美人女教師上白沢慧音vs夢美
お題は精巧な橙人形を作る。
お題は精巧な橙人形を作る。
なんとなく危機的事態が回避されたような気がして意味もなく安堵していた慧音だが、
今回のお題もなかなか難しい。
「素直に人形師に協力してもらうか。知恵と素材を借りるぐらいなら許容範囲だろう」
幸いアリスは素直に、というか積極的に協力してくれた。
今回のお題もなかなか難しい。
「素直に人形師に協力してもらうか。知恵と素材を借りるぐらいなら許容範囲だろう」
幸いアリスは素直に、というか積極的に協力してくれた。
「わざわざ来てくれて悪いな」
「別に構わないわ。人に教えたことはないから、上手くできるかどうかはわからないけど」
「私もできるだけ努力する。それで、最初は何をしたらいいんだ?」
アリスは持参した巨大風呂敷から石のようなものを取り出した。
「まずこの骨様石を人の骨格に合わせて削り出すの。サンプルも持ってきたからこれを真似してくれればいいわ」
そう言って風呂敷から骨格標本を取り出すアリス。慧音は予想外の展開に顔を引きつらせる。
「その、なんで骨が必要なんだ? 布に綿を詰めたりして作るものなんじゃ……?」
「こっちのほうが精巧に出来るわよ? 細部を省略してあるから本物の骨格に比べれば楽だしね」
さらに引く慧音だったが、どうも骨格が妙なことに気がつく。
「それに、ちょっと比率が変じゃないか? 頭が大きすぎるような気がするが」
「あ、それね。人形は赤ちゃんに似せるのが基本なの。赤ちゃんは頭と目が大きくて手足が小さいでしょう? もちろんもっと写実的な比率にしてもいいんだけど、よっぽど上手に作らない限り気持ち悪くなってしまうから。人体模型を想像するとわかりやすいと思うけど。で、骨格が出来たらこっちの魔術繊維で形成して、柔組織で滑らかに整えたらその上に皮膜を作るの。さっき言ったように比率上頭が大きいから首を据わらせるのが難しいんだけど……」
「別に構わないわ。人に教えたことはないから、上手くできるかどうかはわからないけど」
「私もできるだけ努力する。それで、最初は何をしたらいいんだ?」
アリスは持参した巨大風呂敷から石のようなものを取り出した。
「まずこの骨様石を人の骨格に合わせて削り出すの。サンプルも持ってきたからこれを真似してくれればいいわ」
そう言って風呂敷から骨格標本を取り出すアリス。慧音は予想外の展開に顔を引きつらせる。
「その、なんで骨が必要なんだ? 布に綿を詰めたりして作るものなんじゃ……?」
「こっちのほうが精巧に出来るわよ? 細部を省略してあるから本物の骨格に比べれば楽だしね」
さらに引く慧音だったが、どうも骨格が妙なことに気がつく。
「それに、ちょっと比率が変じゃないか? 頭が大きすぎるような気がするが」
「あ、それね。人形は赤ちゃんに似せるのが基本なの。赤ちゃんは頭と目が大きくて手足が小さいでしょう? もちろんもっと写実的な比率にしてもいいんだけど、よっぽど上手に作らない限り気持ち悪くなってしまうから。人体模型を想像するとわかりやすいと思うけど。で、骨格が出来たらこっちの魔術繊維で形成して、柔組織で滑らかに整えたらその上に皮膜を作るの。さっき言ったように比率上頭が大きいから首を据わらせるのが難しいんだけど……」
「(地雷を踏んでしまった……)」
職業病か、ついつい要らぬ好奇心を出してしまう自分を恨めしく思う慧音。
だが不快ではないし、強く遮ろうという気持ちにもならない。何故かと考えていると、あることに思い至った。
「(そうか、昔の私に似ているのか)」
必要以上に多くのことを教えようとしたり、何か質問されると急に嬉しそうにする。
今のアリスは「熱心な教師」の典型だった。
工房の中身を丸ごと持ってきたような巨大風呂敷もこの「授業」に力を入れていた事のあらわれだろう。
「あ、ご、ごめんなさい。いきなりあれこれ言っても訳がわからないわよね……」
我に返って、急におろおろと自信なさげな素振りを見せるアリス。
「いや、少し驚いただけだ。すまないが、まずお手本を見せてもらえないか?」
相手が熱意を持って教えようとしているのならば、教えられる側としては、諦めずに努力すればそれでいい。
「(見捨てられる事だけはなさそうだからな)」
職業病か、ついつい要らぬ好奇心を出してしまう自分を恨めしく思う慧音。
