烏輪の国の眠れない夢

烏輪の国の眠れない夢 ◆ZnsDLFmGsk





 草はらに寝ころんで足をぱたぱたさせている妖怪が一匹。
 ぽけりとしたあどけない顔で、まだ夜の抜けきれていない空を眺めていました。
 妖怪の名前は霊烏路 空。
 お隣にはちいさな氷の妖精、チルノも一緒に寝ころんでいます。

 疲れて疲れて仕方のなかった黎明の頃。
 これは空が提案したすこしの休憩タイム。

 最初はころころバタバタと、退屈のあまり不満の声をあげていたチルノでしたけれど、
ゆったりとした時間の中で、気がつけばすやすや小さな寝息を立てておやすみしています。
 やっぱり色々言っても疲れてはいたのでしょう。

 そんなチルノを横目に、騒がしかった少し前を思い出しながら苦笑する霊烏路 空。

 そよそよと流れる時間、ゆるやかな景色の変貌。
 ……と、そこでその変化は緩から急へ、
時間と言う魔法は彼女に少しの奇跡をプレゼントしてくれました。

 わぁっと感嘆の声をこころに響かせる彼女。

 彼女の目に映ったその景色の中で、
夜空がさららと幕を引くように朝にぬり替えられていきます。
 ずっと地底で暮らしていた彼女はその不思議な光景に目を奪われ、
そして思うのでした。



『ああ、これが地上で、これが空なんだ』と……



 そしてまた、私は思った。
 やっぱり地上はとってもステキなものなんだって。
 そしてそして、こんなにステキなお空と同じ名前の私はさらに絶対ステキなんだって。
 一番にステキなんだって。

 巫女とか魔法使いとかの時に地上に出たことはあった。
 その時の空もたしか、すごく果てがなくて明るかったような気がする。
 だから、あの暗くてのっぺりしてて、でもお星さまがきらきらだった夜空だって、
いつかどこかで明るい朝に変わるんだってことは解かってた。
 でも、こんな風になんかすごくてスゴイなんて、ホントにびっくりしちゃった。

 だからいまさらにまた、私はお燐の好意に感謝した。
 だって私はこんな地上を灼熱地獄に変えようとしていたのよ、もったいない。
 計画が失敗してよかった。
 さとり様が怒ったのも今ならよく分かる。
 なら、この気持ちを忘れない限り、
もう私は地上を灼熱地獄にしようなんて考えないと思う。

 それにしても、いったいダレがこれだけの火を焚いているのかしら。
 地獄跡ではソレは私の仕事だった。
 けれど地上はこんなにも広い、隅っこまで灯りをのばすのはきっと大変なハズ。
 そう思って、私はきょろきょろとその“苦労人”を探した。
 そして……
 探して探して、私は見つけた。

――この辺の地獄鴉で一番強い者を

――なら、貴方に力を与えます

 思えばあの……えっと、その、あー、とにかくすごそうな神様に出会った時、
私の世界はカラリと変わったんだと思う。
 八咫烏、究極の力。
 そう、“太陽”の力を得て。

 世界を塗り替えるその“苦労人”は東の空にギラギラと浮かんでいた。

 感動だった。

 すごい、すごい、これはほんとに凄すぎるわ。
 なんて素晴らしい地上、そしてその地上を染め上げてゆく太陽!!
 だって、あれが私の力なんだ。
 究極で最高でほんとにほんとに一番なんだ。

 感動が口から溢れ出すのを私はとめられない。
「ねえ、ほら見てよ! 太陽よ、究極よ、あれが私の力なのよ!」
 私はこころのそのままに、溢れる言葉を隣にいる妖精にぶつけた。

 けれどうっかり、勢いのあまり私は忘れていた。
 その妖精、チルノは今睡眠中だったのだ。

 まったく、その無邪気な寝顔も今はちょっとイラっとする。
 ほら、だってこんなにすごいのだ。
 太陽なのよ!
 なんで今眠ってるのかしら、もったいなさ過ぎる。
 さいきょー、さいきょー言っていたクセにホント呆れちゃうわ。


 チルノのことはあきらめて、
私はしばらく、その太陽が世界を変えていく様を眺めていた。
 けれど、あんまりに光が強すぎる。
 手をかざし何とか太陽を見ようとしているけれど、ちっとも上手くいかない。
 見ようとすればするほど、どんどん目がくらんでゆく、まるで全てが溶けていくみたい。

