西行寺幽々子の神隠し ◆30RBj585Is
G-2に位置する森の中で、小町と幽々子はまだ話し合っていた。
「・・・どうしても、私と一緒じゃあ駄目なのかしら?」
「駄目とは言いませんけど、効率は悪いですよ?」
「でも・・・」
小町はもううんざりしていた。こうも一向に自分から離れようとしないとは・・・
何か理由があるのか?自分から離れることが出来ない理由が・・・
そう考え、ふと幽々子を見る。
「ごめんなさいね。妖夢のことは心配よ。
だけど、あなたからまだ離れるわけにはいかないの。分かってくれないかしら?」
(分かるわけないよ!何、この雰囲気。いろんな意味で妖しいよ!)
小町はそう思った。ここまで自分に執着するなんておかしすぎる。
その理由を聞いてやりたい。だが、それで変に思われるのは勘弁だ。
そのとき、
「あなたは頼りになるから一緒にいたいと言うのもあるんだけど・・・
同時に思っていたの。あなたがゲームに乗っているんじゃないかって。だから離れたくなかったのよ」
(あたいが疑われている?そんな馬鹿な・・・。あの夜雀を殺したときに、見られていたとか?
いいや、罠だ!これは罠だ!冥界の姫様があたいを陥れるために仕組んだ罠だ!
あたいに話しかける時に無警戒だったのはおかしいじゃないか!それが罠だという証拠!)
第一、幽々子はどんな理由で自分に疑いをかけたのか?
小町はそう思うと、幽々子はその心を読んだかのように答える。
「あなたの方向に銃声が鳴った。山彦を除けば5回だったわね。
そして、最後の銃声と共に微々たる冷気を感じた・・・といったところかしら。
まぁ、冷気に関しては私の気のせいかもしれないけど」
ああ、なるほど。
生物が死するとき、魂は肉体から離れ幽霊と化す。
幽霊は温度が低い。つまり、死体になった瞬間に周囲の温度がわずかに下がる。
銃声の後に幽霊特有の冷気を感じたとなれば、銃撃で死んだ者がいると考えられるのだろう。
普通の者はそんなことは感じないだろうが、自分のような幽霊と接する事が日課な者ならば自然とそれは感じとれる。
特に幽々子のような幽霊の管理者レベルになると、少し離れた死者を感じることも出来なくはないだろう。
死の瞬間を感じ取ったと同時に最後の銃声を聞いたというのなら、誰だって銃撃で死んだ者がいることを考える。
そして銃声の方角から自分を見つけた・・・。確かに普通は疑われるだろう。
本当に、あのときは馬鹿な行動をとったものだ。
とはいえ、自分がやったという証拠など無いはず。使った銃はまだ見せていないため、自分が銃を持っていることはバレていないはずだ。
だから、ここは平然でいないといけない。動揺したら本気で疑われてしまう。
冷や汗が出そうになるが、落ち着けと心に言い聞かせる。
心がまともな者が罪を犯したならば、その悪行を誰かに見られているのではと無意識に思うものだ。と四季様は言った。
今の幽々子の発言は自分のそれを引きずり出すためのものかも知れない。
「なんですか、それは。言いがかりじゃないんですかぁ?