だが不快ではないし、強く遮ろうという気持ちにもならない。何故かと考えていると、あることに思い至った。
「(そうか、昔の私に似ているのか)」
必要以上に多くのことを教えようとしたり、何か質問されると急に嬉しそうにする。
今のアリスは「熱心な教師」の典型だった。
工房の中身を丸ごと持ってきたような巨大風呂敷もこの「授業」に力を入れていた事のあらわれだろう。
「あ、ご、ごめんなさい。いきなりあれこれ言っても訳がわからないわよね……」
我に返って、急におろおろと自信なさげな素振りを見せるアリス。
「いや、少し驚いただけだ。すまないが、まずお手本を見せてもらえないか?」
相手が熱意を持って教えようとしているのならば、教えられる側としては、諦めずに努力すればそれでいい。
「(見捨てられる事だけはなさそうだからな)」
しかし、アリスの授業は慧音の覚悟を上回って高難度だったが……
「彫刻は石を削って形にするんじゃなくて、元から石の中にある形、可能性を取り出すの」
「え……?」
ともあれ、完成した人形は間違いなく素晴らしい出来だった。
「彫刻は石を削って形にするんじゃなくて、元から石の中にある形、可能性を取り出すの」
「え……?」
ともあれ、完成した人形は間違いなく素晴らしい出来だった。
一方の夢美は普段旧作結界の向こうにいるため、協力を仰げる相手がいない。
そこで夢美が選択したのはもっともシンプルな方法の一つだった。
マヨイガを強襲して、橙本人からカタを取り、鋳造で人形を作ろうと考えたのである。
橙も抵抗はしたが、さすがに力量的に不利で気絶。
そこをぬりかべじみたカタ取りようの樹脂で挟み込み、採取に成功した。
早速鋳造してみたのだが。
「これは、さすがに不自然よねえ……」
鋳造では髪がうまく再現できなかったのである。挟む時に髪が寝てしまい、厚みや柔らかさがまったく出ない。
「じゃあ、今度は髪をもらいに行きましょう」
そこで夢美が選択したのはもっともシンプルな方法の一つだった。
マヨイガを強襲して、橙本人からカタを取り、鋳造で人形を作ろうと考えたのである。
橙も抵抗はしたが、さすがに力量的に不利で気絶。
そこをぬりかべじみたカタ取りようの樹脂で挟み込み、採取に成功した。
早速鋳造してみたのだが。
「これは、さすがに不自然よねえ……」
鋳造では髪がうまく再現できなかったのである。挟む時に髪が寝てしまい、厚みや柔らかさがまったく出ない。
「じゃあ、今度は髪をもらいに行きましょう」
マヨイガに到着した夢美だが、それを迎えたのは橙ではなかった。
「一体何の用だ、人間」
殺る気満々の藍である。
「一体何の用だ、人間」
殺る気満々の藍である。
「あの子の髪をもらいに来たんだけど」
「はいそうですかと渡せるか。自分の髪を使えばいいだろう」
「スキンヘッドになるのはちょっと……」
「全部持っていく気だったのか…… どうやら話しても無駄だな」
二人の戦いはマヨイガを倒壊させるまで続いた。
夢美の方が押し気味に戦いを進めていたのだが、周囲から得体の知れない気配が漂ってきたので引き下がることに。
その後も髪の表現方法を色々工夫してはみたものの、もともと専門外の分野であり出来はいまひとつというしかなかった。
「不完全な内容の作品を発表するわけにはいかないし、ここはおとなしく負けを認めましょう」
問題点が髪だけなのか、ということはさておき……
教授である夢美にとって、負けることよりも、自分で納得できない物を発表することの方が苦痛であるようだった。
「はいそうですかと渡せるか。自分の髪を使えばいいだろう」
「スキンヘッドになるのはちょっと……」
「全部持っていく気だったのか…… どうやら話しても無駄だな」
二人の戦いはマヨイガを倒壊させるまで続いた。
夢美の方が押し気味に戦いを進めていたのだが、周囲から得体の知れない気配が漂ってきたので引き下がることに。
その後も髪の表現方法を色々工夫してはみたものの、もともと専門外の分野であり出来はいまひとつというしかなかった。
「不完全な内容の作品を発表するわけにはいかないし、ここはおとなしく負けを認めましょう」
問題点が髪だけなのか、ということはさておき……
教授である夢美にとって、負けることよりも、自分で納得できない物を発表することの方が苦痛であるようだった。
勝者慧音