 世界がぜんぶぼやけていった。

 そして、その光に霞むぼやけた世界の中で、
私は不思議なきもちを思い出した。


『    』


 いつだったっけ、それはわからない。
 たぶん私が力を得るずっと前のこと。

 私は尋ねた。
 どうして私たちはずっと地底にいるのか……
 よく覚えてないけど、たださとり様は色々とおしえてくれた。
 嫌われた妖怪が何とか、えっと、地上との約束がうんちゃらとか……
 実際、よく分かんなかった。
 ううん、ただ私が覚えてないだけかも知れないけど。

 どうしてあんなことを私は聞いたんだろう。
 地上に出たいって強く思ってたわけじゃない。
 多分、ただ何となく不思議に思っただけだったと思う。
 だって私はさとり様がだいすきだった。
 それは確かにさとり様から与えられたお仕事はちょっと面倒だったけど、
それでも、さとり様とお燐と私……みんなとの毎日は楽しかった。
 ずっとずっと楽しかった。

 それからえっと、どれくらい経ってからだっけ。
 私に起きた大きな変化……

 それは“太陽の力”

 すごい力だった。
 みるみる地獄跡が熱くなっていって、私も力を使うのは楽しくって。
 別に地底の暮らしに飽きが来てたわけじゃない。
 不満があったわけでも絶対ない。
 さとり様もお燐も怒ったら怖いけど、それでもやさしい。
 でも、ううん、なんだろう、なんて言ったらいいのかな。
 んーと、私はやっぱりわからなかったんだ。

“地上との約束、ルール

 んー、だから、えっと……

“心を読む程度の能力”

 うにゅ……
 私が鳥頭なのがちょっとくやしい。
 語彙が少なくて思いがうまく言葉にならない。
 きっとこんな時さとり様なら私の心をそのまま読んでくれて、
やさしく私をなでてくれるのに……

“最も恐れられ、嫌われた妖怪”

 とにかく、そう……私はさとり様がだいすきなんだ。
 なんでみんなは嫌うんだろう。


 私は太陽の力を手に入れた。
 それは究極で一番の力なんだって神様も言ってた。
 地上はすごくて、太陽もすごくて、だから私は嬉しくて……
確かに計画は失敗しちゃったけど、それでも私たちは地上に出られるようになった。
 この力があれば、きっと何だって出来るんだ。

 地上を溶かし尽くしたりなんて、それはもう考えない。
 けれど、もしもこの力がホントに一番で、地上を支配出来るほどのものだとしたら、
それはきっと、もっととっても良いことだって出来るはずなんだ。
 だから……

――皆様には、殺し合いを行っていただきます

 私は数時間前のあの偉そうな女のことを思い出していた。
 あの女はいったいなんて言っていたっけ。
 よくわからないことばかり言っていたような気がする。

――こちらで定めました『禁止エリア』への侵入によって

 遠く見れば、禁止エリアの中央、
あの堅牢な建物が、今もずっと偉そうに建っている。
 そこは入っちゃいけない場所、そういうルール。

 ぜんぜん関係ないわ。
 だって太陽は……私はとっても強いのよ。
 それをみんなに見せつけてやる。

 私はやっぱり、必ずあの建物を壊してやろうと思った。

 なんとなくそうすれば全部うまく行く気がしていた。
 さとり様もよろこんでくれて。
 いっぱいいっぱい私をほめてくれる。


 ……そんな気がしていたんだ。


 そして、私の隣で最強の妖精はむにゃむにゃと寝言を呟いた。

「あたいが全員やっつけてやるんだから」



【E-1 一日目・早朝】
【霊烏路 空】
[状態]休憩中、疲労(小~中)
[装備]なし
[道具]支給品&ランダムアイテム1~3個(確認してません)
[思考・状況]基本方針:自分の力を試し、力を見せ付ける
1.偉そうな奴(永琳)を叩きのめす。その前に朝まで休憩
2.後であの建物をぶっ壊す!
※現状をよく理解してません

【チルノ】
[状態]睡眠中
[装備]なし
[道具]支給品一式、ヴァイオリン、博麗神社の箒
[思考・状況]
1.霧の湖に帰って遊びたい
2.とりあえず休んで、おくうについていく
※現状をよく理解してません
※ロケットはE-2禁止エリア内にて放置されています。どうなっているかは不明


54:各々の正義、各々の守るもの(後編) 時系列順 56:第一回放送
54:各々の正義、各々の守るもの(後編) 投下順 56:第一回放送
33:おてんば恋娘とフュージョンしましょ? 霊烏路空 66:
33:おてんば恋娘とフュージョンしましょ? チルノ 66:

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最終更新:2009年06月28日 02:23
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