まぁ、この状況じゃ、無理もないかもしれないけどね」
ここは笑ってやり過ごそう。ゲームに乗っていない者ならば、これは一種の冗談に聞こえるからだ。
「あら、ごめんなさい。失言かもしれないわね。
それに、疑っているといっても一割くらいよ。気にしないでね」
「あはは。それじゃあ、無いに等しいんじゃないですか?」
「ええ、まったく」
冗談じゃない。心臓に悪すぎる。今すぐにでも心臓麻痺で死にそうだ。
ゲームに乗っていない者にとってはどうでもいい話だが、自分のようなゲームに乗っている事を隠す者にとっては凄まじい重圧が掛かる。
幽々子は無警戒で自分に話しかけたとあのときは言ったが、思えばそれは自分の憶測に過ぎない。
本当はそれを感じさせないほどに警戒心を出した可能性もある。彼女ならそれをやりかねない。
思えばこの状況でこのような言い方は有効だ。
その相手がゲームに乗っているならば動揺するだろうし、そうでなければこれといった反応を見せずに笑い飛ばせるだろう。
あくまでも、そいつが特別でも無い限りは。
それを狙っているだろう、幽々子は絶対に自分の反応を観察している。そう思ったほうがいいと感じた。
幽々子が自分から離れない理由はこれで分かった。
用は、頼りになる仲間の力を得たいと同時にその相手がゲームに乗っているかどうかを監視しているのだ。
そんなことをするよりもすぐにでも自分を殺すべきだろうとも思ったが、幽々子は自分を頼りにしているということもあるため下手に殺せないのだろう。
それに確証が無い思い込みで殺してしまったら、それで間違っていたら謝って済む問題でもないこともある。
だから、幽々子にとっては今の状態が一番いいのだろう。
だが、小町にとってはこのままにしておくのは都合が悪い。
監視されたままでは、目的を果たせない。それに、いつバレるか分からないという重圧にも耐えなければならないため、精神的にも辛い。
なんとかして幽々子と別れたいところだ。
そのためには、幽々子が言う『ゲームに乗っている可能性は一割』な点を無くしてしまえばいい。
ただ、今のままでは駄目だ。何せ、使用した凶器である銃がスキマ袋に入っているのだ。これの存在がばれてしまえば、疑いが深くなる。
そこを何とかしたいところだが・・・
美鈴と静葉は道を歩いていた。
これといった目的地は無い。しかし、彼女たちには捜したい人がいる。
「あのですね、静葉さん」
「ん、何?」
「もし妹さんに会うことができたら、そこからどうします?」
「そうね・・・」
妹と会う。そこまでは真っ先に思っていたことだが、そこから先は正直、考えていない。
何せ、何をすればいいか分からないこの状況だ。無理も無い。
だが、今は違う。
「私達姉妹だけじゃ、何も出来ないと思うわ。
でも・・・こんな催し物に反対する人がもっと集まれば、何か方法があるかもしれないわ。
私はそれを信じてみる」
この考えは、美鈴に会ったのがきっかけだ。
彼女が言った、運命のしくみ。信じる者は、自然にその方向に傾いていくということ。
神という種族は、信者が望む施しを与えるものだ。そう、これと運命の仕組みとは似ている。
だから、静葉は信じる。運命というものを。
「そう・・・ですね!なんだか、とっても元気が出てきましたよ!」
「あなたの言葉がきっかけでもあるけどね」
「そんなことは関係ないですよ。感動したのは変わり無いです」
「どうもいたしまして」
「妹さん、見つかるといいですね」
二人の間から笑顔が表われる。お互いに、この時間がずっと続きたいと思った。
その時
『うふふ、いい事を聞かせてもらったわ。さすが、神様といったところかしら』
「「わあっ!?」」
突然、背後から声が聞こえてきた。
そのことに、静葉は思わず腰を抜かしてしまい、派手に転んでしまう。
「だ、誰ですか!?」
それに対し、美鈴は体勢を崩すことなく声があったほうを振り向く。紅魔館の門番というのは伊達じゃない。
「あら、驚かれちゃったわ。声をかけただけなのに」
「こんな状況で後ろからじゃ驚きますよ!
ところで・・・あなたは?」
美鈴は一瞬警戒したものの、見たところ敵意は無い感じはしたので、落ち着いて相手のことを尋ねる。
「誰だと言われたからには答えておこうかしら。
私は西行寺幽々子。冥界の管理を担当しているわ」
「はぁ・・・」
美鈴と静葉に声をかけたのは幽々子と名乗る女性。
彼女のことは話でよく聞いている。だが、実際に目に掛かった者はほとんどいないだろう。
そういう者は大抵の場合、死者だからだ。
「ところで、何処に向かっているのかしら?」
「うーん、これといった目的地は無いんですけど・・・」
「私、妹を捜しているの。穣子という子で・・・」
「・・・豊穣の神様だったかしら?私は見ていないわ」
「そう・・・」
早速、静葉は幽々子に妹の居場所を尋ねるが、そう簡単に見つかるものではないようだ。
はぁ~とため息をつく静葉だったが
「私も捜したい人がいるのよねぇ。そのことで聞きたいことがあるのだけど」
今度は幽々子が二人に質問する。が、
「残念ですけど・・・私達は誰も見かけませんでしたよ。あなたが初めてですね」
同じく、見かけなかったと答えが返ってきた。
「・・・そう、わかったわ。それじゃ」
幽々子は残念そうな顔をしながら、いそいそと二人と別れようとした。
「ちょっと待って!」
ここで静葉が心配そうに幽々子を引き止める。自分も捜したい人がいるし、以前の自分がそうだったからだ。
「あの・・・。“一人”で捜すのは危険じゃあ?」
「そうねぇ。でも、私個人の都合のためにあなたたちまで付き合う必要も無いでしょう?
