ファイトとかどうでもよかったのね……」
「……飲もう」
「付き合うわ」
「そりゃそうでしょ。結局あの狐、ファイトとかどうでもよかったのね……」
「……飲もう」
「付き合うわ」
ぐったり疲れた二人だったが、自分の全力を出し切ったことと、お互いを理解し合えたことによる、充実感もあった。
その夜のお酒は、とっても美味しかった。
また、後日、橙人形と橙が喧嘩になってしまい、どっちがどっちかわからなくなった藍が熱暴走を起こし、
紫がその式神の修復と藍の看病に大変な苦労をするハメになったが、それはまた別の話である。
その夜のお酒は、とっても美味しかった。
また、後日、橙人形と橙が喧嘩になってしまい、どっちがどっちかわからなくなった藍が熱暴走を起こし、
紫がその式神の修復と藍の看病に大変な苦労をするハメになったが、それはまた別の話である。