あなたたちだって捜したい人がいるんだから。
たしかに、“一人”じゃ、大変かもしれないけど・・・」
尋ねる静葉に対し、そう言い返す幽々子。
その手には64式小銃が握られていた。
「はぁ、はぁ・・・」
小町は息苦しそうな表情で地面に座っていた。
彼女の周囲には誰もいない。ついさっきまで一緒にいた幽々子さえも。
結果だけを言うと、幽々子と別れることは出来た。ただ、その代償に・・・
「武器を盗られた・・・。あたいはどうすりゃいいんだい?」
そう、武器となる銃を失ったのである。
―――約30分前
(あれ?こいつは・・・)
幽々子と一緒に歩いていると、何かが転がっていた。
これには何となく見覚えがある。それは・・・
「夜雀の死体・・・ですかい?」
「そうねぇ・・・」
幽々子に会う前に自分が銃で撃ち殺した夜雀だ。こんな時に目の当たりにするとは。
すると、スッと幽々子がその死体へと向かう。
「・・・食べるんですか?」
「あなた、私を馬鹿にしているのかしら?」
「いやいや、そんなわけ無いですよ。ただ、何をするかが気になったんで」
口ではそういう小町だが、なんとなく想像はついた。
「この子と会話するのよ。何が起きたのかを教えてもらうわ」
死体との会話。常人ではそれどころか幽霊にすら話は出来ないだろう。ただ、便利ではある。
幽霊は好き勝手に動くため会話するには捜すのが面倒だが、死体は自分から動くことは無いためそれを介して幽霊との会話が出来るのだ。
会話はまずい。少なくとも、銃で殺されたことがバレる。
そう思った小町は
「傍から見れば絶対怪しまれるねぇ・・・」
と言う。
だが、死体から情報を聞くことは、これまで起こったことに加え死の瞬間といった生者からは聞けないような情報を得ることに繋がる。
ここまでお得なことをやらない手は無い。そのことは充分分かっている。
だから
「てことで、周囲を見張っているよ」
やめるように言うことは諦め、幽々子の手助けをするしかない。
「そうね。お願いするわ」
そのことは彼女も認めてくれたようだ。
さて、これがチャンスだ。
幽々子は死体と会話中。自分に意識を向ける余裕は無いはず。
それを分かってて自分への監視を外した以上、疑いもほとんど無いとみた。
(よし、今だ!)
そう思い、小町は幽々子の背側の草むらに入り銃を取り出す。後はこれを隠せば一件落着だ。
どうせ、幽々子と一緒のうちではこれは使えない。別れた後でまた回収すればいいのだ。
そう考え、銃を取り出したときだった。
「あなた、何をしているのかしら?」
(ギクッ!)
上から聞こえる幽々子の声に、小町は明らかに驚く姿勢を見せた。
(しまった!)
小町はここでミスを犯した。
実は、銃を取り出す際、スキマ袋の中に視線を集中していたために幽々子を見ていなかった。
スキマ袋の中は広大な空間ゆえに、手探りで目的のモノを探すのは難しい。そのため、目で見なければ在り処が分からない。
幽々子が死体との会話が終わるまでという時間制限があることに焦った小町は、いち早く銃を見つけるためにスキマ袋の中身を覗かざるをえなかったのである。
その隙を突かれた形で幽々子に気付かれたのである。
(こんな早くに会話が終わるなんて・・・。まずいよ!確実にまずい!)
死体から情報を得た以上、銃で殺されたのはバレている。
この状況でなんとか言い逃れは出来ないか?
頭をフルに回転させる小町だったが・・・
「見たところ、何かを隠そうとしていたようだけど・・・」
この言葉を聞いた瞬間、血の気が引いた。
もう駄目だ。言い訳を考える頭が追いつかない。
こうなったら・・・
「くう・・・っ!」
小町は銃を抱え、幽々子から逃げ出した。
「あっ。待っ・・・」
待てと言われても聞く耳は持てない。
この行動で殺し合いに乗っていることは決定的なものだが、精神的に追い詰められた小町にはそんなことを考える暇は無い。
とにかく幽々子と別れ、この銃で生き残るべきでない者を排除することが重要だということを考えた上での行動である。
ふと幽々子のほうを見ると・・・
フォン!
(うおっ!?)
彼女は何かを投げてきた。
それはとても小さいもので、真っ直ぐこっちに向かっている。
気付いたときには遅く、避けたり打ち落としたりする暇がない。そのためか、反射的にそれを片手でキャッチする。
(ナイスキャッチ・・・って、ん?)
石かと思ったが、なんだか氷のように冷たい。
その正体は・・・
「うわわわわ!か、カエルっ!?」
氷漬けのカエルだった。
それ自体は何の害も無いのだが、思いがけないものを掴まされた小町はびっくりする。
そして、その拍子にカエルと一緒に銃まで手放して落としてしまった。
「って、しまっ・・・」
だが、もう手遅れだ。走りながらのことだったため、もう銃とはだいぶ距離が離れてしまっていた。
「あーうー・・・」
銃を取りに戻ろうと思ったが、それよりも幽々子の方が先に手にするだろう。そうなったらその銃で殺されかねない。
結局、このまま銃を置いて逃げる羽目になってしまった。
―――時間は今に戻る
「はぁ~」
カエルごときでこんな状況になるとは、今更ながら恥ずかしい。
後悔しても無駄だということは分かるが、いまいち納得がいかないものだ。
これに対しては
「やっぱりあたいって、ツいてないなぁ・・・」
と言うしかなかった。
せめて賢人の一人、幽々子が危険なことにならないでほしい。
そう思い、小町は休憩を終え、歩き出した。
【G-2 一日目 早朝】
【小野塚小町】
[状態]疲労
[装備]なし
[道具]支給品一式、64式小銃用弾倉×2
[思考・状況]武器が無いため、どうしようか考え中
[行動方針]生き残るべきでない者を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度
その頃、幽々子は・・・
(小町は大丈夫かしら・・・)
小町が持っていた銃を握りながら思う。
あの時、夜雀の死体に詳しい状況を聞こうと思ったが、制限のためか全く会話が通じなかった。
そのため、1分も経たないうちに死体との会話を諦めることになったが、その早さのおかげか、小町の動向に偶然気付いた。
彼女が自分から離れたときに見せた反応からして、彼女はゲームに乗っている。
だが、追い詰められていても自分に銃を向けないところを見ると、彼女が言っていた「賢人を残す」という考えは本心なのだろう。
だとしたら、まだ彼女を説得するチャンスはある。頼りになる人材であることは分かっているので、味方にしたいところだ。
それにこのまま放っておくと、小町は誰かに殺されるか誰かを殺すかのどっちかの運命を辿るだろう。まるで、彼女が言っていた妖夢の状態だ。
(もう。妖夢といい小町といい・・・世話が焼けるわ。早く捜さないと)
幽々子はため息をつく。
「・・・幽々子さん?どうしたんですか?」
その様子を見た美鈴と静葉は心配そうに見つめた。
「・・・なんでもないわ。ところで、何の話だったかしら?」
「えーっと、そうですねぇ・・・」
捜す人がいる者たちの苦労は・・・これからかもしれない。
【F-3 一日目 早朝】
【西行寺幽々子】
[状態]健康
[装備]64式小銃狙撃仕様(15/20)
[道具]支給品一式、不明支給品(0~2)
[思考・状況]妖夢と小町が心配
[行動方針]1、小町の言った最悪の状況(妖夢が殺し合いに乗る)を阻止するために妖夢を捜す
2、小町を見つけ、仲間にする
3、紫に会いたい
4、皆で生きて帰る
[備考]小町の嘘情報(首輪の盗聴機能)を信じきっています
【紅美鈴】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、インスタントカメラ、秋静葉の写真、彼岸花、不明支給品(0~2)
[思考・状況]とりあえず、戦いたくない
[行動方針]静葉と一緒に穣子を捜す。紅魔館メンバーを捜すかどうかは保留
【秋静葉】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、紅美鈴の写真、不明支給品(1~3)
[思考・状況]妹と合流したい
[行動方針]穣子を美鈴と一緒に捜す
※幽々子の支給品の一つは氷漬けのカエルでした
最終更新:2009年06月22日 23:01